一刀が洛陽で生活を始めて二ヶ月経った。
その間、一刀が精力的に取り組んだ事は官僚の意識改革であった。
徹底した調査を行い、賄賂を受け取るなどの不正を働いた者達は官位の高いものでも容赦なく罰した。
思想面から変えるため、処罰の中に農村に送還し、不正によって得た金と同じ額を稼がせると言うものも作った。
これは最初から裕福な家に産まれ、下々の者達の苦労を知らない者達への教育を兼ねているのだ。
あくまで教育が主なので、更正できた場合は途中でも官職に復帰する事は出来る・・・・・・が、金額が基本あれなので、更正が無ければ終身刑ともなりうるのである。
他には、兵士達を虐げた文官に兵役義務を課して前線送りにしたりもした。
一刀のやり方は民や兵士たち、まともな官僚には支持を受けたが、貴族や上位の官僚たちには不満と反感、敵意を植えつける事となった。
敵といえば、月と詠に濡れ衣を着せた一派はどうなったか。
後々調べて見たところ、彼らの半分以上が裏取引や賄賂を請求するなどの余罪を持った者である事が明らかになった。
すぐさま処断するべきだと言う意見が多かったが、ここでも一刀がある意見を出した。
「最後のチャンスをやろうぜ。もっとも、すぐ殺されるより辛いかもしれないけどな・・・・・・」
「ウゲエェェェェ・・・・・・」
「オ、オエェェェェ・・・・・・」
次々と吐き出される嘔吐物が、大地に降り注ぐ。
つい先程まで、ここでは賊の討伐が行われていた。
そのため辺りは血まみれの死体の山となっている。
帝補佐代理含め、月たちに冤罪を着せた主な者達はその死体たちと対面していた。
一刀が提案した彼らの処罰は、戦いの後の、敵兵の死体処理係だったのである。
「さっさとやれよ!日が暮れちまうじゃねえか!?」
兵士の一人が高圧的に言い放つ。
「う、うう・・・・・・」
何人かが死体に近寄り、身体に触れようとする。
が、凄惨な姿と血の臭いで顔をしかめ、つい離れてしまった。
「やる気あるのかてめえら!」
兵士の怒号が飛ぶ。
「・・・・・・そう急かさなくてもいい」
その兵士の所属する部隊長が、兵士の肩に手をやり、穏やかに言う。
「で、でもこいつら・・・・・・」
「北郷様の命令は、最後までやらせる事だ。逃げたりしないよう見張るだけでいい。それに分かるだろう?時間が経てば経つほど、地獄を見るのはあいつらなんだ」
「・・・・・・ああ、なるほど」
兵士はポンと手を叩いた。
「そういう事だ。逃げないよう見張るだけ。分かったな」
「了解しました!」
姿勢を正す兵士を見て、部隊長はその場を去った・・・・・・
死体処理がほとんど進まぬまま、三日ほど経った。
辺りは腐臭に包まれ、死体には虫が湧き、更なる地獄絵図へと変貌していた。
元官僚たちは何度も逃げ出そうとしたが、見張りの兵士達に押し戻されてその場から動く事は許されなかった。
そして、彼らは泣きながら死体を運んだ。
これ以上ここにいたらタチの悪い病気にかかる、もしくは発狂してしまいかねないのだから。
実際、今回の仕事が終わるまでに数人が発狂していた。
仕事を終えた彼らは洛陽に帰され、そこで一刀に告げられた。
「二択だ。財産と官位を没収されて新たな農地の開拓者の一員になるか、もしくは降格は免れないが、官職に戻してやってもいい。ただし、今回の件に関わった兵士を罰する事は許さないし、何か不正を起こした場合は、一生あの仕事をやらせるけどな」
「「「「・・・・・・」」」」
全員が官職へ戻るのを拒否し、開拓者になる事を選んだ。
「ま、分かってたけどな」
どうやら彼らの中には、悪行を行わないと言う誓約のできる人間は一人もいないようであった・・・・・・
月と詠は悩んでいた。
原因は、一刀の行った数々の裁きに関してである。
自分達を嵌めようとした者達に関してはまだいいとして、他の位の高い官僚たちまで次々と罰していくのはさすがにまずい。
二人は立場上一刀より上なので、案件を却下しようと思えばできる。
だが、その確たる理由がない。
一刀のやっている事は間違っている訳ではない。むしろ公的に見れば正しい事なのだ。
そのかわり、一刀には敵が増えていく。
そもそも、宮廷内の上位の官僚たちは自分達が特別だ、民達より格上だと思っている人間が大半であり、何をやってもいいと思っている人間は少なくない。
そんな人間達を次々と罰している一刀は、上位の官僚たちの共通の敵となりつつあるのである。
「あいつは正しいわ。だけど、正しいからと言って、それが誰にも喜ばれるとは限らない」
「うん・・・・・・」
月と詠は一刀の行動の危うさに、大きな不安を抱かずにはいられなかった・・・・・・
深夜、宮廷内のとある部屋で集会が開かれていた。
参加している面々は帝の血族や忠臣たち(董卓たちを除く)で、それをとりまとめているのは霊帝亡き今、帝の唯一の肉親である何太后であった。
この集会の開かれた理由、それは北郷一刀を排する計画を立てるためのものであった。
元々新参者である一刀の事を、何太后は快く思っていなかった。
それに加えて、上位の官僚たちを次々と罰していく一刀に対して危機感を持つ事は当然の経緯であったかもしれない。
しかし、決定的だったのはその罰された者の中に皇族が含まれていたという事実であった。
皇族と言ってもかなり遠い親戚だったのだが、この件で何太后は、北郷一刀は国の為にならないと判断した場合、近い将来自分や帝を排するかもしれないという考えに至ったのだ。
そして綿密な話し合いの結果、一つの計画が持ち上がった。
それは・・・・・・
どうも、アキナスです。
また一つ、転機がやってきそうですね。
一刀君はこうなる事を分かってやっていたのか、いなかったのか。
続きは次回という事で・・・・・・
「トールハンマーエネルギー充填!・・・・・・発射!!」
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嵐の予感・・・・・・