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第11話 空中宮殿 - 機動戦士ガンダムOO×FSS

刹那達の元にラキシスから一通の招待状が届いた。それは彼女の居城である空中宮殿『フロートテンプル』への招待状であった。

2014-05-01 00:29:32 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1706   閲覧ユーザー数:1686

第11話 空中宮殿 - 機動戦士ガンダムOO×FSS

「ミレイナさん、この飛行コースは守って下さい」

「はい、です。クニャジコーワさん」

 トレミー艦橋の副操縦席に座るエレーナ・クニャジコーワは見慣れない異世界の計器を睨みながら注意を促していた。

「大丈夫だ。ミレイナの操艦を信用しろ」

 二人の背後で静かに様子を見守っていた刹那だったがミレイナをフォローする。

「それはわかっています。……しかし、ここは星団でもっとも危険な場所ですから」

 艦橋の外に目をやると随伴しているエアヘッドを睨んだ。恐らく護衛(・・)だろう。何かあればズドンなのは理解している。

 エレーナは昨夜のこと(・・)もあって正直、このプトレマイオス3、通称トレミーというオカルト輸送艦には乗りたくなかった。 しかし上司から待ち合わせ場所として指示された場所が星団中で一番危険な場所だったのだ。そのため勇気を振り絞り、自ら乗艦し航路を指示するしかなかった。

 随伴するエアヘッド二号機のパイロットは自分たちが護衛(・・)している輸送艦の推進システムから異様なほど煌めく青い粒子が放出されていることが気がかりだった。星団で広く一般的に使用されている動力機関『イレーザーシステム』とは異なることは明白だ。

 相棒の一号機のパイロットに通信を入れて、謎の推進システムについて大いに語らいたいところであったが今はVIPの護衛中である。それに今日は何故か通信機の調子が悪い。ノイズがやけに多く任務が終わるまでお預けだった。おまけに、どうやら訳あり(・・)のA.K.D.関係者らしいし。

「(陛下の交友関係者なら奇妙な推進システムで飛んできてもおかしくはない、か。……まてよ、そうなるとあの艦の中身はMHか? それとも噂のMMか!?)」

 思わず口に出してしまうところだった。

「(危ない危ない。今は余計な詮索はしないでおこう)」

 きっと今頃相棒も同じ事を思っているに違いないとトレミーの反対側を飛行する一号機に視線をうつした。

 

「(イレーザーとも違う動力で動くこのオカルト艦、今気がついたがやけに静かだ)」

 ミレイナには悪いがノホホンとした容姿から意外に操艦が上手くいっている事、後方で見守る刹那の安心感からかトレミー艦橋内を見渡せる余裕が少しだけ出来たのだ。本当に少しだけだが。

「(窮屈な艦橋だが機関が動いているのかわからないほど静かで振動も少ない。まるで大型客船に乗船しているような乗り心地だ。それは褒めすぎか?)」

 エレーナが感嘆するのも無理もない。西暦が誇る太陽炉の最先端制御技術と刹那とELSが持ち帰った異世界の技術をミレイナが融合・昇華させた実験艦がこのプトレマイオス3である。ELS襲来時の戦闘で大破を免れたガンダムサバーニャの貴重なオリジナルGNドライヴを搭載し次元回廊すら突破する最新鋭戦闘艦(・・・)である。

 

 ミレイナとラキシスとの密かな謁見、刹那とワルツ・エンデとの死闘の翌日、エレーナが二人の元にラキシスからの書簡を持ってきた事から今回の事態になったのだ。

 書簡には今後の支援について一度会って話がしたい旨、記されていた。その会談場所というのが、今プトレマイオスが向かっているその先だ。

 

「エレーナ・クニャジコーワ、今日の会談について情報があれば教えて欲しい」

 後方で見守っていた刹那が口を開いた。まるでエレーナの心に余裕が出来たのを見計らっての問いかけに聞こえたのでドキッとした。

「クニャジコーワさん、私からもお願いします」

 ミレイナも一瞬視線だけエレーナに向けるが、すぐに前方に見えてきたアレ(・・)を再び注視した。

「……私も詳しい事は上から知らされていませんが」

 そう前置きをすると大きく深呼吸をした。その動作は、刹那でさえも脳量子波を使わずとも何か自分自身に対して踏ん切りをつけるように見えた。

 エレーナは人差し指で前方に見えるアレ(・・)を指し示した。

「今日私達が会談を行う場所は、あちらに見える空中宮殿(フロート・テンプル)です」

「うむ」

 刹那もミレイナも書簡を読んだ時も緊張したものだが、現物を指さされながらエレーナの口からハッキリ言われるとまた表情が強張ってしまう。

空中宮殿(フロート・テンプル)、我がA.K.D.の本拠地です」

 空中宮殿、それは島を丸ごと一つ空中に浮かばせた城であった。現在の天照帝の居城であり、恐るべきミラージュ騎士団の本部があり全装備が格納されているのだ。

 そこは中枢にふさわしくA.K.D.の議会や教育機関も設置されており、狭い島内ながらアルスキュル・シティやクラウド・シティなど複数の都市も存在していた。また、構造物として宮殿をはじめ、朱塔玉座(ヴァーミリオン・タワー)輝きの塔(グライス・タワー)青の塔(ブラウ・タワー)晴れの塔(ヘル・タワー)魔の塔(デモンズ・タワー)、ネードル・タワーなど、7つの塔がそびえ立っている。

