No.687528

「真・恋姫無双  君の隣に」 第23話

小次郎さん

戦乱の幕があがる。
雪蓮と華琳に使者が伝えることは

2014-05-18 00:41:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:19356   閲覧ユーザー数:12387

反董卓連合の戦が終わって三ヶ月、月達と別れて寿春に戻った俺達は着々と力を蓄えていた。

漢の出した追討令もあって、既に大陸中が戦火に包まれている。

うちにも劉表と陶謙がちょっかいをかけて来た。

黄巾の乱の時に備えていた迅速な連絡網と、厳しい訓練と実戦を潜り抜けてきた凪達や兵士達のお陰で返り討ちにはしたが、内政にかまけて後手になったのは否めない。

だが此方も準備が整った、今度は俺達から攻める。

先ずは劉表、荊州を獲る。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第23話

 

 

「姉様、お呼びと聞いて参りましたが」

「ええ、一刀から援軍の依頼が来たのよ。江夏を攻めるから手伝って貰えないかって」

江夏、黄祖か!

母様を討った、劉表配下の江夏の太守。

意識せずに拳を握り締める。

「蓮華様、どうか落ち着いて下さい。お気持ちは分かりますが、感情のままに動くは愚かな事です」

冥琳が私を窘める、が、私とて冥琳との付き合いはそれなりにあるから分かる。

普段よりも声を押し殺してる事を。

そうだ、私だけではない。

「そうね。大事な事だもの、冷静にならなくては。それで、姉様はどうお考えですか?」

姉様は普段飄々としているが、私以上の激情を示す事もある。

母様の事だと姉様とて冷静ではいられないのではと思ったが、

「私達、必要かしら?」

「・・どういう事ですか?」

気の抜けたような返事に戸惑う。

「だって母様の時とは状況が違うわ。母様は急激な悪天候による崖崩れのせいで、予期できない状況に陥って討たれたのよ。此方の兵が少なかったから補う為の強行軍が仇になってしまったわ」

姉様の言葉を冥琳が補足する。

「充分な兵があり堅実な戦いをする御遣いならば勝利は堅いでしょう。態々我等に援軍を求める必要性はありません。謝礼の額は妥当なものですが本来は不要な出費です」

それは、つまり、

「・・一刀が、私達の気持ちを気遣ってくれたのですね」

「そうでしょうね。ホント優しいんだか甘いんだか。ま~た借りを作っちゃうわ」

「それに~、御遣いさんが江夏を獲りましたら、この長沙近隣の劉表さんの領土は隙だらけになりますね~。御遣いさん様様です~」

「我等の領土も増えるが、それ以上に御遣いの力が増大する。後々の事を考えると劉表の方がマシだろう。素直に喜べん」

不謹慎だけど、私は冥琳の言葉に頬が弛む。

黄祖の名が出た話でこんな雰囲気、今迄ならありえなかったわ。

反董卓連合の戦で一刀が敵になったと聞いた時は驚いたけど、戦いの全容を聞いた時は納得したわ。

一刀らしいと思った、私の好きな一刀だった。

「では援軍には私「私が行くわ、一刀を私のものにする良い機会だし」

・・聞き間違いかしら、何故、一刀が姉様のものになるのかしら。

「姉様、王が自ら援軍に赴くのは如何なものでしょう。ここは私が行くべきだと思います。何より一刀も一緒にいた時間の長かった私の方が喜ぶでしょう」

私は微笑みながら冷静に分析した結論を進言した。

「あら、そうかしら?まだまだ未熟な蓮華が行っても一刀の助けにならないんじゃな~い?」

・・姉様、笑顔で応えてますけど目が笑ってませんよ。

「そうですね、私はまだまだ未熟です。だからこそ更なる経験を積む為にも私が行きます。それに姉様は仕事が溜まっているでしょう、私は急ぎの仕事は全部片付いてますので」

「母様の仇を討つのは最優先よ。丁度いいわ、私の仕事は蓮華に任せるからよろしくね♪」

「姉様、王としてそのような虚言はいかがでしょう」

「適材適所よ、人事は王の重要な仕事だわ」

「「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ・・・・・・・・・・・・」」

私と姉様は笑いながらも互いに目を逸らさない。

「冥琳様~、止めなくていいんですか~?」

「孫堅様、親不孝な娘達を、どうかお許し下さい」

 

