No.689315

英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~

soranoさん

第30話

2014-05-26 00:33:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1788   閲覧ユーザー数:1697

リィン達が町に戻ると多くの人々や商人で賑わう”大市”から険悪な様子の会話が聞こえてきた。

 

~ケルディック~

 

「……ふざ……な……ッ!」

「それは……の台詞だ……!」

「なんだ……?」

「大市の方からみたいだけど……」

会話の一部が聞こえてきたリィンとエリオットは首を傾げ

「ふむ、何やら諍いめいた響きだな。」

「ええ。―――今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気の会話ですね。」

ラウラは考え込み、ラウラの言葉を聞いたプリネは頷いた。

 

「え……プリネ、会話が聞こえるの!?」

「ええ。私はご存知かと思われますが”闇夜の眷属”ですから人間族の耳と比べると通常の倍以上の聴力を持っているんです。」

アリサに尋ねられたプリネは頷き

「身体能力の事といい、”闇夜の眷属”って本当に凄いんだね……」

プリネの説明を聞いたエリオットは驚いた。

「それより今にも喧嘩が始まりそうというのが気になる。行ってみよう。」

「うむ。」

そしてリィン達は急いで”大市”へと向かった。

 

~大市~

 

「ふざけんなあっ!ここは俺の店の場所だ!ショバ代だってちゃんと払ってるんだぞ!?」

「それはこちらの台詞だ!許可証だって持っている!君こそ嘘を言うんじゃない!」

リィン達が大市に到着すると二人の商人が店の前で大声で言い合いをしていた。

 

「―――あの。何かあったんですか?」

その様子を見たリィンは近くにいる商人に状況を尋ねた。

「うーん、店を開く場所を巡ってのトラブルみたいね。あっちの若いのは地元の商人で、身なりのいいのは帝都の商人みたいだけど……」

「店を開く場所……」

「ふむ、妙だな。こういった市(いち)での出店許可は領主がしているはずだが……」

「そうですね。許可の管理にどこか不備があったんでしょうか?」

商人の説明を聞いたエリオットは目を丸くし、ラウラとプリネは考え込み

「ここの領主っていうと……あ……!」

アリサも考え込んだその時、言い合いをしていた二人は互いの服の襟首を掴んで殴り合いをしようとしていた。

 

「まずい……!」

「止めるぞ……!」

二人の様子を見たリィンとラウラはそれぞれ背後から二人の商人達を掴んで離れさせた。

「な、なんだぁ!?」

「は、離したまえ!」

突然の出来事に驚いた二人だったが、すぐに自分達を掴むリィンとラウラを睨んだ。

 

「事情はわかりませんがまずは落ち着いて下さい!」

「頭を冷やすがよい。」

「くっ……!?」

「き、君達は……」

そして二人が落ち着いた事を確認したリィンとラウラはそれぞれ離した後事情を聞き始めた。

 

「制服………どこかの高等学校の生徒か?」

「おいガキども!大人の話に口出すんじゃねえ!」

「話というレベルじゃなくなってたような気が……」

「大人と言うならもう少し、理性的になって欲しいですね。」

商人の一人に怒鳴られたエリオットは言い辛そうな表情で殴り合いを始めようとした二人の事を思い出して指摘し、アリサは真剣な表情で注意した。

 

「な、なにぃ……?」

「―――自分達は”トールズ士官学院”の者です。実習でこの町を訪れています。」

「いまだ軍属ではないが末席には連なる身……公の場での私闘はいささか見過ごせぬな?」

「せめて何があったのか、話していただけないでしょうか?」

自分達の正体を怪しんでいる商人にリィンは自分達の身分を証し、ラウラは忠告し、プリネは尋ねた。

 

「ぐ、軍の士官学生……」

「軍人のタマゴかよ……!」

一方リィン達が士官学生だと知った商人の二人はそれぞれ不安そうな表情をした。

 

「―――やれやれ。何をやっておるんじゃ。」

するとその時スーツ姿の老人が近づいてきた。

「あなたは……」

「も、元締め……」

老人の姿を見た商人の二人はそれぞれ驚きの表情で老人を見つめ、老人はリィン達から事情を聞いた。

 

「二人とも。話は聞かせてもらった。どうやら双方とも同じ位置の許可証を持っておるようじゃな?」

「そ、そうなんスよ!」

「期限もまったく同じ……どうなってるんですか!?」

「ともかく、ここで争っては他のお客さんの迷惑じゃ。向こうで事情は聞くからいったん矛を収めるがよい。」

二人の商人にそれぞれ言われた老人は冷静な様子で指摘し

「わ、わかったッス……」

「了解しました……」

老人の指摘に二人の商人はそれぞれ肩を落として頷いた。

 

(何とか話がつきそうね。)

(ああ、この大市の責任者だろうな。)

その様子を見守っていたアリサとリィンはそれぞれ安堵の表情になった。

「―――お前さんたちも止めてくれて助かったわい。さすがは士官学院の特別なクラスの生徒たちじゃ。」

「あら……」

「ほう……?」

「ど、どうして僕達”Ⅶ組”のことまで……」

老人が自分達の事を知っている事に驚いたプリネとラウラはそれぞれ目を丸くし、エリオットは不思議そうな表情で尋ねた。

「わしの名はオットー。この大市の元締めをしておる。この話を片付けたらお茶でもご馳走するからしばし付き合ってくれんか?」

そして老人―――オットーの頼みに応じたリィン達はオットーが二人の商人の話を片付けた後、オットーの家でお茶をご馳走になっていた。

 

