幕間劇 柘榴の苦悩
長尾家武将、柿崎景家こと柘榴は悩んでいた。
その種は彼女が手に持った1枚の服だ。
「うーーーーーーーん、どうしたものすかねぇ・・・」
1人唸りながら春日山城の廊下を歩く。
すると、ある人物とすれ違った。
「あら、柘榴ちゃん。どうしたの?」
声をかけてきたのは秋子だった。
手に持った書類の山はまだ仕事の途中という証だろう。
「ああ、ちょっと考え事っす・・・」
「?・・・あぁ、七刀斎さんの服ね」
秋子は柘榴が手に持つ聖フランチェスカ学園の上着を見て、前の戦闘で柘榴が剣丞に上着を借りていたことを思い出した。
「返しに行かないの?」
「返しに・・・行きたいっすけど・・・」
「どうしたの?ケンカしちゃって渡しにくいとか?」
「いや、そういうんじゃないっす!」
「じゃあ・・・どうしたの?」
「・・・・・・なんか」
次に柘榴の口から放たれる言葉に、秋子はひどく驚くのだった。
「顔を合わしにくいっす・・・」
春日山城 美空の部屋
ちょうど美空は今日の政務を終わらせていたところだった。
「ん~~~~~~~~~」
伸びをし、考える。
(この前の鬼、あれとまた戦わないという保証はないわね・・・)
手元にあるのは、政務とは別に作成した各部隊からの報告書だ。
(1体1体の強さもあるし、柘榴の言っていた地中から出てきて奇襲をかけるってのも厄介ね)
もし次にまた鬼の軍勢と戦う時には地中にも気を付けなければならないだろう。そう思っていたその時、ドタドタという騒がしい足音が聞こえてきた。
「お、お、御大将~~~~!」
勢いよく襖を開けたのは秋子だ。
ちょうどいい、これから剣丞も呼んで鬼についての対策を考えよう。と思っていたその時はまだ、美空自分が驚かされるのを知らなかった。
「ざ、ざ、柘榴ちゃんが~~~~!」
「柘榴?柘榴がどうしたのよ」
切らした息を吸い込む秋子。
彼女の説明を聞いた時、美空は今考えていたことをすべて忘れることとなった。
「な、ぬわぁんですってえええぇぇぇぇぇぇ!?」
剣丞の部屋
謀反の首謀者である本庄を討ち取ったことから、剣丞と七刀斎隊には勲功第一という名誉と、数日間の休暇をもらっていた。
なのでこの世界に来てからは久しぶりに剣丞は昼に起きていた。
「ふあぁ~あ、よく寝た・・・」
起きてまずやることは洗顔だ。
剣丞は仮面を手に持ち、いつものくせで上着を探していると、柘榴に貸していることを思い出した。
「あっ、そうだった。まぁ今度返してもらえばいいや」
ズボンはしっかりとフランチェスカの制服を着て、上にはとりあえず制服の下に着ている肌着を着ることにする。
「よし、井戸に行くか」
剣丞が襖を開け外に出ると、ちょうど部屋の前にいた人物と鉢合わせた。
「あ、柘榴」
「ひっ!す、スケベさん・・・」
なにやら挙動不審だ。
普段仮面を着けて7本の刀を装備している剣丞も相当怪しいが、今のわたわたした柘榴もそれなりに怪しかった。
「き、今日は仮面着けてないんすか・・・?」
「え?ああ、忘れてた。ありがとうな、柘榴」
「い、いえ!別にいいんすよ!」
手に持っていた仮面を着けると、柘榴は安心したように息をはいていた。
「ん?どうしたんだよ」
「いやーやっぱ仮面を着けてる方がスケベさんらしいっすね」
「えー何でだよ」
「だって直接顔を見たらなんか・・・って、何言わせるんすか!」
「ええぇー・・・」
今日の柘榴は何かが変だということに剣丞もすぐに気付いている。
まぁそんな日もあるだろう、とアバウトに結論付け、剣丞は柘榴の手に持っている物を指さした。
「あ、俺の制服」