「空中宮殿は軍事施設でもありますが、観光地としても開放されています」

 空中宮殿はA.K.D.の軍用空港以外にも民間機の乗り入れが可能な民間空港の2つの空港施設を有しており、事実デルタベルンの観光と言えばこの空中宮殿は絶対に外せない観光コースであった。星団中の他を探しても島一つが丸々浮かんでいる城はここでしか見られないからだ。

「だが、エレーナ。この艦は武装しているぞ。入港は大丈夫なのか?」

 エレーナをはじめワルツ・エンデを信じていないわけではないが、最悪拿捕と言うことも考えられる。

「それは大丈夫です。出発前に入力して頂いた識別コードであれば空中宮殿の軍用ポートにそのまま入港できます。それに私の命に代えても誰独りこの艦には指一本触れさません」

「クニャジコーワさん」

 刹那とミレイナはその言葉に嘘偽りがないと確信していた。わずか数日間しかエレーナとの接点はなかったわけだが、彼女がとてつもなく責任感の強い人間だとは感じていた。

「だが、俺達のために決して無理はするな、エレーナ・クニャジコーワ。ミラージュのその強さ、恐ろしさはよく(・・)知っている」

「は!?」

 エレーナはすぐに刹那を振り返ってみたが、そこにはいつもの刹那のポーカーフェイスがあっただけだ。

「(ああ、どうしてボスのお友達(・・・)は怪しい人ばかり何だろう。なんだか自分が馬鹿みたいに思えてきた)」

 大きく溜息をつくと思わず小声で本音が出てしまいそうだった。

 

「クニャジコーワさん、空中宮殿の管制塔からの通信です」

「り、了解。ミレイナさん」

 うなだれているエレーナを他所にいよいよ空中宮殿のエアポートにその舵をきったのだった。

 

 軍用ポートに入港したトレミーであったが、バビロン王国所属の特務艦として扱われていた。

 ただ、空中での係留ではなく大型貨物(・・・・)搬入ゲートに進入するようにとの管制塔からの指示であった。

「エレーナさん、ここは」

「もしかしたら、トレミーの積み荷(・・・)が狙いかしら」

 このゲートで扱う大型貨物は軍需物資だ。つまりエアバレル(空中戦車)やMH等の事だ。

「だが、管制塔からは我々の三人の上陸指示しか出ていない」

 事実、ゲート内には多数の作業員はいたが、それらは他にも入港している艦船への物資の積み卸しに従事しており、トレミーに関しては我関せず、もしくは関わりたくはない、という態度だった。

「エレーナ・クニャジコーワ、上陸が遅くなると逆に怪しまれる。待ち合わせの時間も近いのだろう? 俺達の案内を頼む」

 それだけ言うと心配する二人を他所に刹那は下船の準備に取りかかった。

「(なんでこの人はどこまでもマイペースなのだろうか)」

 ミレイナとエレーナは口にこそ出さなかったが互いに顔を見合わせ、以心伝心したのか同時にため息を漏らすのであった。

 トレミーを搬入ゲート内に残したまま刹那達三人はラキシスが寄こしたと思われるリムジンで会談場所に向かっていた。

 その車内ではミレイナは初めて目の当たりにした異世界に目を輝かせていた。

 リムジンにもイレーザーエンジンが搭載されている事を聞いてエレーナに根ほり葉ほり質問責めするところであったが、刹那に止められたほどだ。

 ミレイナもジョーカーではイレーザーエンジンは幅広く使われていることはソーニャ・カーリンから情報は得ていたし、実際に軍用イレーザーエンジンのメンテナンスも行っていたのだが、こうして『本場』に来てしまうとやはり好奇心を自制するのは難儀であった。

 また異世界の旅には慣れているはずの刹那なのだが、同化しているELSは別。ミレイナと同様にこの空中宮殿に同化を試みたがっていたので刹那に厳重注意をうけていたほどだ。

 この三人(・・)の内情を知らないエレーナだけが、果たしてトレミーを無人にしてきて大丈夫だったのか、気に掛けていた。

 ラキシスの寄こしたこのダイムラー製のストレッチリムジンは空中宮殿で使用されている要人送迎用のリムジンである。その後部座席には三人のみで後部座席と運転席とは完全に仕切られており、会話は聞こえない。

 エレーナによればリムジンの運転手も三人の素性は知らされておらず、クラウド・シティへの送迎しか聞かされていない様子であった。勿論、騎士でもない単なる民間の運転手である。

「ミレイナさん、トレミーを無人にしても本当に良かったの?」

 念のため盗聴の心配もあるためヒソヒソ声でエレーナはミレイナに一番の心配事を投げかけた。リムジンは空中宮殿内部をひた走っている。間もなくこの長いトンネルを抜けてクラウドシティへ通じる幹線道路に出るだろう。

「大丈夫です。トレミーなら心配無用です」

「ミレイナさんが、そこまで言うのならもう問いませんが(確かにあのオカルト艦なら大丈夫なような気もするけど、いくら何でも不用心過ぎるでしょう!?)」

 リムジンに乗り込んでから瞑目している刹那は別としても、ミレイナの自信はどこから来るのか、エレーナには理解できなかった。

 来たるべき対話を行った西暦の地球人であればミレイナの自信は理解することが出来るが、ジョーカーの人々に理解しろと言った方が無理であろう。搬入ゲートに残してきたトレミーは無人ではない。意志ある巨人と、頼りになるその仲間達(好奇心旺盛すぎて咎められたが)が刹那とミレイナの帰りを静かに待っているからだ。

