第七話 獅子の卒業、そして派遣
「ん…む、ぅ…あれ、ここは…保健、室?」
「お、起きたでござるか。ウル殿」
ウルが起きたとき、そこは少し薬品の匂い漂う清潔感に溢れた部屋…保健室だった
傍らには忍者を隠そうとしないクラスメイト―長瀬楓の姿がある
「あ、楓さん。…僕は何故ここに?」
「…覚えてないのでござるか?」
楓は少しだけ目を開いて驚いた表情になる
―確か僕は…最後の全体イベントでスペシャルターゲットになって、クラスメイト以外の人に借りられちゃったらペナルティになっちゃうから、必死で逃げて
でも途中で魔法が使えなくなってそれから…
「あ」
―そうだ
僕は殺されかけたんだ
メガロメセンブリアの元老院が雇った、傭兵に
『不思議な事ではないだろう?何時の世も、為政者は不安要素を排除しようとする物だ。それも人造人間などと言う化け物なぞ、殺す理由こそあれ生かす理由など無い』
頭の中に『化け物』『生かす理由はない』などの言葉が乱反射する
その内ウルの目には涙が溜まり、体はガクガクと震えだす
「…思い出したのでござるな。出来れば結界の中で何があったのか、話してはくれんでござるか?無理に、とは言わんでござるよ」
「うっぐ…だい、じょうぶ…ひっぐ…です。話し、ます」
ウルはところどころ嗚咽を漏らしながら、涙で声を震わせながら結界の中での出来事を楓に話す
全てを聞き終わると、楓はウルを抱きしめた
「楓…さん…?」
「すまなかったでござるな…。お主のような子供に辛いことを話させて。…大丈夫でござるよ。ウル殿は人間でござる。拙者が保証する」
「だい、じょうぶですよ。女性の前で泣くわけには、いきませんから」
ウルは無理やり笑顔を作って楓に笑いかける
「…そうさなぁ…。拙者はいつも糸目でござろう?」
「…?」
「だから、もし今誰かが泣いたとしても拙者の目には映らんでござる。それでも声が聞こえるから嫌と言うならば…」
「うわぷっ」
楓はウルの顔を抱え込むように抱く
「これで拙者には声も聞こえぬし顔も見えんでござる。さあ誰かさん、思いっきり泣いても良いでござるよ」
「ッ…ぅぁあぁああぁ…!」
暫く保健室では押し殺したような誰かの泣き声しか聞こえる物はなかった
「…ありがとう、ございます。もう大丈夫です」
「ん~何のことでござるかな~♪」
あくまでも飄々とした態度を崩さない楓
ウルは考える
―今回は何とかなったけど、最後に魔力が戻ってこなかったら僕は死んでいた
やっぱり我流の体術じゃ駄目なんだ
その為には、詠春さんの神鳴流や楓さんの―
「楓さん」
「ん?何でござるかウル殿」
「僕が全快したら、手合わせしてもらえませんか?」
「お、良いでござるよ。もちろん手加減はしないでござる」
「あはは、望むところです」
和気藹々とした会話を交わしながら、二人は拳をぶつけ合った
★
五ヵ月後
「麻帆良中学校3年A組、出席番号1番…相坂さよ」
「はいっ!」
麻帆良の警備任務や
半年も通っていなかったがウルも卒業だ
出席日数足りないだろ、とか言ってはいけない
だって麻帆良だから
「3年A組出席番号8番、神楽坂明日菜」
「はっ…はい!」
明日菜は一週間ほど前に100年の眠りに付いた
では何故ここにいるのか?