「え?あっ」
柘榴は今まで忘れていたようで、自分が持つ物を見てハッとしていた。
恐らく制服を返しに来たはいいがそれを忘れていたのだろう。柘榴らしいといえば柘榴らしい。
「こっ、これ。か、かかか返返し・・・」
「おう、サンキュ」
剣丞が制服を受け取ろうと手を伸ばし、
「や、やっぱりなんでもないっすーーーーーーーーー!!」
F1が通り過ぎるような音を残して柘榴は去ってしまった。
「・・・・・・え?」
城下町
「俺なにか悪いことしたかなぁ?」
せっかくの休暇だ。
剣丞は護身用に刀を1本腰に差し、町をぶらついていた。
先の戦いの功績で七刀斎隊の知行(給金)はかなり増えたと言っていい。
剣丞にも遊ぶのに困らないほどの金は持っている。
適当に歩いていると、騒がしい店の前を通っていた。
騒がしさからして、誰が客がすぐにわかることが剣丞には悲しかった。
「あいつら、遊んでるなぁ・・・」
七刀斎は犠牲を出したことを悼んだが、いつまでもくよくよしてはいられないということで剣丞の知行から引いて酒場で宴をやっていたのだ。
剣丞はまだあのテンションに慣れないので参加はキャンセルしている。
「今度は犠牲を出さないようにしないとな」
剣丞は胸に決意を秘めながら、その場を後にした。
春日山城 兵舎
柘榴は兵の訓練をしている松葉を訪ねた。
「おーい松葉ー」
「柘榴。なに?」
「ちょっと相談っすー」
松葉は兵の指揮を組頭達に命じてから柘榴のもとにやって来た。
「相談って?」
「ちょっと、これなんすけど・・・」
柘榴が松葉に見せたのは今日ずっと持っている剣丞の上着だ。
「スケベの服?」
「そうっす。これ返したいんすけど、どうすればうまく返せるっすかね」
「普通に返せばいい」
「それができないんすよ~!」
「どういうこと?」
松葉にとっては上着くらい会った時に返せばいい。柘榴が何を困っているのかわからなかった。
「さっきスケベさんと鉢合わせしたんすけど・・・なんか、スケベさんと顔を合わすと変な気分になるっす」
「変な気分?」
「その時のスケベさん、仮面着けてなくて。妙に変な感じだったっす」
「気持ち悪いってこと?」
「いや、違うっす!そういうんじゃないんすけど」
柘榴がわからないことは自分にもわからない。
相談を受けたはいいが、松葉は軽々しく答えられずにいた。
「悪いけど、私じゃわからない。御大将に相談してみたら?」
「そうっすね・・・そうするっす!訓練中すまなかったっすね!」
「別にいい。それじゃ」
「はいっすー!」
柘榴が去っていったのを見送って、松葉は再び訓練に戻っていった。
美空の部屋
「まさかねぇ、あの柘榴が」
「そうですよー。あの柘榴ちゃんが」
2人してうーんと顎に手を当てていると、小姓が誰かを連れてくる音が聞こえてきた。
「御大将ー、ちょっといいっすかー?」
襖の向こうから聞こえてきた声は、2人が問題としている人物の声だった。
「柘榴!?・・・入りなさい」
部屋に入って来た柘榴の手にはまだ剣丞の物と思われる上着があった。
柘榴は美空に座るよう指示された場所に座る。
その様子は面接官2人と受験者1人のような構図になっていた。
「相談なんっすけど、スケベさんに上着を返すにはどうすればいいんすかねー・・・」
「ふむ・・・」
どうやら秋子の言う通り、柘榴は剣丞に思う所があるようだった。
ならば喧嘩の仲裁とは違い、もっと他の回答があるだろう。
そのために美空はまず外堀から埋めていこうと考えた。
「ねぇ柘榴、あんた七刀斎のことどう思ってるの?」
(お、御大将!いきなりすぎます!)
