No.689166

ALO~妖精郷の黄昏~ 第23話 最初の試練、剣士の道へ

本郷 刃さん

第23話です。
今回でルーリッドの村での話しは終わりです。

それではどうぞ・・・。

2014-05-25 14:09:24 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8978   閲覧ユーザー数:8256

 

 

第23話 最初の試練、剣士の道へ

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

昨夜、セルカと話しをしてから眠った俺は、朝5時を告げる鐘の音で目を覚ました。

着替えを済ませてから裏口を通って井戸へ向かって顔を洗う。

そこに、シスター・アザリヤがやってきたのだが、何やら表情が厳しいことに気付いた。

 

「おはようございます、シスター。なにか、あったのですか?」

「おはようございます……実は、セルカの姿が見えないのです。

 キリトさんは、彼女が何処にいるかご存知ありませんか?」

 

セルカが居ない。その言葉のあとに俺に聞いてきたので一瞬疑われているのかと思ったが、

禁忌目録があるこの世界でそんな犯罪を行う者はいないだろう、

そう考えているシスターは純粋に俺に彼女の行方を尋ねただけだと悟った。

俺は昨夜と同じ嫌な感じを覚え、シスターと話してみることにした。

 

今日は安息日であるから実家に帰っているのではと聞いたが、セルカは教会に来てからは1度も帰っていないらしく、

さらに朝の礼拝をせずに、またシスターどころか誰にも告げずに居なくなるのはおかしいと思ったようだ。

買い物の類でないかと聞いたが、昨日の内に2日分の買い置きを済ませているのでそれもない、ということだった。

結局、シスターは急用が入ったのだろうと考えて、昼までに戻らなければ村役場に相談するということで結論付けた。

だが俺はかなり不味いことになっていると考えており、朝の礼拝と朝食の後、

セルカの行方を聞いてきた子供たちを躱してユージオが来るであろう広場へ向かった。

 

 

朝の8時を告げる鐘が鳴ると同時にユージオがやってきた。

 

「やあキリト、おはよう」

「おはよう、ユージオ。挨拶はここまでにして、緊急事態かもしれない」

「えっ?」

 

みなが安息日であるため、当然ユージオもそうである。

そういうわけで、俺は彼にセルカが行方不明になったことを告げ、昨晩の彼女との話しの表面と様子、

そして今朝になってシスターにも何も告げずに姿を消した事を伝えると、目を見開いて驚きの表情を浮かべた。

そして俺達はセルカが闇の国との国境である果ての山脈に向かったという結論を固めた。

 

「すまない、俺の失態だ…」

「仕方がないよ、僕どころかキリトだってセルカの考えは分からないんだし…。

 それよりも、大人達に気付かれる前に彼女を連れ戻さないと…」

 

事態は急を要する。俺たちは村人に気付かれないように、なるべく雑談を交わしながら北へ足を進めた。

商店などがまばらになり、人通りが少なくなったところで下り坂を一気に駆け下りていく。

俺はユージオの足並みに揃えて並行して走る。衛士の眼を盗んで門から出て、川沿いの道に入って進む。

草が子供によって踏まれた形跡があり、その分の天命が減少していることから、セルカが通ったことは間違いない。

ユージオの体力が尽きない程度の速さで走り、森の中を駆けていく。

 

「ユージオ、1ついいか?」

「なんだい?」

「仮に、万が一にセルカが闇の国に入ってしまった場合、整合騎士がその場に現れるのか?」

「いや、最低でも明日の朝までは来ないと思うよ。6年前はそうだったし」

 

走りながら問いかけてみるとそう返答してきた。

俺の記憶の中でも、確かに整合騎士が竜に乗りやってきたのはアリスが闇の国の土に触れてしまった翌日だったな。

 

「なるほど。なら、最悪の場合でもセルカを連れて今日中に村から出れば、整合騎士から逃げ遂せることも可能か」

 

