昼夜を問わない波状攻撃を受けて三日経ちますが、戦況は我々が優勢です。
士気を保てるなら籠城側に地の利があり、守りに徹するなら充分な兵力もあるのです。
「ねね、今の状況が続くのは拙いと思う」
ですが、一刀殿の意見にねねも同意なのです。
ねねと一刀殿の懸念、それは陣頭に立つ将と指揮官が足りない事。
交互に休んでいますが疲労は蓄積されてます、認めたくないのですがねねもなのです。
優勢とはいえ、向こうに主導権を握られているのは歓迎できないのです。
その為に少しでも皆が休める時間も作らねば。
主導権を握り、皆が休める策、・・無い訳ではないのですが。
「ねね、考えてる策を実行に移してくれ。俺なら大丈夫だから」
「真・恋姫無双 君の隣に」 第19話
総攻撃開始から既に七日、虎牢関の陥ちる気配は全く無い。
明命から虎牢関の戦闘状況を聞き、御遣いの狙いが見えてきた。
・・大した男だ、雪蓮や蓮華様達が気にかけるのが分かる。
我等も明日は出陣だ。
「祭殿、虎牢関への攻撃に雪蓮は出しません。指揮をお願いします」
「よかろう、儂も御遣い達の芯を知りたいと思っていた。立ち会えば分かるというものよ」
「不本意でありましょうが、陥とす為の攻撃ではありません。兵の損失は限りなく抑えるようにお願いします。これは祭殿にしかお願いできません」
「任せよ。老将の経験とはこのような時こそ物を言うものよ」
頼もしいことだ、まだまだ此の方にはかなわぬ。
祭殿が居てくれたからこそ、孫堅様亡き後も孫家は存続できたと言えるだろう。
「冥琳、兵の損失は抑えるが、儂が暴れるのは許されるんじゃろうな」
「・・程々に願います」
「凪ちゃん、敵が退いて行くの、蒲公英ちゃんと交代して休んどくの」
全くうっとしいの、蠅みたいに次から次へと寄って来て。
いい加減うんざりなの、次は油をかけて火をつけてやるの。
「私はまだ大丈夫だ、宰相が自らを囮にして奮戦されてるのにこの程度で」
「阿呆!大将が何の為に気張っとんや。凪、アンタのやらなあかん事を忘れんなや」
「そうなの、凪ちゃんはこっち側の守りの大将なの。冷静にならなきゃいけないの」
ねねちゃんの策は宰相を餌にして連合の攻撃を操作する事なの。
沙和達が凪ちゃんを中心に蒲公英ちゃんを含めて左壁を守って、宰相と恋ちゃんで右壁を守り、全体の指示をねねちゃんが出すって役目を分担した戦い方なの。
宰相を集中的に狙わせる策だから皆で反対したけど、一番好い方法なのは認めるしかなくて、それに宰相は言ってくれたの。
「俺は自分を犠牲にする為に認めたんじゃないよ、皆と一緒に生き残るための方法を採りたいんだ。皆を護って死ぬなんて自己満足に浸る気はないから、俺は皆とずっと一緒に居たいんだ」
だから沙和たちも絶対に守って見せるの、これからも皆一緒に居る為に。
これでよいのでしょうか。
もうじき交代の時刻、我ら曹操軍の出番です。
春蘭殿達に託した策はおそらく上手くいくでしょう。
虎牢関は陥ちます、一刀殿の命と共に。
ですが当陣営の空気はむしろ敗戦したかのように重苦しいものです。
風が華琳様に言っていた事は覇王には不要な事、家臣や兵を道具のように使い、ただ力を持って征すのは戦乱を速やかに鎮める事でしょう。
私自身、道具の扱いであっても文句はありません、私の成すべき事も兵の命を数字として見る事なのですから。
それなのに理屈にならない感情が私を攻めます、これでいいのかと。
分かりません、自分の心が。
「稟ちゃん、後はお兄さんの天命に委ねましょう」
天命、ですか。
風、貴女は信じているのですか?