 

計算通りです、反董卓連合の戦時から蒔いて置いた種が芽吹いてきました。

「華琳様、張邈殿と鮑信殿が我が軍に恭順を申し込んでまいりました」

「流石ね、稟。貴女の献策が見事に嵌まったわ」

本格的に突入しました乱世、私の脳は溢れかえらんほどに冴え渡ってます。

「これで兗州はほぼ支配下に収まりましたねー」

「でも油断は出来ないわね。徐州の陶謙が各地に使者を送ってると細作から報告が来てるわ」

「おそらく袁紹にも助力を求めてる。袁紹にとっても華琳が力を持つのは目障りだろうし」

「北海の孔融もそうでしょうね。そうなると一刀の申し出は渡りに船かしら?フフ」

先程届いた一刀殿からの不戦の申し出、現状で最も警戒すべき勢力が敵にならないのは助かる話です。

ですが只の同盟ではありません、条件に驚くべき事が記されていました。

期限を、我々が青州か徐州、一刀殿は荊州を支配下に置くまでと。

但し、どちらかが達成した時までという聞いた事もない話。

華琳様はこの条文を読んだ時、それは楽しそうに笑っていました。

互いに恩を売らず、完全に対等の立場での条約。

乱世に於いて同盟とは破られるのを前提で行なうものですが、遅々としていたら喰われて当然と明言してきたのです。

元々華琳様や一刀殿なら姑息な真似はありえません、盟に不信を覚えることは無かったでしょう。

・・味方になる訳ではないのに、背中を任せあう。

華琳様と一刀殿にある互いへの信頼。

羨望せずにはいられません。

風の言っていた事は、この目には見えない御二人の繋がりなのでしょうか?

「でも、こちらばかり驚かせられるのも癪ね。・・ねえ、一刀」

 

 

書簡に目を通していたら、桃香が執務室に入ってきた。

「白蓮ちゃん、商人がこの地に向いてると言われてる作物の苗を持ってきてくれたの。以前言ってた通り、兵士さん達に力を借りていいかな?」

「分かった。兵には伝えてあるから早速やってみてくれ。頼んだぞ、桃香」

「うん♪」

楽しそうに走っていく桃香を見て、本当に変わったなあと思う。

ふわふわした明るさは一緒だけど、しっかりと考えて行動してる。

此処に朱里と来てからは、主に内政の事で色々と貢献してくれてる。

御遣いのところで勉強してきた事を活用してるらしくて、任せてみたら治安も格段に良くなった。

「なあ、朱里。御遣いは桃香にどんな教育をしたんだ?」

朱里には軍師をやってもらってる。

実際に二人のお陰で凄く助かってる、僅か二ヶ月そこらで目に見えて国力が上がった。

「御遣い様は特に何も言われてません。桃香様が御自分で気付かれただけです、理想を叶える為にどうしたらいいのかを」

「そんな訳無いだろ!蘆植先生が何年も言い続けて変わらなかったんだぞ」

「本当です。桃香様は、明日の為に今日何をすべきか、誰もが行っていることの原点に戻られたんです。憧れた人を追いかける為に」

 

 

敵が逃げていくのだ、深追いはしないように言われてるから我慢なのだ。

「雛里、幽州の方は大丈夫だろうか?」

「ま、まだ袁紹軍も先遣隊だけですから大丈夫だと思います。しゅ、朱里ちゃんもいますし」

全く愛紗もしつこいのだ、もう何度も聞いてるのだ。

「愛紗、そんなに気になるならお姉ちゃんの所に行って来ればいいのだ」

「そんな事が出来るか!私は正式な平原の相だぞ。それに、桃香様は頑張られてるに決まってる」

そう、頑張っておられる筈だ。

再会した時の桃香様は、私が勝手に思い描いていた主よりも、ずっと素晴らしい主に成られていたのだから。

 