そう言うと驚きの表情を浮かべるユージオだが、思案してから言葉を切り出した。

 

「出来るわけない。天職だってあるんだから…」

「一緒に来てくれとは言っていないが? 俺は元々旅人だ、人1人連れて逃げることくらい可能だし、

 なにより俺が口を滑らせたのが原因だからな…責は取る。

 ま、その場合はキミとの約束を破ることになってしまうが…」

「キリト…」

 

俺の言葉にユージオは僅かに傷ついた表情になる。

記憶の中にあるように、彼を含めてこの世界の人間の『遵法精神』は異常に思える。

そんな中、アリスは俺と同じで法を守るという意識はあるものの、そのギリギリの行いをする色が強い。

少なくとも俺はそう感じていた。

そんな異常な遵法精神を超える気が無いのならば、アリスどころかセルカを救うことなど不可能だ。

だからこそ、少しずつでもユージオの遵法精神に揺さぶりを掛けなければならない。

しかしてユージオは無理だと答えた。

セルカにも天職があり、騎士に捕まると分かっていても、俺と共に村を出ることはないはずだ、と。

だがそれ以前に、闇の国に足を踏み入れるという重大な禁忌を犯すことなど彼女はしないはずだと、そう言った。

 

「だが、アリスにはできた」

「アリスは、アリスは特別だったんだ…。アリスだけは、僕とも、セルカとも、村の誰とも、違っていた…」

 

悔しげな表情を浮かべながら言い終えたユージオは、

これ以上話す気はないという雰囲気を出しながらさらに前へと進みだした。

これは、大分というか、かなり酷いかもしれない。苦労しそうだな…。

 

だが俺を悩ませるのはもう1つ、アリスそのものだ。

記憶の中のアリス、ユージオとセルカから聞いたアリス、そして『A.L.I.C.E』と『アリシゼーション』。

プロジェクトにおいてのA.L.I.C.Eがまだ完成せず、だがその名を符号する以上……アリス、やはりキミは…。

 

「見えたよ」

 

考えに耽っていると、ユージオから声を掛けられ、意識を引き戻す。

小川が洞窟の中へ向けて流れており、俺たちはその側にある人が2人並んで歩ける程度の岩棚へと向かう。

ここで問題だと思ったのは灯りが必要だということだが、

ユージオが拾っておいたという草穂に神聖術を掛けて青白い光を灯した。

 

「初歩とはいえ神聖術が使えるのか……羨ましいな」

「はは、ありがとう。でも、キリトは旅をしているんだよね? 幾つか使えるんじゃないの?」

「いや、それがまったくダメなんだ。前までは恋人や仲間が使っていたから俺は会得していない。

 いまは1人旅だから、幾つかは会得しておきたいところだが…」

 

ALOの魔法ならば初歩の物や戦闘に役立つ物を習得しているが、神聖術に至っては無理だとしかいえない。

そして神聖術の会得に関しても反復訓練によるスキルアップが必須ということだ。

ユージオに剣を教える合間に俺も練習しよう。

 

 

 

 

しばらく歩いていると凍りついた浅い水たまりを見つけ、中央を踏まれたようで四方に罅が入っている。

この割れ方からして、セルカが通ったのは間違いないと判断できた。

 

「ここを通ったのは間違いないな。それにしても無鉄砲なのか、恐れを知らないのか……っ!?」

 

苦笑して呟いた俺だが、言葉の最後に特有の感覚を察知した。

 

「怖いものなんてないよ。白竜は当然だけど、ネズミとかコウモリとかの小動物だって1匹もいやしないから」

「どうやら、そうでもないないらしいぞ…。むしろ、セルカの身が危ないかもしれない」

「え、それって…」

 

ユージオの平和そうな言葉に対し、警戒心を最大にして俺が答えると怪訝な表情になった。

直後、ぎいっぎいっという謎の音が聞こえてきた。

獣か、それとも野鳥か、どちらにしても動物の鳴き声に聞こえなくもないが、普通の音ではない。

 

