No.683379

訳あり一般人が幻想入り 第25話

VnoGさん

◆この作品は東方projectの二次創作です。嫌悪感を抱かれる方は速やかにブラウザの「戻る」などでお戻りください。

2014-05-02 23:29:46 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1221   閲覧ユーザー数:1207

 

 

 レミリアの弾幕は容赦なかった。謎の男がグングニルを振り回し、それをレミリアに当たったことで闘争心に火が付いたのか、広範囲に大量の弾幕が男に襲いかかる。人間の限界速度で走って逃げても、後ろの塀を使って高く飛び上がっても弾幕の壁は逃れることができないほどであった。

 それにもかかわらず男は、その場を離れない。レミリアが近づいても一歩も後退することがなかったように、この男は忍者でありながら、津波のように押し寄せる軍勢を前に物怖じせず佇む猛将のような風格を漂わせていた。

 と、男は突然素早い前進をし始めた。弾幕と男の間の距離は、最早後退して逃れられる距離は残されていないが、まともな防具を付けていないにもかかわらず無数の弾幕に向かって突っ込むことも、どう見ても無謀にしか思えない行動だ。

 そして弾幕との距離がなくなり、弾幕が男の顔に触れようかというところに差し掛かった。

 男は舞い踊る。

 

 

 

 

第25話 嵐の中の小夜嵐

 

 

 確実に前進しながら、男は無数の弾幕と弾幕の間を縫うように避けていく。屈み、転がり、飛び、回り、時折小烏丸の刀を使い、切っ先や(しのぎ)でそっと触れるような感覚で弾幕の軌道をずらす剣技も披露した。

 その動きは、一瞬の目に入った情報だけで弾道の動きを計算尽くしたと言わんばかりの演舞であった。

 

「へぇ、面白いダンスじゃない」

 

 無数に出し続けている弾幕を避け続けている男を見て、レミリアは感心する。そして感心している間に男は狭い弾幕の路を通り抜けて、小烏丸を逆手に持ち、急激なな速力でレミリアとの差を詰める。

 レミリアと男の差はなくなった。刀の切っ先もレミリアの頭を過ぎ、刀身は血で濡れていた。

 

「ふふふ、両刃の日本刀なんて、物騒なもの持ってるじゃない?」

 

 レミリアは笑って男を見る。眉間に目掛けて狙っていた刀は、レミリアの手によって軌道がすれて、刃によって手が切られながらも、切っ先は顔の横を通り過ぎていた。

 男は勢い良く刀を引き抜き、今度は首の方に刃を向けた。更に傷が深くなった手に構わずレミリアは、尖状の弾幕を男に向かってばら撒く。それを見て男は攻撃をキャンセルし回避行動に移る。

 

「ほら、腹がガラ空きよっ!」

 

 その行動で男はやや無防備になったところを見逃さずにレミリアは、男のみぞおちに重い蹴りを入れた。

 男は思い切り吹っ飛び後ろに転がる。その間にも立ち上がる隙を与えないよう直ぐ様レミリアは男の方へ飛び、追撃にかかる。

 

「・・・・・・・」 

 

 吹っ飛ばされながらも恐ろしく冷静に受け身を取り、男はクナイを二本取り出し、レミリアに投げる。

「こういう物はウチのメイドで十分よ」

 

 飛んでくるクナイを難なく避け、更に距離を詰めて男を追い詰める。男も高速に飛んでくるレミリアを迎撃するために忍者刀を取り出し、迎え討つ態勢に入った。

 激しい打ち合う音が響く。刀と羽の鍔迫(つばぜ)り合いになり、両者とも膠着し続ける。

 

(へぇ、羽が広げられないくらいの力を……)

 

 そんな事を思いながら、膠着状態に終止符を打つべくレミリアは手の平に紅弾を創りだす。

 

「……!」

「!?」

 

 紅弾が創りだされるところを見て、男は即座に身体を屈んだ状態での回転蹴りを、レミリアの脚に目掛けて蹴る。その蹴りでレミリアの脚は掬われ、体のバランスを崩し地面に倒れてしまう。

 

「・・・・・・」 

 

 男は忍者刀を逆手に持ち変え、ためらいなくレミリアの心臓に串刺しを敢行する。

 

「ちぃっ!」 

 

 間一髪のところで羽で覆い尽くし、心臓に刀が貫くことはなかった。

 

