No.688408 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 失われた記憶を追い求める白き騎士アインハルトさん 2014-05-22 01:40:29 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:1978 閲覧ユーザー数:1903 |
暗い。
どこを見ても、何も見えない。
闇。
目の前はそれだけが広がっている。
『やあ』
そんなとき、君はいつもやってくる。
『僕は■■』
ここに来て、何もしていないといつも必ず現れる。
『いくつか質問していい?』
そして何度も俺に質問を投げ掛けてくるから無言で答える。
『じゃあするよ』
こうしてまた勝手に承諾したみたいに話を進める。うざったいな
━━それにパスはあるの?━━
『勝手に決めてよ』
━━……なら、そうさせてもらうよ━━
『じゃあ質問するね』
【君の
━━パス━━
『…………自分の名前も答えられないってどういうコト?』
うるさいな。前に質問してきたとき、刹那って答えたら否定したからじゃないか。
【何か理由があるの?】
━━パス━━
だって、記憶がないんだからしかたがないじゃないかって言ったら答えになってないって言ったのは君の方だ。
【今どこにいるの?】
━━プラント━━
『やっと答えてくれたね』
鬱陶しい奴。さっさと消えちゃえばいいのに
━━君のせいで俺は今日も不愉快な朝を迎えそうだ━━
『なに?二重人格にでもなったつもり?僕がそういうものじゃないコトぐらいわかってるだろ?』
━━パス━━
『いや、質問なんてしてないんだけど……まあいいや』
【君は今、何がしたいの?】
デュランダルやハイネに救われ、無事に退院してから早くも二ヶ月が経過している。
現在、刹那はハイネの家で世話になっているが、彼は軍に所属しているため家を空けてしまうことがあるため、最近は彼の幼馴染みの家に泊まらせて貰っていたり或いはデュランダルの屋敷に招待されることもあった。
デュランダルはプラントの最高議長として国民のために動き、
ハイネは軍人として国を守るために訓練と任務を全うし、
レイは軍の訓練学校でハイネのような軍人となるために勉強と訓練に熱を入れている。
それなら、自分はどうなのだろうか?
特にこれといってやることもなく、あちこちを走り回っている人々をぼうっとただ傍観しているだけの自分。
はたして本当にそれでいいのだろうか?いくら記憶がないからといって、何時までもこのままではいけないのではないか。
━━……わからない━━
『わからないの?』
少しムッとくるけど、事実だから何も言い返せない。けれどもこれだけは言える。
━━でも、このままでいいわけがないよな━━
『そうだね』
寸分違わずに答えたソイツは、フッ、とどこかへいなくなると、次の瞬間に俺の視界は白い光で包まれた。
目を覚ますと、そこはいつもの見慣れた白い天井とオレンジ色のベッドだった。
ハイネ……というよりもヴェステンフルス家のみんなは昔からオレンジかそれに近い色を好む傾向にあるらしく、こういった色は基本的にオレンジ中心の明るい色で統一されているらしい。
あの夢を見るようになったのは今から丁度半月前、俺が退院してしばらくしてからの事だった。ある日のこと、ヴェステンフルス宅にて世話になりっぱなしではよくないと家事を始めていたときにふと思ったのが始まりだった。
聞けば、ハイネは軍人で、レイはその訓練生だと言っていた。
別に自分が戦いたいというわけではない。むしろ、傷つけあいというのは刹那にとって何かトラウマのスイッチのように思えてさえいた。失った記憶に何か関係するものかもしれないと何度かハイネに相談もしてみた。
けれど、だからといって守られてばかりでいるのはもっと嫌だ。それは俺のプライドが許さなかった。そう考えていると身体が疼いてくる。が、ただでさえ居候させてもらっている身だというのにこれ以上みんなに迷惑をかけるというのも気が引けてしまうのもまた事実なために、どうしてもそこで立ち止まってしまう。だからあんなのに鬱陶しくされるんだよな……
けど今日こそは違ってみせる。
「ん、刹那か。どうかしたか?」
部屋を出て、隣のハイネの部屋に入ると、丁度部屋着で雑誌を読んでいたハイネがいた。
「ハイネ……その、俺ザフトに入隊したいんだ」
言った、言ってしまった。こうなってしたばあとはもう引き下がれない。逃げることも許されない。最後まで目の前の壁に立ち向かうしかないのだ。
「……理由を聞いても、いいか?」
対してハイネは表情には出さなくともかなり動揺の色を浮かベていた。