「こんな音、初めて聞いたよ…」

「行くぞ。事態は深刻そうだ」

「あ、キリトっ!」

 

音が聞こえた方へ走り出し、そのあとをユージオが追いついてくる。

そして、奥から吹き寄せてきた風に異臭を感じた。

 

「キリト、これって…」

「あぁ、何かが焼けている臭いだ。生臭い獣臭がする」

 

顔を顰める俺たち。良くないことを確信している俺たちの元に、それを告げるものが飛び込んできた。

 

「きゃあああぁぁぁっ!」

 

悲鳴、紛れもなくセルカのものだ。

 

「キリト!」

「近くだ!」

 

彼女の悲鳴を聞き、走っている俺たちはさらに速度を上げて奥へ奥へと突き進む。

オレンジ色の灯りが見え、なにかを焼く臭いがすることから火を焚いており、

また気配から察するに敵はそれなりの数なのが分かる。

だが、俺とユージオは躊躇することなく、その空間へ飛び込んだ。

 

空間は真円のドーム、直径約50m、床面は分厚い氷に覆われ、中央部分には青黒い水面、その池の周りに2つの篝火、

そしてその篝火を囲むように存在している人型の魔物、蛮刀を持つ下級のモンスター〈ゴブリン〉、認識と把握完了。

 

俺たちに気が付いたのだろう、こちらを向いて下卑た笑みを浮かべている。

奴らにも魂がある、改めてその厄介さというものが分かるが、

それはALOのオーディンたちには遠くどころか一生掛かっても及ばないということが理解できる。

 

「今日はどうなってんだ? 今度は白イウムの餓鬼が2匹も転がり込んできたぜ!」

「コイツらも捕まえちまうかぁ?」

「男のイウムなんぞ売れやしねぇ。ここで殺して肉にするぞ」

 

革製の鎧を付けている他のゴブリンとは違い、指示を出したゴブリンは金属の鎧を装備していることから指揮官だと分かる。

そしてセルカの姿を探すと暗がりの元に荷車があり、そのうえに荒縄で縛られて気絶している彼女の姿を見つけた。

服を脱がされたり、荒らされている様子がないということは、何もされずに意識を失ったのだと分かる。

それだけは安心し、ならばあとは助けるだけだ。

 

「ユージオ、セルカを助けるぞ。動けるよな?」

「うん」

 

訊ねれば即座に返してきたので、安心する。

体に僅かな震えは見られるが、彼女を助けるためならば自身を厭わないだろう。

昔と違い、おっとりとしていながらも芯は相当に強くなったようだ。

 

セルカ救出のための簡単な作戦を伝える。

3つ数えたら前の4匹を体当たりで突破、俺は左を、ユージオが右の篝火を池に倒し、視覚を奪う。

火が消えたら床から剣を拾い、俺の後ろをカバーするように伝える。

あくまでも牽制で無理に倒す必要はない、と。

 

「『アインクラッド流』の剣技、昨日教えた《スラント》は覚えているな?

 俺との棒での打ち合いを思い出せ。無理なら避けることに専念すればいい」

「わ、分かった。なんとかする」

「それじゃあ行くぞ……1、2、3!」

「「うおおおおお!!」」

 

雄叫びを上げながら突撃を行い、俺とユージオはそれぞれ2匹ずつ転ばせることに成功した。

また、驚きに呆然としているゴブリンたちを無視して篝火へと飛びつく。

直前、指揮官ゴブリンが近づけるなと指示を出したが時既に遅く、俺たちは見事に篝火を倒して水に沈めた。

水蒸気が発生し、洞窟が暗闇に呑まれ、ユージオが持っていた草穂に灯っていた光が洞窟を照らし、ゴブリンが怯む。

どうやら神聖術の、しかも光の術による聖なる光に弱いらしい。まさしく僥倖だ。

蛮刀を拾い上げてユージオに押しつける。

 

