No.676634

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 外伝 第005話

今回は以前から起き貯めしていた外伝編を投稿します。

改正版出しました。
また後半にて、月が助かった経緯について少し触れる場面が出ますが、この文章は本編24話を投稿する前に作ったものですので(まぁ、だからこの作品は今まで投稿出来ずじまいだったんですがねww)、24話での月とのワンシーンとは若干異なります。

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2014-04-06 03:16:17 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1189   閲覧ユーザー数:1133

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 外伝 第005話「忠と憎しみの狭間の中で」

正義と鈴華はただ今洛陽にいた。

今は亡き少帝が洛陽に火を放ってから、献帝(仮)の指揮により復興作業が進んでいた。

そんな街中を二人は今別行動で歩いていた。

 

正義は今中央広場にいた。

途中で饅頭(まんとう)など撮み物を買いながら、所々焼けた家を見て、そんな街中を歩き、やがて外路地に入ると、そこには一匹の犬が横たえていた。

「……コーギー?」

犬は決して死んでいるわけではなかった。

息もしているのを確認すると、どうやら弱っているだけのようだ。

「ほら、喰いな」

ガサゴソと自分の持つ袋から饅頭を一つ取り出しその犬の口に寄せる。

犬は饅頭の香ばしい匂いに少し目を開けると、「いいの?」と言いたそうに弱々しく正義を見つめる。

「いいから食べな」と言うと、その犬は饅頭にカブリついた。

あまりにも美味そうに食べるので、正義は次々と犬に自分が持っている饅頭を与えてやる。

犬が満足という感じになると、彼が持つ饅頭が入っていた袋は空になっていた。

正義が犬の首を軽く掻いてやると、その犬は気持ちよさそうに彼の行為に甘えた。

よく見ると、犬には赤い布が巻かれており――

「セキト?」

そこにはそう書かれていた。

 

一方、鈴華の方では――

彼女がここに来たのは、二つの目的があった。

一つは妹・(れん)の消息である。

彼女は連合の戦の際に行方不明になったと聞く。

恐らくは、洛陽に居る可能性は少ないであろう。

しかし少しでも彼女の情報を得る為に、洛陽の彼女の家に向かうことにした。

予想はしていたが、彼女は家には戻っておらず、彼女の家の動物はとある軍が保護したという。

洛陽で可能な限り情報を集めると、もう一つの目的を果たそうとしていた。

「いてて、全く。愛紗もあんなに強く叩く必要もないのに」

歩いていると、一人の煌びやかな服を着た青年を見つけた。

今まで見たことの無い服であった。

勘であったが、彼が今巷で噂の『天の遣い』ではなかろうか?

そう考えると、鈴華は彼に話しかけた。

「失礼、もしや貴方様は天の遣いですか?」

「……えぇ、そうですけど」

彼は赤くなった頬を摩りながら、彼女に振り返った。

最初、果たしてこんな気の抜けた青年が、噂の遣いであるのかとも思ったが、変な感じだが、彼は確かに気を抜いていたが、隙は見当たらなかった。

「失礼、私は漢中の高善と申します。貴方様のお名前は?」

「あぁ、俺……いや、私の名前は北郷と言います。それで高善さん、一体何の用ですか?」

「いえ、実は貴方様の主君、影村様にお目通り測って貰いたいのですが。私は商人を営んでおりまして、ここ最近、我が地方の岩塩の摂取量が落ちてきています。今、洛陽での復興作業中というお忙しい身というのは重々承知しています。ですから時間はとらせませんので、是非とも取り成しをお願いします」