「(それにしても……)」

 先ほどから瞑目している刹那の顔に目配せした。

「(この男、一体何を考えている? いくらボスの知人とはいえA.K.D.内部に来ても怖くはないのか?)」

 

 刹那は瞑目しながらELSとの対話の道中での出来事を思い出していた。

 ティエリアとELS達と共に幾度となくその時々の紛争当事者や交渉相手の本拠地に乗り込んだ事だろう。時には要塞のような機械化惑星や、銀河を率いるような大艦隊の旗艦への乗艦など、その場数は想像を絶するほどだ。

 全てが話し合いだけで解決出来たわけではない。時には全力でぶつかり合う対話(・・)も必要だった。

 これらのことはミレイナも刹那から決して語られることはなかったがティエリアが記したクアンタの整備記録から把握しているつもりだった。また、それらは整備記録同様にソレスタルビーイングの最重要機密でもあった。

 他にもこの最重要機密事項を知りうる人間がいる。それは直接刹那の口から聞ける人間。マリナ・イスマイールだ。

 マリナ・イスマイールが、ミレイナもソレスタルビーイングの関係者も知らない対話の道中での出来事をどれだけ知らされているのか? それは刹那とマリナ、そしてELSダブルオークアンタの三人だけの秘密であった。

 

「セイエイさん、外に出ましたです」

 リムジンの車窓に澄み切った碧空が広がった。

 眼下には地上の都市だけではなく雲も広がっていた。上空からは見ていたが、こうして宮殿の上から見渡した景色はミレイナだけではなく、ジョーカーの人々の目にも新鮮に映るのだ。だからこの空中宮殿には星団中から観光客が来るのだ。

 

 リムジンはクラウドシティに入ると町外れにある一軒のカフェの前に乗りつけた。

 そこは観光ルートから外れており、この空中宮殿の住人位しか立ち寄らないカフェだ。

 エレーナが運転手にチップを渡すと三人はリムジンを見送った。

「会談の場所はここですが、予定よりも早く到着しました」

 エレーナは書簡に指示されていたテラスの席に二人を案内すると「私は残念ながら立ち会うことは出来ませんが、別の場所からお二人を見守っていますのでご安心下さい」と言い残してひっそりと姿を隠した。

「せ、セイエイさん、大丈夫でしょうか」

 エレーナの姿が見えなくなると急にミレイナは弱々しい口調になってしまった。

 エレーナの前で虚勢をはっていたわけではないが、刹那と二人きりになったこともあり抑えていた感情を少しだけ吐き出したのだ。

「トレミーは無事だ。クアンタもいつでも発進できる」

「(いや、そういう事ではなくて……)」

 ツッコミを入れたかったが、平常運転の刹那の態度に呆れつつも少しは不安が抑えられたような気持ちになった。少しだけだが。

「ミレイナ」

「え!?」

 やや不似合いに思えそうな大きなポーチを肩からぶら下げた白いスカートの少女がこちらに近づいてきた。

「か、可愛いすぎです」

 そのあまりの可憐な容姿にミレイナは思わず口に出してしまった。

 この場に同年代の男子がいたらきっと一目惚れしてしまうほどの容姿である。

 刹那とミレイナは、その少女を迎えた。

「刹那・F・セイエイです」

「ミレイナ・ヴァスティです」

 刹那とミレイナは自分達から名乗ると軽く会釈をした。

 相手はこの宮殿の最重要人物の一人である。それ相応の対応が必要なのは刹那でなくても承知している。

「フフ。そんなに畏まらないで下さい。フロートテンプルへようこそ、刹那・F・セイエイさん、ミレイナ・ヴァスティさん。私がラキシスです」

 その容姿とは裏腹に確りとした口調で少女は応えた。

「(この少女がこの世界のラキシスか……)」

 目の前でミルクティを啜りながらミレイナと談笑しているラキシスの雰囲気に刹那は内心驚いていた。

 口調こそは地球でのラキシスとそう変わらない部分はあるが、雰囲気はあまりにも違いすぎていたからだ。

 地球でのラキシスは厳しくも優しい雰囲気を全身から醸し出していた。晩年のシーリンやマリナのそれに通じるものがあったのだが、目の前の少女はどことなく背伸びしている雰囲気しか感じられない。

「(そういえば、あの男は雰囲気が変わらなかったな)」

 ふいに、きっとどこかでこの事態を皮肉交じりに楽しく見ているだろう強敵(親友)の事を思いだしたのが、今は目の前の少女にだけ意識を向ける必要があった。

 

「刹那さん、ミレイナさん。それでは本題に入って良いかしら?」

「ラキシスさん、俺に『さん』付けは無用だ。刹那で構わない」

「それでは私もラキシスとお呼び下さい」

 一通りミレイナとの世間話が終わったところでティカップを静かに置くとラキシスから切り出してきた。

「先日、ミレイナさんから地球でのお話しを伺いました。ジョーカー太陽星団と異なる宇宙、銀河系という宇宙から来たこと。そして地球という惑星からお二人が来たということ。そして、地球に遠い未来の私とK.O.G(ナイト・オブ・ゴールド)、それだけではなくログナー司令も駐屯していること」