「その刀なら斧と使い方は同じだし、昨日の《スラント》も使える。草の光で上手く牽制しろ」

「キリトは?」

「俺の本職は剣士だ。奴を殺す」

 

そう言い放つ俺の空気を察したのか、息を呑んだユージオ。

しかし剣は…と彼が短く言葉にした瞬間、俺は指揮官のゴブリンへ向けて駆け出す。

 

「イウムのガキがぁっ! この【蜥蜴殺しのウガチ】様と戦う気かぁ!」

 

俺よりも巨大な体躯を動かし、迫ってくるウガチと名乗った指揮官ゴブリン。

ならば俺も応えよう、そう考えて必要な言葉を叫ぶ。

 

「システム・コール! オブジェクト・ソード、『エリュシデータ』!」

 

瞬間、俺の式句に応えるように右手の前が黒い空間に歪み、そこから愛用の黒剣が現れて握る。

この世界の最上級神聖術でありながら、短い式句で行使することのできる術。

異空間、『ステイシアの窓』と呼ばれるウインドウのアイテム欄から直接引き出すことのできる技法。

ま、武器に限るらしいがな…。

 

「ぬぅっ、イウムのガキの癖に、剣を持ちやがるのか!?」

「イウムのガキじゃない、俺は…キリトだ!」

 

交錯する瞬間、俺は幾つもの剣撃を放ち、奴の蛮刀を砕き、腕を斬り飛ばし、肉を裂き、骨を断ち、首を飛ばした。

自分でやっておきながら、その所業悪鬼の如きか…。ま、ALOじゃここまで再現されないからな。

精々ダメージエフェクトが限界、SAOとは違いモンスターであってもその体が裂かれることがなくなったのは、

年齢幅が広いからだろう。

何が起こったのか分からない、そんな表情のまま絶命したウガチを横目に、周囲は静まり返った。

 

「ユージオ、敵を斬れ! それが、お前がアリスを探す為の1歩だ!」

「っ、う…うわあぁぁぁぁぁっ!!!」

「ぐぎゃあっ!?」

 

指揮官がやられ、呆然としていたユージオの側のゴブリン。

俺の言葉に我に返ったユージオは蛮刀を構えて俺が教えたソードスキル、

いや『アインクラッド流』剣術《スラント》を使用し、ゴブリンの体を引き裂き、

敵は断末魔の叫びを上げながら絶命した。生き物の命を奪ったとはいえ、闇の国の住人たちだ。

明確な敵であるのならば、罪悪感も少なく、また戦うことを知ることができる。

言うなれば一種のショック療法、荒療治だ。これを超えなければ、今後戦うこともできないのだから。

 

そして指揮官を失い、同胞の死を目撃したのならば、

必然的にゴブリンたちはパニックを起こし、行動が遅れ、反撃が行えなくなる。

その隙を突いて俺は縦横無尽に動き回り、敵共を滅多切りにする。

また、背中を見せたり転んでもがいている奴はユージオが斬り捨て、仕留めていく。

 

「お前ら落ち着け! ここはこのアブリ様がガキを仕留め「「はぁっ!」」ぎゃっ!?」

 

名乗りを上げている途中のゴブリンがいたが、俺とユージオは同時に斬り掛かり、一撃で仕留めた。

おそらくは副隊長的な存在だったのだろうが、最早“だった”というだけのもの。

これにより、完全に指揮系統を失ったゴブリンたちは何もできなくなり、

逃げる者は闇の国へ去って行き、まだ向かってくる者は俺たちでその命を絶った。

 

 

 

 

戦闘が終わり、必死で呼吸を整えているユージオがいるが、俺は優先しなければならないセルカを確認する。

荒縄を斬り、やはり怪我も乱暴された様子もない、本当に良かった…。

 

