No.676358

魏エンドアフター~新タナ刺客?~

かにぱんさん

申し訳ありません。この一言に尽きます。
しかしながら更新ペースは安定しません。
気長に待ってやってください。

2014-04-05 08:17:28 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:9692   閲覧ユーザー数:6552

「ねぇ、文ちゃん……」

 

「あぁ、わかってる。絶対に姫のそばから離れるな。

 顔良隊!本隊と合流し、袁紹様を囲みつつ後退!!

 文醜隊は前方に厳戒態勢!!」

 

「? ふたりともどうしたんですの?」

 

「良いから姫は大人しくしててくださいよ。

 今回ばかりはあたいもふざけてられないっす」

 

「うん……袁紹様、私と一緒に来てください」

 

「?、?、ちょ、ちょっとふたりとも?わたくしに解るように説明しなさいな」

 

首をかしげながら説明を求める袁紹を、顔良が宥めながら袁紹の護衛隊と共に最後方へと誘導する。

 

「文ちゃん、何かあったらすぐにこっちに来るんだよ」

 

「わぁってるって」

 

袁紹には解らなかったのか。

それはある種、大物であると言えるのかもしれない。

 

「ふぅー……」

 

文醜は大きく息を吐き、そのままいつでも自分が殿(しんがり)を努められるように部隊を再配置した。

凪の殺気、そして雄叫びは、街の中どころか、袁紹軍にまで届いていた。

その尋常ではない気配を感じてから、それなりに時間は経っているがまだ気は緩められなかった。

 

「ったく。ばーっと攻め込んでちゃっちゃと終わらせられるんじゃなかったのかよ」

 

いつもなら猪突猛進の如く、相手に突き進み我先にと食い掛かる文醜が、これほどまでに警戒してしまう。

文醜自身も、この先で起きていることに自分の主を絶対に巻き込んではいけないということを理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七乃ぉ~、七乃ぉ~!」

 

「はーいはい美羽様、私はここですよ~とりあえず美羽様は私と一緒にさがりましょうね~」

 

袁術の軍にもそれは届いていた。

袁術はその異様な気配に怯え、張勲は言動こそいつもと変わらないものの、

袁術を守れるように、すでに部隊の再配置を終え、いつでも動けるようにしていた。

 

「……そこの貴方。

 何が起きてるのか確かめてきてください。

 部隊はすでに用意してあります。

 ちゃっちゃと行ってくださいね~」

 

軽口を叩いてはいるものの、状況を確認出来なければこれ以上は手を施せないということを解っている彼女は

選りすぐりの精鋭を集めた、3部隊もの偵察隊を送り込もうとしていた。

 

「ずいぶんと物々しい雰囲気ね。突撃でも掛ける気?」

 

「あら?孫策さんじゃないですか~。

 どこで遊んでいたんですか全く。

 とは言えいいところに帰ってきてくれました。

 中で何があったのか教えてください」

 

「董卓の頸を取った。それだけよ」

 

「孫策さんがですか?」

 

「ええ」

 

「では頸を見せて下さい~」

 

張勲のその言葉にかぶせるようにして足元にそれを放り投げる。

ゴロンと転がったその頸を見て、

 

「……んー、まぁいいでしょう。

 よく袁術様の命令を遂行しました。

 あとでちゃんと報告しておいてあげますね」

 

「結構よ」

 

「あら、なんだか御機嫌斜め」

 

張勲のその言葉に耳を貸すことなく、孫策は踵を返した。

 

「……これで、命を救われた借りは返したわよ。北郷一刀」

 

孫策の放り投げたその頸は、凪に命を狩られた兀突骨の頸だった。

 

「はぁ……何やってんのかしら、あたし」

 

自分が救われた代わりに孫策は一刀達の望みを聞いた。

しかし、これでは自分達が彼らの手柄を横取りしたような、

あんなにも必死になっていた彼らの功名を横からかっさらったようなものだ。

一刀達は交換条件だと言っていたが、それでも胸に燻るものは消えない。

 

「蓮華様達と合流するまで我慢の時ですぞ、策殿」

 

「……わかってる」

 

この頸だって、自分で取ったものではない。

あのあと、全てが終わったかのように思えたが、まだ白装束は残っていた。

この兀突骨という男は半身抉られ、すでに生命力が尽きていてもおかしくはないのに

執念のみで立ち上がり、再び彼らの前に立ちはだかった。

勿論そんな状態で彼らに勝てるはずもないことはわかっていたし、私は遠くから眺めているだけだった。

しかし、私を──いや、その場にいた者達全員を驚かせたのは銀の獅子だった。

瀕死とはいえ、数百という数で押し寄せてきた白装束達の前に立ちはだかり、

自分達にそうしたように、狙いを定め、その炎を振り切った。

 

言葉が出なかった。

その蒼炎の通った跡には、何も残らなかった。

蒼炎は、その軌道上にいた全ての白装束を消し去った。

残ったのは、兀突骨の頸のみ。

彼女の前に立った時、自分の手にある南海覇王があまりにもちっぽけなおもちゃにさえ見えてしまった。

 