「はぁっ!」 

 

 羽を広げて刀を弾き返し、男は空中に回転しながら浮く。そして浮上の最高到達地点で男はゴルフボール大の黒い玉を一つレミリアに投げつける。

 

「そんな物で、なんになるっての!」 

 

 やや馬鹿にされた気分になりながらも、冷静に手にしていた紅弾を黒い玉に当てる。

 そしてその黒い玉が紅弾に当たったその瞬間、黒い玉は破裂し瞬時に白い煙が、レミリアの全身を覆い尽くしてもかなり余りある位に拡散した。

 

「ケホッケホッ、くっ、こざかしいわね!」

 

 全身に覆う白い煙を、羽を羽ばたかせて起こす風で吹き飛ばすが、視界が一向に晴れてこない。かなりの広さに拡散し、全長と同じくらいの羽のサイズでは、一振りでなかなか大きい気流を生むことが出来なかった。

 

「・・・・・・」

 

 大いに拡散した白い煙の外に退避した男は、地上に現れた大男のように大きい煙を凝視し、その後両手にクナイを三本ずつ持ち、何故か目を閉じてその場に立ち尽くす。

 聞こえてくるのは大きな雲の中で羽の羽ばたき音と動きまわる気流と、それを創る少女の怒号。男は目を閉じながら耳を済まし、その気流と怒号を生み出している核を探す。

 そして男は捉えたのか、手にあるクナイ六本全てを煙の中に投げた。広げて投げるのではなく、ほぼ一点を狙うように投げた。

 頭、胴体、両腕、両足。男は頭の中でレミリアの体格を描き、生み出す気流と怒号に自身との距離や動きのパターンを読み、一瞬の止まる動きを『聞き』逃さず、すかさずクナイの投擲を開始。頭、心臓、両腕脚に突き刺さるように計算して瞬時に六本を投げる。

 男は確信していた。このような場面は何度も遭遇し、幾度と無く相手を倒した。今回は相手の見目形が稚児でありながら、人に非ずという奇妙な人物であり、大木一本分の重さがあるであろう槍に打たれても動いていられる強靭な体を持っている。

 だが斬れない身体ではない。刀の刃が証明してくれた、血で濡れた刀身が証拠である。クナイの刃でも刺さることは出来るだろう。

 人外であろうが、両腕脚に痛みが走れば動きを止め、頭や心臓に刺されば血が吹き出し、やがて生命活動が止まるだろう。

 

 

 しかし、男の予想に反して聴けるはずのない音が響いた。

 キィン、キィン、という金属の打ち合う音。

 まさか打ち落としたのか。奴は、あの稚児は千里眼のような類を持つ者だったのか、と頭の中で考えるが、すぐにその考えを振り払った。もしそのような力を持っているなら、すぐさま男の場所を特定しているはずであり、わざわざ羽を羽ばたかせ、煙を散らせる行為は無駄としか思えない。

 と、徐々に煙が幻想郷の風と内なる気流によって消えてゆく。最初に現れたのは、レミリアではなかった。

 

「あら、貴方は手裏剣を持っていないのかしら? そっちの方が余程忍者っぽいのに」

 

 立っていたのは両手にナイフを携えた、日本人でありながら西洋人のような体型と服装をしている少女だった。

 

「咲夜……なんで間に入るのかしら?」

 

 毅然とした目でレミリアは咲夜を睨みつける。あれだけ命令したのに何故目の前に出たのかという憤慨の念が滲み出ていた。咲夜は男の方に目を向け続けながら喋る。

 

「すいません、命令を背いているのはわかっておりますが、やはりお嬢様の身の事を思うと扉の見張りなんてとてもじゃないです。私は美鈴ではないですし」

「・・・・・・」

「あと、これを言うのも差し出がましいと思いますが、私にも戦わせてください。私はお嬢様の身の回りを世話するメイド。そしてお嬢様の身を守る犬でもあります。決して、あの男と戦ってみたいという(よこしま)な考えも持って動いたわけではありませんし、ですから――」

「分かったわよ。貴女もこういう状況が好きな事も、好戦的であることも分かってる」

「……有難うございます」

 

 咲夜は男の方に視線を離さず、しかし心の中で最大の謝念を込めた感謝を言う。

 咲夜が職務を全うしながらこの『お遊び』を見続けて、心の中のザワつきを堪えていたところ、レミリアの周囲に煙が急速に展開された時に男は目を閉じた。その時に咲夜は危険を察知し、男の方に襲いかかろうとも思ったがお嬢様に忠告された手前、それを無視することはできない。

