「じゃあ、こうしてみんなが集まったところで話の前に一つ二つ聞くけど、いいかしらダーリン?」
魏の武将と軍師、あと三姉妹が集まっているのは玉座の間である。
此処には彼女らしかいない。
「いいけど、ダーリンはやめてくれ…」
「ダーリンとはなんだ北郷?」
「簡単に言うと俺と春蘭みたいな関係だよ…」
確かに愛を誓い合った関係というのならば春蘭にとって一刀はダーリンであろう。
「なるほど、上司と部下か」
が、春蘭はこういう人物である。
「春蘭、今の一言は結構傷ついたよ」
「まぁ、漫才は置いておいて。質問その①北郷一刀は此処にいる人物たちを愛していますか?」
「なんだか恥ずかしい質問だな。答えは、『心の底から愛している』だよ」
「質問その②この他に愛している人物はいますか?」
その瞬間、部屋の温度が10度は下がったような気がするが気のせいではなく、浮気?をしていたらたたき斬るという武将たちからのメッセージである。
「いないよ」
しかし、そんなことに気づく前に一刀は答えていた。
その瞬間、部屋の温度が逆に上がったような気がするが、これは安堵の気持からである。
「わかったわ、ということは、該当者はここにいる子たちだけね…」
該当者、この言葉ものちに重要な意味を持つことになる。
「それで、どういうことなのか説明して頂戴。まずはあなたのことから教えてもらえるかしら?」
こう質問したのは、いつの間にか絶を取り出していらっしゃった華琳。
「いいわよ~ん。私はこの外史の管理者で、今日もそのことで話をしに来たの」
と、簡潔に説明をする貂蟬であったが、そんな簡単な説明でわかる人間はどこにもいなかった。
「なぁ秋蘭、外史とはなんだ?」
その筆頭が春蘭である。
困った時の秋蘭頼みをする春蘭だが、今回ばかりは知らないようで、首を振るしかない秋蘭であった。
「風たちはわかるか?」
秋蘭でさえ分からないとなると頼るのは軍師しかいない春蘭であった。
「すみませんがわからないですね~。外史のほかに内史または正史がありそうかな~くらいのことしかわかりません」
「私もわからないから、まずはそこから教えてくれるかしら?」
さすがの華琳といえどもわからないようである。
「さっきの説明で大体あってるわ…。正史の反対の世界が外史よ」
「いや、それ説明になってないから。もう少し噛み砕いて教えてくれないかな」
天の御使いの北郷一刀でもわからないのである。
「正史というのはダーリンが知ってる三国志の世界よ。外史というのは簡単に言うとフィクション
の世界よ」
「三国志というのは前に一刀が言っていた私たちが全員男で進む物語のことね?」
「あれは気持ちが悪かったな」
「まぁ、その物語のおかげで私は助かったんだがな…」
「じゃあ最初から話をするからしっかり聞いて」
それから貂蟬は話し始めた。
外史とは人の想いによって作り出されるものであることや、最初の外史での新しい外史への分岐の話。
そしてここも外史の一つであること、本来の北郷一刀はあのままあの空間に存在し、そのまま消えることになったあろうこと等である。
「ということは俺たちは物語の中の登場人物ってことか?」
当事者である北郷一刀でさえ認められていない状況である。
もちろん他の皆も納得ができていない。
しかし、ひとりだけ違う人物がいた。
春蘭である。
「皆、何を悩んでいるのだ?」
「あのね、春蘭今の話を理解してたかしら?」
さすがに華琳もため息がとまらない。
「私たちが作られたものかもしれないということですよね?」
「そうだが、姉者は気にしないのか?」
「何を気にする必要があるのだ?私は私だし、華琳さまは華琳さまですし、私が一刀のことを好きでいるのも私の意志です。それが誰かの意志であったとしても、別に気にすることはありません」
そう言う春蘭はいつもの何かがわからない時の顔ではなく、一対一の鍛練などのときと同じ迷いのない顔をしていた。
このとき呼び方が「北郷」ではなく「一刀」になっていたのは気持ちの表れであろう。
「ふふふ、春蘭に教えられるとはね。そうね、そうだわ春蘭の言う通りだわ」
困惑していた武将たちであったが、この言葉を聞いて安心したのかいつもの顔になっていた。
「で、今回はそれがどう関係しているんだ?」
本調子になった一刀が話の続きを促していく。
「今も言ったけど、外史には無限の可能性と無限の話があるのよ。でも、本来の話はひとつだった
でしょ?それが問題なの」
「本来の話からずれているということか?いわゆるオリジナルキャラクターとかとんでも設定とかか?」
「いいえ、それも外史よ」
「では何かしら?」
話の主導権を持とうとする姿勢はもう魏の覇王である。
「外史の量よ…。外史が外史を作り、その外史の中でさらなる外史が生まれる。外史は無限といえど世界の許容量が問題だったの」
「パソコンみたいなものか?」
「そうね、でもいまはHDDを増設した状態だからもう大丈夫なんだけどね」
「ぱそこん云々の話はわからないからいいけど、何が問題なの?」
「外史は結局は終わるものなの、長いか短いかは置いておいたとしてもね…。その中の一つの物語が問題だったのよ…」
「どんな物語なんだ?」
「この外史とかなり似てはいるのよ。でも最後が違う。あなたを残してみんなが死ぬのよ」
その言葉を聞いた瞬間、一刀は自分のことではないにせよ、その北郷一刀のことを思うと同情を禁じ得なかった。
「どう死ぬの?」
やはり、自分ではない自分といえども魏の覇王としては死にざまは気にはなるようだった。
「五湖の大軍勢と北方の騎馬民族によって攻められて終わるのよ。呉と蜀の人たちもしんでしまう外史よ」
「で、なんで俺は生きていたんだ?そいつが俺なら…」
華琳たちのために死ぬはずだとはこの場では言えなかった。
「他の子も他の子と一緒なのよ。あなたを生かせるためにあなたを気絶させ、船にのせて逃がしたのよ…」
そこにいた皆がその場面を想像してみるが、やはり同じ考えに至ってしまった。
「それで、その俺が問題なのか?」
「そのダーリンはすべてに絶望したの、すべてに…」
こうして物語は進んでいく
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毎度短くてすんません
なのに、何か長くなりそうですいません
よかったら見てやってください