命-MIKOTO-19-話
「命ちゃんとの子供が欲しい~」
と、真剣には言ったものの。本当に叶うとは思っていなかったから後に起こったことに
私は驚愕して混乱してしまうことになるのだった。
前日。
私は一日の疲れを癒すために命ちゃんの部屋で命ちゃんを抱きしめていた。
細身だけど何かふわふわして心地良い、良い匂いもするし。
とかそうしていつも通り甘えてエッチなんかもして。
ふと頭に浮かんだことが…。
「命ちゃんとの子供が欲しいね」
「そうですね…」
ベッドの上、布団の中でお互い裸になって抱きあって寝ながら呟くと
命ちゃんも私の言葉に答えてくれる。今はまだ同性で子供を作れる状況にはないけれど。
二人の子供がいたらすっごい可愛いんだろうなとか思っていた。
そう二人共思っていただけだったのだが。
翌日、私が先に目を覚まして起き上がると部屋の中に見知らぬ美少女が私を
見ているではないか。金髪、ポニーテール、目が左右に青と茶の色がついて。
ふわふわしていてるけどシンプルな薄手のワンピースを纏っていた。
そして極めつけは。
「おはよう、萌黄おかーさん」
「お、おかーさん!?」
困惑していたのは私だけではなく、命ちゃんも驚きを隠せずに気絶しそうな
勢いであった。当然同居している他二人も私たちと同じ反応をしていた。
「どうして私と命の子供じゃないの!」
「瞳魅あんた図々しいよ…」
うちの中でも一番小さいマナカちゃんよりも少し小さいくらい。
小学生1年生くらいだろうか。今はただ黙々と命ちゃんが用意したご飯を
食べている。だけなんだけど…何だかやたら輝いて見える気がした。
「私の子・・・可愛いなぁ」
「受け入れるのはや!」
とろけるような顔をしていたのか、マナカちゃんに指摘された上にツッコミまで
入れられた。だいぶ人に慣れてきたようで良かった。
娘らしき子供とマナカちゃんとのやりとりで微笑ましい気分がグングンあがっていき
命ちゃんから外に出られないほどみっともない顔をしていたと言われた。
ま、まぁそういう日があってもいいよね。
でも不思議だ。何の前触れもなく子供ができるとかどう考えてもおかしい。
ま、まぁそういう行為を全くしてないかと問われれば心当たりはありすぎるのだけど。
思い出したら恥ずかしくなって顔が熱くなってきた。
「萌黄どうしたんです!?」
「おかあさん?」
「も、もうかんにんして~…」
幸せと混乱で頭がぐちゃぐちゃになってきた。
そうだ、これは夢なんだ。悪…良い夢なんだ。軽く頭を抱えてから窓へと
視線を向けると面白そうなものを見るような眼差しで私たちを見ている
みゅーずちゃんの姿があった。
「だってあんたら子供欲しいって言ってたじゃん」
窓を開けてとっ捕まえてから話を聞きだそうとみんなの前に口を尖らせて不満げな表情を浮かべたみゅーずちゃん。
普段から不思議な子だとは思っていたけど、よもや子供を作るとは思いもしなかった。
「いやさぁ、私も悪気があったわけじゃなくて。純粋に興味が出て…」
「だからって命で遊ぶ理由にはならないよ」
私はきつめに言うと目の前にいる幼女は「?」を浮かべるような顔をしながら
言い直した。
「言っておくけど、それ私が作った子じゃなくて。本当にあんたらの子だからね」
「へ!?」
彼女の台詞に戸惑い言葉を失う私たち。命ちゃんなんてわけがわからなくなって
目を回してるような顔をしていた。
「つまりは別次元の平行世界。簡単に言うとIFの世界にいる貴方たちの子供を
ちょっと拝借してきたってわけ。わかる?」
「わ、わかりません」
あまりに理解が追いつかずに思わず敬語になって答えてしまったが
それって誘拐なんじゃなかろうかって後になってから思った。
そういえば彼女は自称神様だったけどこういうことされると本当だと思えて困る。
「ふふっ。願いを叶えようとしたけど貴方達は困ってる。子供が目の前からいなくなった
向こう側にいる貴方達も困ってるでしょうし、少しの間だけでもその子との