 

 男がクナイを投げる前に考えついた打開策が、お嬢様を守るためという面目のもと、時間を止め、その間に前に立ってクナイを落とす。そしてついでに、このざわつく心を発散するためあわよくばあの男と遊べたら、という感覚をさりげなく言葉に出して参加許可をもらうつもりだったのだ。

 結果的に露骨な言葉を出してしまったが、レミリアも咲夜の性格を考えてすぐにそれを認めた。

 

 レミリアがあれだけ忠告をしたのもこれが理由だ。見た目に反して血気が盛んな部分を持っている咲夜が、この『お遊び』を見て血が騒ぐことがないと踏んでいたからだ。

 こうなると、いつも命令を聞いてくれる咲夜も、ちょっとやそっとじゃ引き下がることもない。欲しいおもちゃの前に駄々をこねる子供という程ではないが、子供に何が何でもこの問題を解かせようと必死になる先生のように、言葉を(まく)し立てて自分の我を通そうとする。

 

 いつもは仕方なく要望を通していたが、これに関しては自分だけで楽しみたい思いで易々と認めたりはしないはずなかった。しかし、相手の前での取り合いの時間は愚かしいことだし、レミリアを少し追い詰めた男が咲夜と戦ってあっさりとやられるわけがないと信じている。

 次いでに言えば男の動きを鑑賞するのも悪くない、という楽観な考えが出てきたというのもあってあっさりと参加を認めたのだ。

 

「ああ、次いでに言うと咲夜」

「はい、なんでしょう?」

「守るならちゃんと守りなさい」

「えっ? ……あっ」

 

 咲夜は後ろに振り返る。そこには左腕にクナイが刺さった状態のレミリアが佇む。そこから血が滴り落ちていたが、苦痛に歪んだ顔はなく普段通りの冷静な顔だった。クナイを腕から抜いてから言葉を続ける。

 

「ま、これが刺さる位で特に動きに支障はないけど」

「す、すみません……!」

 

 レミリアに体を向けて咲夜は頭を下げる。が、レミリアは冷たく言い放つ。

 

「謝るよりも先に、あの男に目を向けるのが先じゃないかしら?」

「あっ……はい……!」

 

 レミリアがその場に離れ、小さいテラスのところへ向かう間に咲夜は目が覚めたかのように頭を上げ、返事をした後に直ぐ様男の方に体を向ける。

 

(あの妖精たちも、こんな気分だったのかしら。いや、そうじゃないかも知れないわね)

 

 咲夜はレミリアに言われた一言に、キッチンで頭を下げて謝るメイド妖精たちを思い出していた。申し訳ないことをしたとは思わないが、自分も慌てると周りが見えなくなることは反省しないといけないと考えていた。

 

 

 月の位置が開始した頃よりやや西に傾き、都会では見ることもない無数の星たちが、まばらに漆黒のキャンバスに散らばり輝いている。

 そんな風景の下に佇む男女は、図らずもいい雰囲気になってくるであろうシチュエーションではないだろうか。

 しかし紅魔の館の庭にいる刃物を持つ男女は、そんな綺麗な夜空を見ずとも心臓が高鳴る雰囲気になっている。互いに自分の見知らぬ相手に発動するパーソナルエリアより遠い距離を、目を離さずその場に立ち尽くしたままだった。

 両者とも目で腹の探り合いを展開し、一歩踏み込めば開始のコングが鳴らされるが、その一歩を間違えば即終了のコングも鳴るような、文字通り一触即発の空気を醸し出していた。

 その空気は、咲夜がこの探り合いに一時間か、一分か、一秒か一瞬かわからなくなるほど緊張に包まれていた。

 

(実戦からちょっと離れただけでこんな感覚も狂うなんてね……さて、どうしたものか)

 

 咲夜はこの男をどのくらいまで戦い、そしてどのような状態で身を引き、お嬢様に渡すかを考える。

 雑念が入った状態でも、男は咲夜を襲う仕草が見れない。

 

「・・・・・・」

 

 考えつつも男がこちらへなかなか襲ってこない事に疑念を感じ

 

「どうしたの、襲ってこないのかしら? それとも後手に回るのが忍者の戦い方なのかしら?」

 