洛陽を振り返り、彼らの姿を思い返す。

罪なき者を救うために、己の命を掛けた者達。

自分の志すものとは方向が違うものの、もしも”彼”が自分達のもとにいたら、こんな小間使いにされる事もない未来があったのでは。

そんなありもしない日々を想像してしまう。

 

「……馬鹿馬鹿しい」

 

そう一人呟き、孫策と黄蓋は自分達の陣へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「華琳様?」

 

曹操は撤退作業の中、あの二人の事を思い出していた。

恐るべき武を持つ楽獅と、それを従える北郷一刀。

将軍格の、それも名を馳せている者達4人掛かりで、全く歯が立たない程の力。

そんな恐るべき力を持つ者が心酔するあの男は何者なのか。

天の御遣いというのは肩書だけではないのか。

何よりも、あの蒼炎を受け止めたことと、夏侯惇の得物を切断した腕は間違いなく本物だ。

ならば何故あんな姿になったのか。

楽獅に比べ、彼の力はあまりにも不安定に思える。

あの細い刀に揺らめいていた白い氣は、本当に彼の力なのか。

何よりも、何故かは解らないが、本当にわけが解らないが、自分自身が彼に惹かれている。

初めて彼と対面した時にも違和感はあった。

彼が自分に向ける視線は何なのか。

胸に渦巻いている感情は好きや嫌いといった安直なものではない。

自分でも理解できないものが胸に燻っているのだ。

 

「ほんと、何なのかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だだだだだだだだ痛い痛い!!痛いよ!!」

 

夏侯惇との一騎打ちが終わり、曹操、孫策が撤退していったあと。

その場にずっと留まっていても仕方がないので自陣に戻ることにしたが、結構な無茶の連続からか身体が動かず、

そのまま両脇から凪と愛紗に抱えられて起き上がらせてもらった訳だが、全身がまんべんなく傷ついているので非常に痛い。

いくら浅いとはいえ、凶器で斬りつけられたのだから普通に痛みはある。

 

「ここでは十分な手当てが出来ませんから、一度戻ってからにしましょう」

 

「…………」

 

凪はそう答えてくれたが、愛紗は黙ったままだった。

でもそれは俺のしでかした行動に対する怒りからではないようだった。

本当に心配してくれたんだろう、俺が冗談っぽく口調を崩してもそれに反応せず

支えてくれている手が俺の服をぎゅっと握りしめている。

その姿に、俺は感謝の言葉も謝罪の言葉も言えず、黙っている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの事の流れはあっという間だった。

董卓の頸を孫策達が取ったという事から、反董卓連合はすぐに解散し、各々の国へ帰っていった。

本来ならばここで劉備軍が董卓の頸と討ち取ったという事でその名を馳せるはずだったのだが、今回は違かった。

凪が白装束達を殲滅している様は、瞬く間に人々へ噂として広がっていった。

 

”天を護りし白銀の獅子、蒼き炎をその身に纏い、敵を滅する”

 

まるで伝承のような、そんな言葉があの戦を見ていた兵士達から伝わったのだろう。

それが活路を開き、董卓の頸を取るに至ったとされているようだった。

事実、洛陽の街には獅子王によって刻まれた爪痕がありありと残っている。

それが噂に拍車を掛けるのだろう。

中には”劉備の軍には神がついている”などという事を言い出す者もしばしば。

顔を隠し、美しい銀髪をたなびかせ蒼炎を纏い戦う姿は、

その隠された素顔と常人からはかけ離れた強さによって神聖なものに映るのかもしれない。

とにかく、本来ならば何の功績も上げていないのだが、天の御遣いが居るという事と、

それに付き従う凪の存在が噂として世に出ているおかげで徐州の州牧にという話も来た。

多分、曹操や孫策達もその噂に加担していると思う。

なぜなら二人から直々に、俺宛に手紙が送られてきたからだ。

この時代じゃまだ紙なんて高価なものだろうに、竹簡ではないあたり彼女達のプライドなのだろうか。

つーかこの街はどうすればいいんだ。

後任の誰かが来るのか?

いや、来てくれないと困るんだけど。

 

「それにしてもすごいことになってるね、凪」

 

「……恥ずかしい」

 

「ふむ、しかし凪の事だけではないようですぞ」

 

「え?」

 

「通りがけに出会った商人の話によれば”白き刃に付き従う蒼炎の獅子、天を護りて、大地を揺るがし、敵を滅する”」

 

「…………」

 

「どうやら主も混ざっているようですな」

 

「……恥ずかしい」

 

何が恥ずかしいって、こんなに大それたふうに言われているのに掠めてるくらいしか触れられていないところが恥ずかしい。

いっそのこと省いてくれよ。

新手の虐めか。

 

いや、そんな事はどうでもいい。

とにかく、前の世界とギリギリ同じように歴史は動いたと思う。

あっちの世界での反董卓連合の時も董卓の頸を討ち取ったという事は聞いていた。

それでも、俺が帰ってきてからの会合や宴会の席で月や詠の姿を確認している。

ということは多分、こういうことなのだろう。

白装束の妨害が入ったものの、貂蝉から聞いた外史のルールは守れたはずだ。

ただ一点、懸念すべき事があるとすれば

 

「なぁ関羽~、そろそろウチの事も真名で呼んでくれてもええんよ」

 

「断る──ええい!いちいち抱きついてくるな!!」

 

……霞がついてきてしまった。

本来なら華琳のもとへ行くはずの霞が何故ここにいるのか。

これはおかしい。

あれ?というか春蘭もあの戦で片目を失うはずだったのに、彼女自身は無傷でいる。

……微妙に俺が歴史を変えているのか?

