No.678616

機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 運命を切り開く赤と菫の瞳

PHASE15 ロゴス

2014-04-13 21:42:34 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2641   閲覧ユーザー数:2522

基地の陥落を受け、ガルナハンの町は騒然としていた。町中の人間が家を飛び出し、これまでここを支配してきた連合に対して反抗に出たのだ。連合が接収した建物に石が投げ込まれ、旗が引きずり降ろされて踏みつけられた。

人々は狼狽える兵士たちを引き出し、奪われた物資を奪還し、勝利の雄叫びを上げて道を駆け抜ける。 喜びに沸く人々の中心に、担ぎ上げられた小さな人影が見えた。ミネルバからの帰還を果たしたコニールだ。少女は男たちに軽々と抱き上げられ、肩車されて連れ回されていた。インパルスのコクピットから降りたシンはその光景を見やり、微笑みを浮かべる。

勇敢な少女は同胞たちに讃えられ、年相応の無邪気な顔で笑っている。彼女がこの町を救ったのだ。

だがシンの目は日の当たる面と同時に、影の部分にも向く。広場に引き出され、一列にならばされた連合の兵士たちが、一人ずつ撃たれて処刑されていた。銃を握る住民たちの顔には一片の憐れみもない。無理もないことだ。彼らはこれまで自分たちが受けたのと同等の扱いを、兵士たちに返しているのだから。

一方が勝てば、負けたもう一方が苦しみを嘗める。戦いの向こうには必ずこんな図式が待っているのだ。

そんな事はアカデミーとヤキンで思い知らされたはずなのに、シンはその光景から目を反らずには居られなかった。

その時、ミネルバから通信が入る。

 

『ご苦労だったわね、シン。あとはラドル隊に任せていいわ。帰投してちょうだい』

 

タリアの指示にほっとしたものを感じながら、シンは「はい」と答えた。

タラップに出た途端、アーサーが感嘆の声を漏らした。

 

「ディオキアかぁ……綺麗な街ですねえ」

 

横を歩いていたタリアも足を止め、港の向こうに広がる風景に目をやった。

ガルナハンを突破したミネルバは内陸部を抜け、黒海に面したこのディオキア基地に辿り着いたところだった。煙る世綱緑の山を背に、白い家並みが広がり、その中から美しい尖塔が明るく晴れ渡った空をさす。澄んだ青い海はプラントを思い出させた。

 

「何だかずいぶんと久しぶりですよ。こういうところは」

 

アーサーがしみじみと言い、タリアも思い当たって頷く。

 

「海だの基地だの、山の中だのばかり来たものね。……少しゆっくり出来たら、皆も喜ぶわね」

 

クルーの殆どは都会育ちだ。プラントにも農業プラントなどはあるが、限られた空間に住まう宇宙移民にとって、人里離れた土地というものは馴染みがない。このディオキアにしても大都市というにはほど遠いが、これまで異質な環境下にいたクルーには、落ち着きをもたらす場所だろう。

そう考えながら基地指令に向かったタリアは、しかし周囲を見回し手足を止める。

 

「……でも、これは?」

 

「はあ……なんでしょうね?」

 

基地施設の一角に、兵士たちがひしめき合い、落ち着かない様子でざわめいている。施設内だけではない。基地を巡るフェンスにも、民間人らしい人々が、何故か期待の表情を浮かべて張り付いていた。

その謎はすぐに解けた。寄港の手続きをしながら、係官が上機嫌で言った。

 

「あなた方は運がいい。ちょうど、慰問コンサートがあるんですよ」

 

そしてタリアたちが再び外に出た途端、割れるような歓声と拍手がわき起こった。タリアは皆の視線を追って、上空を振り仰ぎ、思わずぽかんと口を開ける。

眩しい青空を背に、ディンともう二機、オレンジ色の空中戦用モビルスーツとトリコロールにヒゲのようなものを生やしたモビルスーツに両脇を抱えられ、ピンクにカラーリングされた、ザクが舞い降りてくるのが見えた。肩にはハートマーク、胸部にはでかでかと『LOVE!』の文字がペイントされている。あまりの派手さにタリアは目が眩みそうになった。そのザクが注意深く胸に抱え込んだ手に、小さく人影が見えることに、彼女は遅れて気付く。

その時、スピーカーから愛らしい声が響き渡った。

 

『みなさあーん!ラクス・クラインでーす!』

 