それには未来人―
鈴音は過去に『魔法を全世界にばらす』と言う計画を実行した
その理由は未来での魔法世界の崩壊、それを何とかするために鈴音は『航時機カシオペア』―タイムマシンで過去にやってきたのだ
今回関わってくるのはこのカシオペアと鈴音が新たに開発した『渡界機』である
渡界機は簡単に説明すればパラレルワールドを行き来する事が出来る機械である
つまりは渡界機で100年後明日菜の世界に来た鈴音が明日菜を連れて、カシオペアで過去に戻ってきたのだ
そのお陰で明日菜はクラスメイトと再開でき、なおかつ一緒に卒業できるのだ
「生徒諸君、三年間よく頑張ってきたな。これからの未来は君たちが作る、君たちの物語じゃ。そんな君たちにこの言葉を送ろう。『僅かな勇気が本当の魔法。少年少女よ大志を抱け。僅かな一歩が、世界を変える』。さあ、これで第○○回麻帆良中学校、卒業証書授与式を終了する。卒業生達に大きな拍手を!」
学園長の言葉が終わると同時に大きな拍手が式場に響く
そしてウルたち卒業生が退場し、麻帆良中学校の卒業式が終わった
★
「超鈴音さんですよね。初めまして。ウルティムス・F・L・マクダウェルといいます。ウルでお願いします」
「うむ、初めましてネ。超鈴音ヨ。超でも名前でもどっちでも良いネ」
「では鈴音さんとお呼びしますね」
お互い挨拶を交わしているとなにやらネギと明日菜が騒がしい
どうやらネギの本命を聞き出したようだ
明日菜が若干暴走気味になっている
と、その騒がしさを聞きつけたネギの事が好きな女生徒達が突撃をかける
女生徒たちはこぞってネギの取り合いを始め、ネギは揉みくちゃにされてしまう
「み、皆さん!そんなにぎゅうぎゅうされると、は…は…」
「げ、
ネギのくしゃみの気配を察知し、ウルは意識的に魔法無効化を発動する
「ハックシュンッ!!!」
やはりと言うべきか、ネギはくしゃみをきっかけに『
周囲にいた者はウルを除いて全員服を脱がされてしまった
「あー…ネギさんもあれは何とかして欲しいんですけど…そう思いませんか鈴音さん?」
「こ、こっち見ちゃ駄目ネ!」
その言葉を聞き逃してウルは鈴音の方を振り向いてしまう
「あっ」
「だ、だから駄目って言ったヨ」
そこには一糸纏わぬ姿の鈴音がいたのだ
「す、すいません!」
「ま、良いけどネ。子供に見られたくらいで恥ずかしがってちゃ天才科学者は務まらないヨ。…ああ男の子に始めて見られてしまったヨ…」
そう言う鈴音だったが、その言葉を否定するように顔は真っ赤に染まっていた
尚最後の部分はボソッと小さく言ったのでウルには聞こえなかったようである
鈴音は戦闘用のスーツを着用して服装を整える
「あ、いたいたウルくーん!」
「あれタカミチさん。どうしたんですか?」
「学園長が君を呼んでるよ。君の進路の話だそうだ」
「…?わかりましたすぐに行きます」
★
「派遣?」
「そうじゃ。駒王学園と言うところから魔法生徒の派遣要請があっての。駒王学園は聞いた事があるかの?」
「いえ、無いです」
「そうか。ではどこから話すべきかのう…」
学園長は顎に手を当てながら慎重に言葉を選んでいるようだ
「…まああちらが魔法関係者を指定してきたという事は、遅かれ早かれ関わる事になるじゃろうのう…。よしウル君、これから話すことは他言無用じゃぞ」
「はい、分かりました」
「駒王学園はな、悪魔が創設した学校なんじゃ」
「学園長、病院に行きましょう」
「マジじゃよ!?」
「あ、もしもし?すいません救急車をお願いします。麻帆良中学校まで」
「あっちょ、マジなんじゃって!本気で!」
「…そこまで言うなら話しだけは聞きましょう」
ウルは携帯電話の通話を切って学園長に向き直る
「ほぉう…精神病棟に叩き込まれるところじゃったわい…」
学園長は額の汗をハンカチで拭いながら椅子に深く腰掛ける
「近右衛門、その子がそうかい?」
「ッ!?」
「おおサーゼクス殿。そうです。彼、ウルティムス君を駒王学園へと派遣しようと考えておりますじゃ」
「では挨拶をしなくてはね。妹の学友になるのだから」
いきなり現れた紅髪の男性
彼の持つ魔力にウルは畏怖し、跪きそうになる
「始めまして、ウルティムス君。私はサーゼクス・ルシファー。四大魔王の一人『ルシファー』だ」
と、サーゼクスは背中から蝙蝠のような翼―悪魔を象徴する翼を出しながらそう言った
次回!駒王学園に入学!
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