だとすれば以前のように突然の眩暈や脱力感に苛まれるはずだ。

しかし今は体中が傷だらけという以外でそういった症状はない。

外史ごとに、その外史に沿った歴史があるのか?

しかし貂蝉は、基本的には正史に沿うように外史は進むという。

……さっぱりわからん。脳が飛び出そうだ。

 

「伝令!!」

 

理解不能な状況に頭を沸かせていると、兵が慌てた様子で俺たちのもとへとやってきた。

 

「只今城門に公孫賛殿が保護を求めて来ております!」

 

「ほ、保護?」

 

「白蓮ちゃん……何かあったのかな」

 

とにかくこんなところで憶測していても仕方がないので本人から直接話を聞くことに。

すぐに兵が公孫賛とそれに続く多数の兵を連れ戻ってきた。

 

「すまない……袁紹が……袁紹が奇襲を仕掛けてきて遼東の城が全て落とされた」

 

「袁紹だと?」

 

「反撃は?」

 

「した。でも、気づいた時には領土の半分が制圧されていて……これ以上こいつらを無駄に死なせるわけにはいかなかった」

 

「……そうか」

 

冷静にやりとりをしていた愛紗と星は、白蓮のその言葉に黙って頷く。

 

「すまない。北郷と楽獅がいる桃香のところならこれ以上深追いはしてこないと踏んで来てしまった。

 こんな事でしか兵を守れない私を笑ってくれ。」

 

「いや、その判断は間違っては居ない。

 最悪の状況での最善の判断だ。

 実際の状況を見ていないとはいえ凪の存在は牽制としては効果適面だろうから」

 

「北郷……すまない、恩に着る」

 

身体はふらついているし表情からも色濃い疲労の色が見て取れる。

 

「……あ、いや、桃香が大将だから桃香に聞かないと」

 

何をナチュラルに俺が仕切ってんだよ。

 

「え!?全然いいよ!もう白蓮ちゃんが良いならずっと居てくれたって構わないから!」

 

「ありがとう」

 

それにしても……。

北方に袁紹の国が出来たということはこれから諸侯同士の争いが激化していくということだ。

北方を抑えていた公孫賛が居なくなれば袁紹の後ろを取る勢力がない。

背後を気にする必要がなくなれば当然次の場所へと進んでくるだろう。

 

「西進か南方か……」

 

俺の考えに同調するように、朱里がつぶやいた。

 

「だよなぁ……」

 

そのつぶやきに対し更につぶやく俺。

そらそうだ。

あれだけ大きな戦を起こしたにも関わらず、それに見合う戦果が得られなかったのだから。

あのプライドの塊である袁紹にとってはこれ以上ない屈辱だったに違いない。

だから公孫賛の土地を奪い、後顧の憂いを断った。

 

「……とにかく今はゆっくり休んで。

 話はその後でいいから」

 

「すまない、……すまない」

 

気落ちした様子で謝罪の言葉を繰り返す白蓮。

疲労と空腹で思考もネガティブになっているんだろう。

桃香と朱里が一緒に付き、白蓮を別室まで案内した・

 

「俺は兵たちを案内してくるよ」

 

そう言い残し、大広間を出た。

さすがにこれだけの人数を一気に部屋に入れてやれる程の準備は整っていない。

とりあえず使える部屋は全てあてがい、残りの部屋は準備が整うまで兵達は街で宿を取った。

……しばらくは昼食抜きかな、俺。

疲労困憊の兵たちに対し、じゃあ自分達で料金諸々よろしく~とはとても言えない。

しかしまだこちらもそこまで資金が潤沢なわけでもない。

 

ふぅ……とりあえずこれで……あれ?

なんだろう。何か凄く重要な事を忘れている気がする。

ん?あれ?なんだっけ?

 

そう考えながら城に戻っていると、前方から凪が歩いてくるのが見えた。

そして声の届く距離まで来たので声を掛けようとすると、凪のほうから小走りでこちらに駆け寄ってきた。

 

「隊長、そろそろ袁術が動く頃かと」

 

「それだ!!」

 

「えっ!?な、なんですか?」

 

突然の俺の大声に驚いた様子の凪だがそれは申し訳ない。

しかしそうだ。

忘れていい事じゃないだろ俺!!