「劉備殿、貴女とは縁を切った筈。何用で来られたか」

私は必死に気持ちを押し殺して、冷ややかに聞こえるように話す。

「忙しいところごめんなさい。ちゃんと謝りたかったんだ。いっぱい愛、ううん関羽さん達に助けてもらってたのに、私は何にも分かってなかったから」

違う!分かっていなかったのは、むしろ私です。

桃香様のお気持ちを考えず、ただ私の理想を押し付けていた私こそ謝罪せねばいけないのに。

なのに、私は素直になれない。

「そ、その事は私にも反省すべき点があったと思っています。ですが、貴女が責任を放棄する事を言われたのは看過できません」

「その通りだよ。私は自分の言動を軽く考えてた。皆が協力してくれてたのを当たり前のように思ってた。甘えてたし自惚れてたんだよ」

・・私も同じです、人は口先の理想だけで付いてきてなどくれません。

それだけで付いていくのは依存であり、ただの盲信でした。

「私ね、あの後はずっと御遣い様にお世話になってたんだけど、食べるなら働かなきゃ駄目って言われてお仕事たくさん任されたんだ。全然休んでる暇が無かったよ」

おのれ、御遣い!

確かに言ってる事は正しいが、休む時間ぐらいあってもよかろう。

「でもね、御遣い様はもっとたくさん働いてて、それで周りの人達は笑顔だったんだよ。・・私が思い描いてた理想が目の前にあったの」

桃香様の理想が既にあるだと、それほどに御遣いの政は素晴らしいのか?

平原の政は苦難の連続だ。

民を守る為には軍備を整えなければならない。

だが財源は民からの税で賄わなければいけないのだ。

平原は戦費が重なり苦しい台所だ、とても税を下げる余裕はない。

どうにもならない現状に、私は自分の無力さを嫌という程味わっていた。

「教えては貰えなかったけど、御遣い様は私と似たような夢を持ってるって言ってた。今は下地を作ってるところだって、ホントに凄いよね」

「で、では何故、私に逢いに来たのですか?貴女の理想を御遣いが既に叶えているのなら、そのまま御遣いの手伝いをすればいいでしょう?」

「私は今迄に助けてくれた人達に何も恩を返せてないんだよ!・・それに、それに私は愛紗ちゃん達と一緒に夢を叶えたいのっ!」

桃香様!

「勝手な事を言ってるのは分かってる。駄目って言われたのに勝手に真名を呼んでご免なさい。でも、でも私は、愛紗ちゃん達と一緒に居たい!」

大粒の涙を流す桃香様を私は抱きしめる。

もう私も自分を偽れない。

「桃香様、私もです。三人で誓った事、一日たりとも忘れた事などありませぬ」

桃園での誓い、私の全てがあそこにある。

「お許し下さい。私の勝手な理想を押し付けたあげく、桃香様のお心を一顧だにしなかった私の愚かさを。私は、私は何も分かっていませんでした。お許し下さい」

涙が止まらない、ずっと苛んでいた心が解き放たれる。

「私だって同じだよ。ごめんなさい、本当にごめんなさい」

私と桃香様は、涙が尽きるまで謝り、泣き続けた。

 

あの後、全員が集まりもう一度一緒に頑張ろうと誓い合ったが、桃香様と朱里は白蓮殿のところに行く事になった。

朱里と雛里がいうには、私は正式に平原の相と爵位が与えられており、桃香様は無官の身。

それに知る者は少ないが、朱里は虎牢関で御遣いに力を貸して我等と戦っている。

この状態で桃香様を頭首とするのは混乱の元にしかならない。

白蓮殿とは対袁紹の事で同盟を結んでいるし、顔なじみ、桃香様達が応援に行くのは義にも利にも恩返しにもなる。

納得せざるえない結論に達し気落ちした私だが。

「愛紗ちゃん、力を持たない私に理想は絵空事だけど絶対に諦めないよ。一つ一つ積み重ねて、何度崩されてもまた積み重ねるよ。積み重ねた先に、皆の笑顔がきっとあるから」

桃香様、本当に強くなられた。

「それに以前とは違うもん。離れていても愛紗ちゃんは私の傍に居てくれてる。だから寂しくもないし、安心できるんだから」

 