記憶を失う前がどうかは知らないが、少なくとも今の刹那は争いを好む人間ではなく、むしろその逆で人を傷つける行為に恐怖さえ覚えていた。そんな彼の口から、自ら軍に志願したいと言われたのだ。驚かない方が可笑しい。
「俺は生きる場所をくれたプラントを、何もない俺を助けてくれたギルやレイ……ハイネの役に立ちたいんだ。今の俺の力なんて、あって無いものかもしれないけど、ハイネやレイが戦場で戦っていて、ギルがプラントだけじゃなくて世界の平和のために動き回っているのに、俺だけが安全な場所で眺めているだけなのは、嫌なんだ」
「刹那……」
「頼むハイネ。俺をザフトに入隊させてくれ!」
頭を下げる刹那に、ハイネは頭を悩ませた。医師の話から検査の結果、彼の記憶喪失の原因が、モビルスーツとは別の何らかの兵器によるものと学校辺りで行われていた暴行のようなものなのだということが判明したからだ。
そうなると、レイの通うようなアカデミーに入学させて、そこでアンチナチュラル勢にでも虐めを受ければその時点でトラウマを思い出すかもしれない。しかし、だからといってハイネには刹那の想いを無碍になどしたくはなかった。
「……はあ、わかった。けど今は時期が微妙なところだからな。俺が直接鍛えてやる」
「ハイネが?」
「心配すんなって、これでも俺は議長に認められたフェイスだぜ?他に関しては俺から議長に相談しといてやるよ」
「っ……!ありがとうハイネ!」
刹那はハイネに最大限に頭を下げた。
━━必ずザフトに入隊してみせる!━━
その想いを胸に、刹那はハイネの部屋を後にした。
「…………と、言うことがありましてね」
刹那が部屋を出てからすぐ、ハイネはデュランダルに連絡をとり、ことの説明を包み隠さず全て話した。
『そうか、刹那がザフトに……』
「ええ、まさかあいつがあんな風に思っていただなんて、考えもしませんでしたよ」
記憶喪失という理由から相当辛い思いをしたからといって危険な目に遭わぬよう、安全な場所に押し込めてしまっていたというのに、それが彼には返って逆効果のようだった。
『それが、彼という人間なのかもしれないね』
電話の向こうにいるデュランダルが苦笑気味に答えた。言われてみて、ハイネもそうかもしれないと苦笑した。
『わかった。入隊の件に関してはこちらに任せてくれ。そしてハイネ、君は議長直々の命令として彼の育成を最優先にしてくれたまえ』
「はっ!」
電話をしながら敬礼、というのも些か妙な感じがしなくもないがどうしてもやってしまうのがハイネのデュランダルに対する忠誠心が強いことを示していた。
「ふぅっ……」
ハイネとの連絡を終えたあとのデュランダルの動きは迅速だった。
まず、途中にあった新型モビルスーツの生産ラインの確保や各議員たちから取り寄せられた立案の総まとめ、市民たちからの問題報告の対処等々、とにかく神がかかった速度でそれらを瞬く間に処理しきってしまったのであった。もちろん、手抜きなど一つたりともありはしない。
それもこれも、すべては早急に刹那のザフト軍入隊のための手続きを済ますためだ。
まずはプラントにおける正式な戸籍。次に所属。そして授与される機体についてだり
これまではまだ学校には通っていないことや、遠出できる状態ではなかったため仮戸籍に近い形のものでどうにか出来ていたが、ザフト軍に入隊するともなればそうはいかなくなる。正式な手続きを済ませておかなければあとで後悔することになるのは自分と彼の方だ。
次に所属する部隊。これはハイネの所属している部隊か、ジュール隊のどちらかにしようと考えている。
そして最後に機体についてだが、これも実はある程度の目処はたっていたりする。丁度地球のカーペンタリア基地付近の深海にてモビルスーツが発見されたという知らせが来ていたのだ。
それは、ザフトのグーンやゾノでもなく、ましてや連合の水中戦用モビルスーツでもなかった。
机の上にキッチリカッチリと並べられた写真がデュランダルの前に広がっている。突如として深海から海上へ浮上してきた瞬間を捉えた写真には、見慣れない型の戦艦と、その中に保持してあったいくつかのモビルスーツだった。
デュランダルが特に注目の目を向けていたのは、青と白の機体とモスグリーンの機体だった。他にもオレンジや白黒の機体もあったのだが、デュランダルはどうしてもこの二機に視線が外せなかった。長い間、海の底に眠っていたのか、表面は苔や錆だらけだったが、その存在感の強さだけは異様に感じていた。
そしてよく見てみると機体の頭部には、それぞれどの機体にもこう記されていた。
GUNDAM
と。
記憶を失いし少年が翼を得る日は近い。
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PHASE1 決意