「ユージオ。まだ辛いと思うが、目覚めたセルカにコレ(・・・)を見せるわけにはいかない。ここから離れるぞ」

「うっ、大丈夫……分かったよ…」

 

フラフラしているユージオに左肩を貸し、俺は空いている右手でセルカの横たわっている荷車を引いた。

ゴブリンの死骸だらけという惨状と化したドーム状の広間からある程度の距離を取ったところで休憩とする。

ユージオは座り込み、今度こそ深呼吸を繰り返して落ち着こうとしている。

 

「俺が言うのも難だが、大丈夫か?」

「うん、ホントに大丈夫だから…。落ち着いてきたし…」

「うっ…」

 

2人で話していると、セルカの呻く声が聞こえた。

 

「セルカ、目が覚めたか?」

「やっ、いやぁっ!」

「セルカ! 落ち着いて、僕だよ! ユージオだよ!」

「ユー、ジオ…? それ、に……キリト、さんも…」

「良かった…! ホントに、セルカが無事で…良かった…」

「ユージオ…」

 

気を失う直前まで奴らに囲まれていたのだから、錯乱しても仕方がない。

ユージオが落ち着かせるように彼女を抱き締め、

セルカの無事に涙を流しており、彼女も安心したのか涙を流している。

俺はそんな2人の頭を撫でる。

 

「あの、アイツら、は…?」

「俺とユージオで倒したよ。すまないセルカ、俺の発言でキミを危険に晒してしまった…」

「いえ、あたしが勝手なことをしたからで、2人こそ危ない目に…」

「そんなことないよ! 僕が、最初からアリスのことを話していれば…」

 

3人揃って自分の責任だという話に発展してしまったので、

とりあえずみんな悪かったということに落ち着けることにした。

何時までもここに居ても仕方がないので、俺たちは早々にこの場から退散した。

 

 

俺たちが村に戻ってきたのは午後の3時頃であったらしく、広場で大人たちが捜索隊を出すかという話しをしていた。

そこへ俺が2人を引き連れて戻り、指揮官ゴブリンであったウガチと副隊長らしきアブリの首を差し出し、

少しの嘘を交えて事情を説明した。

 

私用で少し村から出たセルカが闇の国の偵察部隊であったゴブリンの集団に攫われ、

彼女を探すためにこの周辺に詳しいユージオを連れて探しに行き、

果ての山脈の洞窟で彼女と集団を発見、俺が戦ってゴブリンを殲滅したことを報告した。

半信半疑であったようだが、剣士である俺がゴブリンの首を持ち帰り、

2人の疲れ切った様子を見たことで真実であると思ってくれた。

それから村の防衛についての話し合いになり、俺はユージオとセルカを先に帰らせて、

話し合いにて簡単な防衛手段を伝授した。

 

その後、教会に帰った俺もさすがに疲れ、眠りにつくことにした。

 

 

翌朝。朝の礼拝と朝食を終わらせて、簡単に掃除や洗い物を手伝った後、

俺はユージオと合流してから、彼の天職に付き合うように移動した。

セルカは昨日の一件で精神的にも疲労が激しかったので休みを与えられたが、

ユージオはそうもいかず、俺も手伝うことにしたわけだ。

 

「斧が、軽い…」

「それが女神ステイシアの加護だ。魔物や魔獣を倒していくと力が増していく」

「それじゃあ、キリトが強いのって…」

「俺は数多くの魔物や魔獣を仕留めてきた。その成果がいまの俺の力にある。ユージオ、『青薔薇の剣』を持ってみろ」

「わ、わかった」

 

斧が軽くなったのは、いわゆるレベルアップを経験したからだ。

それにより、オブジェクト操作権限が上昇し、斧が軽くなったように感じているわけである。

また、その場に居たセルカも同じようで、帰り道で使用した神聖術が何度も上手く発動できていたからな。

そして物置小屋にある青薔薇の剣を俺が持ち、ユージオに渡してみると…。

 