単刀直入に聞く美空に秋子は冷や汗を流した。
「どう、っすか?」
「そうよ。そんなにあいつの服を大事に持ち歩くくらいだからなにかあるんでしょ?」
「こっ、これはただスケベさんに返そうとしてるだけっすよ!」
「はいはい。で、どうなのよ?」
「う~~~~~~ん」
しかめっ面になり一休さんのように頭に手をあてる柘榴。
美空達は催促しようかと思ったが、その前に柘榴が口を開いた。
「なんか、スケベさんを見てると・・・」
「「見てると?」」
「クサクサするっす」
ふざけた様子もなく、柘榴はそう言った。
「クサクサぁ?」
「はいっす!なんかこの前の戦からスケベさんを見てると胸のこの辺になんか引っかかるっす」
「それってこ「秋子!」」
秋子の言葉を遮るように美空が彼女の口を塞いだ。
(ちょ、ちょっと御大将!なんですか!?)
(柘榴がその気持ちに気付いちゃったらマズイでしょう!)
(マズイ?なんでですか?柘榴ちゃんこのままだと嫁に行くアテないですよ?)
(それをあんたが言うの・・・?)
「大きなお世話です!」
「うわっ、なんすか!急に大きな声出して」
気を取り直して向き直る。
(あれ?でも私だって別に柘榴が誰に靡こうがいいわよね・・・なんで阻止したいのかしら)
美空が物思いに耽っているいると、秋子は柘榴に色々吹き込んでいた。
「柘榴ちゃん、七刀斎さんと話してみたら?」
「スケベさんと・・・っすか?」
「うんうん。きっとその胸の引っ掛かりも取れるはずよ」
「ホントっすか!?もうずっと気になってたから助かるっすー!」
「ええ、頑張ってね!」
「はいっす!頑張ってみるっす!」
柘榴は一礼すると、部屋を出て行った。
「そうだ、柘榴!・・・って、あれ?」
「柘榴ちゃんなら七刀斎さんと話すから行っちゃいましたよ?」
「し、しまったぁ!」
「どうします?」
「ううー・・・もういいわ!作戦会議よ!」
「わかりました!七刀斎さんの動向を探らせてきますね!」
逸って立つ秋子を美空は慌てて制した。
「違うわよ!これからの鬼に対しての対策方針を話し合うのよ。あんたならいい相談相手だし」
「あ、そういうことですか・・・わかりました」
「そうだ、松葉に伝言を頼みましょう」
「誰ですか?」
「あのバカによ」
城下町
「いやーやっぱ二発屋は美味しかったなぁー!」
金のある剣丞は少し奮発して高めの定食を頼んでいた。
娯楽の少ないこの世界でできる贅沢のひとつだ。
満腹になったところで、城に戻ろうかと思っていた。
先日美空達に案内されているため、町の地図は大体頭の中に入っている。
「帰ったら空ちゃんと遊ぶか。護衛対象とのコミュニケーションも大切だしな」
それに可愛いし、と脳内だけで付け足しておいた。
その背中を建物に隠れながら追う影が1つ。
「コソコソ」
口に出しながら追跡する影は手に日光を反射して光る上着を持っていた。
「なんとか自然にスケベさんに近づいて、自然に話しかけるっす・・・!」
軽い身のこなしで徐々に剣丞に近づいていく。
やがて、無警戒の剣丞の背中を目と鼻の先に捉えた。
(よし、自然に、しぜーんに話しかけるっす!)