一刀殿が策を跳ね除け、今の苦境を乗り越える事を。
「そろそろ出番だ。姉者、季衣、流琉、用意はいいか?」
「「はいっ」」
春蘭様が黙ってる、どうしたんだろう。
「春蘭様、お腹が空いてるんですか?」
「違うよ、季衣」
でも、いつも元気一杯の春蘭様が戦を前に黙ってるなんておかしいよ。
「姉者、まだ納得できないのか」
「当たり前だ、我ら四人がかりで北郷一人に対峙しろなどと、納得できるか!」
そうだよね、兄ちゃん、そんなに強くなさそうだったし。
僕と流琉も正直に言うと戦いたくない、でも華琳様の命令だし。
「何度も言ったろう、四人一塊では行くが対峙できるのはおそらく姉者だけだと」
「えっ、どうしてですか、秋蘭様?」
「季衣、ちゃんと話を聴いてなかったの。」
「稟様の話は難しいから」
だって、やたらに難しい言葉を使うんだもん。
「季衣、虎牢関を見てみろ。右側は凪と真桜と沙和の三人の将で守っているが、左側は北郷一人で守っているだろう?」
ホントだ、何で兄ちゃんだけ一人なんだろう。
「攻め込んでいる劉岱軍もそれが分かって、好機と思い強引に攻め込んでいる。北郷を討ち取れば最大の勲功だからな。逆に北郷のいない凪達の方の王匡軍は手を抜いている。無理して攻め陥としても手柄は袁紹に持っていかれるからだ」
「どうして兄ちゃんはそんな危険な事してるんですか?」
「昼夜問わずの総攻撃で向こうの将達は疲れてる。少しでも凪達の負担を減らす為に、右側を呂布と北郷の二人で交代に守って、左側は残りの将で無理なく守れるように、攻撃を集中させる箇所を故意に作ったんだ」
そうだったんだ、でもそんな事したら。
「兄ちゃん一人じゃ直ぐに負けちゃわないですか?」
「そこに落とし穴がある。北郷の周りにいる兵達は動きを見る限り、おそらく最精兵だ。実質は最も守りの堅いところだということだ」
「そっか、それで僕達はバラバラじゃなくて一緒に行くんですね」
「そうだ、私達は姉者が北郷のところに辿り着くまでの道を開くのが役目だと思っていい。だが私は混戦状態の関の上では弓が使えないので兵への指示に徹する。その為お前達二人の働きが要になる」
敵が退いていく、・・次は華琳の軍か。
となると強力な破壊力が三つある。
俺は盾部隊を増強し、攻撃は控えて防御に徹するように命令する。
念の為に恋を呼ぶか、いや駄目だ、ローテーションは崩さないほうがいい。
何より恋だって疲れてる、あせるな、冷静に対処するんだ。
兵士達には充分な休息を与えてるし、それに此処にいる兵達は袁、董、馬の選り抜きの最精兵だ。
必ず守れる、守ってみせる。
関を登り、相手を見渡す。
うん?盾部隊を増強したな、これは厳しいか。
しかし何故、我等に限って?そうか!北郷は季衣と流琉の事を知っているんだったな。
どうする、この場の数ではこちらが少数だ、無理に道を開いても逆に姉者達が孤立してしまう。
策の中止を考えていると、姉者が闘志溢れる声を上げる。
「ハ~ハッハッハッハ、分かっているではないか、北郷!この私を止めるには生半可では無理だという事を。だがまだ甘い、私に破れぬ壁など無い事を教えてやろう。いくぞ、季衣、流琉!」
この状況が逆に姉者の闘争本能を刺激したか、姉者が突っ込んでいく、こうなったら仕方ない。
「季衣、流琉、予定通り姉者を援護しろ!兵は姉者達が開いた道から半円の形に戦線を作り維持に努めよ!」
「オラオラ、それでもキンタマついてのかクソヤロー共、テメーラ蛆虫共は油ぶっかけて火をつけて消毒だ~なのっ!」
ありゃ~、沙和のヤツ、完全にいってんなあ。
陶謙軍の奴等、ビビリまくってんで。
ん!?何やあれ?
人垣?ちゃう、弓を持っとるヤツがあがっとる、人で台を作っとるんか!
こんな混戦で弓使う気か!しかも、狙いは大将の方向。
私は盾ごと兵を吹き飛ばし、北郷の前に立つ。
「流石だよ、春蘭。季衣と流琉の援護があるとはいえ、此処まで来るとはね」
「フッ、私を誰だと思っている。貴様も逃げなかった事は褒めてやろう、だが私に勝てると思っているのか」
「正直、それは無理だな。でも、やられる気は無いよ」
「ならば言葉は不要だ」
私は華琳様の剣だ、華琳様の前に立ち塞がるものは全て斬る。
届いた、姉者が北郷に斬りかかるが、防がれる。
姉者、やはり迷っているのか。
霞と闘った時の気迫とは程遠い、北郷もよく防いでいるが、本気の姉者なら五合と必要ないだろう。
私も姉者と同じだ、本当に北郷を死なせてしまっていいのか?
北郷と出会ってから華琳様は変わられた、正確には王になる前の華琳様のお姿が見られるようになった。
嬉しかった、冷徹な王となっていた華琳様が昔のような笑顔を見せてくれる。
華琳様のお心を孤独にしていた私達姉妹には、本当に嬉しかった。
此処で北郷を失えばおそらく冷徹な王に戻られるだろう、それは華琳様にとって良い事なのか?
兵に指示を送りつつ姉者と北郷の闘いを観ていると、姉者の後ろにいた兵が苦痛の声を上げた。
肩に矢が刺さっている。
矢?馬鹿な、こんな混戦で弓を使うなんて!