「も、持てた…。僕にも持てたよ、キリト!」

 

興奮気味に眼を輝かせるユージオに俺は苦笑する。まぁその気持ちは分からないでもないからな。

 

「ユージオ、これで素人とはいえお前も『剣士』だ。

 天職を熟すことの傍らになるが、本格的に『アインクラッド流剣術』を教えていくから、覚悟しろよ」

「はい! よろしくお願いします!」

 

俺が真剣かつ楽しげに告げれば、彼も心躍らせるかのように真剣かつ意気揚々と答えてみせた。

この日から、俺はユージオに初期のソードスキルである《スラント》や《ホリゾンタル》など、

そして戦い方を教えていった…。

 

 

 

 

それから4日後のこと。

あまりにも強大であったギガスシダーは、ユージオの放った《ホリゾンタル》によって裂かれ、

長年この地に君臨し続けていた大樹が轟音と共に、大地へと倒れ伏した。

これによってユージオは天職をもう1つの意味で全うしてみせたことになる。

 

本来ならば、あと900年は掛かるはずだったギガスシダー切り倒しのお役目を、

この段階で終わらせてしまったため、村では再び会議が行われることとなった。

かなり早いお役目の成就に、中には非として処罰せねばという声があがったのだが、

そこは俺がユージオの友として口出しさせてもらった。

 

「祖の代から与えられてきた天職、それを若くして全うした者を祝福することすれ、

 非とみなして処罰を与えるとはどういうつもりか!」

 

そう俺が一喝してみれば、村長を除く大人たちはみながみな萎縮してしまい、誰も反論を上げることはなくなり、

村長であるガスフト氏も俺に賛同してくれたことで、ユージオにはお咎めなしということになり、

同時に法の定める通りの処遇とするということから、彼も自身で天職を選ぶことになるだろう。

その後、ユージオの天職は云々として、ギガスシダーが倒れたことで『ソルスの恵み』が広く行き渡ることは喜ばしく、

祭りが催されることとなった。

 

 

夜になり、中央広場にはたくさんの村人たちが集まった。

その人数の多さに俺は勿論、生まれてからずっとルーリッドで生きてきたユージオでさえも驚いたほどである。

祭りが始まり、音楽を奏で始める者、酒を飲み交わす者、料理を食す者、ワルツを踊る者など様々。

俺とユージオも揃ってジョッキで乾杯し、中身の酒を飲み干す……ふむ、これは中々、

現実世界で再現してみたい味だな。

 

「あ、こんな所にいた! お祭りの主役がなにやってるのよ! ほら、踊りましょうよ」

 

そこに、三つ編みを解いてカチューシャを飾り、赤いベストと草色のスカートを身に着けたセルカがやってきた。

どうやら踊りの誘いにきたようだ。

 

「いや、僕はダンス苦手で…」

「悪いな、セルカ。俺は婚約者以外と踊る気はないんだ。というわけでユージオを好きにしてくれ」

「ちょっ、キリト!?」

「それもそうですね。それじゃユージオ、行きましょ」

「ま、待ってセルカ、引っ張らないで! キ、キリトの裏切り者~~~!?」

「頑張りたまえ、少年」

 

ユージオを身代わり、もとい生贄にして逃げることに成功した俺。

祭りが始まる前に聞くことのできた彼の決意、それを考えれば村の仲間との思い出を作っておいた方がいいからな。

ま、あくまでそれは建前で、本音は本当に明日奈以外と踊る気がないからである。

というわけでユージオ、頑張ってくれb!