一時を楽しみなさいな。心配しなくても長居はさせないわ」
余裕を持った笑みを浮かべながら緑茶を啜るみゅーずちゃん。
本人からしたらごく普通とばかりの態度を取っている。
仮に本当だとしても、それって大事なんじゃ。子持ちである方の私たちには
同情してしまう。
「あ、ちなみに私が直に連れてきたわけじゃなくて。ソッチ系で行き来できる子に
頼んだから全部は私のせいじゃないわよ」
「もう、神様って面白さ優先で勝手するっていうけど本当なのね…」
「あらっ、私の言うこと信じてくれるの?嬉しいわ」
可愛らしい幼女の姿で笑みを浮かべるが裏の方じゃちょっと黒さが見えて怖かった。
それに、確かに今この状況をグダグダ言っているよりは私たちの子供…らしい少女と
楽しく過ごした方が有意義だと思ったから。
「よしっ、せっかくだから遊びに出かけようか」
「いきなりの決断ね」
私の案に瞳魅は面白くなさそうに呟くが相手にしないで子供の手を取って微笑みかけた。
「君の名前は?」
「みきだよー。名前聞いてくるなんて変なもえぎおかーさん」
そういえば私たちの娘なんだから名前聞くのはおかしいか。
でも名前知らないと呼びようがないし。
しかし、この状況に気づいていないのか少女は不思議そうに首を傾げながらも
私たちに名前を教えてくれた。字はどう書くかわからないけれど
呼ぶには十分であった。
「みき、どこ行きたい?」
「ゆーえんち~」
命ちゃんの面影が強くてすごく可愛らしい笑顔を向けてくるから
胸がキュンキュン鳴ってしまう。私と命ちゃんはお互いの目を見て頷くと
みきを連れて立ち上がると、みきはマナカちゃん、瞳魅の方を見てその小さな手を伸ばす。
「みんなでいこ~」
「え、私たちも?」
「いや?」
「そ、そんなことは」
マナカちゃんと瞳魅は目を合わせてどうするか決めてから私たちの方を見てきた。
ついていっていいかという意味だろう。私はともかく命ちゃんなら喜んでというところ
だろうから頷いておいた。
某大きな夢の国へ向かった私たち。人ごみが多い中みんなはぐれないように
空いていそうな場所から並んで、お昼ご飯を食べて満喫した。
時々人慣れしていないマナカちゃんが人酔いをしてグロッキーになって近くのベンチに
避難したり、お昼の時みきが私と命ちゃんに自分の分のごはんをスプーンで掬って
「はい、あーん」ってしてくれたり。
娘のその行動が何だか愛おしくてこそばゆくて初めての感覚だった。
あぁ、子供を持つ気持ちってこういうものなんだ。
言葉にしようとしても何も見つからず、一言想うのはただ愛おしいそれだけ。
思わずギュッてしたくなるし、無意味に手とか繋いでいたくなる。
恋人といるのとはまた違った感じで何でも許したくなってしまうような感覚。
私の母もこんな気持ちだったのかな…。
愛しさと同時に切なさもこみ上げてきた。だけど…母はこんな私でも可愛がって
許してくれていたのだから大丈夫だろう。そう勝手ながら思っていた。
夜のパレードまでは帰りの時間やら入れると見ている暇はないので日が傾いた頃に
遊園地から出た。子供たちはへとへとで大人の私たちでさえもけっこう疲れてはいたが。
けっこう楽しかった。
命ちゃんに関しては育ってきた環境が環境なだけに見るもの全てが良かったみたいで
ずっと目をキラキラさせていた、まるで子供のように。
気づくとみゅーずちゃんの姿だけ見当たらなかったがあの子はいつも唐突に
現れては消えるから探すことはしなかった。
娘と愛する人のそんな姿を見られただけでも私は幸せに感じられる。
帰りの電車は行きと違っていて座席が空いていて座りながら帰ることができた。
目的の駅まで私と瞳魅以外はぐっすり良い寝顔をしながら揺られていた。
駅から無事に家へ帰ってきてからみんな疲れが溜まっていたので
短めにお風呂に入ってからそれぞれの部屋に戻る。
当然ながらみきの部屋はなかったから私の部屋に命ちゃんと一緒に
