No.675833

戦国†恋姫~新田七刀斎・戦国絵巻~ 第2幕

立津てとさん

この作品はは決してダークなお話にならないことをここに誓います!
そしてエーリカさんにはいつまでも清楚でいてほしいです



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2014-04-03 01:59:20 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2964   閲覧ユーザー数:2636

 第2幕 変貌

 

 

 

トン、トン、トン、トン・・・

 

聞き覚えのある音が聞こえてくる。

 

「うぅ・・・んぅ」

 

小気味の良い音を布団の中で聞いているのは、和服のような寝間着を着た青年だ。

 

「フンフフンフーン♪」

 

小気味の良い音を台所の上で立てているのは、裸にそのまま前掛けを着た女性だ。

 

「あら、起きたのですか。剣丞さん」

「エーリカ・・・って、ええぇっ!?」

 

エーリカが野菜を切っていた手を止め、剣丞の方へ振り返った。

その姿に自分の目を疑った剣丞がもの凄い勢いで布団から飛び起きる。

 

「エーリカ、それって、は、はだ、はだだか裸、エエエプエプ・・・」

「はい。愛する旦那様の為に着てみましたが、似合いませんか?」

 

何を言っているんだとエーリカを見る。

南蛮人らしく洋風なフリフリエプロンは、まるで最初からエーリカの身体の一部であったかのようで、

 

「いや、すっごく似合ってるんだけど」

(って違うだろ!もっと他に言うことあるだろ!)

「まぁ、嬉しい!」

 

いつもは見せない無邪気な笑顔を見せるエーリカだった。

 

「もう少しだけ待っててくださいね。すぐに朝餉を作りますから」

 

そう言って台所に向き直るエーリカ。

すると当然の如く、剣丞の方に向けられるのは彼女の後ろ側であって・・・

 

(お、お尻が・・・ゴクリ)

 

生唾を飲み込んだ音がいやに響く。

 

スタイルの良いエーリカは、背中から腰のラインがスッと通っており、その下にあるたわわな果実も自己主張をしている。

 

(フム、垂れず緩まず、健康的でとてもいい桃尻だ。素晴らしい)

 

顎に手を当て評論する剣丞。

自分でも何をやっているのかわからなかった。

 

そんな剣丞を知ってか知らずか、エーリカは台所の前で横への平行移動を繰り返す。

 

(おおっ!エーリカが動くたびに足が開いて・・・も、もうちょっと屈めば、あの隙間の楽園が・・・!)

 

剣丞の頭が徐々に床に近づいていく。

 

(もうちょっと、もうちょっとでエーリカの!もうエーロカ、エーロカだよアンタ!!)

 

「剣丞さん」

「は、ファイ!?」

 

変な裏声が部屋に響いた。

その自分の声にさえも気づいていない剣丞に、エーリカが伏し目がちに頼み込むことがあった。

 

「あの・・・太腿にお水がかかってしまって・・・今は両手が塞がっているので、剣丞さんの手で拭いてくれませんか?」

「ええっいいのでございますか!?」

 

剣丞は裏声に引き続き自分の言葉遣いが変なことに気付いてない。

 

「はい。早く、お願いします・・・」

「あ、ああ・・・ゴクリ」

 

2度目の生唾を飲み込む剣丞。

 

「じゃあ、さっそく・・・」

「あんっ!」

 

エーリカは思わず足を滑らせ、後ろに倒れ込んだ。

 

「うわわっ、大丈夫か?」

 

倒れてくる体を、剣丞は見事キャッチすることに成功した。

 

のだが、

 

「あっ・・・剣丞さん・・・」

「え、ッ、うおぉごめん!」

 

剣丞の手はエーリカをキャッチしようと伸ばされ、最終的な行き先が彼女の胸になってしまっていたのだった。

 

「もう、剣丞さんったらそそっかしいんだから」

「えっ?」

 

エーリカが胸に置かれた手を掴み、より下へと誘う。

 

「したいなら、いつでもしていいんですよ?」

「えっ?えっ?」

 

マッタクイミガワカラナイヨ

 

「食べた後にしようかと思ってたのに・・・仕方ありませんね」

「エーリカ?」

「はやく、してください・・・」

 

「うっひょおおおおお!!」

(駄目だエーリカ!なにをやっているんだ!)