頭を下げる彼女に彼は少し考え込むが、だがそこは快く承諾してくれた。

「判りました。お館様は今洛陽の仮自宅にて内政に関する事務仕事を行っていますので、そこまで案内致します」

彼女は北郷と名乗るものに案内され影村邸に向かった。

中に入ると200年代の中国には無い、日本式の影村邸が開いていた。

昔、元主であった董卓に案内され、宮中内の庭園に入ったこともあったが、これほど見事な庭園を彼女は見たことも無かった。

やがて天城の誘導に従うまま歩いていくと、彼は鈴華に少し待つように言うと、庭に向けて歩いていく。

その先には黒い変わった衣服を着た男性が、池を見ながら鯉を眺めていた

「お館さま、一人謁見を求めて来た商人が参りました。通してもよろしいでしょうか?」

「……北郷か、構わんよ。今は仕事に煮詰まって鯉を眺めて気分転換していただけだ」

「そうですか。それでは私は席を外します」

やがて北郷が席を外すと、その庭には影村と鈴華の二人だけの空気が流れる。

「それで、私に何の恨みがあるのですかな?」

「はて、それは一体どういうことでしょう?」

そう聞かれると、彼女は特に何事もないように笑顔で答えた。

「無駄ですよ。どんなに殺気を殺そうとも。どんなに愛想を振舞おうとも。さらに言えば、目すら笑っていようとも、僅かに出ている殺気を消せていません。まぁ、それだけ出来れば、役者としては上出来ですけどね。それで、何用ですか?」

