「(洛陽か… ここが昔の中国なのは間違いないみたいだ。しかも、魏という単語を聞いて思い浮かぶのはいわゆる三国時代だけども、違う時代かもしれないし、そもそも俺の知っている歴史やらなんやらと全く違う世界ということも…………)」
「おーい、ちょっといいかなぁ」
「え、あ、はい!何でしょうか?」
「折角質問に答えてあげたんだし、今度はこっちからも質問しちゃおうかなぁ。君、こんなところでなにしてるの?」
困った。いつかは聞かれると思ったが、まともな答えなど到底用意できない。盾平は思い切って話してしまうことにした。
「…………今から自分が話すことについて、頭大丈夫?とか訊かないでくださいね」
「それは話の内容によるなぁ」
「ぐぬぬ「なにがぐぬぬだ。早く話しなさいよ」…………それでは」
それから盾平は、自分が少なくともこの世界の人間ではなく、おそらくは約1800年後の未来から来たことを話した。女性は初めこそ驚いていたが、この状況について幾らか話すうち、彼女の知っていることを教えてくれた。
「そういう話を聞くの、実は二度目なんだよねぇ」
「に、二度目ですか!? ということは自分の他にもそういう人がいるということですか?」
「そういうことだね」
自分は初めての来訪者ではない、ということを聞いて一旦は安心したものの、問題はその人が今現在どうなっているかだろう。こんな怪しい話をしているのだ。即捕まって即斬首なんて言われてもおかしくない。
「それで、その人はどうなったんですか?」
「今は皇帝として三国を治めていらっしゃいますよ」
…………ちょっと、想定外だった。
「いや、とにかくその方が色々すごかったのはわかりました」
この世界での先輩にあたるその方は、なんでも黄巾の乱が起きる頃にこちらに来て、天の御使いとして乱世を治めてしまったのだという。しかも俺とあまり歳も違わないというのは驚きだった。
「それで、その帝は今どちらに?」
「現在北郷様は、都にいらっしゃいます」
その都では乱世の終結後、三国の首脳陣が集って政を行っているようで、この人は中央と呼ばれたりしているようだ。
「(その人に会うことが出来れば、これからのことも何とかなると思ったんだけどなぁ…)」
いくら乱世が終わったとはいえこの世界のことを何も知らない盾平には、一人で中央に向かうというのは難しい話だった。
「それで君、これからどうするの?」
「せめてその都にいくことが出来れば、なんとかなると思ったんですが…」
「うーん、どうだろう? 行くのはともかく、向こうについてからが問題じゃない? 自分は天の国から来ましたぁ、なんて言っても怪しまれるだけだと思うなぁ」
「そうでしょうか? 自分がその天の国から来たってことを証明するのは、案外簡単な気がしますけど」
「あら、その根拠は?」
「例えば、これ、わかります?」
そう言って盾平は、その辺に落ちていた石で地面に『A B C』と書いてみせた。
「これは? 何かの記号かな」
「これはアルファベットといって天の国ではよく使われる文字です。貴女が知らないということは、少なくともこちらではあまり広まっていないということでしょう。中央ではその限りではないかもしれないですが、これに限らなくとも天の国の知識を示すというのは有効なのではないかと思うんです」
「確かにそうすれば君が天の国から来たってことがわかってもらえるね。ただ怖いのは、君が三国にとって危険な存在として排除されちゃうかもしれないってことかな」
それは十分あり得る話だった。今の帝の立場を脅かすような輩をほったらかしにしておくはずがない。天の御使いが乱世を治めるに至った理由はいくつかあるだろう。その内、この時代にない知識を持っているというアドバンテージはそれなりにあったのではないかと盾平は思った。実際は一刀の魅力によるところが大きかったように思われる。とにかく、本来天の御使いしか持ちえないはずの天の知識。それを持っているとなれば、盾平は危険分子してみなされることもあるだろう。
「北郷様に直接お会いできればそんなこと考えなくても済むのにねぇ」
「え、そうなんですか? でも皇帝に直接会うってすごく難しそうですね… 」
「いや、そうでもないみたいだよ。よく街でお姿をお見かけするみたいだし、すぐ北郷様ってわかるんだって」
「それだけ警備に自信があるってことですかね? …だとしたら自分が街に入るのさえ難しいという可能性が…」
