最近は梅雨。
「雨だな~」
大雨が続いているせいかかったるそうな智樹。
「お兄ちゃん」
「マスター…」
部屋でかったるそうにごろごろしている智樹を扉の隙間から見て、心配するカオスとイカロス。
「ねえ、ニンフお姉様、何かお兄ちゃんを元気にさせる方法ない?」
「なんで私に聞くのよ?」
居間にいるニンフに尋ねるカオスとイカロス。
「ニンフがそう言うのに詳しそうだから…」
「あのね……、そんなの思いついてたらとっくにやってるわよ」
ニンフは呆れながらテレビをつける。
すると……。
『こんな梅雨でだれてきている人に旅館はいかがでしょうか?』
テレビの特集で旅館のことをやっていた。
「旅館か~」
「ねえ、お姉様、これがいいと思う」
「え?」
「なんだか楽しそうだから…」
「楽しそうって……、カオス、旅館の仕事って厳しいって聞くわよ。
私も詳しいことは知らないけど…」
「……だったら知ってそうな人に聞いてみる」
「知ってそうな人って……会長に?」
「会長さんだとマスターの命が危ない」
「…確かに……」
「となると……」
「守形さんか秋山さん」
「まああの二人なら教えてくれるかもね」
「じゃあ早速いこ」
「今から? こんな雨の中で?」
ニンフが窓から外を見てみるが、風は酷く雨も酷い。
そしてアストレアも飛んで行っているが、そこは無視する。
「守形はともかく秋山の奴、いつものように来ないかしら……」
「あれ?」
カオスが部屋の中に変わった壺と鍵を見つける。
その鍵は何故か壺に付いている錠前に合っていた。
「何よ? それ」
「いつのまに……」
「紙もあるよ」
紙にはこう書かれていた。
『鍵を使ってこの壺に付いている錠前を解きなさい』
紙を見てカオスは素直に鍵を開けた。
「ガンマ、ガンマ」
すると壺が割れ、そこから出てきたのは……。
「秋山!」
「秋山さん、何故その壺に?」
「いや、最近見た特撮二作品を合わせてみて出てきただけだが……」
「ねえねえ、秋山お兄ちゃん」
「…では、何か願い事を言ってみなさい」
「まだ続けてるの?」
「ノリは大事だ。…まあ、とりあえず何か相談があるなら言ってみろ」
イカロス達は秋山に事情を説明した。
「なるほど。智樹をねぎらうために旅館で……」
「何かいい方法はありませんか?」
「俺もきちんとは知らんぞ。
まあ最低限のマナーくらいは叩き込めるけどな。
それに旅館なんて簡単に予約とかは取れないからな。
そこで……」
「いつものようにあんたが建てるんでしょ?」
「その通り。…とは言ってもマナーとかを教えるのに俺だけじゃ心もとないし、従業員的にも3人では心もとない。
だからアストレア……はやめておこう。あいつがいると、余計な作業が増える可能性がある」
「「「うん」」」
イカロス、ニンフ、カオスの三人は同意した。
「まあとりあえず守形と日和辺りにでも協力してもらおう。
それと招待するのは智樹だけじゃなくてそはらもいいか?
なんやかんやで智樹だけでなくそはらにも世話になってるからな、お前達…」
「そうね」
「賛成です」
「じゃあ早速旅館を建ててくる。旅館従業員マナーとかは暇な時に俺が教えてやろう」
そして秋山は消えていった。
「ねえ、お姉様。この後どうする?」
「とりあえず私達は私達でマナーでも覚えようか」
そらのおとしもの 俺を旅館に泊めてくれ!