「ですから、私はそういうのでは――」

「おや?失礼ですが、手元より槍の刃先が見えていますよ」

そう言われると、「そんなハズは!?」と言わんばかりに自分の右手首を確かめると、そこで影村の術中にハマったことに気付く。

「……やはりですか。実を言うと、殺気の気配も消せていたのですけど、そこで貴女は僅かに目を逸らしました。そこでカマをかけてみることにすれば、見事に成功」

「あら、随分慣れていらしてるのですね」

「まぁ、立場柄……ね。それで、何故私の命を狙うのかな?」

「……貴方みたいな権力者を狙うのには相場が決まっています。一つは自己利益による暗殺。もう一つは――」

そう言うと、彼女は何処に隠していたのか、商服より槍の切先と柄を取り出し組み合わせ構える。

だが、流石にあの馬鹿でかい石突は装備出来ていなかった。

「仇討ちよ!!」

彼女がこの洛陽に来た理由。

一つは妹の探索、もう一つは……自分の元主である董卓の仇討ちである。

「西涼の影村。今は亡き我が主、董卓様の仇……取らせてもらう!!」

彼女は未だ自分に背中を向けている影村に向かって、槍を向けて突っ込んで行く。

だが影村は既に背中に槍が刺さる寸前にまで迫っているにも関わらず、避けようともしない。

鈴華も自身の殺気すら気づいたこの者が諦めたとも思えなかったが、今更飛び込みを止めるワケにも出来なかった。

すると影村は少し体の位置をずらしただけで、鈴華の槍の刃先はそのまま彼の背中に入っていくが、どうも感覚がおかしい。

人間を刺しているというより、何か固い壁につっかえた様な感覚だ。

その感覚は間違いでは無かった。

刺した背中の下には、鉄で出来た扇子があったのだ。

少なくとも、背中を向けていた彼は、こちらに視線を向けることは全く無かった。

つまり彼女が放つ殺気による視線の気配だけで避けたうえ、更に折り畳まれている大扇子とは言え、その小さな面積で防いだのだ。

自分の連れている連れと立ち会ってもらった時は、連れの規格外な動きに翻弄された事もあり、規格外なことは慣れているつもりであった。

だが、目の前の者の動きは規格外なんてものではない。

ホントに背中にでも目があるかの如くだ。

そんなことを考えていると、影村は鈴華に対し、手に持っていた茶碗より鯉の餌を手一杯に取り出して彼女の顔に浴びせる。

その彼女が怯んだ隙に、彼女の手首の筋を勢いよく締め上げ握力を無くし槍を奪い取る。

怯んだ彼女に、今度はその槍が自分の喉元に突きつけられた。

「ほら、もう一度」

あろうことか、彼は鈴華の目の前に奪った槍を落としてみせる。

「………何故?私を仕留めるのであれば、今しか無かったはず」

「その心配はない」

「……?」

「何故なら、君などが私に勝てるわけなどないからだ」

屈辱であった。

この世に生を受けて以来、武に於いては一度も負けたことは無く。

黄巾党の一件以来、巷を賑わせた『飛将軍 呂布』の武を育てたのも自分である為に、武には絶対の自信を彼女は持っている。

「!!?……な、な、舐めるなぁ!!」

そう咆哮しながら彼女は彼にかかっていったが、だが鈴華の攻撃が影村に当たることは無かった。

逆に攻撃を振るえば振るうほど、鈴華の体力は落ちていき、やがて攻撃を振るう彼女自身が参ってしまい、脱力して地面に片膝を付いた。

しかも影村は、この時武器である鉄扇を使用しておらず、彼は持っていた鯉の餌を入れいた茶碗、ただそれだけで鈴華の攻撃を受け流していた。

「な、何故……何故、当たらぬのだ」

槍で自分を支え、肩で息をしながら、彼女は自分に自問自答する。

「簡単なことだ。憎しみの刃先は読めやすい。勢いは凄いが次に来る攻撃の軌道は読みやすい」

彼は鈴華の前に股を開き、両膝を折って座る。

それを見た彼女は好機とばかりに影村に槍を突き立てるが、向かってきた刃先を親指から中指で摘むようにして防ぐ。

「もういい、諦めろ。憎しみの刃では、私には勝てぬぞ、高順」

「!?――な、何故、私の名を……?」

「今は亡き、董卓本人に聞いたからだ」

すると、地面の石が『ジャリジャリ』となり、誰かが近づく音が聞こえる。

足音は二人分あり、鈴華がそこに目を向けると、もはや会うこと叶わずと思っていた人物の姿を見た。

「月!?詠!!」

それは既に死んだと思っていた董卓と、影村に降ったと言われていた賈駆であった。

二人共以前とは違った服を着ており、董卓の右目には何か斬られたような跡があったが、この際そんなことはどうでもよかった。

鈴華は董卓のことを普通に真名で呼んでしまっていたので、慌てて影村が摘んでいた槍から手を離し、両膝を土下座の様につきながら「董卓様」と言い直す。

「違う。彼女は董卓ではない。董卓は洛陽で死んだのだ。彼女の名は李儒」

「李儒?」

「そうです。董卓は既に死にました、高順さん。私の名前は李儒、字を文優と言います」

「そんな、董卓様、私のことは鈴華で結構でございます。それにこれはどういうことですか?お願いします、説明をして下さい」

「……あの洛陽で元董卓である私は死に。大館様に『李儒』として救われました」

 

洛陽の燃え盛る王宮にて――

その時李儒となる前の董卓は、反董卓連合の責任を感じ、王宮の中にて自害しようとしていたのだ。

「月様、今回のことはあんたに非は無いはずだよ」

「そ、そうよ。元はと言えば、こうなったのも全て少帝のせいじゃない!!」

董卓は重昌に懺悔の言葉を残して果て様とした時に、それを必死に皇甫嵩と賈駆が止めていた。

「どういうことか説明してくれないか?」

重昌はどういうことかと思い、必死に董卓を止める二人に問いかけた。

「実を言うとね、今回の戦は劉弁の理不尽な恨みから始まってね。劉弁は権力を糧に月様に性行為を迫ったが、月様は拒否。それを奴は逆恨みして、張譲を使い、今回の戦を仕組んだのさ」

「しかし、私がもっとしっかりしていれば、今回のことが起きなかったのは事実です。私を信じて死んでいった民達や、兵士達にも申し訳がたちません」

「先生、月を助けて下さい。先生の力でしたら、月を救えることもできるでしょう!?」

賈駆の必死の懇願を、彼は直ぐに「それは出来ない」っと、拒否反応を示す。

「な、なぜですか!?今回の件、月のせいではないのは明らかでしょう!?」

「確かに話を聞く限りでは、董卓に非はないように見える。だが話が大きくなり過ぎた。誰かが罪を背負ねばならない。私は連合の将として参加している為、将の一人として、董卓を討たねばならない」