その声に応えて、地をどよもすような歓喜の声が周囲に轟く。ディンとオレンジの機体とヒゲの機体はピンクのザクをステージにそっと下ろし、後ろに下がる。軽快なイントロが流れ出す。

ザクの手の上でピンクの髪を振りながら、プラントきっての歌姫、ラクス・クラインが歌い始めた。

だがタリアはラクスのコンサートよりも、後ろに下がっているオレンジの機体とヒゲの機体に注意を惹かれる。最初はフライトユニットを追加したザクかと思ったが違う。頭部はザクのそれよりやや簡略化され、隊長機を示すアンテナが額から伸びる。また、ヒゲの生やしたトリコロールもどこかインパルスや奪取されなセカンドステージの面影が見える事から、これらは新型機なのだと理解した。

 

(それにしても新型機が慰問コンサートの随伴?)

 

奇妙なものを感じたタリアの目が、基地の一角に着艦している輸送艦に止まる。そこから降り立ったのは黒い髪を風に吹き乱した、細身の男……タリアには、どれだけ離れても見分けることの出来る男の姿だった。

ギルバート・デュランダル議長だ。彼が何故……?

オレンジの新型機から降りてきた赤服の兵士が、彼に恭しく敬礼する。

なるほど、そういうことか。あの新型はラクス・クラインではなく、プラント議長の随伴でここに来たのだ。

タリアは思わず遠くにいるデュランダルを睨む。するとその視線に気付いたかのように、男はこちらに目をやり、微笑んだ。この人混みの中で、人目でタリアを見分けたようだ。女にとって気分の悪いものではない。しかし、議長直々の名を受けて動いておるフェイスにとっては、わざわざお忍びで当人がお出ましというのは、少々気掛かりな状況だ。

タリアは既に自分たちに与えられた任務がどういえものかを承知していた。オーブ沖で圧倒的多数の敵を単艦で破ったミネルバは、望むと望まざるとに関わらず、周囲の耳目を集める存在となっていた。そんな彼女らに、デュランダルは必然的に、ある役割を割り振った。各地で連合の暴虐に苦しむ人々を解放する『正義のヒーロー』としての役割だ。ヒーローは勝ち続けなければならない。勝てば勝つほどミネルバの……ひいてはプラントのイメージは高まり、悪役(ヒール)を演じる連合は権威を落としていく。戦争にプロパガンダはつきものだ。そのために彼女はフェイスに命じられ、同じくフェイスのアスランはつけられた。そう、それを十分に理解している。だが実際に勝ち続けなければならない重圧はかなりのものだ。

 

「いやぁ、ホントにこれは運がいい!」

 

タリアの心中に気付く気配もなく、アーサーがラクスの歌に合わせて楽しげに体を揺すっている。難の悩みもないお気楽そうな顔を見ながら、タリアは少し考えた。

今、彼を絞め殺したら、代わりの副長を見つけるのは難しいだろうか━━と。

 

 

 

同じ頃、艦内のレクリエーションルームに集まり、舷窓からディオキア基地の様子を窺っていたクルーの中に、シンはいた。ピンクのザクが舞い降りてくるのを、インド洋の件についてDO☆GE☆ZAで謝罪するアスランと対応に困っているマユを横目に見てると、曲が流れ出し、その途端にヴィーノが歓声を上げてモニターに飛び付いた。彼が操作したモニターに、ピンクの髪をなびかせた少女が大写しになる。

 

「えっ、ラクス様!?」

 

「うそぉぉっ!」 

 

くるーたちも、外に降り立った人物が誰かに気付いて喜びの声を上げ、モニターや舷窓に駆け寄った。そんな中、シンとレイは興味がないのか、彼らのようには駆け寄らず。イチカは少し離れたところからラクス・クラインを眺めて、アスランは頭から音を立てて血が引くのを感じていた。

 

「すごいっ、本物のラクス・クライン!?」

 

さっきまで横にいたルナマリアが、目を丸くして叫ぶ。

昔からこういったアイドルというジャンルに興味を示さないシンには、今のルナマリアや、プラントに引っ越した当時のマユの気持ちはいまいちよくわからなかった。

上陸許可が下りた途端、クルーは先を争ってハッチから飛び出す。シンもルナマリアとアリサに誘われる(という名の連行の)ような形で艦を降りた。コンサート会場の手前で三人は立ち止まり、盛り上がる観客の後ろから、ピンクのザクの掌で歌う少女の姿を眺めやった。楽しげな周囲の人々と違い、シンは心底興味がなさげだった。そんな時、コンサートを見ていた二人が同時によろけ、小さく悲鳴を上げてシンの腕にしがみついてきた。少女たちの胸が思い切り両側から体に押し付けられ、シンは驚いて身を引いた。