「って、間違えた!」

 

勢い余って上を脱ぎ掛ける剣丞。

何故か彼は逸っていた。

 

「エーリカ、俺は、俺は!」

「わかっています。きてください・・・」

「エエェェィリカァァァ!!」

 

剣丞は某大泥棒よろしくエーリカにダイブしていったのだった。

 

 

 

トン、トン、トン、トン・・・

 

聞き覚えのある音が聞こえてくる。

 

「うぅ・・・んぅ」

 

小気味の良い音を布団の中で聞いているのは、和服のような寝間着を着た青年だ。

 

「フンフフンフーン♪」

 

小気味の良い音を台所の上で立てているのは、独特な普段着を着た女性だ。

 

「だ、駄目だぁ!!!!」

 

青年――剣丞は手を伸ばして飛び起きた。

 

「?あら、起きたのですか。剣丞さん」

「ひっ!エーリカ・・・あれ?」

 

エーリカの呼びかけに、何とも言えない居づらい空気を1人で感じる剣丞。

 

「どうなさったのですか?私の服なんか見て・・・」

「あ、いや・・・いいんだ」

「そう、ですか?」

 

首を傾げるエーリカに対し作業を促すと同時に、剣丞は先程見た夢を思い出していた。

 

(夢だったのか・・・まさか命の恩人に俺は劣情を・・・!)

 

夢の中の淫靡な彼女の姿が一瞬で蘇る。

 

(しかし、いい夢だったなぁ・・・いやいや!忘れるんだ剣丞!エーリカさん相手に限ってあんな状況になるわけないじゃないか!)

 

夢の内容を噛みしめるように忘れようとする剣丞は、結局いつでも鮮明に思い出せるように脳内SSDに保存しておくのだった。

 

(しかしあんな夢を見るなんて・・・溜まってんのか?いやエーリカとなら別にいいんだけど)

「はい剣丞さん、今日は魚屋さんからもらった焼き鮭ですよ」

「ん、あ、ああ。ありがとうエーリカ。いただきます」

「ところで剣丞さん、何故前屈みになっているのですか?」

 

剣丞の剣丞はもうウェイクアップしていた。

 

「え?ああー!あー!なんでもないよ!ほら、早く食べようよ!」

「わ、わかりました・・・」

 

 

剣丞がこの世界に来てから1ヶ月。

それはすなわち、エーリカとの同居が始まってから1ヶ月をあらわしていた。

 

エーリカは剣丞が未来から来たということを素直に受け入れていた。

歴史の顛末などは教えていないが、剣丞が元々過ごしていた時代と生活を聞いて、エーリカは剣丞の話を信じてくれたのだ。

 

1ヶ月の間に剣丞とエーリカの間の壁は薄くなっていた。

剣丞は敬語ではなくなり、エーリカも仰々しい態度は無くなっていた。

呼び方も様付けからさん付けになっている。

 

「剣丞さん、今日は?」

「今日は水揚げの手伝いかな」

 

剣丞は堺の町で、細々ながらも仕事をしていた。

言うなれば何でも屋のようなものであるが、それなりに収入は安定に向かっている。

 

「じゃあお弁当が必要ですね、後で作りましょう」

「ごめんねエーリカ、色々させちゃって」

「ふふっ、いいんですよ」

 

こうして朝ご飯を終え、エーリカから弁当を受け取った剣丞は仕事場である湊へと向かった。

 

 

 

昼前 堺の湊

 

剣丞はトレードマークである学園の制服に着替えており、エーリカの弁当と、刀を1本持ち、ちょうど水揚げ中の漁船に近づいていった。

 

「おはようおっちゃん。手伝うよ」

「おぉ剣丞!今日も頼むぜ」

 

この何でも屋のようなことをしている中で、水揚げの手伝いは最も多い仕事だった。

そのためにこの堺で剣丞と仲が良いのはエーリカを除けばこの漁船の船長くらいであった。

 

「今日は大漁だ!金払いは良くなるし釣れた分もちょっと分けてやるよ!」

「マジか!ありがとうおっちゃん!」

 

その話を聞いて俄然やる気をだす剣丞。

 

 

モチベーションが上がったこともあってか、昼を挟んで夕方前にはすべての作業が終わっていた。

 

「ふぅ~今日は助かったぜ。ほれ、今日の分だ」

 

船長から1日分の給金と桶に入った魚が数匹渡される。

ちょっととは言われていたが、エーリカとの2人暮らしであった剣丞には十分な量だった。

 