 

それから城へ急いで戻り、これから袁術がこう動くということを予想という形で皆に告げた。

そしてついに、

 

「申し上げます!袁術が国境付近に大軍隊を率いて我が国へ進行中!」

 

「すごいですご主人様!どんぴしゃりです!」

 

「いや、凪が言ってくれなかったら頭からすっぽ抜けてたんだけど」

 

「既に迎撃準備は出来ています。

 すぐに迎え撃ってやりましょう」

 

朱里と雛里も鼻息荒く、俺が言い当てたと思いテンションが上がっているようだった。

どうやら前の世界と同じように事は進んでいるようだ。

奇襲が来るとわかっていても、やはり準備期間が短すぎた。

このままの流れで行けば雪蓮が反旗を翻すのも時間の問題だ。

袁術達は間違いなく自分達が奇襲を掛けるつもりで侵攻してきている。

ならば準備万端の俺たちがすぐに出発し、袁術達の前へ現れれば逆に奇襲できるのではないだろうか。

俺の考えを朱里と雛里に話すと、彼女達もやはり同じ事を考えていたようだった。

 

「しかし、国境は突破されていないまでも既に相手は目と鼻の先。

 相手の意表をつけるというだけであって、奇襲らしい奇襲はできないと思います」

 

「そうです……相手の奇襲をこちらの行動で相殺出来る、という程度です」

 

「いや、それで十分だ。

 こっちの兵たちも心の準備が必要だ。

 敵が来るとわかっているのといきなり襲われるのとじゃ天と地ほどの差がある」

 

それに本当に不意打ちであったのなら、出撃準備すらままならない状態だったはずだ。

もう既に全ての準備が整っていたこともあり、すぐに袁術達が陣を敷いているであろう場所へと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ劉備の領内に入りますね~美羽様」

 

「うむ!しかし七乃。

 劉備は我らが攻めてくることを知らんのであろ?卑怯ではないのか?」

 

「うふふ~美羽様がそういうと思いまして、その辺りは考えてありますよ~。

 劉備達の城の前に私達が到着したら、ちゃんと宣戦布告しますから私達は決して卑怯ではありません」

 

「おお!なるほどの!

 やはり戦は正々堂々と勝ち取ってこそだからの!」

 

「はいもちろんです~。

 とりあえずこちらには呂布さんが居るわけですし、彼女に前衛として頑張ってもらいましょう」

 

「ふむ、しかし七乃。

 呂布は突撃を仕掛けに行ったのであろ?何でそこに旗が置いてあるのじゃ?」

 

「……あれぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

袁術達のもとへ進行を初めてからしばらく。

先に様子を見に行かせていた偵察隊の一人が小走りでこちらへ戻ってきた。

焦っている訳でもないが落ち着いても居られない様子だ。

困惑の表情を浮かべながらその兵は

 

「こちらに呂布隊と思われる部隊が接近中。

 旗は確認出来ませんでしたが本人が先頭に立っていたので間違いはないかと」

 

「呂布か。

 このまま真正面からぶつかっては被害が増えるな。

 私と愛紗は一旦──」

 

星が部隊配置を確認している横で、その兵の表情が気になっていたので尋ねた。

 

「……呂布は戦闘態勢に入ってた?」

 

「……そ、それがですね。

 先程も申し上げたように、旗も上げずに部隊の並びもばらばらで、

 どういう状況なのか……」

 

「……どうしてでしょう?」

 

隣で聞いていた朱里も疑問に思ったようだった。

袁術側は間違いなくこちらに攻め込むために歩を進めているはずだ。

そして袁術と手を組んでいると思われる呂布は間違いなく前衛部隊として配置されたのだろう。

それが何故武器も持たずに、まるで気楽にどこかへ出かけるかのように、部隊もばらばらでこちらへむかっているのだろうか。

呂布は一騎当千の飛将軍と呼ばれているが、決して俺たちが弱小だからとなめてかかるような愚か者ではない。

むしろ部隊の練度は袁術のどの部隊に比べても段違いに高いはず。

そして不意に気づいたが、あの反董卓連合が解散したあと、俺は彼女と話をしていない。

というよりも負傷して自陣に連れ帰られた時には既に居なかった気がする。

 

「……そういえばあのあと呂布と話した人いる?」

 

素朴な疑問をぶつけてみた。

 

「私は話していませんな」

 

「私も、こちらの事で手一杯で気にかける余裕がありませんでしたので」

 

「雛里ちゃんは?」

 

「……話してないよぉ」

 

「うーん……案外私達に会いに来てくれてるだけ、とか?」

 

「……戦場に出てきている以上それはないのでは」

 

桃香の脳天気な発言に愛紗のこめかみに一瞬だけ青筋が入ったような気がしたが見なかったことにする。

 

「うーん……、あながち間違いではないかもしれませんよ」

 

「なに?」

 

愛紗の否定的な言葉にそう反応したのは朱里だった。

 

「呂布さんがご主人様に救われた事は事実ですし、それに旗も立てずに、

 さらには部隊内の動きもばらばらなんです。

 戦意なんかありませんよって公言してるようにしか思えません」

 

