カフェモカ-2杯目-
い、いよいよ来てしまった…
いつもと違い緊張した面持ちで雄一さんのお店の前にいるのは、
先日届いたメールにあった。
―学校終わったら、お店に来てもらえる?―
もう何度この文を読み返しただろうか。そう、今日は待ちに待った
雄一さんとお出かけ…ではなく、俊さんの試作が出来たので
2人で俊さんのお店まで行くことになったのだ。
カランカラン
聞きなれた入店音に俺の鼓動は次第と強くなっていく。
「こ、こんにちは…」
「いらっしゃい…あ、今日は違うね。こんにちは。ごめんね、来て貰っちゃって」
「いえ、こちらこそお店があるのに一緒に行ってもらって…」
「ううん。俺がたっくんと出かけてみたかったからさ」
「あ、あり…がとうございます。」
きゅっと胸が苦しくなる。俺にとっては嬉しい言葉のはずなのに、いつも残るのは
チクチクとした痛みなのだ。恋は辛い。最近、雄一さんのことを少しずつ知る度
その痛みを感じるようになっていった。好きだけど、多分言ってはいけない。
「じゃあ、行こうか。」
「あ、今日お店は…?」
「ん?今日はオーナーとアルバイトの子がいるから大丈夫。出かけることも言ってあるからね」
それでは、と言いながらいつの間にか扉のそばにいた雄一さんは俺をエスコートするかのように扉を開けて手で行く先を差し出してくれている。外の明りが入り少し眩しい。
「ここだよ」
「…え?」
雄一さんと並んで歩いていることに夢心地だった俺。
勘違いだろうか?まだ歩いて、5分くらいしか経っていないように思える。
「実はうちの店から歩いて5分くらいなんだよね」
「え、えぇええっ!?…あだっ」
「店前で何騒いでんだ。」
うるせーぞ、とぺしっと頭を叩かれたかと思えば、頭をガシガシと撫でられる。
その手の主は、言わずとしても分かる。前にも感じたこの感触。
少し乱暴だけど、優しい手つき。ちょっとだけ…気持ちが良い。
「俊。たっくんが困っているだろう」
「あ、わ、大丈夫です。うちの兄ちゃんもいっつもこういうことをしてくるんで…」
ピタ、と頭を撫でまわす手が止まった。
そして目の前の雄一さんも驚いたようで目を張っている。
「?」
「…たっくん、兄弟いたんだ?」
「え?あ、はい兄とあと妹が。そう言えばなんとなく俊さんに似てるか…っぶ!!」
止まっていた手がまたがしりと頭をかけば、突然グイッと引かれた。
途端に頭に柔らかな感触と白いコックコートが目の前に広がる。
「俊…」
はぁ、とため息交じりに困ったような雄一さんの声が小さく聞こえる。
気付けば俊さんに前から凭れるような体勢になっていた。
「ん?兄ちゃんはこんなことしないだろ?」
ゆっくり離されて見上げれば、悪戯に成功した子供みたいに嬉しそうな俊さんとさらに苦笑いを含めた雄一さん。そして、
「…!?…っ!?」
頭に残るキスの感触に徐々に顔が熱くなる俺。
「大丈夫?たっく、ん…」
「?」
「…おい、そんな顔でいつまでもいんな。ケーキ食うんだろ」
「あ、は、はい!」
「ん。じゃ、来い」
何事もなかったように一人ですたすたと店に向かう俊さん。
「あ、雄一さんも行きましょう!」
「うん…」
俺はなんとなく頭に触れつつ俊さんに続いて店に向かう。
その時、雄一さんがどんな顔をしていたかも知らずに。
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カフェモカ、2杯目でございます。
今回は前編と後編に分けております。