 

「わっ、ごめん。誰かがぶつかってきて……」

 

アリサが頬を赤らめて詫びた。なるほど、彼らは会場へと続く通路の真ん中に立っている。遅れて会場に駆けつけた兵士たちが、ラクスの方に気をとられて走ってくるから、ぶつかられても仕方がないのだ。

 

「そ、そうか……ここは危ないな。向こうへ行こう」

 

シンはルナマリアとアリサを庇って、建物の方へ歩き出した。レイとヨウランが、不敵な笑みを浮かべていたような気がしたのは、何故だろう?

 

「ラクス様ーっ!ありがとうございまーすっ!」

 

兵士の叫びに応え、ラクス・クラインは身を乗り出して手を振った。

 

『わたくしも、こうしてみなさんにお会いできて本当にうれしいですわー!勇敢なるザフト軍兵士のみなさぁーん!平和のために、本当にありがとうー!』

 

そして彼女は、フェンスに張り付いてこちらを見守っている民間人に手を振る。

 

『そしてディオキアのみなさーん!一日も早く戦争が終わるよう、わたくしも、切に願ってやみませぇーん!』

 

ディオキアの住民たちも、その呼びかけに喜色を浮かべて歓声を上げる。

 

『その日のために、皆でこれからも頑張っていきましょーうっ!』

 

やっとの事でコンサート会場から抜け出したとき、シンはびっしょりと嫌な汗を掻いていた。なお、彼の両腕はそれからしばらくの間まで四つのお饅頭に押し潰されていたとだけは言っておこう。

「全く……呆れたものですわね、こんなところにおいでとは」

 

タリアが嫌味っぽく声をかけたが、窓の手すりにもたれていたデュランダルは、さも楽しげに声を立てて笑った。

 

「はは、驚いたかね?」

 

振り向いた男の顔には、彼にしては珍しくいたずらっ子のような笑みが浮かんでいる。その笑顔を見た途端、相手に対する愛情が胸を暖かくした。タリアは苦笑してみせる。

 

「ええ、驚きましたとも。━━ま、今に始まった事じゃありませんけど」

 

デュランダルが上機嫌な理由が、自分の顔を見たせいだけじゃないことをタリアは心得ていた。彼がここに来るまで乗ってきた輸送艦の艦長室に呼ばれたのは、彼女だけではなかったからだ。

 

「元気そうだね。活躍は聞いている。嬉しいよ」

 

デュランダルがこちらに歩み寄り、タリアは横に背を伸ばして立つレイに、暖かな声をかけた。途端にレイが、日頃は決してみせることのない、幼い子供のような笑みをおずおずと浮かべる。

 

「ギル……」

 

「こうしてゆっくり会えるのも久し振りだな」

 

デュランダルがその長身を少し屈めると、レイはまるで子供のようにその首に飛びつく。デュランダルも強く彼を抱き返し、レイはしばしの間、心から安らいだ表情になった。彼らの間にどういう事情があるか、タリアは知らない。また詮索するつもりもない。だがこうして見るだけで、その関係の深さは察することができる。

デュランダルの顔に漂う父親めいた表情を目にして、彼女の胸の奥が微かに疼いた。

しばらくして、三人は艦長室のテーブルに着いた。

 

「大西洋連邦に何か動きでも?」

 

タリアは実質的な気分に戻り、隣に座したデュランダルに問いをぶつけた。

 

「でなければ、あなたがわざわざおいでになったりはしないでしょう?でも、何ですの?」

 

「ん?」

 

目の前に注がれた茶を見下ろした後、デュランダルははぐらかすように笑う。

 

「そうかな?━━というか、みな、そう思うか、やはり?」

 

やはり、煮ても焼いても食えない男だ。タリアは見せつけるように溜め息を付いた。

 

「まあ、それもあるのだがね……」

 

意味深な言葉を口にするデュランダルに疑問を抱いたタリア。しかしそこへ入り口の方から声がかかった。

 

「失礼します」

 