招き入れた。それからの時間は電車の中で寝たせいなのか、また別の感覚が
あったからなのか。私と命ちゃんは眠気を感じることはなかった。
「ふあぁぁ…」
みきは眠たそうに欠伸をすると腕を伸ばして「んーっ」と息をつく。
「眠くなってきた?」
「うん…」
命ちゃんが声をかけると今にも寝落ちしそうに首をカクンカクンさせている。
それを見た命ちゃんは笑ってみきをベッドに乗せて頭を撫でている。
気持ち良さそうにしているのを見ていると、すぐに眠りに就いていた。
「かわいいね」
「はい…」
頭を撫でている命ちゃんに後ろから声をかけると、どこか返事の声が寂しそうに
感じられた。私もどこかでこの子とは今日でお別れのような気がしていた。
みゅーずちゃんにも言った手前、寂しいとか名残惜しかったりするのは自分勝手かと
思うけれど、情が移っちゃったのは仕方が無い。
だからせめてこの時間だけでも大切にしたいと考えていた。
灯りを消して子供を間に正面を命ちゃんが、後ろを私が横になって目を瞑る。
命ちゃんが少しの間もぞもぞしているを感じたがすぐにその動きは収まった。
私は子供特有の香りを感じているうちに眠気が強くなってきてそっと手を
みきのパジャマに当てながら眠りに就いた。
少しでもその感触を味わいたくて…。
次の日、起きた時にはみきの姿はなかった。だけど感触や記憶は消えないで残っていた。
まるで夢のような出来事だったけれど実際あったのだろう。
あの日遊んだ後がまだ部屋に残っていたから。
「…」
「命ちゃん…」
「うくっ…」
寝ているかと思っていた命ちゃんは手を握った形を残したまま泣いていた。
「命ちゃん」
「萌黄…」
私に気づいた命ちゃんは私に甘えるように抱きついてきた。
私もそんな命ちゃんを強く抱きしめていた。
大変なこともあるけれど、やはり自分たちの子というのは特別に感じる。
もし血が繋がっていても繋がっていなかったとしても、もしかしたら
これだけの愛情を注げるかもしれない。
特に命ちゃんはそういう子だから、私以上に愛情をかけちゃうから
後が辛いのだろう。私だって辛いけどね、命ちゃんを見ているとしっかりしないとって。
それで何とか堪えられるのだ。
「大丈夫だよ」
自分にも言い聞かせるように。
「現代は発展、開発され続けてるからね。いつしか同性でも子供を作れるかも
しれないよ」
「ほんと…ですか…?」
「絶対ではないけれど不可能なんてないよ」
細胞の研究は進化を見せている。壊れた細胞を移植して増やすことも
できるかもしれないし。
誰かの細胞の遺伝子から子供を作れる種を生み出すこともできるかも
あるかもしれない。まだ未知の領域だが、ありそうな気がする。
それかみゅーずちゃんのようにオカルトな方法でも作れそうな気がしてならない。
どっちにしろ後ろ向きに考えるよりは前向きに考えて生きた方が有意義だ。
「ありがとう…ございます。萌黄」
「うん」
涙を浮かべながら笑顔を見せる命ちゃんに私は笑顔で返して頷いた。
そして。
ぺろっ。
命ちゃんの浮かべていた涙を私は舌で軽く舐め取って美味しいと呟くと
命ちゃんは顔を赤くして照れるような表情で私を見つめていた。
「もう…」
その様子がたまらなくて私たちはしばらくベッドの中でイチャついた。
他の住人に叩き起こされるその時間まで。
続
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この前、好きな子同士の子供がいたらいいよねっていう話があって。
あぁ、いいなぁそれ。と思っていて書いてみました。
番外と本編どうしようかと迷ったのですがフラグ立て的な意味で
本編にしてみました。回収の仕方が悩むところですw
ファンタジーな展開もりもりですがちょっとでも楽しんでもらえれば
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