「ふぅ……」
小さな溜息を吐きながら、報告書として書き込んでいた竹簡数枚を手に取り、紐で結ぶ。
そうして出来上がった竹簡の束を、机の右側に積み上げられている束の山に乗せていく。
作業を終え机に向き直り左を見れば、これまた同じような竹簡やら木簡やらの束の山が。
そのうちの一つを抜き取り、報告書用の竹簡に重要な部分だけを書き留めていく。
流れ作業。座りながら出来るお仕事! などと言えば聞こえはいいが、それが数時間にも及ぶとなるとただの苦痛でしかないわけで。
作業をしているのは男女二人ずつ。たったの四人。男の片割れは事務作業を大の苦手としていた。
片割れの名は凌統。真名を
作業開始から二刻ほど。とうとうその一人が音をあげた。
普段のあいつからしたらよく持ったほうと称えるべきか。
もしかしたら俺の隣にいる人物のせいかもしれないが……。
「大将〜。この作業いつまで続くんすか……」
「想愁さん! ただ日付順に並び替えてるだけの簡単な作業のくせに、文句を言わないでください!」
反応したのは徐庶。真名は
彼女は軽く毒舌を混ぜながらも己の作業を続けていた。
片手間で毒舌って凄い特技だと思うよ。ほんと。
「な~んか、俺には厳しいよね莉紗ちゃん」
「女にだらしがなくて、まじめに仕事ができない男に価値なんかありませんし、何度言ってもちゃん付けする人にはこれで十分かと思われますが」
バッサリだった。
彼女の性格ゆえ丁寧語なのが、さらに心に響く。
だが、これはいつものことなので想愁も苦笑いしただけで険悪な雰囲気にはならなかった。
ふと窓の外を見れば、太陽は天高く昇り、今が昼時だということを知らせていた。
これ以上やっても集中は続かないし、逆に効率が悪くなるだけか。
「んじゃま、ぼちぼち昼にするかー」
告げた途端に腕を突き上げガッツポーズを取る想愁。
それを冷めた目で見つめる莉紗。
ああ、いつもどおりだ。
いつの間にか全員分の上着を取りにいっていた司馬懿と合流し、俺達は昼飯を食いに外に出た。
昼を食ったらまた作業だ。
ーー夜。
今日の分の作業を終え、皆それぞれの時間を過ごし始めた。
想愁は対人戦闘を想定しながらの体術の型を。
莉紗はこの間買ってきた参考書とやらを読み耽っているらしい。
司馬懿といえば……。
「…………」
「…………」
屋敷の屋根の上。俺と司馬懿の為に人が座れる凹みを作らせた。
そこで俺と背中合わせで座り、互いに体重をかけながら夜空を見上げていた。
言葉はない。ただそうしているだけで十分だった。
どれくらいこうしていたのか。
物凄く長い時間だった気もするが、どうでもいいか。
気が付けば調練をしていた想愁がいなくなっていた。
風向きが変わった。
同じくして俺達の空気も変わった気がした。
いや、すでに変わり始めているのか。
自らを黄巾党と名乗る、黄色の巾着を所持した賊が出始めた。
街の者達によれば、
曰く、黄巾党は興行を行っている。
曰く、黄巾党は女子供に容赦をしない。
曰く、襲った邑は全て燃やし尽くされる等など。
これらの噂は瞬く間に大陸全土に伝わり、人々の不安を煽らせた。
同時に広まった噂もある。
天の御遣いの噂だ。
これは管輅という占い師が噂の発祥源らしい。
『黒天切り裂く白い光落ちる時、天の御遣い現れ乱世を治める』
不安になった人は希望に縋る。少しでも知性のあるものならば「人心掌握がうまいものだ」「所詮エセ占い師の戯言」と切り捨てたかもしれない。
だが俺は確信していた。
必ず天の御遣いは現れる、と。
【あとがき】
初めましての方は初めまして
常連の方はお久しぶりです
九条です
ついに新たな外史を始めることとなりました
前回と同様、更新は不定期の予定ですが
温かい目で見守っていただけると助かります
これの前にプロローグを更新しました
「小説家になろう」ではあらすじの部分ですが、TINAMIにはあらすじを掲載する場がないので
個別に導入部として投稿してあります。あらかじめご了承下さい
これを読んでから知ったよ! という方
特に見なくてもだいじょーぶ。400字程度なのでね
ご意見ご感想お待ちしております~
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序章 黄巾党編
第一話「平和な日常」