 ミレイナは刹那に目配らせすると二人は静かに頷き肯定する。

「そして、お二人は刹那さんの奥様(・・)を探しにジョーカー太陽星団に来たこと」

「奥様!?」

 刹那はすぐに隣のミレイナに視線を移すがミレイナは至って涼しい顔だ。

 「私何か間違ったことを言ったですか? 毎晩一緒にラブラブに寝ていた癖に違うとは、マリナさんの為にも言わせないです」

 と言葉には出さなくてもミレイナから何故だか強い脳量子波に似たオーラを感じ取った。

「あ、あの、お二人とも!?」

「事実に相違ございません。セイエイさん達は、こう見えて新婚ほやほやさんで、他人から奥様と言われることに慣れていないだけです。どうぞ、話をお続け下さいです」

「は、はぁ(悪い人達ではないんだけど、こんなんでこの先、大丈夫かしら)」

 ラキシスは一旦間をおくと刹那とミレイナを交互に見ると口を開いた。

「に、俄には信じがたい事案ですが……私はお二人の話を信じます」

「ラキシスさん……」

 その言葉にミレイナの表情が和らいだ。

 みるみる表情に明るさが灯っていくミレイナに反して刹那は静かに頷くだけであった。

「地球に居る私から、二人の支援を頼まれています。しかし、A.K.D.としてバックアップしようにも私には何の権限もありません」

 刹那達の来訪はこの時点では城主のあずかり知らぬ事である。ラキシスが動かせる戦力は一部を除き皆無であった。

「ラキシスさん、そのお心遣いに感謝いたします。私達もこの世界について多少なりとも準備はしてきました」

 事実、ミレイナはプトレマイオスに詰めるだけの食料品をはじめ、クアンタの予備部品等を満載してきた。特に食料の保存圧縮技術は外宇宙探査船スメラギ登場以前から発達しており、現地調達の食料品であっても一部を除き長期保存、超超高圧縮して運搬することが出来るようになっていた。

「それでは伺いますが、お二人は何か探す手がかりはあるのですか?」

 

 

 刹那達とラキシスの会談を同じカフェの離れたテーブルから見守っていたエレーナであったが、会話こそ聞こえない距離であるが唇の動きから内容は把握している。そこに一人の少年がずかずかとやってきた。

「どうやら始まったみたいだな」

「ボスも来ていたんですか」

「お前と同じく護衛役だ」

 エレーナは意外な組み合わせに驚きと同時に気が抜けてしまった。

 この少年がラキシスの護衛として来たのであれば、この会談は事実上手出し無用になってしまったからだ。

 ミラージュ騎士達が束になってかかっても勝ち目がない。MHを持ち出して会談を阻止しようとしても無駄だろう。この空中宮殿にバスター砲でも撃ち込まない限り無駄だ。

「姫様の護衛はボスだったんですね。心配して損しました」

「なんだ、その言い方は? 別に暇だから選ばれたわけではないぞ」

 少年はエレーナのテーブルに相席すると偉そうに足を組む。彼こそがエレーナの上司であり、先日刹那を一方的に凹った少年ワルツ・エンデだ。その正体はさる事情で蘇ったログナーその人である。

「俺は、抹茶オーレとイチゴ大福だ」

「何も手がかりが無しとは困りました」

「地球のラキシスさんやログナー社長とも出発前に相談したのですが時代の特定だけが精一杯でした」

「この世界で起きた近年の事件や事故について調べてみたが、マリナの行方に繋がりそうな事案は見つけられなかった」

 実はマリナを探す手がかりについては刹那は心当たりがあった。

 それは脳量子波である。イノベイターやイノベイド、もしくは超兵などが扱うことが出来る特殊な脳波である脳量子波を晩年のマリナから感じ取っていたからだ。もし、こちらの世界に流れ着いたマリナが同様の脳量子波を発信していれば刹那やELSダブルオークアンタが感知出来る可能性がある。

 また、それに近いモノを地球でラキシスからも感じ取っていたが、このことを今のラキシスに伝えるかどうか刹那は迷っていた。

 実は同様に迷っていたのは刹那だけではなかった。ラキシスもそうだったのだ。

「あ、あの。お二人には先に伝えないといけない重大なことがあります」

「なんです?」

「もしも、このまま手がかりもなく星団を彷徨うのであれば、一旦星団を離れていただくことは可能でしょうか?」

「どういうことだ?」

 刹那の側でミレイナも首を傾げる。

「これから、ジョーカー太陽星団に大きな動乱が訪れます。大勢の人間が死にます。大勢の人間が住む家を、故郷を、家族を、失います。私個人としては、たとえ神々の息吹の一瞬の出来事であっても、お二人をこの大戦に巻き込みたくはありません」

 ラキシスの予言めいた言い回しに刹那とミレイナは戦慄を覚えた。全てが予定調和で行われ一瞬のうちに決着がつく、そんな口調だった。

「ふむ」

 刹那は宇宙港での待機中に情報収集していたこともあり、不穏な空気は感じ取っていた。しかし、やはり避けられない現実なのかと、やりきれない気持ちになった。

 先に述べたとおりELSとの対話の道中、様々な規模の紛争、戦争に否応なしに巻き込まれる事も自ら介入することもあった。星間戦争、宇宙大戦も経験している。対話の仲介者として一対一から一対多、それも大艦隊相手に決戦を挑んだことすらもある。