イカロス達が智樹を旅館に招待する計画を立ててから1週間ほどが経つ。
「なあ、そはら」
「何? 智ちゃん」
家に来ていたそはらに智樹は尋ねた。
「最近、イカロス達よそよそしくないか?」
「言われてみれば…、そうかも……。
ひょっとしてイカロスさん達、智ちゃんに内緒で何かしようとしてるんじゃない?」
「何かって……なんだよ?」
「それは分からないよ。私の推測だし…」
「ま、いっさ。よっこいしょ」
智樹は立ち上がり、居間の扉を開ける。
「………でえええええええ!?」
「智ちゃん!? どうしたの……ってええええええええ!?」
二人が扉の先を見て大きな声を上げて驚いた。
扉の先には何と旅館が広がっていた。
おまけに天気は雨のはずなのにその旅館の所は晴れていた。
「智ちゃん、これってどういうこと?」
「俺に聞かれても…」
「「「「ようこそいらっしゃいました」」」」
すると智樹達の前にイカロス、ニンフ、カオス、日和が出迎えに現れた。
四人とも旅館の女性従業員が着ている着物のような衣装を着ていた。
「イカロス! これはどういうことだ?」
「まあまあ、トモキ、落ち着いて…」
「ニンフ! お前の入れ知恵か?」
「違うよ、お兄ちゃん」
「桜井君、これはイカロスさん達三人で企画したんですよ」
「イカロス達が?」
「とりあえず履物をどうぞ」
そこに秋山が現れ、智樹とそはらの靴を出す。
「あ、どうも…」
「…ってそうじゃないだろ!」
そうは言われても靴を素直に履く二人。
「とりあえず説明は旅館の部屋の中でしてやる。
とにかく来い」
「行ってみようよ、智ちゃん」
「あ、ああ」
智樹とそはらは旅館へと入っていった。
「ようこそ」
そこには守形がいた。
「守形先輩もいたんですか」
「ああ、イカロス達に旅館従業員の接客態度を教えてくれと頼まれてな……。
それとその手伝いだ」
「………」
智樹は慌てて周りを見てみる。
「美香子ならいないぞ」
「ほっ」
智樹は安心する。
「会長さんがいるとお兄ちゃん、休めないもんね」
「そういうこと。ちなみにアストレアがいないのも同じ理由」
秋山がさらっと酷いことを言う。
「ニンフ、カオス、智樹達を『餓狼の間』に案内してやってくれ」
「分かったわ」
ニンフとカオスは智樹とそはらを「餓狼の間」と呼ばれる部屋へと連れて行った。
「ここが『餓狼の間』でございます」
「用があるのでしたら、どうぞお申し付けください」
ニンフとカオスは礼儀正しく、部屋を去っていった。
「なんだかいつものニンフさん達じゃないね」
「あんなに礼儀正しいニンフ達見たの始めて見た」
「それはそうだろ~う」
そして部屋の扉の襖が開けられ、そこから秋山が入って来る。
「秋山さん」
「で、説明してもらうぞ。イカロス達がこんなことしだしたわけ」
「まあ簡単に説明するとな、智樹、お前を労うためだ」
「俺を?」
「ああ。ここ最近、お前は雨のせいかだれてるって言われてな。
そんでだれてる原因は疲れもあるんじゃないかとあいつらが心配したから、それでどうしたらいいかと考えた結果、旅館で労うということになった。
けど旅館って予約とるの普通に苦労するし、金がかかる。
だから俺がわざわざ旅館建てて、ただにしたということだ。
だが、いつもの態度とかじゃ家に居るのとあまり変わらないから、イカロス達に旅館の雰囲気を出してもらおうと、守形と一緒にマナーを教えたと言うことだ。
ちなみに料理はちぃいとばかし教えるのが難しかったからいつものを可能な限り旅館で出てくる料理風にしもらうからそれで勘弁してくれ」
「別にそこまでしてもらわなくても…」
「いやいや、一応力を入れるのは必要でしょ」
「それで風音はなんでいるんだ?」
「さっきも言ったようにアストレアだと問題起こりそうだから、手伝いは日和の方が向いてると思って手伝ってもらった。
案の定、イカロス達以上に覚え良かった。
とまあ、説明はこんなもんだな。とりあえずもうそろそろで風呂がOKになるから準備しとけよ」
秋山は部屋を出て行った。
それから数分後、智樹とそはらは浴場へと向かった。
「ちゃんと男女分かれてる。よかった~。
……覗いちゃだめだからね」
そう言ってそはらは女湯の方へと入っていった。
「……」
智樹はとりあえず男湯に入っていった。
「露天か~」
ひとまず湯船に浸かる智樹。
「ふぅ~」
すると足音が聞こえてくる。
(?)