「ならば何故やつは袁術などについているんだ?」

 

「呂布さんはとても戦の嗅覚に優れていると思われます。

 それは勘という言い方でしか表現出来ませんが、確かなものです。

 もし彼女がご主人様に恩を感じているのであれば、

 袁術が私達を狙ってくる事をわかっていて、それを阻止しながら且つご主人様に会いに来たという考え方も出来ます」

 

「阻止……というと、ならばやつは今この場で袁術軍から寝返りこちらの味方をするということか?」

 

「そうなります」

 

「それはあまりに都合が良すぎるのではないか?」

 

朱里の考えに愛紗は誰もが思っていた事を言った。

確かに愛紗の言うとおり朱里の考えはこちらにとってあまりにも都合が良すぎるし、

それにいくらなんでも朱里らしくもない。

軍師としての考え方を全て抜いているように思える。

 

「うーん……でもなぁ……そうだと思うんだけどなぁ……」

 

「うん……私もそう思うよ、朱里ちゃん」

 

二人揃ってそんな事を言い出す。

それと同時に呂布隊に空高く掲げられる、真紅の呂旗……ではなく。

降伏の証とも言える白旗がはためいた。

 

「ほら、言ったとおりです」

 

「何で二人はそう思ったんだ?」

 

「だって、呂布さん本人がそう言ってたんですよ」

 

「はい?」

 

「……呂布さんがご主人様を助けに行ってくれた時、言ってたんです。

 ”これからは自分もあの人を守っていく”って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のう七乃?なんだか前方のほうが騒がしくないか?」

 

「……んー、嫌な予感しかしませんね、美羽様。

 ちょっと様子を見てきてもらいましょうか」

 

偵察兵を準備している途中、前方に立つ砂煙。

それとともに地鳴りのような音と怒号。

 

「……あは、さ、逃げますよ美羽様」

 

「何故じゃ!呂布が先に行ったのではなかったのか七乃!」

 

「うーん、そのはずなんですけどねぇ」

 

緊迫感のまるで感じられない声を発しながら前方を確認する。

 

「……呂布さんがいますねぇ」

 

「では呂布が既に戦っておるということか?」

 

「いいえ、劉備の旗と一緒にこっちに進軍してますよ」

 

「何故じゃ!」

 

「ささ。理由はともかく逃げるが一番。

 命あっての物種ですよ美羽様」

 

ぐいぐいと袁術の背中を押しながら張勲は考える。

呂布の反乱を抜いて考えたとしても、おかしい。

何故劉備達はこちらの奇襲をまるで知っていたかのように待ち構えていた?

事前に知っていたとしか思えない行動の早さだが、こちらの進軍を事前に知ることなど出来るはずがないのだ。

呂布隊の誰かがこの事を知らせられるはずもない。

何故なら呂布達に劉備軍を攻めると伝えたのは、出立の前日だったのだから。

だというのに、この状況は一体なんだというのか。

 

大群を瞬時に転身するには無理がある。

それに今は突然の出来事に兵たちも混乱していた。

部隊の陣形は徐々に広がり、もはや隙間だらけになってしまっていた。

そこへ劉備軍が追い打ちのように、後ろ、つまり前衛部隊をまるで津波のように飲み込んでいく。

その先頭に立っているのは呂布だった。

何の躊躇もなく、淡々と袁術軍の兵士を切り刻んでいく。

もはや勝負などと言っている場合ではなかった。

勝ち負けの問題ではない。

いかにしてここから逃げ出すかということしか頭にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお……撤退していきますな」

 

「奇襲のつもりがあちらが奇襲されるような形になってしまいましたからね。

 でも深追いはダメです。

 こちらのほうが兵が圧倒的に少ないのは事実ですし、今城を空っぽにしてしまうわけにはいきません。

 というよりも、このまま放っておいたほうがいいでしょう」

 

「なにやら寛いでいる様子でもありましたけどね」

 

「そんでもって孫策達にも追い打ちを掛けられると。

 ……不運すぎるな」

 

「え?孫策さん達が?」

 

俺の言葉に桃香は何故?というように首をかしげた。

 

「もしも呉軍が自分達の再起を虎視眈々と狙っているとしたら今の状況を逃すはずはないよ」

 

知っている事実をそのまま事細かに伝えるわけにはいかないので簡素に説明した。

 

「そうですね……私もそう思います。

 もはや袁術軍は再起不能と言ってもいいでしょう。

 袁術軍はもう孫策さん達にお任せしましょう。

 これから私達の脅威になるのは袁術軍ではなく、呉軍になると思います。

 ましてや隣国。

 これからは一層気を抜かないようにしないといけません」

 

朱里は俺の言葉にそう付け加えた。

 

俺達はその日のうちに城への帰路を進んだ。

幸い、五分五分に持っていくのがやっとだと思っていた戦況も呂布のおかげで奇襲という形にすることが出来た。

そのおかげで大きな負傷をした兵たちも少ない。

用意していた担架で事足りた。

 