艦長室に姿を現したのは、赤みがかかった金髪の、赤服を着た青年だった。さっき新型モビルスーツの片割れから降りたところを見たパイロットだ。その襟元にも、タリアやアスラン、イチカと同じフェイスの徽章が光っている。

 

「お呼びになったミネルバのパイロットたちです」

 

彼の後ろには、シンとルナマリア、アリサ、ショーンにデイル、マユがしゃっちょこばっていた。年若いイチカとアスランも、彼らといるとまるで保護者のようだ。タリアは思わず目を綻ばせた。

 

 

 

シンはデュランダルが立ち上がり、自分たちを迎えて歩み出るのを見て、無意識に襟元を正した。

 

「やあ、久し振りだね、アスラン、イチカそれにマユ」

 

敬礼するパイロットたちの前に立ち、デュランダルはまずアスランに手を差し出した。

 

「はい、議長」

 

アスランが敬礼の手を下ろし、その手を握り返す。続いてイチカとも握手を交わすと次にデュランダルはルナマリアに目を向ける。

 

「それから……?」

 

「ルナマリア・ホークであります!」

 

「アリサ・フロリアであります!」

 

「ショーン・ラッケンであります!」

 

「デイル・アーノインであります!」

 

ルナマリア、アリサ、ショーン、デイルがそれぞれの調子で名乗り、残ったシンも慌てて胸を張る。

 

「シ……シン・アスカです!」

 

するとデュランダルは先回りするように言った。

 

「君の事は、よく覚えているよ」

 

「えっ……」

 

思いもかけない言葉に、シンは目をまん丸く見開く。

マユの兄だから、という事もあるかもしれないがそれでもプラントの最高議長が自分の名を覚えていてくれていることに戸惑いの表情を浮かべる。

そんな彼の戸惑いを余所に、デュランダルは穏やかに微笑みながら手を差し出す。

 

「この所は大活躍だそうじゃないか。叙勲の申請も来ていたね。結果は早晩、手元に届くだろう」

 

手放しで賞賛され、シンは誇らしさではち切れそうになった。議長が自分の働きに目を留めていてくれたなんて!

ルナマリアたちに目をやると、彼女たちも自分のことのように喜んでくれているのが分かる。シンは頬を紅潮させながら、両手でデュランダルの手を握った。

 

「あ……ありがとうございます!」

 

デュランダルに促されて輸送艦の格納庫へ向かう道中でも、デュランダルはシンに向かって話し掛ける。

 

「例のローエングリンゲートでも素晴らしい活躍だったそうだね、君は。たいしたものだ」

 

自分の働きをデュランダルに評価されて舞い上がっていたシンは、ふと気付いて言葉を挟む。

 

「いえ……あれはイチ━━オリムラ隊長の作戦が凄かったんです。俺━━いえ、自分はただそれに従っただけで……」

 

ちらりと目をやると、イチカは半分普段の天然になりかけつつある表情でデュランダルの後に続いていた。流石に議長の前でも緊張の素振りもない。……もっとも、元からある無自覚天然もそれを手伝っているのだろうが……。また艦長のお伴で来たのか、最初から部屋に来ていたレイも、何時ものポーカーフェイスだ。

 

「この街が解放されたのも、君たちがあそこを陥としてくれたお陰だ。いや、本当によくやってくれた」

 

これ以上ないほど褒め称えられ、ショーンが喜色満面で「ありがとうございます!」と、勢い良く頭を下げた。

その後、話は現在の戦況に向かう。

 

「ともかく今は、世界中が実に複雑な状態でね」

 

デュランダルが嘆息混じりに言うと、タリアが、誰もが気になっていることを尋ねる。

 

宇宙(ソラ)の方は今、どうなってますの?月の地球軍などは」

 

「相変わらずだよ」

 

デュランダルはうんざりしたように答える。

 

「時折、小規模な戦闘はあるが……まあ、それだけだ」

 

シンはそれを聞いて少し安堵した。はっきりしなくて苛々させられる戦況ではあるが、少なくともプラントにしばらく危険はないようだ。本国に家族のいるルナマリアたちにとっては、何よりの報らせだろう。

 

「そして地上は地上で、何がどうなっているのか、さっぱりわからん。この辺りの都市のように、連合に抵抗し、我々に助けを求めてくる地域もあるし……」

 

デュランダルは小さく肩をすくめながら、続ける。

 

「一体何をやっているのかね、我々は……?」

 