「よーし、じゃあ新鮮なうちに帰って食べるかな。お疲れ様ー」

「おう、お疲れ」

 

剣丞が荷物を背負い、魚の入った桶を持った時だった。

 

「だ、だれかぁぁー!」

 

女の悲鳴が夕焼けの湊に響く。

その声にいち早く反応したのは、岐路につこうとしていた剣丞だった。

 

「どうしました?」

「ああ、新田さん・・・」

 

見覚えのある顔だ。

剣丞の記憶が確かなら、以前子守の依頼を引き受けた母親だった。

しかし、今日はいつも紐で背負っている2歳くらいの子供がいない。

 

「ハァッ、ハァッ、娘が、娘が・・・!」

「娘さんが、どうしたんですか?」

 

母親の背中を摩り、呼吸の回復を促す。

 

「娘が、山賊に攫われて・・・返してほしかったら今晩中に100貫用意しろって!」

「ひゃ、100貫!?」

「100貫揃ったら、裏の山まで来い。娘は引き換えだって・・・あぁぁ!」

 

当時の1貫は現代でいう1万5千円~2万程度なので、娘を攫った犯人の要求額は現代で言い換えるとおよそ150~200万円だった。

 

「おいおいどうした剣丞」

「悪いおっちゃん、この人頼んだ!」

「頼んだって、お前さんはどうするんだい?」

「ちょっと人助けだ」

 

泣き崩れる母親を船長に預け、駆け出す剣丞。

裏の山の場所はわかる。あとは自分が乗り込むだけであった。

 

 

 

 教会

 

「エーリカ!」

 

入口の扉をバンと開く。

エーリカはいつものように十字架の前で祈りを捧げていた。

 

「剣丞さん、どうなさったのですか?」

「説明は後だ。とりあえずはい、これ」

 

エーリカに給金袋と桶を渡し、部屋にある刀の残りを持ち出す。

 

「ちょっと、剣丞さん?」

「事情は湊のおっちゃんに聞いて。それじゃ!」

 

ホルスターで6本を1つにまとめ、最後の長刀を背負った剣丞は、急いで教会を出て行った。

エーリカは剣丞の勢いに呑まれ、その背中を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 裏の山

 

山の中腹の開けた場所で、まだ赤子とも言うべき少女が縛られ、口に枷をさせられている。

その周りを囲むように約30人ほどの山賊が下卑た笑いを浮かべていた。

 

「ヒッヒッヒ、おい、あの3人はどうした?」

「3人?ああ、兄貴、チビ、デクのことですね。アイツらなら足を洗って農民になるとかで紀伊の方に行きやしたぜ」

「ケッ、たかだか南蛮人に負けて辞めちまうようじゃハナッから山賊なんて向いてなかったんだよ」

「「「ゲヒャヒャ!」」」

 

(グッ、あいつら・・・!)

棟梁らしき筋肉質の男が部下たちと笑い話をしている。

話題自体に興味は無かったが、彼らの笑い声を聞くと体の中の熱い所がふつふつと湧き上がってくるような感触を覚えるのだ。

 

剣丞は丈夫そうな木に登り、木の葉の隙間から様子を見ていた。

こういった草の真似事――隠密術を剣丞は得意としていた。

それは決してハワイで親父に教わったわけではなく――

 

「山奥で明命姉ちゃんに教わったのさ!」

 

「あん?」

 

山賊の1人が訝しげに剣丞のいる方向を向く。

 

(やっべーーーーーー!決め台詞に音量を取りすぎた!)

 

まだ気付かれてはいないようであったが、時間の問題だと察した剣丞は一気に木の上から飛び降り、山賊たちの前に姿を現した。

 

「なっなんだコイツは!?」

 

突然の侵入者に山賊たちの間からどよめきがあがる。

 

「俺の名は新田剣丞だ!その子を返してもらうぞ!」

 

剣丞は棟梁らしき男を真っ直ぐ見据えて言い放った。

 

「テメェ・・・まさか1人か?」

「それがどうした」

 

「プッ、ギャハハハハ!本当にたった1人で俺達と戦おうってのか!?」

「イヒーッヒッヒ!傑作だぜ!」

「こんな気狂い、晩までの暇潰しに殺してやれぇ!」

 

山賊たちは顔を見合わせてひとしきり笑うと、刀を抜き一斉に剣丞に襲い掛かって来た。

 