上出来過ぎる戦果に皆は上機嫌で、あの愛紗ですらそれが表情に出ている。

俺もその中にいた。

皆とわいわいと話をしながら進んでいると、

 

「────ッ」

 

何か寒気が、悪寒が一瞬、体中を駆け巡った……気がした。

周りを見渡してみるが、それを感じたのは俺だけのようで……いや、もう一人居た。

 

「──隊長」

 

凪だ。

俺と凪だけが、その悪寒を感じ取った。

そして、その嫌な気配にはひどく覚えがあった。

 

「……どこにいる?」

 

俺程度の探知力では居場所が確定できない。

だから氣の扱いに長けている凪に索敵を頼んだ。

 

「……ここから北西の位置。

 小さな村……いや、集落、でしょうか」

 

視界では確認出来ないほど遠い場所なのか、

凪は眼を閉じ、僅かな氣の流れも逃さないように集中した。

 

「まだ到着しては居ないようですが確実にそこへ向かっています」

 

凪の索敵範囲内を超えたのか、額に汗を浮かべながら大きく息をつき目を開いた。

 

「行きますか」

 

「当然だ」

 

「馬で駆ければ……間に合うかどうかの距離です」

 

俺は皆のほうを向いた。

途中で歩みを止めた事に気づき、皆も顔をこちらに向ける。

 

「ご主人様、どうかなさいましたか?」

 

「皆は先に帰っててくれ。俺と凪は用事が出来た」

 

「はい?」

 

突拍子も無い言葉に理解が追いつかなかったのか、愛紗はそう聞き返した。

 

「あの、用事、とは」

 

「ちょっとした野暮用だから、すぐに追いつくよ」

 

「ご主人様だけ行かせるわけにはいきません」

 

「凪も来るから大丈夫だよ」

 

「……勘違いならば謝りますが、それはもしや董卓討伐の時に居た者と関係があるのでは?」

 

一刀と愛紗のやりとりを見ていた星は、一刀の様子が少しおかしい事に気づいたのかそう言った。

 

「なに?あの白装束を羽織っていた者達か?」

 

「そうなんですか?ご主人様」

 

「…………」

 

桃香の問いかけに頷こうか迷う。

ここにいる白装束は、本当にこの子達とは全く関係がないはずだからだ。

あいつらはもう歴史なんてどうでもいいと考えているように思う。

だから、この中の誰かが欠けてしまう可能性が無いわけじゃないんだ。

 

「主はあの白装束の事になるとなにやら急いているように思えます。

 しかし私からしてみればそれは主が死に急いでいるようにも見えます」

 

「皆には関係無いんだ」

 

「な──」

 

「あ、いやそうじゃなくて……なんていうか」

 

言ってから、自分の今発した言葉が本当に伝えたい事ではないという事に気づく。

でも、他に伝えようがない。

あいつらは別の世界からやってきていて、具体的にはわからないが俺の事を悪意を持って狙ってきている。

そしてあいつらはもう歴史を顧みていないから、皆の誰かを失うかもしれない、と。

……もしも自分がそう言われたらこう思うだろう。

意味不明だと。

そもそも俺自身あいつらが何をしようとしているのかをわかっていない。

 

「わかりました。とりあえず皆で行きましょう」

 

うんうんと唸りながらなんとか上手い言葉を探していると、朱里がそう提案した。

 

「いや、だから」

 

「ご主人様のお考えはよくわかります。

 しかしこれだけの面子が揃っているのですよ。

 誰かが欠ける、なんて事にはそうそうならないと思います」

 

まだ何も言っていないのに、こちらの考えている事を見通してしまう。

 

「それにもしも誰かがその白装束に襲われているのだとすれば、

 やはり大人数の方が生存者の救出も確実なものになりますよ」

 

……そうだ。

ここにいる皆の事を考えるあまり、襲われている人達の事を考えていなかった。

何をしているんだ俺は。

 

「どうです?」

 

首をかしげながらにこりと微笑み、そう問いかけてくる。

……なんだろう。この子を本気にさせては行けない気がする。あらゆる意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪の誘導のもと、俺達は馬を走らせた。

嫌な緊張感が胃を中心に体全体で渦巻いている。

もちろん戦に出る時も緊張や不安、恐怖はある。

だけどこの気配を感じると、そういうものとは違う感情に変わる。

憎悪という、歪んだ形に。

しかしどうにもおかしい。

奴らの気配の中にひとつだけ、何か違うものが混ざっている気がする。

何が違うのかは明確には分からないが、とにかくしっくりと来ない。

多数あるものの中で、その一つだけが、どうにもわからないのだ。

 

 

 

 

 

 

凪を先頭に、その後ろについていく。

 

「……妙ですね」

 

先行していた凪がそう口にする。

 

「どうしたんだ?」

 

「連中の速度が途中で落ちています。

 それも我々が村へ向かってから……罠かもしれません」

 

「罠だと?」

 

罠という単語に愛紗が反応する。

 

「我々をおびき出す為に、どこでもいい、手頃な場所を襲う振りをしているのかもしれません」

 