「す、すすすっすすすけっすすすけけけ」
「ん?あ、柘榴」
「!?」
舌が上手く回らず、先に剣丞に話しかけられることになってしまった。
「なぁ、さっき俺の上着――」
「なんでもないっすーーーーーーー!!」
再びF1の如く走り去ってしまった柘榴を見て、剣丞は再び首を傾げた。
「な、なんなんだ一体・・・」
「スケベ、追う」
「どわぁっ!?ま、松葉か」
音もなく剣丞の隣に立っていたのは訓練を終えた松葉だった。
「とりあえず柘榴が逃げたら追えって秋子からの伝言」
「秋子さんから・・・?」
「追わなかったら死罪だって御大将からの伝言」
「命がけかよ!!」
わけがわからないまま、ほらほらと松葉に煽られた剣丞は柘榴を追いかける羽目になった。
柘榴を追いかけて1時間。
背中を見つけることは出来たが、未だにその距離を縮められずにいた。
「おーい!なんで逃げるんだよー!」
「スケベさんこそ何で追ってくるっすかー!」
「お前を追いかけないと俺死んじゃうんだよ!マジで!」
「嘘っすー!スケベさん嘘吐きっすー!」
剣丞は屋敷に住んでいた頃の特訓によるものか、スプリンタースタミナはかなりある。
だがその剣丞でも1時間かけて背中を捉える程度であるから、この時代の武将の体力は相当なのだろうと感心させられる。
意地でも距離を縮めるために屋根の上に上り、忍者のようにピョンピョンと跳びまくる剣丞。
これなら人ごみの中を走る柘榴よりスピードは速く、また上から見下ろすことにより場所の特定が容易となった。
剣丞の動作に無駄は無い。かなり手慣れた様子で屋根の上を走っていた。
その動きはハワイで親父に教わったのではなく・・・
「京都の映画村や日光江戸村で明命姉ちゃんに教わったのさー!」
今度はキマった。
練習の時は他の観光客に忍者の出し物と思われ喝采を浴びていて恥ずかしかったが、思えばそれも無駄ではなかった。
「あれ?スケベさんが追ってこない・・・諦めたっすか?」
たまに後ろを見ていた柘榴も、路上から剣丞が消えたことで油断し、スピードを落としていた。
柘榴の向かう先は河原だ。このまま町中でまた問答するよりも、人気の少ない河原の方が聞きやすいだろう。
剣丞はマンハント(追跡編)を思い出しながら柘榴を追っていった。
河原
日は傾き、人の影はまったく無い。
河面をキラキラと照らすオレンジがなにか懐かしい気持ちを思い出させてしまうようなその場所に柘榴はいた。
この河の水はキレイで、顔を突っ込んで飲んでも大丈夫という評判だ。
流石の柘榴も息を切らし、その通りに水をゴクゴクと飲んでいた。
「ップハー!流石にスケベさんもここまでは・・・」
「柘榴!」
「げげっ!」
剣丞も息を切らしながら追いついてきていた。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」
「うわースケベさんが外なのに発情してるっす」
「疲れたんだよ!」
軽口を言う柘榴の視線は決して剣丞を向くことはなく、わざとらしく河の方を見ている。
「こ、ここの水はキレイっすから、飲めばいいんじゃないっすかー?」
「悪い、そうするわ」
首まで水面に突っ込み、水を飲む。
そうなることでようやっと柘榴は剣丞の方を見た。
「ップッハー!うまし!」
「・・・プッ、プフッ」
「なんだよ」
「いやいや、スケベさんっぽいなーと思っただけっす」
ひと笑いすることにより、いつもの調子を少し取り戻したようだった。