脱衣場に影が見える。
「マスター、お背中お流しします」
「ぶーーーーっ!」
そこに現れたのは裸でバスタオルを巻いているイカロスであった。
智樹はそれに思わず吹き出した。
「イ、イ、イ、イカロス!」
「あーーーーーー! アルファー、こんなところに……!」
「ニ、ニンフ! イカロスを連れて……」
「トモキの背中を流すのは私よ!」
「そっちかよ!」
脱衣場で暴れる二人。
「お兄ちゃん、背中を流しに来たよ~♪」
今度はカオスまでやって来た。
「カオス! あんたまで…」
「マスターの背中を流すのは私の役目」
「私よ!」
「私だよ」
イカロスとニンフとカオスが脱衣場で戦いを始める。
「お前達………」
智樹は風呂場から一時上がり、脱衣場に向かう。
「出て行け!」
智樹はひとまずイカロス達を追い出した。
「まったく…」
再び風呂に入る智樹。
「智ちゃん、どうしたの?」
「あ~、そはらか~」
壁を越えてそはらと会話する智樹。
「……ってことがあってさ~」
「ははは、大変だったね、智ちゃん」
「笑い事じゃねえよ、たく~」
二人はのんびりとお風呂に浸かる。
「………」
智樹は静かに動く。
「…………」
智樹は覗こうと思っていた。
実は智樹は数日前にカオスとある特撮番組を見ていた時のセリフを覚えていた。
『女が露天風呂に入るっことはな、覗いてくれって言ってるようなもんだぜ』
と言う滅茶苦茶な解釈で覗こうとしていた。
(余談だが、このセリフは脇役でなく、変身ヒーローが言ったセリフである)
智樹は音をたてないように静かに動き、壁に近づく。
(よし、後は登る場所を……)
智樹が登って覗ける場所を確認した時である。
壁が突然消え、男湯と女湯の境界線がなくなる。
「きゃああああああああああ!!!」
そはらは殺人チョップを水走りで走らせ、智樹に直撃させた。
それから部屋に戻った二人。
「まったく……」
「失礼します」
そこに守形がやって来る。
「守形先輩、なんなんですか、あれは!」
「あれとは?」
「露天風呂の仕掛けっすよ!」
「あれか。あれは秋山の仕業だ」
「あの人は……」
「お前が覗くだろうと思って、堂々と覗けるように壁に一定時間以上近づいたら消えるようにしていたそうだ」
「まったくあの人は……」
「そうだぜ。覗くなら壁からこっそり覗くのが至高なのによ!」
智樹はそはらチョップを受けたのは言うまでもない。
「………とにかくそろそろ食事が来ると言うことを伝えに来た」
「それはどうも…」
守形が部屋を去る。
それから数分後、ニンフとカオスが料理を持ってくる。
「料理です」
「うわ~、おいしそう~」
「なあ、これ誰が作ったんだ?」
「イカロスお姉様と日和お姉ちゃん」
「なら安心だな」
「「いっただっきま~す♪」」
智樹とそはらは食事を取る。
「おいしいね」
「ああ、本当に旅館に来たみたいな味だぜ」
「智ちゃん、ここも一応旅館だよ~」
二人が食事を終えてすぐのことであった。
「? ねえ智ちゃん、外が少し騒がしくない?」
「何だろう?」
智樹とそはらが窓から外を見てみる。
すると旅館の玄関には黒服の人間が大勢と、その黒服を率いる一人の女性。
その女性とは美香子であった。
そしてその美香子たち、五月田根家に対応していたのはイカロスだった。
「申し訳ございません、お客様。
本日は貸切なのでお引き取りを…」
「あら~、だったらこの旅館を買い取るわよ~」
美香子が指を鳴らすと黒服の一人が大金を持ってくる。
「ここに10億あるわよ~」
「申し訳ございません、お客様。
当旅館のオーナーの指針のため、どれだけ大金を積んでも売る気はございません。
どうか本日はお引き取りを……」
「仕方ないわね~」
美香子が笑みを浮かべる。
すると黒服の半分が男達はイカロスを囲む。
「イカロスさんが相手でも、美香子お嬢様のためだ!」
「覚悟してくだせえ!」
「……お客様、力で排除されるのでしたら………私も実力を持って排除します!」
イカロスがウラヌス・クイーンモードになって周りにいた黒服達を吹き飛ばす。
「やるわね~、イカロスちゃん。
だったら……」
美香子が指を鳴らすと残っていたもう半分の黒服達が銃やら兵器やら大量に出してくる。