 良い意味でも悪い意味でも巻き込まれ馴れしているのだ。だが、人が死ぬのだけはやるせなかった。

 地球で実機(・・)を用いての対MH戦は経験しているため、MHの大量殺戮兵器としての実力はよく知っている。

 恐るべき破壊力が非戦闘員に向けられたら、屍の山を作るのは雑作もないことだ。

「それではマリナさんを見捨てることになってしまいます」

「そうは言っていません。私はお二人に何かあれば元も子もないと言っているのです」

 ミレイナとラキシスのやりとりに刹那は現実に引き戻された。

「ミレイナ、ラキシス!」

 まずは、意識を外した隙にややヒートアップした二人の間に介入する必要があった。

 

 

「ボス、ちょっと良いですか?」

「なんだ?」

 観戦、もとい、監視していたエレーナは今度は昆布茶を啜っている自分の上司に質問してみた。

「刹那・F・セイエイという男、いったい何者ですか?」

「うん?」

 湯呑み茶碗を静かにおいたが、その表情は明らかに不機嫌になった。やばい、地雷を踏んだか? とエレーナはヒヤッとしたが、杞憂に終わる。

「……弱いくせに巻き込まれた争いを止めようとするわ、己の実力以上の強敵から弱者を守ろうとするわ、馬鹿な男だ」

「は、はぁ」

 目の前でずけずけと酷評しているのだが、口元が笑っていることに気がついた。あぁ、ボスの中では満更ではない評価なんだと、エレーナは見抜いた。

「奴は俺とも対峙することがある。当然、ぶった切るがな」

「は?(文章おかしくないですか!?)」

 自分の上司と話をしていると、時々、時間軸がおかしいことがある。一々気にしてはいられないが、この刹那という男が来てから益々わからない事が多くなってきた。

 

 

「セイエイさんは、帰れと言われてオメオメと地球に帰るのですか?」

「彼女はそうは言っていない」

「セイエイさん!?」

 ミレイナはラキシスだけではなく刹那からも反発を受けて困惑した。

 刹那であれば危険が差し迫っていても踏みとどまると思っていたからだ。また、それらを見越してミレイナ自身もELSダブルオークアンタの改修を行ってきたのだ。

 刹那もまたミレイナとラキシスの誤解を解く方法を考えていた。そこで、マリナとの会話を思い出した。

「ミレイナ、そしてラキシス、少し聞いてくれ。これは俺達が旅をしていたときの話だ」

「旅、ですか?」

「それは、対話の道中の話ですか?」

「(対話?)」

 ラキシスとミレイナは刹那に注目した。ラキシスは『旅』というキーワードからせいぜいが、惑星間を宇宙船で旅をするか、どこかの国を訪れたか、この瞬間はその程度の認識であった。

「俺達はワープ中に色々な世界に迷い込んだ事があった。あるとき、俺達は機械文明が存在しないと思われる世界に踏み入れたことがあった」

 ラキシスは自身の耳を疑った。

 ワープ? 機械文明が存在しないと思われる世界? 突然、何を言っているんだろう? と困惑するが、ミレイナを見てみると目を輝かせて聞き入っているではないか。

 ラキシスはここにきて、刹那・F・セイエイという男とミレイナ・ヴァスティという女性がよくわからなくなった。

「そこは酷く、原始的な世界だった。人間の手が加えられていない緑豊かな世界だった。しかし、これはどこの世界でも言えることだが、その世界もまた地球での常識がまったく通用しなかった。俺達と同じ姿形をした人間もそこには住んでいたが、それだけではなかった」

「荒野には異形の怪物が跋扈し、空高く、そうだな軌道エレベーターを彷彿とさせる塔がそびえ立っていると思えば、大地の裂け目は宇宙空間へと繋がっていたり……」

「俺達がその世界に辿り着いたとき天変地異に見舞われ住人達は困っていた。そこで俺達は住人達から異常事態の調査を依頼された」

 それから天変地異の調査について、あまりにも荒唐無稽な話が淡々と続いた。

 雲の上の城? 空中宮殿に住んでいる人間としては親近感があるけど、イレーザーエンジンもないのにどうやって? とか、湖の中に神殿? などなど刹那に悪いが、どこでツッコミを入れるべきかラキシスは悩んでいたのだが、ある単語で思いとどまった。

「そして俺達はこの天変地異を引き起こした張本人である『創造主』と相まみえた。怪物のような姿であったが、間違いなくその世界を創り上げた張本人だった」

「……だから異形の生物が?」

 ミレイナが疑問を投げかけたが、刹那は更に驚くべき話をした。

「いや、彼は宇宙に進出するほどの高度な文明を築き上げた人間を創り出していた」

「それでは、その世界は一度文明が滅んで、退化したというの?」

 ラキシスは、まるでジョーカー太陽星団の行く末ではないかと危惧した。しかし、先ほどの問いに刹那は肯定も否定もしなかった。

「創造主の話に戻そう。俺達の調査によって彼が恣意的にこの世界を支配していた事が分かった。天変地異の収束について彼と対話を試みたのだが……。そこで想定外の事態がおきた」