「クッ、相手は人だ・・・抜くわけにはッ」

 

剣丞は刀を鞘ごとホルスターから抜き取り、構えた。

 

「コイツだって、立派な鈍器になる!」

「ナメた野郎だなぁやっちまえぇ!」

 

山賊たちが斬りかかるも、剣丞はそれを見極め避けた。

 

「お前らの動きなんて、春蘭姉ちゃんや愛紗姉ちゃんの足下にも及ばねーんだよ!」

「ぐぁっ!」

「ぎゃああぁ!」

 

乱暴に山賊2人の肩に鞘を叩きつける。

それだけで鞘は肩にめり込み、2人をのたうち回らせることに成功した。

 

それを見た山賊たちに動揺が奔る。

 

「なんだアイツ、ちょっと強くねぇか?」

「いいや気のせいだ、きっと大人数でかかれば怖くねぇ!」

 

棟梁の叫びに呼応して剣丞を攻めたてる山賊たち。

流石に剣丞もこれには防戦一方になるしかなかった。

 

敵に背を向けないために、一団から距離を取り、木によりかかる。

その様子を見て山賊たちは相変わらず下卑た笑いを浮かべて剣丞に近づいてきた。

 

剣丞が戦闘不能にしたのはたった2人。

残りの28本の刀はまだ剣丞に向いている。

数の暴力に晒された剣丞の身体は困憊に喘いでいた。

 

「ハァッ、ハァッ、クソ・・・やっぱこんだけの大人数戦だと無理があるか」

『オイなにしてる、とっとと抜け』

「ッ、声!?」

 

突然頭に響き渡った声に驚き、辺りを見回す剣丞。

しかし、目の前にゆっくりと迫ってきている山賊たち以外に人は1人もいない。

 

「なんだ今の」

『いいから、早くその刀抜けよ』

「また声が・・・」

 

再び声が聞こえる。

2度目にしてわかったことは、その声は耳を介さず直接頭の中に届いていたことだった。

 

(幻聴か・・・?)

『ンなわけねぇだろ。こちとらちゃんとお前の中にいるっつの』

「俺の中って、お前誰だよ!」

『ハァ?何言ってんだお前』

「何って、お前が何言って――「おらぁっ!」ッ!」

 

山賊の1人が斬りかかって来たのを咄嗟に避ける。

 

「ハァクッソ!なんなんだよったく」

『お前も強情だな。早くその刀を抜きゃあオレが全部片付けてやるってのに』

「はぁ?どういうことだよ」

 

刀を低く横薙ぎに振る。

すると山賊の1人が足を抑えて転げまわることになった。

 

「あと、27人・・・!」

『みみっちぃなぁ』

「うるせぇ!」

『斬らねぇとお前もあのガキも助からねぇぞ?』

「黙れ!人殺しになってたまるもんか・・・!」

「なんだか知らんがもらったぁぁー!」

 

剣丞が頭の中の声と話している隙を狙って、山賊が一斉に飛び掛かって来た。

 

「うわあああぁぁぁぁーーーッ!!」

 

気が付くと剣丞は絶叫していた。

人を斬りたくないという思い、助けたいという思い、そして自分自身の意地。

しかし、その思いはいとも容易く断ち切られる。

 

「ほらな、結局お前は助かりたいんだよ!」

 

 

 

剣丞は刀を抜いていた。

 

抜いた勢いに任せて振った刀は、山賊の身体をまるで水を切るように通り抜けて行った。

上半身と下半身に分かれた山賊の死体がドッと重い音を立てて地面に崩れ落ちる。

 

「な、なにぃ!?」

「なんだあの刀!!」

 

山賊たちが剣丞から1歩引く。

 

「やっぱ久しぶりに振る剣はいいなぁ~やっぱこうでなくっちゃ」

「あ、アイツ・・・さっきの新田なのか?まるで雰囲気が・・・」

 

棟梁の察する通り、剣丞の雰囲気は刀を抜くのを境にまったく別物になっていた。

 

「本当なら虐殺にしてやりたいところだが、ガキもいるし楽に殺してやるよ」

「て、テメェイキがってんじゃねぇぞ!」

「ッ、おい待て――」

 

棟梁の制止を振り切った山賊の1人が剣丞に突っ込む。

しかし剣丞は涼しい顔をしてコレを避け、脇差を抜いて五体を斬り離した。

 

「「「「「ッッッ!!?」」」」」

 