そう言うと、彼は腰の剣をスラリと抜く。

それを見ると、皇甫と賈駆は必死に彼を止めようとする。

「皇甫、貴女も将であろう。決して私用を挟まない彼女の覚悟を無にするか……?」

そう言われると皇甫は何も言えず、重昌を止める力を弛める。

だが未だ、賈駆のみは必死に重昌に助命を懇願する。

「賈文和!!私が教えたことを既に忘れたか!!?」

彼女はよく言われていた。

「軍師たるもの、決して私情は挟まず。主君・戦に敗れたならば、その幕を引くのも軍師の役目」と。

決して賈駆は死を恐れているわけではない。

だが、幼少の頃より姉妹同然の如く育った主君が今殺されるというのだ。

軍師である以前に、友としてそれを見過ごせる程、彼女はまだ素直では無かった。

彼は皇甫に賈駆の拘束を頼むと、彼女は戸惑いながらも暴れる賈駆を拘束した。

董卓も覚悟したように目を瞑る。

やがて重昌によって握られた剣は、賈駆の悲鳴に近い叫びと共に董卓に落とされた。

しかし董卓の体からは血飛沫は吹き出すことはなかったが、重昌が剣を鞘に収めると、彼女の右目から血飛沫が吹き出る。

何が起こったか判らず呆然とする皇甫の拘束を振り払い、賈駆は董卓の右目から出た血を止めに入る。

「董卓には全く非が無いとは、私は思わない。今回のことを止められなかった彼女にも責任もある。だから女性の命である″顔″の一部を奪い、文字通り命を捧げて貰った。董卓は死んだ。以降は″李儒文優″と名乗り、我に仕えよ」

董卓はオウム返しの様に「李儒文優」と小さく呟き、そんな彼に皇甫が尋ねた。

「………だがいいのかい。月様の顔を知る人物は少ないとはいえ、連合に参加した将にバレれば、とんでもないことになるんじゃないのかい?」

皇甫の言うことも尤もだ。

討ち取る筈である敵軍の大将を勝手に保護したとあっては、逆に保護した重昌に矛先が向き、『反影村討伐連合』が結成されることも十分にありうる。

「……詠、君個人にとって董卓はどの様な存在だ?」

董卓の右目を抑える賈駆に、彼は質問をする。

「ぼ、僕にとって月は半身でありかけがいのない存在です。僕が姉の様に僕が守ってあげないといけない存在であり、しかし僕が挫けそうになったとき、彼女が僕を姉の様に助けてくれます」

「そうか……私が塾の皆に言っていたことを覚えているか?」

「……?『私にとって、お前たちは私の子供の様な存在だ』……ですか?」

「そうだ。君にとって、董卓は姉妹なのであろう?ならば、私にとっても娘同然だ」

「!?そ、それじゃあ!!」

「十万でも百万でも上等だ。お前たちは私が守ってやる」

 

「こうして私は大館様に仕え、今に至ります。」

ことの顛末を聞き、高順は何処かホッとした気持ちになり、腰が抜けたのか、膝から崩れ落ちた。

「そうですか。……そうとは判らず、影村様、これまでの無礼、お許し下さいませ」

事情が判り、鈴華はその場で土下座をして、影村に対し謝罪をする。

「謝罪はいい。だがこれだけは約束してもらおう」

彼を襲った自分にどんな刑罰が下るのかと身構えていると、重昌が言ったのは案外簡単なことであった。

「機会はどうであれ、次に私と戦うことがあれば、憎しみの気持ちでは来ないでくれ。私はどちらかといえば、戦いは不得手だが、憎しみの気持ちで来られるのは気持ちのいいものではない」

こうして鈴華は重昌と和解し、影村邸を後にし、正義との合流場所の団子屋に向かうと、既に彼は到着して団子を頬張っていたが、そこには何処かで見たような犬もいた。

「セキト!?セキトじゃない!!」

正義が連れていた犬に気がつくと、それは行方不明になっている妹・恋の愛犬セキトであった。

セキトも彼女に気がつくと、咥えていた団子を放り出して、鈴華に飛びつくように戯れつく。

「正義、この子どうしたの!?」

「いや、街の街路地で倒れていた所を、持っていた饅頭を与えれば懐いて付いて来てしまってね」

「そう………それでも無事で良かったわ」

そう言いセキトを撫でると、セキトも嬉しそうに甘える。

その顔は何か付き物が取れたみたいに落ち着き穏やかな顔であった。

「用件は終えたのか?」

「えぇ、私の用は終わったわ。残念だけど、ここに妹は居なかった。けど、セキトが無事なのだから、何処かで恋は生きているわ」

「……そうか――」

彼女の反応からして、何かがあった様であることは明らかであるのだが、それを聞くのは野暮と思い、二人は腹ごしらえを終えると、セキトも連れて洛陽を後にし、再び旅を続けた。

 


 
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