矢が飛んできた方向に目を向けると、左壁を攻撃している陶謙軍が人で射出台を作っていた。
弓を構えている者は確か、陶謙軍の張闓。
更に矢を放とうとしている、北郷を狙っているのか。
視線を戻すと姉者から気迫が溢れていた、覚悟を決めたのか、だがその為に矢に気付いていない。
駄目だ、今の姉者に言葉は届かない、再度目を向けると張闓が矢を放った。
あの矢の軌跡は北郷ではなく、姉者に当たる。
「姉者ーーーーーーーーーーーー!!」
北郷がいきなり間合いを縮めてきた、私は一刀両断する為に剣を振りかぶる。
何!?剣ではなく貫き手だと、意表を突いたつもりか。
だが、どこを狙っている。
かわすまでもなく私が振り下ろす剣が肩口に入ろうとした時、右目に激痛が走った。
姉者が矢を受け倒れそうになっているところを、北郷が姉者を蹴り飛ばした。
おのれ、よくも!
急ぎ姉者に駆け寄り、声を張り上げる。
「姉者!姉者!大丈夫か!しっかりしてくれ!」
姉者の右目を押さえる手から血が流れていた。
「しゅ、秋蘭か、だ、大丈夫だ。私はまだ闘える」
「馬鹿を言うな!季衣、流琉、撤退だ!速やかに退くぞ!」
敵も矢が飛んできているのを理解したようで、攻めてこずに守りを固めていた。
姉者に肩を貸し戻ろうとして気付く、姉者に当たった矢はどこに?
北郷の方に振り向くと、左手に矢が刺さっていた、肩からも血が流れている。
そうか、そういう事か。
矢の勢いを緩めたのは、そして姉者を蹴ったのは私が駆け寄れるように。
私は頭を下げ、その場を離れた。
「本当ですの!華琳さんが陶謙軍の張闓将軍を斬り捨てたというのは」
「はい、姫様。陶謙さんから激しい抗議が来ています、厳罰を求めると」
詳しい話を聞いてみれば、呆れたものですわ。
御遣いを仕留めたと言うならともかく、下手糞な弓で味方である軍の将や兵に矢を当ててれば誰でも怒りますわよ。
これだから外面だけ好い振りをしている腹黒なんて言われますのよ、器が知れますわ。
・・それにしても、華琳さんとは思えない行動ですわね。
あの子なら平気な顔をして交渉材料に使いそうですのに、こんな感情的な行動に出ますなんて。
「斗詩さん、両陣営に伝えなさい。陶謙軍には、張闓将軍の行為に非がありますが命を失ったのでこれ以上の裁きは無用。曹操軍には、連合の秩序を乱したことにより先の董卓軍の将を捕虜とした事の功と相殺とし、今後の戦への参加を認めない事とします」
恋と持ち場を交代して、急ぎ治療を受ける。
幸い肩は皮だけで済んだし、左手も痛いけどちゃんと動く。
春蘭の目は大丈夫だろうか、矢の勢いが強くて防ぎきれなかったが。
どうか無事であってくれ、今はそう祈るしか出来ない。
俺は指揮をねねと交代すべく、治療部屋を出ようとする。
「待って下さい!私を、私を使ってください!」
「諸葛亮殿」
「お願いします、私に指揮を執らせて下さい。必ずお役に立って見せます!」
有り難い申し出だ、だけど相手には関羽達もいる。
「愛紗さん達は関係ありません。私は軍師で此処は戦場です。御遣い様の御恩に報いてみせます」
まいったな、治療中に聞いた劉備の行動もだけど、やはりこの子も、あの諸葛孔明、という事か。
「分かった、よろしく頼む。付いて来て、紹介するから」
「はい!」
無様なものね。
大陸の王に成ろうとする者が、感情を制御できずに他国の将を問答無用で斬り捨てるなんて。
麗羽の裁きのほうが王として正しいわ。
「華琳様」
私は振り返らずに返答する。
「秋蘭、春蘭の具合はどうなの」
「はい、失明する事は無いだろうとの診断です。今は流琉の作った食事を季衣と共に元気に摂っています」
「そう」
困ったわね、安堵する気持ちばかりで反省や後悔する気持ちが全くしないわ。
「秋蘭、私は貴女達や兵士達を大陸を支配する為の道具として扱う。この心構えに嘘はないわ」
「はっ、何一つ異論はございません。我等の全ては華琳様の命の為にあります」
私は振り返る。
「それなのに、あの馬鹿に出会ってから調子が狂わせられっぱなしよ。どうしたらいいかしら、秋蘭」
どうして私は笑ってるのかしら、秋蘭、貴女もどうして笑顔なのかしら。
「そうですね、馬鹿も突き詰められると対応に困りますね」
「困ったわね、馬鹿は伝染るというから。フフ」
「はい、本当に困ったものです」
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連合の総攻撃に耐える一刀たち
華琳は一刀を討つ為、春蘭たちに命を下す