「ならばこのまま向かうのは愚行ではないのか?自ら罠に掛かりに行く必要はあるまい」

 

「いえ、向かわなければ奴らは本当にその村を襲うでしょう。

 我々に選択肢など無いのです。

 奴らにとって人を殺す、村を焼き払う。

 それらの事は全く意に介さない、我々が呼吸をするのと同じように、当たり前のように出来てしまう」

 

凪の言葉に、愛紗の手に力が籠もる。

先の、反董卓連合での事を思い出しているのかもしれない。

平気で人を傷つけ、全てを奪う奴ら。

 

「なるほどな。我らはさしずめ、糸を吊るせば必ず食いつく雑魚のようなものというわけか」

 

星がそう口にするのと同時に、凪が方向を変えた。

 

「奴らよりも早いというのなら話は早い。直接奴らのほうへ向かいます。

 念のため村の方角を背にして向かい討ちます」

 

「わかった」

 

凪の提案に従い、俺達は微妙に方向を変え進んでいく。

しかし今回奴らは何が目的なのか。

氣というにはあまりにも禍々しい気配は白装束の共通点だ。

于吉のように死人を使い生み出した者は生気が無いために氣というものがそもそも存在しないが、他の”生きている”奴らは皆同じだ。

何よりも凪が”そうだ”と判断しているのだから間違いはない。

俺たちは白装束に対して持っている情報が少なすぎる。

この場では一番白装束を知っているであろう俺でも、持ちうる情報と言えば

兀突骨、左慈、于吉という、幹部格であろう奴らがいるということ。

目的の為ならば手段は選ばず、何よりも人を苦しめようとする、

そして、明花の持つ”力”を何かしらに必要としているということだけだ。

そもそも俺自身明花のあの力が何なのかすらわかっていないのだ。

この場に貂蝉が居てくれれば詳しい事を教えてくれそうだが、ないものねだりをしても仕方がない。

 

そんな事を考えていると

 

「──!?転身!転身ーーー!!!」

 

凪が突然振り向き、大声でそう叫んだのだ。

 

「な、なんだ!?」

 

「どうした!?」

 

急な号令に反応出来るはずも無く、後を付いてきている兵達は困惑の表情を浮かべ整っていた隊列もどんどんと崩れていく。

 

「ちぃ……!申し訳ありません、愛紗様、星様、押し付ける形で申し訳有りませんが兵たちの混乱を鎮めてください。

 いささか考えがなさすぎました」

 

すると凪は方向を真逆に変え、そのまま突っ走っていってしまう。

 

「おい凪!どうした!何があったんだ!!」

 

「──ええい!愚か者!!隊列を崩すな!全軍速やかに転身!」

 

凪の急な指示に対し疑問は抱くがまずは崩れかけている隊列を整えることを優先した。

 

「悪い!ふたりともここは任せた!俺は凪を追う!」

 

そう言い、凪の後を追おうとした直後、

 

「ぐあああ!!?」

 

「ぎゃあああ!!!」

 

「う、うわあああーーーーーー!!」

 

進軍していた最後方、つまり凪の走っていった方から兵たちの悲鳴が響いた。

悲鳴の方へ視線をやると、砂塵が舞っていた。

つまり、”戦闘”が始まっていた。

 

「くそ!」

 

誰に向けたわけでもない悪態を付きその砂塵へ向かって走りだした。

一方愛紗達の方も、あまりに突然すぎる謎の襲撃に兵たちはたちまち混乱し、整いかけていた隊列もすぐに崩れ、

もはや収集のつかないところにまでなっていた。

 

「一体何だというのだ……!愛紗!我らも向かうぞ!」

 

「く……仕方がないか……!」

 

その場はもう無理だと判断し、自らが混乱の元凶を断つのが最善だと判断し、二人も砂塵の中へ走って行く。

 

「みなさーん!落ち着いてください!まだ敵はこちらまで来ていません!落ち着いてゆっくり!」

 

「あわわわ、桃香様はこっちです……」

 

「え?で、でも!」

 

「……こっち」

 

桃香の周りを囲うようにしていた呂布隊だけは隊列を崩してはおらず、まずは桃香を守る事を最優先にした。

何かを言いかけた桃香を問答無用に力づくで安全なほうへ呂布が引っ張っていく。

 

「んーええ判断やで呂布ちん。ほなウチも──っといきたいところやけど、こいつらを放っておくわけにもいかんしウチはここに残るわ」

 

「は、はいお願いします!

 私達だけでは収拾出来そうにありません……」

 

「まかしとき。こういう時は急かしても宥めてもダメや」

 

「どうすればいいんでしょう……」

 

「まぁ見とき」

 

朱里、雛里にそう言い、張遼は得物を担ぎ未だ混乱している兵たちに向き直る。

急かすもダメ、宥めるもダメ、ならばこの名将は一体何をするのか。

朱里と雛里が見つめる中、張遼は──

 

「おんどりゃああボンクラ共!!!今まで何しくさっとったんじゃ!!