 

 

しばしの時間が経った頃、村長のガスフト氏の声の元、この良き日の祝う言葉を告げた。

そして見事に天職を果たしたユージオを檀上から呼び寄せ、彼に次の天職を選ぶように伝えた。

ユージオは心を落ち着かせるかのように大きく深呼吸をしたあと、俺に伝えたことと同じ内容を言い放った。

 

――剣士になり、ザッカリアの街で衛兵隊に入り、いつか央都に上がる、と…

 

その言葉に対し村人の反応はというと、驚きや呆然、動揺や怪訝というようなもの。

ユージオの父であるオリック氏や兄2人も同じような反応。

それをガスフト氏が収めてから、彼の新たな天職を認める宣言をした。

その時、人垣をかき分けて衛士長を務めているジンクと彼の父であり、前衛士長であったドイクの2人が進み出てきた。

 

曰く、ザッカリアの衛兵隊を目指すのは第一に俺の権利だったはず、とジンクの言。

それに村長が村の掟によりあと4年は待たねばならないと言うと、それならばユージオも4年待つべきだと訴え、

さらに自身よりも弱いユージオが自身を差し置いてザッカリアの大会に出場するのはおかしいとまで言った。

だが村長は言う、ジンクがユージオよりも強いということをどう証明するのか、と。

その言葉にドイクが反論、それならば2人を仕合せ、証明してみせようではないかと提案した。

それに乗ったのは村人たちで、祭りの余興だなんだのと大騒ぎ。

俺はやれやれと肩を竦めてからユージオの元へ歩み寄った。

 

「ユージオ。ジンク本人じゃなくてアイツの剣を狙え。

 青薔薇の剣なら《ホリゾンタル》か《スラント》を叩き込めば1撃で砕けるはずだ。

 それと俺の動きを思い出せ、遅く感じるはずだからな」

「助言ありがとう。勝ってくるよ」

 

話し掛ける前は緊張の様子を見せていたが、俺の助言を聞いたあとは笑みを浮かべ、スッキリした表情を見せていた。

真剣な表情を浮かべ直したところをみるに、油断もない。

これなら安心して見ていられる。

 

そして始まる立ち合い。剣は寸止めとし、互いの天命を損なわないこと、これがルール。

ジンクが剣を抜き放つのに続き、ユージオも青薔薇の剣を抜刀した。

その美しさとオーラに、ジンクはユージオの物ではないのかと強い口調で訊ねたが、

ユージオはこれを北の洞窟で手に入れ、今は自身に所有権があることを告げた。

この世界での所有権を認識させた以上、青薔薇の剣は名実共にユージオの物だ。

 

ジンクが直剣を大上段に構え、ユージオは普段の俺と同じスタイルで剣を構えた。

 

「では……始め!」

「ウオォォォ!」

 

立ち合い開始の直後、ジンクが真っ向から攻め、唐竹割りに見せかけたフェイントの右水平切りを仕掛けた。

周囲はユージオに対し、やられると思っただろう…だが、彼はそれに応えた。

美しく、弧を描き、かなりの威力の《スラント》を放ってみせた。

ジンクの剣は粉々に砕け散り、周囲は静まり返った……が、すぐさま村人たちがわっと歓声が沸いた。

 

俺はユージオに同門の『神霆流』の仲間たち、それに今は亡きユウキの姿を重ねてみた。

彼は化ける、それも俺を愉しませてくれるほどの存在になってくれる。

そう感じ取り、深い愉悦の笑みを浮かべる…。

 

 

夜10時になり、祭りがお開きとなって、俺は教会の部屋へ戻った。途中、セルカと会って話しをすることになった。

ユージオが昔の彼に戻ったみたいで嬉しかった、姉を探すことを自分で決めてくれた、

父もきっとそれを喜んでいた、そうセルカは話す。

また、北の洞窟に行ったのは自分にできることを考え、決意を固めるためだと話した。

そんなセルカに俺は敬意を表し、彼女の右手を取り、しゃがみ込んで自身の額を重ねた。

 

「我、剣士キリトが誓う。友がユージオと共に、セルカが姉のアリスを助け出し、この村へ連れて帰ってみせよう」

「っ…ありがとう、ございます…!」

 