どうも話によると、このディオキアは、ユーラシアからの独立を叫んで立った都市の一つらしい。ユーラシアと大西洋連邦はそれらの独立運動を武力で押さえ込もうとし、武力で太刀打ちできないディオキアのような都市は、ザフトに救援を頼んだ。そして連合軍を排除したのは、ザフトの拠点の一つとなっている。先日陥としたガルナハンにしても同じだ。

確かに、奇妙な事になっているとシンも思った。そもそも戦争が起こったのは、一部の連中が起こしたユニウスセブン落下のせいで、地上の人々(ナチュラル)がコーディネイター全員を許せないと言い出したからなのだ。なのに今は、ナチュラルがナチュラルを殺し合っていて、コーディネイターの自分たちに助けを求めたりしている。

 

「停戦、終戦に向けての動きはありますか?」

 

イチカが尋ねると、デュランダルは苦笑して彼に目をやる。

 

「残念ながらね。連合側は何一つ譲歩しようとしない。戦争などはしたくはないが……それではこちらとしても、どうにも出来んさ」

 

その話を聞いて、シンの胸に古い埋み火がまた燃え上がる。連合はいつもそうだ。訳の分からない理屈で戦争を始めて、自分たちの仲間であるはずのナチュラルまで苦しめて、飲めるはずのない無理難題を押しつけようとする。戦争なんてみんな嫌いなはずなのに、自分の方からは絶対にやめようとはしない。シンから見れば、頭が可笑しいとしか思えなかった。

 

「いや……軍人の君たちにする話ではないかもしれんがね」

 

デュランダルは困り切ったような表情で、シンたちに微笑みかける。

 

「戦いを終わらせる━━戦わない道を選ぶということは、戦うと決めるより、遙かに難しいものさ。やはり……」

 

心の奥で怒りをたぎらせていたシンは、その言葉を聞いて思わず口を開いた。

 

「でも……!」

 

途端に、その場にいる全ての視線が自分の上に集まった。シンは自分が今誰を相手にしているかを思い出して、慌てて頭を下げる。

 

「あ……すみません!」

 

しかしデュランダルは、気さくな様子で笑って促した。

 

「いや、構わんよ。思うことがあったのなら、遠慮なく言ってくれたまえ。実際、前線で戦う君たちの意見は貴重だ。私もそれを聞きたくて、君たちに来て貰ったようなものだし」

 

シンはタリアの顔色を窺い、彼女にも咎める様子が無いのを見た後、思い切って口を開いた。

 

「……確かに、戦わないようにする事は大切だと思います。でも、敵の脅威がある時は仕方有りません!」

 

オーブの理念が、シンの脳裏に蘇る。その理念のために焼かれた自分とマユの両親が。

 

「戦うべき時には戦わないと……何一つ……自分たちすら、守れません」

 

身を守る術もなく、ただ逃げるしかなかった14歳の自分が思い出される。

自分が何をしたというのだ?当時まだ9歳になったばかりのマユは?無為に殺された両親は?殺されるような悪いことなど、何一つしていないというのに。

シンは憤りを込めて、デュランダルに向かって訴えた。

 

「普通に、平和に暮らしている人たちは、守られるべきです!」

 

普通の人々━━マユが助けた、インド洋の島で無理矢理働かされていた人たちや、ガルナハンのコニールのような人たちは。━━そう、かつての自分たちの両親のような。

シンは少し興奮して言い終え、タリアやルナマリアたちが驚いたように自分を見ているのに気付いた。確かに、ルナマリアたちを相手にも、こんな話はしたことがなかった。そういえばイチカも義手の事は話していなかった筈だ。でも、そんなに驚かれると、果たして自分はこれまでどんな風に思われていたのか気になる。

 

「……それは、御両親の事を言っているのかね?」

 

ようやく辿り着いた格納庫に繋がる扉の前に立ったデュランダルが不意に尋ねてくる。シンは一瞬、ドキリとしながら何故それを知っているのかと疑問を抱いたが、イチカから聞いたのだろうと解釈して素直に答えた。

 

「……はい!」

 

扉の前のカードキーを操作し、扉を開けるとまた長い通路が見えてくる。再び歩き出すデュランダルが静かに語り始めた。

 

「争いのない、平和な世界を望むのは、誰だって同じ筈だ。特に、戦いに巻き込まれただけの、戦う意思のない人たちはね」

 