「そういうことじゃないんだよねぇこれが。北郷様は立場こそ皇帝ということになっているけど、実際は政務だけでなく街の警邏の職にも就いていらっしゃって街の民との距離もとても近いんだって。他にも、天の知識を活かして様々な分野でご活躍なさっているようだし。中央に行ったことはないから詳しいことはわからないけど、本当だったら街中でもお会い出来るかもねぇ」
皇帝として名が広まっているにも関わらず、街の住人と仲がいいという。そのような生き方をしてきたからこそ今の平和があるのかもしれない。北郷一刀という人物が天の御使いとして、いかにこの世界で生きてきたかということが今の話からなんとなく想像された。そして話を聞くうち、盾平の考えは変わっていた。
「そうですか………… でも自分は、天の国から来たっていうことをしばらくは隠した方がいい気がしてきました」
「これまたどうして」
「もし自分の存在が、要らぬ誤解や混乱を招いてしまっては、折角の平和が乱れてしまうかもしれないですから。まあ、実際はこんな心配必要ないんでしょうけど」
三国全体の政治を行っている場所であるからには、当然優秀な人材が集まっているわけであって、誤解や混乱などということにはならないだろう。
それでも、盾平は身分を隠すことにした。
「こちらに連れてこられたからには、きっと何かやるべきことがあるんだと思います。北郷様が天の御使いとして乱世をお治めになり、その後の平和の為に帝になられたのと同じように、自分にも果たすべき使命みたいなものがあるんじゃないかなと、そう思うんです」
彼がどうだったかはわからないが、少なくとも自分は、これまで持っていた以上のものを与えられた。ならば、彼と同じように何もないところから始めていきたい。そうすれば自分も何か大事なものを得られる、盾平はそう思った。
「ふーん、それはわかったけどさぁ。とりあえず、これからどうするの?」
「そうですね…」
「…………」
「…………」
「おーい」
「…………どうしたらいいんでしょう?」
「なんだよもう、ちょっとかっこいいこと言ったと思ったらこれだよぉ」
「いや、あの、えー… すみません」
「別に謝んなくてもいいよ。じゃあさ、ちょっとうちと進路相談でもしようかぁ。丁度時間あるからさ」
「進路相談…ですか?」
「そう、君のこれからについて一緒に考えてあげようじゃないかぁってこと」
「…………どうかよろしくお願いします」
そうして盾平は、自分のこれからについて具体的に考えることとなった。
こんな所で話をするのもなんだと、2人は場所を移すことにした。
「…………ありがとうございます」
森を出るころ、不意に盾平が言った。
「どうしたのさいきなり。うちは特に何もしてないじゃない」
「まさか。この時代のこと、色々と教えてくれたじゃありませんか。こんな怪しい自分に。しかも、未来から来たなんて話も信じていただいて」
「天の国から来たってことに関しては、前例があったからねぇ。少しは落ち着いて考えることが出来ただけだよ。それにね、君とは直接話をしたから。今までにもさぁ、どっから出てきたかもわかんないような噂話ならいくつもあったんだ。だけど今回は違う。うちが、君と、直接話をして、不思議と信じてもいいと思ったんだ。根拠はないけど、こういう勘もたまにはあてになるし、これも何かの縁だからさ、もう少し付き合ってちょうだいな」
「…………はい! どうか、よろしくお願いします」
こちらに来てから最初に会ったのがこの人で良かった。心からそう思った。
「そういえば、お互いに名前も知らなかったね」
「確かにそうですね。自分は、白神盾平といいます」
「ほうほう、聞くところによると性が白神で名が盾平なんでしょ」
「ええ、そうですが」
「おお、やっぱりそうなんだ。北郷様と同じなんだねぇ」
現代日本ではいたって普通だがここは三国時代。性、名、加えて字となるのが一般的なのだろう。
「(そうか、こちらで使う名前も用意しなくちゃいけないな)」
「ねぇ、なんて呼んだらいいのかな?」
「ああ、お好きにどうぞ」
「じゃあ、盾平くんって呼ばせてもらおうかなぁ。じゃあ、次は私の番だね」
「うちは王粛、字は子雍。よろしくね」
あとがき
皆様こんにちはこんばんはおはようございます。Jukaiです。
なんとかその二を投稿できました。初っ端からやらかしてしまい死にたくなりましたが、やっぱりちょっとずつでも続けていきたいです。お許しください。
ではまたよろしくお願いします
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・オリジナルの主人公やキャラクター
・原作主人公の登場
・筆者の勉強不足
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