涙を流しながら礼を言ったセルカは、年相応の可愛らしい笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

翌朝、俺とユージオはセルカの作ってくれた弁当を片手に道を南に向かっていた。

ギガスシダーがあった森の分岐点に来たところで、1人の老人が立っているのに気付いた。

今の俺ではなく、こちらのキリトの中の記憶にある老人、前任の『ギガスシダーの刻み手』であるガリッタ翁だ。

ユージオは顔を綻ばせて翁に走り寄った。翁は感慨深そうにユージオに切り倒した方法を訊ねた。

 

「この剣と僕の友達のお陰だよ。彼はキリト。ホントに、凄い剣士なんだ」

「はじめまして、キリトです。ユージオから貴方のことは聞いています」

「これは丁寧に。それにしても、そなたが噂の剣士殿か。なるほど……変動の相、それに王者の相と覇者の相か」

 

その言葉に思わずギクリとした。

その評価は以前に八雲師匠の師である、『大師匠(だいせんせい)』から受けたものと同じものだったから。

それに対し、翁は少しだけ時間を良いかと訊ねてきたので、俺たちは頷いて彼の後に続いた。

 

向かった先は倒れたギガスシダーであり、ガリッタ翁はある1本の梢を指し示した。

それはレイピアのように鋭く尖っており、他に小さな枝でさえ伸びていない。

なんでも、ギガスシダーの枝の中で最もソルスの恵みを吸収した物らしく、これを切ってほしいとのこと。

一太刀で切ってほしいらしく、ユージオに代わって俺が斬り落とした。

黒く長い枝は、枝というにはあまりにも重く、青薔薇の剣ほどの重みがあった。

央都セントリアに到着したら、北7区に店を出しているサードレという細工師に預ければ剣に仕立ててくれるとのこと。

旅立つ俺たちへの餞別だと言ってくれた。

分厚い布に枝を包み、俺たちはガリッタ翁に礼を告げてから再び道を歩き出した。

 

 

街道に出ると晴天だった空に暗雲が立ち込めてきた。

 

「風が湿ってきたか。一雨くるな…」

「うん。ちょっと急ごう」

 

俺たちは歩く速度を上げ、街道を進んでいく。

 

「ユージオ。まずはザッカリアだ……覚悟は出来ているな?」

「勿論だよ。僕は、アリスを助け出してみせる」

「その意気だ。行こう!」

「ああ!」

 

雷鳴が轟く中、俺たちは完全に雨が降り出す前に駆け出し、進める限り進むことにした。

 

最初の試練を終え、ユージオも剣士の道を歩むことになった。

この先、また新たな試練が待っているんだろうが、全て切り開くまでだ。

 

キリトSide Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

ルーリッド編はこれにて終了、次回はザッカリア剣術大会になります。

 

さて、神聖術はからっきしだと言ったキリトですが実はいまのところ1つだけ使える神聖術があり、

それが音声(省略式句)によるステイシアの窓(ウインドウ)からの武器召喚です。

 

完全にオリジナルですが、これはキリトのこの世界でのステータスも理由の1つです。

 

まぁそれに関しては次回かその次くらいで明らかにしようと思っております。

 

また、原作と違う点があるとすればキリトが既に《ホリゾンタル》だけでなく《スラント》も教えていたことですね。

 

あとはゴブリンたちをほぼ殲滅したところ、それにキリトが剣士として村人へ一喝っとw

 

それと最後の方で明らかにした王者の相と覇者の相、王者の相は実際にあるそうですが、

覇者の相はないので気にしないでください・・・キリトに似合うと思ったんですw

 

あと『大師匠(だいせんせい)』という存在ですが、彼は先代の師範です。

 

引退していますが生きてます、現役バリバリです・・・一応登場も予定していますのでお楽しみに。

 

それではまた・・・。

 

 

 

 


 
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