「まさか、戦いに?」

 ラキシスの問いに刹那は首を縦に動かした。

「世界の一部に組み込もうと襲いかかってきた。俺達の力を自分に都合良く使おうと思ったらしい」

「それで、やむなく戦闘になったわけですか……」

「残念ながらな」

 刹那からの回答はわかっていたこととはいえ、ミレイナとラキシスから深い溜息が漏れた。

「そして彼は俺達を組み伏せられないとわかると最後の手段に出た」

「まさか!?」

「世界を崩壊させ、全てを無に帰した」

 ラキシスは言葉を失った。

「……そんな悲しい出来事があったなんて、はじめて知りましたです」

 気がつくとミレイナに至ってはハンカチで目元を抑えていた。

「ミレイナ、否応なく『力』を使わなければいけない時もある。俺達が介入することにより多かれ少なかれ歴史の流れの中にどうしても歪み(・・)が発生してしまう。その時にその世界そのものが俺達の『歪み』をどう扱うのか、その見極めが重要だ。まして戦争ともなれば『ガンダム』の力は魅力的に映るだろう」

 ラキシスはその言葉に強い衝撃を受けた。

 はじめてミレイナと出会ったあの夜、ミレイナから彼らの『ガンダム』を見せつけられた。

 その時から彼らがジョーカー太陽星団にどのような影響を及ぼすのか強い危機感を持つことになったのだが、刹那は自分と同じ危機感を共有していたのだ。

 ミレイナも刹那の隣でその言葉を噛みしめていた。

 私設武装組織ソレスタルビーイングの一員として世界の歪みに武力介入してきた身だ。歪みを正すため自らも世界の歪みとなり世界と事を構えてきた。国連軍とアロウズと何度も死線を乗り越えてきた。

 ミレイナは決してマリナを探す単純な旅と楽観してわけではないが、自分たちが出現したことにより、この世界の歪みの元凶となる恐れがあることの自覚がなかった。いや、正確には意識をしていたが言葉に出すのは怖かったのかもしれない。

「本来発生しなかった歪みだ。最悪の場合、このジョーカー太陽星団もあの時の世界のように崩壊するかもしれない」

「崩壊……!」

 ミレイナとラキシスだけではなく、観戦していたエレーナもその言葉に驚いた。只一人、ワルツ・エンデだけは素知らぬ顔で番茶を啜っていた。

 刹那からの衝撃的な話にミレイナとラキシスはすっかり意気消沈してしまった。

 マリナを助けることも重要だが、そのために一つの世界を滅ぼしては元も子もないのだ。とはいえ、二人には少し薬が効きすぎたかもしれない。

「だが、俺達は立ち止まるわけには行かない。どうしても、彼女を、マリナ・イスマイールを探して地球に連れて帰らねばならない。彼女は俺にとって大事な女性(ひと)だ」

「刹那さん……」

 驚いたのがラキシスだけではなかった。それ以上にミレイナも刹那の言葉に心の底から喜んでいた。

 今の言葉をマリナさんに一日でも早く聞かせてあげたい……。ミレイナは意を決して勝負に出た。

「ラキシスさん、もし危険があると言うのであれば我々がマリナさんを探している間『ガンダム』を預けても構いません」

「ミレイナさん、何を仰るのですか!?」

 ラキシスは怪訝に思った。二人の最大にして唯一の戦力と思われる『ガンダム』を自分に預けるというのだ。

 驚くラキシスに更にミレイナは畳み込む。

「私達の『ガンダム』は『MH』とは全てにおいて異なります。『MH』であれば星団法に則って運用することもできるでしょうが『ガンダム』では、セイエイさんの話のような事が起きる危険性も考えられます」

「確かにそうですが、それでは何かあった際に身を守る手段がありません」

「そこで」

 ミレイナはそっとハンドバッグから一台の端末を取り出すとラキシスに差し出した。

「これは?」

 端末自体は地球圏で広く利用されているものだが、空中投影されたディスプレイに映ったソレはラキシスを驚嘆させるには十分なものだった。

「ミレイナさん、こんな事が可能なのですか!?」

「この条件でお願いできないでしょうか。セイエイさんも良いですよね?」

 刹那はその時、チラリと見せたミレイナの横顔から普段見ることが出来ない、女の凄みを垣間見た気がした。

「……俺も構わない」

 ラキシスは刹那とミレイナを交互に見ると、ついに両手を挙げた。

「あらためてお二人の事情を良く理解できました。そしてまた、お二人の我々の世界に対する心遣いに感謝いたします」

 不思議なことにラキシスの胸中には先ほどまでの迷いや恐れはなくなっていた。

「私個人として、どれだけお二人のお役に立てるかはわかりませんが、お二人を支援することを約束いたします。マリナさんを見つけられるよう私の権限でできる限りの便宜を図りましょう」

「ラキシス、ありがとう」

 ミレイナも同じく謝意を伝えた。

「それでは『ガンダム』は私が預からせて貰います。宜しいですね?」

「ソレスタルビーイングに二言はない」

「確かにラキシスさんに『ガンダム』を預けるです」

 そして、どちらからでもなく刹那とミレイナ、ラキシスは手を差し伸べるとテーブルの上でガッチリと手を結ぶ。

「これで交渉は成立です。一日でも早く刹那さんの奥様、マリナさんを助け出しましょう」

 

 