今度こそ、山賊は全員が凍り付いた。

 

「あーあ、やっぱ久しぶりだと鈍るなぁ。切り口も汚ねぇし」

 

剣丞は右手に刀、左手に脇差と変わった二刀流の状態になっていた。

 

「・・・・・・ッ、お前らなにやってる!き、斬れぇっ!」

 

放心状態からいち早く戻った棟梁が号令をかける。

その声に辛うじて動いた10人が剣丞に一斉に斬りかかった。

 

「おうおう、景気がいいな。そうでなくっちゃなっと!」

 

剣丞は脇差を一旦鞘に納め、後ろから小刀を取り出し、山賊に向かって2本を立て続けに投げつけた。

 

「ぐえっ!」

「ぐぎゃぁ!」

 

寸分違わず2人の山賊の額に1本ずつ突き刺さる。

投げられた2人は即死した。

 

「残り・・・何人だっけ、まいっか。アイツの考え方なんてする必要は無ぇ」

 

小刀を拾いに行くついでに、進路上にいた山賊を3人ほど一刀の下に斬り捨てる。

拾い終えた後で、剣丞はゆっくりと優しい虐殺を始めた。

 

「ひ、ひいぃ!助けてくれぇ!」

「やだね」

 

命乞いをする者は胸に刀を突き刺して殺した。

 

「お、おい。俺はガキを攫うの反対だったんだ。だから助けてくれ!な?」

「そうかそうか、そりゃご立派なことだったな。じゃあな」

 

言い訳をする者は頭から股まで一刀両断で真っ二つにして殺した。

 

「てんめぇぇぇぇ!!」

「お元気なこって、ほれ」

 

果敢に向かってくる者はすれ違いざまに上半身と下半身をサヨナラさせて殺した。

 

 

殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し続けた結果、その場に立っているのは剣丞と棟梁だけとなった。

 

「お、おおお前・・・一体・・・!」

「ハハハッ、形勢逆転だなぁ」

 

辺り一帯に広がる肉塊と血の海。

 

「どうするよお頭さんよぉ。もうお前を取り巻く壁は無くなったぞ?」

 

30人弱の人を斬ったにも関わらず、剣丞の持っている刀は切れ味が落ちることなく斬れ続けた。

他の山賊たちに突き刺したまま放っておいた刀はひとまず置き、次を使うというスタンスで戦い続けた結果、今棟梁に突き付けているのは最後―その辺に落ちているから取りに行けばいいが―に残った長刀だった。

 

一面無惨な光景が広がっていたが、本来人質である娘の周りだけは一切血が飛び散っていなかった。

 

「わ、わかった!あのガキは返す。だから命だけは・・・!」

「・・・そうか、いいぜ。どこへでも行っちまいな」

「ほ、本当か?」

「ああ」

 

剣丞の突然の赦しに戸惑う棟梁だったが、彼の中にある光明が舞い降りた。

 

(もしかして、コイツが油断してる今なら勝てるんじゃないか?)

 

棟梁が剣を持つ手に力を込める。

もう少しだけ時間が過ぎれば確実に不意打ちをかけられる、そんな時だった。

 

「なんてなァッ!」

 

棟梁が剣を振り上げようとした瞬間、それよりも一瞬速く剣丞の持つ長刀の刃が彼の胸を貫いた。

 

「ガッ、な・・・どうして・・・」

「なってねぇな、殺気を隠しきれてねぇ上にリーチの計算不足だ」

 

言った後深々と長刀を突き刺していく。

 

「グォブッ、た、たすけ・・・」

「あぁ?聞こえねぇな~」

「たすけ・・・て・・・」

「やだ」

 

剣丞は棟梁の頭を掴んで引き寄せた後、こう言った。

 

「オレが、お前を、助けるわけねぇだろ」

「ぐ、この、覚えていろ・・・新田、けん、す・・・」

「違ぇよ!」

 

頭から手を放し、さらに長刀を根元まで突き刺す。

 

そこから一気に長刀を引き抜くと、棟梁は胸から血の噴水を出し、倒れ込んだ。

 

「あんな甘ちゃんと一緒にすんじゃねぇ、って・・・なんだ、つまんねぇ」

 

棟梁は既に絶命していた。

 

「もう聞いてねぇだろうが教えてやる・・・オレの名は、新田七刀斎(ななとうさい)だ!!」

 

 


 
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