No.683917

紅と桜~伝わる香り~

雨泉洋悠さん

にこまきの関係というのは、
他のミューズのメンバー全員が見守っている関係だと思います。

2期4話でも結局思ったのは、
みんなにこちゃんの事が大好きで、

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2014-05-04 21:38:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:522   閲覧ユーザー数:517

   紅と桜~伝わる香り~

              雨泉 洋悠

 

 私、矢澤にこは今、戸惑っている。

 

 眼の前に置かれた、ピンクで、甘甘で、スイーツな、妙にどでかい物体。

ああ、もうだから、そう言う妙な色気を醸し出しながら、高揚感というか期待感をその物体に向けないの。

 そんな貴女の表情に、いつだって必ず垣間見える、歳相応の幼さ。

それがいつでも、私を惑わせる。狂おしいほどに貴女のそれが、愛おしい。

でもね、それとこれとは話が違うの。私は貴女の事、大事にいきたいの。

残り少ない時間の中でも、貴女に無理をさせる事無く、自然な形でお互いの距離を縮めていく、それが私の、のぞみなの。

私は貴女には、私の前では何時だって、歳相応でいさせてあげたい。

背伸びなんてしなくて良いの、急がなくて良いの、私の前で。

今日だって、何時もの様に、一緒に私のお昼を食べて、放課後部室に行く時も、わざわざ二人を先に行かせてまで、私の教室まで来てくれて一緒に行って、あ、もしかしてあの時、別段見られて困る状況だったとは思っていないけど、必然的に見られた事も、今の状況に繋がってる?

そんな風にね、少しずつ、貴女と二人で出来る当たり前の事を、大切にしながら、今一緒に居られる事の幸せを、噛み締めたいの。

だからさ、そんなあからさまにキラキラした瞳を私に見せた後で、この件の首謀者に対して抗議の声を上げても意味無いでしょ?

全部、見えちゃってるじゃないの。

ああもう、貴女のこういうところを見せられる度に、私の中では、既に溢れかえるほどに降り積もっているというのに、その上に終わる事無く更に重なり続けていってしまう。

貴女のその姿が、私にはとても愛らしく感じられて、膨れ上がる衝動を抑えるのに何時も必死なの。

この、私の心を心地よく酔わせる、甘い疼きは、もうどうしたって、止められるものじゃない。

でも、それにしたってどうして?どうして今、この状況の首謀者のあんたはこのタイミングでこんなものを出してきたの?

ていうか、何時から気付いていたの?そんなにもバレバレだったの?

そこ、希!見守る風に微笑んでいるんじゃないわよ!

こら、あんた達もそんな何の裏も無い、無邪気な微笑を私達に向けてこないの!

ああー恥ずかしい、らしくないほどに自分の顔まで紅くなっているのが解る。

あ、お上手、さすが弓道部ね。

じゃ無くて、今一番に考えないといけないのは、この状況をどうやったら一番無難に切り抜けられるのかってことよ!

 

 感嘆の視線を逸らして、真姫ちゃんの方に向き直る。

真姫ちゃんの方は、まだちょっと感嘆の表情ね。

あんまり見ないタイプの表情だから、私でもちょっと新鮮。

今度は私の言葉で、こういう表情させてみたいなと思う。

私が何か真姫ちゃんの知らないことを教えてあげると、何時もその高貴な瞳をキラキラさせながら聞いてくれるのが嬉しくて、その可愛らしい様子を一人で堪能出来るのがとても幸せだけど、親しくなれるほどに何故だか素直な感嘆や驚きの表情は見れる機会が減ってきている。

そんな真姫ちゃんの表情も、私はやっぱり何時だって見たい。

首謀者は役目は終えたとばかりに、他のお客様への接客に既に戻っている。

加えて、だから止めてよね本当に、その三人であからさまに二人の邪魔しないようにみたいな態度。

希、そのチラチラこちらを見ながらの、無駄にイケメンな、親指立てて満面の笑顔での全力のエールとか要らないから。

解ってるわよ、私だって本当は。

少ない時間、少しずつだなんて悠長な事は言ってられない、自分の性格だって良く解ってるし、真姫ちゃんの中に私があの子に対して向けている憧れとか尊敬とかと、同じものだと思いたいものが眠っているのだって、誕生日の件を思い出すまでも無く、充分過ぎるぐらいに気付いてる。

今は何時だって一番傍にいるもの、誰よりも。

そして、真姫ちゃんが眼の前の物体と私の顔を交互に見始める。

 

 ああ、本当に、紅いなあ。

 

「ま、全くねえーにこと真姫ちゃんの前にこんなもの置いていくなんて何考えているのかしらねーサービスです、何て言っちゃって」

 何か真姫ちゃんの、高貴な瞳の奥に今時点の彼女らしい願望が強く見えてきちゃって、私もちょっと恥ずかしいけど、上手く真姫ちゃんの望むとおりにしてあげたい。

ていうか、私ののぞみも。

「そ、そうね。ことり先輩は意外と無茶なことをするというか、突拍子も無いことをしてくるわね」

 全くね、私の前ではもうそんな態度必要ないのに。

でも、こんな時の真姫ちゃんも、いじらしくて、とても心が疼いてしまう。

ツンツンした態度も、時折不意に見せる素直さも、真姫ちゃんが私にくれる大切な贈り物。

「ま、まあ真姫ちゃんが嫌なら、別に無理に二人で飲む必要も無いのよ?にこだって無理には……」

 そう言ってあげる事が、真姫ちゃんに対して、私が先輩としてしてあげるべき事。

貴女の素直な心は、また何時かの様に、私に素敵な思い出となるような形で見せてね。

「嫌じゃない!そ、その、飲まないなんてもったいないし……」

 ああ、また、深く深く伝わってくる、真姫ちゃんの歳相応の素直さ。

そして一緒に私に届く、私の選んだ彼女の香り。

 

 深く、今も絶える事無く、沈み込むように落ちてくる。

 

 嫌じゃないなんて、解ってるの、真姫ちゃんが私に伝えてくれる、何の表裏も無い、素直な好意。

私にはそれが本当に嬉しくて、ちょっとだけ切なくて、とても愛おしいの。

何度でも思うの、ここで、ミューズで貴女に会えるまで、一人あの場所に居た日々は、決して無意味なものではなかったって。

 

 ありがとう、真姫ちゃん、私にその素直な好意を向けてくれて。

貴女が私を、少なからず好意的に思ってくれるその気持が、どれだけ私を暖かく包み込んでくれたことか。

きっと、真姫ちゃんには、まだまだ解らない。

でも、いつか話したい、聞いてほしい、貴女がどれだけ私を助けてくれたか、どれだけ貴女を大切に思っているのか、貴女が一緒の場所で私を観ていてくれるから、私も全力で輝く、綺麗な貴女を観ていることが出来るから、私は全力で私の大好きな場所で、大好きなことを目指すことができるの。

 

次回

 

となり

 


 
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