「さて、終わったようだな」

 観戦していたワルツ・エンデは椅子から飛び降りると指を鳴らした。

「マスター、リムジン(お車)の手配は出来ております」

 いつの間にかエンデの背後には白いローブで顔を隠した女性が立っていた。

「イエッタ様!」

 エンデのパートナーであり、地球ではソーニャ・カーリンという偽名を使いミレイナやスメラギとコンタクトをとっていたファティマ(女性)だ。

「エレーナ。これから姫様と俺達は刹那達のプトレマイオス()を接収する。お前は先に城に行ってこの書類を届けてこい」

「ちょ、ちょっとボス! 本当に接収する気ですか!?」

 放り渡された封筒を片手でキャッチしながら半ば抗議をするように質問した。

「姫様と刹那達の約束だ。俺達はどうすることも出来ない。ただ命令に従うだけだ」

「そ、そうですけど」

 指一本触れさせないと啖呵を切った身としてはこの決定は何とも後味が悪いモノだった。しかし、刹那達が決定したのだから仕方が無い。

「お前の言い分は後で聞いてやるから、さっさと行け」

「は、は~い」

 返事が終わるやいなや、瞬く間にエレーナ・クニャジコーワはその姿を消した。

「プトレマイオスも一緒なんですね」

 イエッタはエンデが含みを持たせて話していた事を見抜いていた。

「賭けに勝った自慢か? 空いているドーリーは無いからな。それとも陛下にどうやって新型の許可を貰いに行くつもりだ?」

 意図を見抜かれてブスッと答えたエンデを楽しそうにイエッタは見つめていた。

「先生! それでは世界は壊れてしまったの? 皆はどこに行ったの? もう帰るお家は無いの?」

 授業が終わり傾いた日差しが差し込む教室には子供達が教師を取り囲むように座っていた。

 目に涙を溜めながら一人の女の子が中央に座っている教師に心配そうな声をあげたのだ。他の子供達も同様に困惑した表情を浮かべている。

「そうね……」

 年季の入った教室とは不釣り合いな、清潔な白いブラウスによく映える黒髪の女性は左手で髪の毛を掻き上げると少し困ったような表情をみせた。

 今回のお話しは子供達には少々刺激が強すぎたかもしれない。話の選択を誤ったかな? と自問したが、すぐに気の強い男の子が横やりをいれてきた。

「ばーか。先生がバッドエンドの話なんかするかよ。きっと、鋼の騎士(・・・・)が何とかするさ」

 へへん、と言わんばかりの表情だが、他の子供達は彼なりの女の子に対する優しさだというのは知っていた。

「馬鹿って何よ!? 馬鹿って言う方が馬鹿なんだからね。でも、先生。壊れた世界をどうやって元に戻すの? サイレンだって、破裂の人形だって無理だもん」

「まぁまぁ、貴方達、喧嘩は止めなさい。話はまだ終わっていませんよ」

 女教師は自ら子供達に近づくと二人の頭を優しく撫で二人は宥めた。

「あ~、先生に触られて真っ赤になってる! エッチ、スケベ、変態」

「ば、馬鹿。そんなじゃねーよ。先生も、お、俺に気安く触るなよ」

 男の子は女教師に頭を撫でられた事で頬を赤らめてしまったのだが、それを女の子に見咎められしまったのだ。その言葉には多分の嫉妬が含まれていることは女教師も周囲の子供達もやっぱり知っている。

 男の子はすぐに女教師の手を払いのけようとするが、反対に二人を抱き寄せて耳元で囁いた。

「喧嘩するほど仲が良いのは先生羨ましいぞ?」

 むぎゅ~っと強く抱きしめると二人を開放してあげた。二人の顔はどちらも真っ赤っかだ。

 女教師は手を数回叩くと話を仕切り直した。

「さて、この後、鋼の騎士はどうやって世界を救ったでしょう?」

 不思議な世界に迷い込んだ鋼の騎士は、世界を創り上げたという創造主と『対話』を試みた。しかし、暴虐を尽くす創造主は反対に騎士の力を独占しようとしたのだ。だが、力の独占が無理とわかると騎士とその仲間達を排除すべく襲いかかってきた。辛くも鋼の騎士は創造主を撃退するが、世界を道連れに創造主は自決したのだった。

 そう、生い茂る木々や動物も人々も怪物も宇宙船も天を貫く程の塔も城も妖精達も全て無に帰ってしまった……。

 

「ティエリア、ここはどこだ?」

 創造主『ガイザック』との対話が終わり、ELSダブルオークアンタは光も音もない無の世界を漂っていた。

 ガイザックを倒すため、決死の覚悟で灼熱ともいえる体内に突入、内部からライザーソードで突き破り撃破したのだ。

 今のクアンタをもってすればマントル対流の中でも活動できるがガイザック相手には常識は一切通用しなかった。

 焼けただれた複合装甲はELSが全力で修復を行っているが、今回クアンタの装甲には不思議な技術が取り入れられていた。これらの技術がなければ今頃は消し炭になっていかたもしれない。

「……調査中だが芳しくない。駄目だ、Eセンサーにも反応がない」

「ここは無の世界。残ったのは私と貴方達だけ……」

 何もない空間に漂うELSダブルオークアンタのコクピットには今は二人の妖精が搭乗している。

 一人は長い旅路をともに戦う電子の妖精、ティエリア・アーデ。そして、もう一人はこの戦いで刹那達が助けた妖精である。今回の対話では妖精である彼女達の力がなければ流石の刹那達でも太刀打ちできなかった事だろう。