さっきの通路よりも若干暗みが掛かっているせいか、そういう雰囲気が強く感じられた。

 

「なのに何故、我々はこうまで戦い続けるのか……何故戦争は、こうまで無くならないのか?戦争は嫌だと、何時の時代も人は叫び続けているのにね。君は何故だと思う?……シン」

 

急に話を向けられ、シンは驚いてつっかえながら答える。

 

「え……それはやっぱり……何時の時代も、ブルーコスモスや大西洋連邦みたいな身勝手で馬鹿な連中がいるから……」

 

言いながら不安になってきて、彼はデュランダルの顔を窺った。

 

「……違いますか?」

 

「いや。まあ、そうだね。それもある」

 

答えるデュランダルの顔つきからすると、七十五点というところだ。彼は指を折って数え上げるように言う。

 

「誰かの持ち物が欲しい。自分たちと違う。憎い。怖い。間違っている━━そんな理由で戦い続けているのも確かだ、人は。だが、もっとどうしようもない━━救いようのない一面もあるのだよ、戦争には」

 

「え……?」

 

ようやく格納庫に辿り着いたと同時にデュランダルの口にした言葉に、シンはアリサと顔を見合わせた。デュランダルはキャットウォークの上で、こちらを見守っているかのような、オレンジ色のモビルスーツに目をやる。

 

「例えばあの機体━━ZGMFーX2000グフイグナイテッド。つい先頃、軍事工廠から正式量産機としてゲルググと共にロールアウトされたばかりの機体だが。今は戦争中だからね、こうして新しい機体が次々と造られる」

 

シンは話の流れが掴めず、戸惑いながら、淡々と続けられるデュランダルの話に耳を傾ける。

 

「戦場ではミサイルが撃たれ、モビルスーツが撃たれ、様々なものが破壊されていく。故に工場では次々と新しい機体を造り、ミサイルを造り、戦場へ送る。両軍ともね……。生産ラインは要求に追われ、追い付かない程だ。その一基、一体の価格を考えてみてくれたまえ」

 

デュランダルは振り返り、乾いた口調で言った。

 

「これを、ただ産業として(・・・・・)捉えるのなら、これほど回転が良く、また利益の上がるものは、他に無いだろう」

 

シンは衝撃を受けた。戦争を、産業としてなど見たことなど無かったからだ。それらは全く別次元の話のように思っていたり

 

「議長……そんなお話……」

 

顔を強ばらせるシンやルナマリアたちをはばかるように、タリアがそっと窘める。まるで父親が、子供たちの前ですべきでない話をしたときの母親のように。

 

「でも……それは……」

 

隣のショーンが困惑しながら聞き返そうとした。

 

「そう、戦争である以上、それは当たり前……仕方のないことだ」

 

デュランダルは頷いてみせる。だがそこで話は終わらない。

 

「しかし、人というものは、それで儲かるとわかると、逆も考えるものさ。これも、仕方のない事でね」

 

その声に僅かな苦さが加わっている。アスランが彼の言葉を理解したらしく、小さく息を飲む。だが、シンには意味が解らない。

 

()……ですか?」

 

グフイグナイテッドを背に佇む長身の男は、ここで冷ややかな笑みを漏らした。

 

「戦争が終われば兵器はいらない……それでは儲からない。だが、また戦争になれば?━━自分たちは儲かるのだ。ならば戦争は、そんな彼らにとっては、ぜひともやって欲しいこと(・・・・・・・・)となるのではないのかね?」

 

「そんな……!」

 

シンは思わず息を飲んだ。

 

「『あれは敵だ。危険だ、戦おう』『撃たれた、許せない。戦おう』━━人類の歴史には、ずっとそう人々に叫び、常に産業として(・・・・・)戦争を考え、作ってきた(・・・・・)者たちがいるのだよ。自分たちの利益のために……ね」

 

デュランダルは言い、辛そうに溜め息を吐いた。

 

(信じられない……!)

 

シンは呆然としていた。

自分たちの利益のために戦争を起こす?金儲けのために、他人を蹴落としたり、環境を破壊したりする人がいるのは知っていたが、これはそんなのとは次元が違う。戦争なのだ。破壊されるのはものだけではなく人の命なのだ。そんな理由で何千、何万もの人間を殺して、そいつらは平気なのか?人の血を絞って作った金で生きていくことに、何も感じないというのか?