 隊長の命令には迅速に臨機応変に応えんかい!!ド突き回すどアホンダラあああ!!」

 

脅した。

 

「えー……」

 

「……私達には無理な事だったね、朱里ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪と一刀が騒動の中へ到着したのはほぼ同時だった。

二人が到着したときには既にその場の混乱は最高潮に達していた。

勝利の余韻に浸っていた兵たちは怯えながら逃げ惑い、怪我をした仲間を安全な場所へ引っ張ろうと苦戦している兵もいる。

 

「なんだこれは……」

 

凪のつぶやいた言葉は、まさに一刀が思っていた事だった。

砂塵が舞っていたのは戦闘により地面の土が舞い上がったものだと思っていた。

しかしそれにしたってこの量は尋常じゃない。

こうしている間にもどんどん濃くなっている気さえする。

ほんの数メートル先すら見えないほどに舞い上がった砂塵。

そもそもこれは本当に砂塵なのか?

これだけ舞っているというのに呼吸が困難というわけでもなければ目に砂が入るといった事もない。

何よりも、これだけ視界が悪ければどちらも攻撃はおろか行動すら困難なはず。

だというのにこちらの兵だけが一方的にやられている。

更に、氣の感知に長けているはずの凪が混乱しているのだ。

 

「凪!敵の場所は特定出来ないか!?」

 

「私も探しているのですが──!」

 

凪が言葉を言い切る前に、砂塵の中から突如現れる、鈴々の蛇矛と同じくらいあるのではないかという大太刀。

その刃を凪は何とか受け流し、即座にそれが振り下ろされた方へ反撃を試みた。

しかし手応えはなかったらしく、凪の腕は空を切っただけだった。

 

「あっは、危ない危ない。今のを避けるどころか反撃するなんて、人間離れしすぎてるよ。

 あんな大仰な噂になるだけのことはあるね。于吉なんかじゃ勝てない訳だよ」

 

そして突如投げかけられる、聞き覚えのない声。

その声音から女性だという事だけは判別出来るが、その声がどこから届いているのかも分からない。

 

「おのれ……!」

 

凪が次の攻撃を警戒する中、俺はこの砂塵についてある確信を得た。

凪に向かった大太刀。

凪の放った反撃。

どちらもの攻撃により発生した風圧にたいして、今舞っている砂塵は全くの無反応だった。

つまりこれは、何かしらの方法で”見せられている”ということになる。

 

「ったくどいつもこいつも変な術ばっか使いやがって……!」

 

「それはキミもでしょ?」

 

「────!!!」

 

その言葉と共に突如眼前に現れる巨大な刃。

それを寸でのところで避け、刃が砂塵の中へ戻っていくよりも早く、鞘から刀を滑らせ居合い斬りを放つ。

 

キンッと、軽く金属がぶつかる音が聞こえた。

どうやら大太刀に当たっただけで、標的には届かなかったらしい。

 

「……ふうん」

 

何かに納得したかのような声。

それと同時に顔を両手で掴まれ、力任せに引き寄せられる。

やばいと思った瞬間、目の前に見たことのない、顔立ちの整った女の顔がどアップで現れた。

 

「……ずいぶん強くなったんだね?」

 

「は……?」

 

まるで前から自分の事を知っているかのように話す女に問おうと口を開いた瞬間、

 

「──んむう!?」

 

その女は突然、口づけをした。

さらには口内に熱い、ぬるっとした感触が広がる。

 

「──んはぁ。……ふふ」

 

唇を離すと、女は先ほどの感触を確かめるように指で唇をなぞり、舌なめずりをしながら挑発的な視線を向けた。

 

「な……!なん……!?」

 

「私のものだ……誰にも渡さない」

 

あまりの出来事に頭が追いつかず、敵が視認出来ているのに刀をふるうという選択肢が出てこなかった。

 

「今日はこれくらいにしておくよ。もともと挨拶だけのつもりだったしね」

 

言うが否や、視界のほとんどを遮っていた砂塵がどんどんと薄れていく。

 

「ま、待て!お前一体──」

 

「そのうちまた会う事になるよ。……私が会いに来るさ。

 ──キミを奪いに」

 

そう言い残し、残った砂塵に引っ込んでいった。

 

「おい!!」

 

そして砂塵は薄れていき、やがて消え、既に女の姿もそこにはなかった。

 

「……挨拶?また来る?──俺を奪う?」

 

只でさえあの女のとった行動に対し混乱しているのに、さらにその言葉によって頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 

「訳がわからん……」

 

しかし、一つだけ明白な事があった。

 

「……何色仕掛けに引っかかってんの俺……馬鹿だろ……」

 

……死にたい。

 

 

 

あとがき

いやぁもうかなり期間が空いてしまいました。

待っていてくださっている皆さんには本当に申し訳ないと思っています。

しかしながら今のプライベートの環境だと時間とモチベーションによってこんな感じの更新ペースが続いてしまう可能性があります。

なので時折思い出して、あ、そういえばこんなSSあったなーみたいなスタンスでよろしくお願いします。自分でも何を言っているのか(ry


 
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