 と、男に煽り言葉を投げかける。しかし男は依然として襲撃する様子はない。

 

(様子見かしら? でもそんなに待ってられないわ)

「そこで黙って様子見をしても無駄よ、私の力を使えば――」

 

 刹那、男の視界に咲夜が消える。目の前に起きたことに驚き、男は目を張らせながらも周囲を素早く見渡すことを怠らなかった。

 

「――こうやって、貴方の後ろを取ることなんてわけないの」

 

 男は後ろに振り向く。そこには腕を組み、身体を横に向けながら横目で男を見ている咲夜が佇んでいた。

 男にとってこの光景は、夢を見ているかのような感覚に陥っただろう。咲夜の能力は変わり身の術でも、何かの隠遁術を使って隠れ、隙に乗じて後ろを取るという物ではない。

 時間を止める程度の能力。その能力が判明したとしても、それをいつ使ってくるのか。またどこに現れ、どんな攻撃か、持っているナイフをどの位出すか。能力の持ち主にしかわからない。相手にとって、敵に回したくない能力を持っている。

 

「心配しないで、滅多なことでこの力を使うことはないわ。ある程度楽しめればいいだけだし。あ、ちなみに力というのは時間を止めることができる力のことよ。あとそんなにお嬢様をチラチラ見なくても、二人がかりで襲うことはないわ」

 

 テラスにて二人の戦闘を眺めているレミリアから背中を見せる格好になり、男はレミリアに目配せをしているところに、あろうことか咲夜は自分から自らの能力を男に明かしてしまう。

 咲夜にとってこの戦いは、自分の心のざわめきを抑えるための『お遊び』という競技プログラムの中の『オープニング』程度にしか思っておらず、『メイン』はお嬢様一人であの男が死ぬまで遊ぶのであって自分が行うのではない、とあくまでレミリアが止めを刺す事に念頭を置き、そこまで出しゃばらないようにと自分に釘を刺すために言った言葉だった。

 それと同時に、自分の能力をばらすことで男と対等――グレードダウン的な意味で――の位置に立ち、更に滅多にだが使わないことを明言することで自分にハンデを課せ難易度を上げ、戦いをより楽しめるように言った言葉でもあった。

 

「・・・・・・」

 

 それでも男は咲夜に向かうこと無く、冷静に、用心深くレミリアの方にも目を配ることは止めない。

 突然自分の能力を明かしあまつさえ滅多に使わないといい、もう一人の相手は確証がないのに、攻撃してこないという言葉を言ってもすぐに信用するはずはない。甘い言葉を並べ立てて油断させるという初歩的な誘惑に乗るほど愚かな者ではない、という意味での目配せでもあるだろう。

 

「はぁ……仕方ない。かかってこないなら、私から行くわよっ!」 

 

 男の用心深すぎる態度にしびれを切らせ、咲夜は全速前進で男の懐に目掛け走る。

 

「ッ」 

 

 それに反応し男もようやく動き出し、咲夜を向かい討つべく同じように全速力で咲夜に向かって走る。

 それぞれ手に持っている刃物を前に出し、刃がぶつかり合い激しい金属音を鳴らす。そしてそれが試合開始のコングかのように戦闘が始まる。

 互いに慣れ親しんだ刃物を逆手に持ち、両者とも慣れたナイフ捌きで相手の動きを止めたり、止めを刺せる場所目掛けて刃を振り、それを刃で受け止めすかさず反撃に転じ、それをまた刃で受け流す。

 二人の間に聴こえる金属音が、心臓に心地良く響き血をたぎらせていく。水族館のイルカの演技のように滑らかに動きながら、野生のヒョウが捉えた獲物に飛びつくように的確に急所を狙う。二人の行動全てがまるで演技のように洗練されながら、時折見せる野性的な戦いの攻防に、この『お遊び』の中の出来過ぎた『デモンストレーション』に思える。

 そのデモンストレーションを、レミリアはテラスの柵に肘を置いて悠々と眺めていた。

 

「あんなに生き生きした咲夜を見るのは久しぶりね。でも、やっぱり早く戦いたいわねあの男と。出来れば……あまり傷がない状態にして欲しいものね」

 

 騒ぐ感情を、唇を舐めて抑えつけふふふ、と不敵な笑みを漏らしながら、月光の下でのデモンストレーションを見つめる。

 


 
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