「スケベさん、ちょっと後ろ向いてもらえるっすか?」
「ん?おう」
言われるがままに柘榴に背を向ける剣丞。
柘榴も後ろを向いたようで、背中をピトッと合わせる形となった。
しばらく沈黙が続き、カラスの鳴き声が聞こえてきたところで柘榴はゆっくりと口を開いた。
「今日はなんかゴメンっす。迷惑かけちゃったっすよね」
剣丞は気を使う前に驚いた。
元気が服を着て歩いているような柘榴が珍しくしおらしいのだ。
いつもとはまったく違うその様子に、剣丞も言葉を選んで話していた。
「別にいいよ。何かあったのか?」
「最近柘榴変なんっす。御大将や松葉達にも相談したけど解決しなくて・・・スケベさんと話せばどうにかなるって秋子が」
「お、俺と?」
正直、剣丞自身も何もわからないほどだ。秋子に丸投げにも程があると思えるほどだった。
「スケベさん、なんか最近柘榴、胸の奥の辺りがウズウズするっす。これなんすか?」
「俺に言われてもなぁ・・・病気とか?」
「柘榴はいつも元気っすよ。でもスケベさんと会った時はそのウズウズが大きくなるんす。今日なんかもう・・・」
ますます意味がわからなくなる剣丞。
なんとか解決策を見出そうと考え込む。
「うーん、わからないなぁ・・・」
「そうだ!」
急に反転する柘榴。
その腕は剣丞もクルリと180度方向転回させていた。
「ど、どうしたんだよ急に」
「・・・・・・」
何かを決意しているかのように押し黙る柘榴。
その目は剣丞の瞳をジィーッと見つめていた。
「スケベさん、仮面を取るっす」
「え?」
「仮面っす!とっとと取るっす!」
「お、おう」
仮面を取り、素顔を晒す。柘榴の顔が少しだけ紅くなったのは夕日のせいではないだろう。
「スケベさん、頼みがあるっす」
真顔で言ってきたことから真剣な頼みなのだとわかる。
そこまで頼ってくれているのだ。男として、足蹴にはできないと剣丞は思った。
「ああ、なんだ」
「柘榴はこのウズウズに向き合ってみることにしたっす」
「おお!凄いな!俺に出来ることならなんでもするぞ!」
(ここは男として、なんとしても柘榴の悩みを――)
「この前の戦でスケベさんが柘榴の体で注目してたのは胸っす」
「!!?」
(ば、バレテーラ・・・)
どうやら剣丞はあの時若い気持ちを制することができていないようだった。
「そして柘榴のおかしいところも胸。これは胸に関係あるっすー!」
そして柘榴はいつぞややったように、剣丞の腕を取り、
「おりゃ!」
「なっ・・・!?」
剣丞の手を自らの胸に押し当てた。
「おおー!やっぱりスケベさんの手が柘榴の胸に当たるとウズウズがちょっと収まるっすー!」
嬉々としてムニュムニュと押し当てる柘榴。
剣丞の方は突然の事に唖然とするばかりだった。
「スケベさん、スケベさん!ちょっと」
「あ、ああ」
最早魂が抜けた返事しか返せなかった。
「むぎゅー!」
柘榴は剣丞の腕を一度放し、今度は無防備な剣丞の胴体に自らの腕を回してきた。
「おおー!これも凄いっすー!スケベさんに抱き付くとウズウズが大幅になくなるっすー!」
(な、なんだこの状況ー!)
胸に顔を埋められ、柔らかいメロンが2つ腹に当たるこの状況は、剣丞の一部分を起こすには十分すぎた。
「ざ、柘榴!」
「んーなんすかー?」
「ちょ、ちょっと離れて・・・!」
「どうしてっすかーせっかく胸のウズウズが取れてたのにー」
(俺は他の場所がウズウズしてます!)