「それと…アストレアちゃ~ん」
「は~い」
美香子に呼ばれてアストレアまでやって来た。
「あの旅館を潰しちゃって~。おむすび、好きなだけあげるわよ~」
「さっすが師匠! 私、頑張ります!」
アストレアもchrysaorを取り出す。
「…………」
イカロスがさらに出力アップを図ろうとしていたら……。
「当旅館のオーナーの俺も実力で排除させてもらう!」
いつの間にか現れていた秋山が闘気を放出し、その放出された闘気だけで銃などの武器を破壊した。
そしてイカロスの発する衝撃によって黒服達は残らず吹き飛ばされていった。
「…って、師匠! あれ、イカロス先輩に秋山じゃないですか!」
黒服達のせいでアストレアは旅館は見えていてもイカロス達は見えていなかった。
「ぜ、ぜ、ぜ、絶対死んじゃいますよ~」
アストレアのに実力では絶対に勝てない相手であるイカロスと秋山。
二人に本気で喧嘩を売ればアストレアは簡単に葬られるだろう。
アストレアはそのことを重々理解していたために怯えはじめる。
「アストレアちゃ~ん、お・む・す・び、お・お・も・り♪」
「頑張ります!」
イカロスの前に立つアストレア。
「アストレア……」
「イカロス先輩、私絶対負けません!」
イカロスとアストレアが衝突する。
そして秋山の前には美香子が立っていた。
「英君じゃないのは残念だわ~」
「守形はこの旅館の番頭をやらせてるため、代わりにオーナーであるこの俺が相手だ」
「まあ神様殺しと言うのも面白いわね~」
「残念だが俺は人だ!」
秋山と美香子も激突する。
その二つの衝撃は智樹達の部屋にも届く。
「なんで会長にアストレアがここにいるんだよ!」
「それより智ちゃん、これって危なくない?」
「絶対あぶねえ!」
智樹達は出て行こうとするが、それはそれで危ないので部屋の中で伏せることにした。
「失礼します」
そこに何事もなく部屋に入って来るニンフとカオス。
「あ、ニンフ! カオス! ちょうどいい、お前達もあいつら止めに行ってくれ」
「いやよ」
ニンフは即答した。
「な、なんで?」
「秋山お兄ちゃんに『お客の安全はなかえの仕事だから』って言われたの」
「だから私達、ここで守ることにしたのよ」
ニンフとカオスは部屋に入るなり正座する。
「だから安心してね♪」
「ニンフさんとカオスさんなら大丈夫じゃない? 智ちゃん」
「だったらいいんだけどな……」
そうこうしているうちに外では戦闘が激化していた。
「ばったんきゅ~」
アストレアはイカロスに負け、倒れる
「アストレアちゃん!」
「ちぇえあああああ!!」
秋山が手刀ならぬ足刀で美香子を攻撃しようとする。
美香子はそれを紙一重でよけアストレアの所に駆け寄る。
「どうやらここまでね。今日は退いてあげるわ。
また来るわ」
「「またのお越しをお待ちしております」」
イカロスも秋山も旅館従業員の態度を取る。
美香子はアストレアを連れて去っていった。
「終わったみたいだね」
「ああ」
智樹達がようやく起き上がる。
「それじゃあお客様、お疲れを……」
「マッサージしますけど、よろしいですか?」
「マッサージ」
「よろしくお願いします!」
ニンフとカオスが智樹とそはらをマッサージする。
「あ、そこそこ……気持ちいい」
「いたたたた! ニンフ! もう少し手加減!」
「我慢しなさい!」
「ぎゃあああああああ!!!」
旅館に智樹の声が響く。
そして翌日。
『またのお越しをお待ちしております』
昨日と違い、イカロス達四人に加えて、守形に秋山も見送りをしていた。
「皆、ありがとね」
「ところで俺達どう帰るんだ?」
旅館周りは晴れだが、それ以外は未だに大雨状態だった。
「大丈夫」
秋山が智樹の家の部屋の襖を召喚する。
「お帰りも襖から」
「「………」」
ひとまず襖から帰る智樹とそはらだった。
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これは2年ほど前に書いたもので「花咲くいろは」を見た影響で書いたものです。ちなみにタイトルは昔見たことあるドラマのタイトルからです。
また作者の分身となるオリジナルキャラも出てきます。