落ち着きを取り戻した愛紗を見て、鈴々もようやく安心なのだ。

全く、桃香お姉ちゃんと別れた時の愛紗は捨てられた子犬と一緒だったのだ。

桃香お姉ちゃんには朱里と御遣いのお兄ちゃんがいるから、むしろ心配だったのは愛紗だったので付いていったけど、ようやく仲直りできて本当に良かったのだ。

ホントに、愛紗は仕様がないお姉ちゃんなのだ。

 

 

御遣いの三羽烏。

私、真桜、沙和は世間にそう呼ばれるようになっている。

畏れ多いが、初めて聞いた時は寝床で一晩その言葉を頭の中で繰り返した。

真桜や沙和も同じだったようで、翌朝三人とも寝不足だった。

帰国してからの私達は今迄以上に忙しくなった。

宰相の噂が先の戦で大陸中に広がり、毎日のように各地から流民が寿春を訪れてきた。

宰相は全て受け入れて、領土全体に人を振り分け開墾や産業など、各地の発展に力を入れられた。

七乃が最初は財政面を心配していたが、商人から募った出資が予想を超えて集まり続けて「ええ、ええ、余計な心配でしたねえ」と拗ねていた。

治安の責任者である沙和は悲鳴を上げて、「凪ちゃん、助けてなの~」と泣きついてきたので軍の兵を回し何とか落ち着いてる。

真桜は「大将はウチを殺す気や~」と叫んでいた、大変な仕事を複数依頼されたらしい。

私も忙しい、練兵に出陣と休む暇はない。

今日も宰相と共に劉表軍を撃破して寿春に戻るところだ。

「凪、この辺りに貴重な薬草があると聞いてるんだ。少し探したいんで兵はこの先の平地で野営の準備をさせておいてくれ」

「分かりました。では私が護衛します」

「うん、頼むよ」

兵に指示を出し宰相と共に薬草を探しに行く。

私も幼い頃からよく怪我をしていたので多少の知識があり、お役に立てたと思う。

川沿いに出たので顔を洗う、気持ちがいい。

「・・凪、そのままこっちを向かないでくれ」

私の横に立たれている宰相が剣を抜く音が聞こえた。

まさか刺客が!

御言葉に逆らい横に向くと宰相が剣を構えている、相対していたのは・・蛇だった。

思わず宰相にしがみついてしまい、その為体勢を崩してしまった宰相と共に川に倒れこんでしまった。

 

火を起こして濡れた服を乾かしてる。

俺と凪は背中合わせになって座り込んでる、お互い裸だから仕方ない。

そういえば昔、華琳と似たような状況になったなあ。

懐かしい思い出に笑ってしまう。

そうか、俺はもう、昔の事を笑えるんだな。

きっとそれは。

 

だ、駄目だ、心臓が破裂しそうだ。

私も宰相も裸だ。

私の所為でこのような事態になってしまったのに、まともに謝罪する事も出来ない。

火を起こすのも服を乾かすのも、全部宰相にさせてしまった。

何の為の護衛だ、逆にお世話になってしまったじゃないか。

「ハハ」

宰相が笑ってられる。

不甲斐無い私の事を笑われてるのだろう、情けない。

「凪、寒くないかい?」

「だ、大丈夫です!全く寒くありません!」

「そっかあ。でもごめんな、俺はちょっと寒いから、こうすると暖まると思うんだ」

言葉が途切れると同時に、私は宰相の胸元に引き寄せられていた。

・・一体何が起こったのか、理解できない。

ただ、目の前に宰相のお顔がある。

一瞬か永遠か、時間が経ち状況を理解した私は慌てて身体を手で隠す。

そんな私を宰相が抱きしめた。

「凪、俺のところに来てくれて本当にありがとう」

あっ。

涙が頬を伝わる。

満たされる。

今の状況の御言葉ではない、仰る言葉の意味は分からない。

でも満たされる、涙が溢れる。

この人に出会う為に私は生きていた、この人が私の全てなんだ。

「・・凪、愛してる」

「私もです。愛してます、今までも、これからも」

私は宰相と一つになる。

私の全てを愛してほしいから。


 
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