 彼女たちから提供された装甲技術をELSが取り込みクアンタの装甲にも活かされていた。

 そして彼女自身もクアンタの目となり、いかなるセンサーを持ってしても決して捉えることが出来ないガイザックを見つけることが出来たのだ。

 不思議なことに落胆する刹那達と違い、妖精の顔に憂いも悲しみもみられない。

「俺達の対話は無意味になってしまった」

「いいえ、貴方達は異世界人でありながら私達のために尽くしてくれたわ」

「しかし、君達の国は無くなってしまった。これは僕達の失態だ」

 刹那と同様にティエリアも自責の念にかられていた。

 そんな二人に対して妖精は静かに首を振る。

「では、なぜ私たちはこの空間で生きているの? 私達の国は、まだ存在するのよ」

「どこに?」

 だが、その問いを投げかけた刹那とティエリアはハッとした。

 この世界に辿り着いたときから不思議な事件の連続だった。もしや……。刹那とティエリア、そしてELSはある望みに賭けることにした。

 その様子に妖精は微笑んだ。彼ら自身が答えを見つけ出したからだ。

「ティエリア、クアンタムバーストの準備を頼む」

「了解した刹那。GNドライヴはこちらで調整する。クアンタのダメージは気にするな。フルパワーで行け! ELSも手伝え。この世界を復元するぞ」

 刹那とティエリアの叫び声に呼応するようにELSダブルオークアンタは姿を変える。先ほどまでの古代の騎士のような姿形から、慈愛に満ちた女神のような姿にフォームチェンジを行う。背中の羽を広げた姿はまさに天使であった。

 そしてクアンタの姿を重ねるように妖精もまた羽を広げ、望みを刹那達に託した。

「刹那、さぁ目を閉じて。思い出して! 美しかったフェアリーランドを!」

「GN粒子全開放、クアンタムバースト!」

 

 

「先生、さよ~なら~」

 子供達は振り返ると校舎の玄関で見送る女教師に何度も手を振っていた。

(ディグ)にきつけて帰るのよ。また明日ね」

 夕日に照らされながらニッコリと微笑むその表情は幼い子供達であってもドキッとするほどだ。

「や、やっぱり先生って綺麗だよね。女の私でも見とれちゃうもん」

「だろ? 先生に褒められて赤くならない奴なんていねーよ」

「先生っていうよりは、どこかの国の王女様って感じですよね」

「時々、先生から変なオーラが出ているよね? 気品っていうか、大人の色気というか」

「あれが、オーラ力って奴?」

「それにしても、今日のお話もハッピーエンドだったわ。あーすっきりした」

「今日のお話も非現実的な内容が盛り沢山でしたが、小生は嫌いではありません」

 子供達は今日の話の感想を口々に言い合いながら下校した。

「それにしても鋼の騎士なんて存在すると思うか?」

「え~、あの話の鋼の騎士は子供向けのスーパーロボットでしょう? 全高18mってリアルロボットみたいな設定だけで後はメチャクチャじゃない」

「そうだよな~。長さ1万km以上の光の剣とか、惑星を破壊するビームを連射できる銃とか、MHだって無理だって」

「設計思想がデタラメすぎです。アニメのロボットでもそんな無茶な設定はしません。天照陛下のミラージュマシンとタメはるつもりですか」

「でも、先生が話をすると本当に存在しているみたい」

「うん。それは言えてる」

「あ、もしかして!?」

 一人の女の子が足を止めた。

「なんだよ? 突然!?」

「もしかして、鋼の騎士の正体って、先生の彼氏のロボットだったりして」

「はぁ?」

「だって、先生が騎士の話をしているときのあの顔。絶対そうだよ。乙女のカンは当たるんだから!」

「なーにが『乙女のカン』だよ。そんなわけがあるか! 絶対、絶対、絶対、違う」

「いやいや、それは鋭い意見ですよ!? 話のリアリティの辻褄があいます」

「お、お前まで裏切るのか!?」

「あ、やっぱり、先生の事好きなんだ」

「不潔ってなんだよ! 違う、俺はそんなんじゃねー!」

「フン。何時も先生のお尻ばかり見ているくせに」

「お、俺が見ているのはお尻じゃない、足首だ」

「何よそれ、不潔! 明日から口をきいてやらないんだから」

「それは誤解だー」

 子供達は仲良く喧嘩しながらも今日も家路を急ぐのだった。

 

 子供達の見送りを終えた女教師は生徒達が居なくなった小さな教室の窓から夕焼けを眺めていた。

「刹那、私達(・・)がここに居るのがわかりますか? 貴方がこの世界に来るまで私達(・・)は負けません」

 左手首に嵌めた不釣り合いな銀色のブレスレットを何度もさすりながら自分自身とブレスレットに言い聞かせるように決意するのだった。

後書き

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございました。

フェアリーランド出しちゃった。ハイドライド3懐かしい、というか知らない人が多いかもしれませんね。

話の最後に突如登場した女教師について。

黒髪に白いブラウスにふんわりスカートで音楽を受け持つ、若くてとても綺麗な教師、らしいです。

さて、今回で刹那・F・セイエイとELSダブルオークアンタは一旦退場になります。

不定期ですが次回もよろしくお願いします。


 
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