「とにかく離れて!」
「嫌っすー!」
離れるどころか、更に密着してくる柘榴。
剣丞は完全にお手上げ状態だった。
「あれ、スケベさん持ってる刀は1本だけっすよね?」
「あ、ああ」
戦の時は7本フルで装備するが、普段は腰に1本帯刀しているだけだ。
「刀はこっちにあるし・・・このグイグイってくるコレ、なんすか?」
「いや、それは・・・まぁアレだアレ」
「?」
極力腰を後ろに持って行っても柘榴がその後を追ってくるので、結局当たることになっている。
余程気になったのか、柘榴は1度体を離した。
「あっ、なるほどっす~!」
「くっそおおおおぉ見るなあああぁぁ!」
急いで前屈みになる剣丞を、柘榴はニヤニヤと見ていた。
「な~んだ、スケベさんやっぱりスケベっすね」
「お前みたいなのに抱き付かれたら誰だってこうなるっつーの!」
剣丞が顔を真っ赤にしながら答えると、柘榴はキョトンとしていた。
「え、誰でもっすか?」
「当たり前だろう。柘榴は可愛いし、胸もあるし」
「可愛い、っすか・・・」
一瞬胸の事をジト目で見られるかと思ったが、柘榴はその前の言葉に反応しているようだった。
「そうっすかー可愛いっすかー」
「なんだ、ニヤニヤして」
「んー別にさっきからっすよー」
剣丞の一部分を見てニヤニヤしていたのとは違い、今度は目を閉じ、言葉を反芻するようにニヤニヤしていた。
「あっ、そういえばコレ。ずっと返さなくてゴメンっす」
柘榴は思い出したように、傍らに置いてあったフランチェスカ学園の制服を剣丞に差し出した。
「おう、ありがとう」
受け取り、上に羽織る。
水面に映った自分の姿は、いつも通りの一張羅を着ていた。
「よーっし、解決法も見つけられたことだしこのまま城に帰るっすー!晩御飯っすー!」
「お、おいおい!腕をひっぱるな!そして腕を組むな!」
「えー何でっすかー」
柘榴が腕を組んできたお蔭で、剣丞の腕には胸が当たる形になっていた。
収まって来たウズウズが再発しそうになってくる。
「あっ、また元気になってるっすー!」
「み、見るなあああぁぁぁ!」
城までの道のりを考えると、冷や汗しか浮かばない剣丞であった。
春日山城
普段は忙しい美空や秋子も今日は仕事が終わり、柘榴や松葉、剣丞も呼んで夕飯を食べていた。
「そういえば柘榴、あんたの胸のクサクサだったかモジモジだったかはどうしたのよ」
食事の途中、美空が柘榴に尋ねた。
「それはもう治ったっす!」
「それはよかった」
松葉は心のどこかで心配していたのか、安堵するように表情を綻ばせた。
「柘榴は病気だったのでスケベさんに治してもらったっす!」
「治してもらった?」
美空が横目で剣丞を見る。
秋子はなにやら既にオチが読めているようだった。
「柘榴はスケベさんに1日1回抱き付かないと胸がウズウズする病だったっすー!というわけでスケベさんにはいつどこでも抱き付くっすー!」
隣にいた剣丞に抱き付く柘榴。
なんとなく予想していた剣丞は、抱き付かれた拍子に食事をこぼさないよう何も持っていないようにしたお蔭か、汗を流すだけで済んだ。
「な・・・な・・・!」
「あらあらまぁまぁ」
「それ病気?」
美空はあんぐりと口を開け、秋子は「これで柿崎家も安泰ね~」と言い、松葉は純粋に首を傾げていた。
「ちょっと柘榴、離れて!食えない!」
「あ、じゃあ柘榴が食べさせてあげるっす!あーんするっすよ」
目の前の光景が信じられないといった感じの美空は秋子に耳打ちをした。
「あれって自覚してると思う?」
「恐らくわかってないでしょうね・・・自分が七刀斎さんのことを好きだってこと」
「はぁ・・・まさか剣丞に女を落とす才能もあったなんてね・・・いつから仕込んでおいたのかしら」
「ナニを仕込んだんでしょうね!?」
「秋子、そんなことばっかり言ってるとますます行き遅れるわよ」
崩れ落ちる秋子。
結局剣丞は柘榴にあーんをされ、その後美空の部屋に呼び出され理不尽な説教を受けることとなるのだった。
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どうも、たちつてとです
今回は恋姫でいう拠点フェイズ的な感じになっております
箸休めな感じだと思ってください!
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