あまりに理解を超えた話に、シンは怒りさえ覚えなかった。代わりに感じたのは、肌が粟立つような気持ち悪さだけだ。そんな理由と比べれば、コーディネイターだから、という理由の方がまだしも理解できる。

デュランダルは悲しげに言う。

 

「今回のこの戦争の裏にも、間違い無く彼ら━━━『ロゴス』がいるのだろう。彼らこそが、あのブルーコスモスの母胎でもあるのだからね」

 

聞き慣れない単語に、アスランが反応する。

シンはあまりにやりきれない図式を初めて理解して、黙り込んだ。

何故ブルーコスモスのような者たちの意志が、こんなにも強く罷り通っているのか。その背後に巨大な力が存在しているからだ。ブルーコスモスにしろ、その言葉に同調して戦場に赴く人たちにせよ、ジツは死の商人に踊らされているだけなのだ。

 

「……だから、難しいのはそこなのだ。彼らに踊らされている限り、プラントと地球は、これからも戦い続けていくだろう……」

 

デュランダルの言葉を聞きながら、アスランは何か考え込んでいるようだった。

 

「出来ることなら、それをなんとかしたいのだがね、私も。だが、それこそが……何より本当に難しいのだよ」

 

議長は深く息を吐き、並んでいる様々なモビルスーツに遠く目をやった。

シンはキャットウォークの上で強く拳を握り締める。

こんなことってあるのだろうか?ロゴス━━死の商人。そんなヤツらの金儲けのために、父さんや母さんは殺され、イチカは夢を踏みにじられたのだ……!

【オ マ ケ】

輸送艦へ向かう前のミネルバにて

 

凸ラン「マユ!」

 

マユ「ほへ?アスランさn「すまなかった!!」ええっ!?」

 

凸ランは マユに DO☆GE☆ZA をした!!

 

凸ラン「インド洋についてやりすぎたことを、ずっと謝らなくちゃいけなかったのに……忙しいのを言い訳にして、ここまで謝らずに本っ当にすまなかった!!!」

 

マユ「え、えっと……大丈夫ですからアスランさん。とりあえず、頭を上げて下さい。その……髪……」

 

凸ランの 髪が DO☆GE☆ZAによる床の擦り付けによって 僅かに抜け落ちていた。

 

凸ラン「気にするな!女の子をぶった俺にはこの程度……むしろ育毛剤と墨汁をすり替えられた事で俺が髪の毛について意識してることがバレてしまった方がまだマシなんだっ!!」

 

マユ(どうしよう……レイお兄ちゃん経由でパイロットの皆は全員知ってるだなんて……言えない。というかアスランさん気付いてないんだね……)

 

マユの 視線の 先には 整備兵のヴィーノ と ラッキースケベ命名者ヨウラン と 副長のアーサー が いた!!

 

ウィィィィィィィィィィィィィン!

 

凸ラン「ん?」

 

マユ「あっ、さっきお兄ちゃんが完成させたっていたペットロボだ。今はお掃除モードみたい」

 

凸ラン「ペットロボ……だと?」

 

マユ「はい。HAROって言うんですよ」

 

HARO「オソウジ、オソウジ」

 

凸ラン「そ、そうか……(俺がラクスに上げたハロに似て……というかまんまだな)可愛らしいな」

 

マユ「ちなみにあのHAROは三号機で、一号機と二号機は私が五歳の誕生日の時にお兄ちゃんとイチカお兄ちゃんがそれぞれ造ったんですよ」

 

凸ラン(まて、マユが五歳ということは二人はまだ十歳……つ、つまりあの二人は俺よりも先にハロを造ったというのか!?)

 

マユ「お兄ちゃんってば、イチカお兄ちゃんに負けたくないからってお父さんの職場に入り浸って技術を学んだら一年かけて完成させちゃったんですよ。ふふ、あのころのお兄ちゃんは負けず嫌いで可愛かったな~♪」

 

凸ラン(これが所謂、『ブラコン』というものなのだろうか?)

 

HARO「オソウジ♪オソウジ♪」

 

凸ラン「………………って、ああ!!俺の髪が!!」

 

HARO「ゴミハゴミバコヘ、チャント、イレマショー」

 

凸ラン「俺の髪はゴミじゃなーい!!!」

ちなみに、一号機HAROは白、二号機は黒、三号機は金のカラーリングで出来てます。


 
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