~元締めの家~

 

「それではあなたが実習の”依頼”を……?」

「うむ、士官学院のヴァンダイク殿とは旧知の仲での。今回、お前さんたちの実習向けに適当な頼み事を見繕って欲しいと頼まれたんじゃ。」

「そうだったんですか……」

「ご配慮、感謝する。」

「私達の為に多忙な時間を削って頂いてありがとうございます。」

オットーから事情を聞いたエリオットは目を丸くし、ラウラとプリネは会釈をした。

 

「いやいや、とんでもない。面倒な依頼も一通り片付けてくれたようじゃし。先程の揉め事にしても殴り合いになる前に止めてくれて本当に助かったわい。」

「いや……間に合ってよかったです。」

「結局、先程の場所は交替で使うことになったみたいですね?」

「うむ、結局どちらの許可証も本物じゃったからの。週ごとに二つの場所を交替で使用するというのに落ち着いた。まあ、正面の位置と比べると奥は目立たぬから売り上げには影響するじゃろうが。」

アリサの質問に元締めは自分の決断が本意ではないかのように複雑そうな表情で答えた。

 

「確かに……」

オットーの言葉にエリオットは頷き

「しかしご老人……市の許可証というのは本来、領主の名で発行されるもの。今回のような手違いはいささか腑に落ちぬのだが。」

「確かに……領内の商いの管理は領主の義務でもあるはずだし。」

「……………」

ある事が気になって質問したラウラの疑問にリィンは頷き、プリネは真剣な表情で黙っていた。

 

「……そうじゃのう。本来であれば公爵家がその管理をするのじゃが……」

一方オットーは疲れた表情で肩を落としてリィンの言葉に頷いた。

「公爵家って……」

「クロイツェン州を管理する”アルバレア公爵家”ですね。」

「うむ、四大名門の一角を担う大貴族中の大貴族じゃよ。しかし最近、少しばかり面倒なことになっていてな。」

「面倒なこと……?」

「実は先日、大市での売上税が大幅に上がってしまったんじゃ。売り上げから相当な割合を州に納めなくてはならなくなった分、商人達も必死になっていてな。先程のような喧嘩沙汰にまでなってしまうことも珍しくない。」

「そうだったんですか……」

「売上税……そう軽々しく上げていいものとは思えぬが。」

「うーん、帝都でもそんな話は聞いたことがないけど。」

(まさか……)

オットーの話を聞いたリィンは頷き、ラウラは厳しい表情で考え込み、エリオットは首を傾げ、ある事情をすぐに察したプリネは真剣な表情で黙り込んでいた。

 

「その、反対なんかはされなかったんですか?」

そして普通なら反論していると思ったアリサがオットーに尋ねた。

「当然、バリアハートにある公爵家には何度も陳情に出かけた。じゃが一向に取り合ってもらえず、門前払いといった感じでな。その状況が二月ほど続いておるのじゃよ。」

「………………………」

(なるほど……そういう事ね。)

オットーの説明を聞き終えたラウラとプリネはそれぞれ厳しい表情で黙り込み

「そうなると、許可証の手違いも何か理由がありそうだな……」

リィンは真剣な表情で考え込んだ。

「そ、それって……」

「ずさんな手続きの処理……もしくは意図的な嫌がらせね。」

(私の大嫌いなタイプね。いつの時代もそういう人間が多いから、従う方は大変ね。)

リィンが呟いた言葉から何かを察したエリオットは不安そうな表情をし、ある推測が出たアリサは真剣な表情で呟き、リィンの身体の中にいるベルフェゴールはつまらなそうな表情をしていた。

 

「……まあ、さすがに決めつけるのも良くないが。ただ、先程の騒ぎにしても以前なら詰所の兵士達が仲裁に駆けつけに来ていた。」

「あ――――」

「―――帝国を守る正規軍とは違い、領邦軍は各地を維持するのが役目。本来ならば仲裁するのが普通だろう。」

「うむ……どうやら増税の陳情を取り消さぬ限り、大市には不干渉を貫くつもりらしい。そのようなことを詰所の隊長殿から仄めかされたばかりでな。」

「そんな………」

「ということは領邦軍の不干渉の件も”アルバレア公爵家”の命令によるものでしょうね……」

弱味を盾にする領邦軍の非道なやり方にアリサは信じられない表情をし、プリネは若干怒りの表情を見せながら呟き

「…………………」

リィンは何も言わず黙り込んでいた。

 

「いや、余計なことまで話してしまったようじゃな。―――これはワシら商人の問題じゃ。客人が気にすることではない。お前さんたちはお前さん達の実習に集中すべきじゃろう。明日の朝も、今日と同じく幾つかの依頼を用意しておるしな。」

「なるほど………そういう段取りでしたか。」

「一日ごとに実習課題の依頼が用意されているんですね?」

「うむ、それなりに面倒な仕事をやってもらおうと思っている。よろしくお願いしてもよいかの?」

「はい、任せて下さい。」

「出来る限りの事はしてみせます。」

「……誠心誠意、務めさせていただこう。」

そしてリィン達はオットーにお茶のお礼を言った後家を出た。

 


 
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