No.675484

超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 プラネテューヌ編

さん

その13

2014-04-01 21:45:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:707   閲覧ユーザー数:703

「ッッッッ!?」

 

時の流れに歪んだ真摯の恋を孕み、狂気を溢れ出す空の貌が初めて強張った。

紅夜を中心に更なる邪悪の力が溢れだし始める。冥獄界に貯蔵されている負を無尽蔵に読み込んでいるのではなく、己から吐き始めている。【罪遺物】かと過った、直ぐに違うと結論が付いた。肉体はともかく、その魂魄はまだ常識の内である紅夜が使えるわけがない。もし使ってしまえば、この神界もゲイムギョウ界も一瞬にして滅びるからだ。

ではなんのか、荒れ狂う魔力は災禍を振り撒く禍々しき黒色であり、ブラッディハードとして別のものである事は直ぐに分った。だとすれば、この身から溢れる恐怖心と震える体の理由はなんなのか、頬に流れる滴が莫大な魔力で発せられる激風に飛んで行ったとき、この世の者とは思えない悲痛の断末魔がその空間に響いた。

 

「ぐ、ああぁ、ああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「ナ、なッ!?」

 

突然苦しみ始めた紅夜。肉の焼ける匂いがする。溶けた熱の様にドロドロと流れるブラッディハードのプロセッサユニット。裂ける音と共に血が噴水の如く溢れ出す。その異様な光景に空は瞳を大きく開ける。自身の体に起きた異常と紅夜の激痛に悶え苦しむ、全てを威圧する厳格な魔力に空は唖然とする。

 

神殺毒(エル・ヴェレーノ)……!」

 

『痛い痛い痛い!!これは破壊神に翼を引きちぎられた時より、がああぁぁああぁぁ!!!』

 

紅夜の震える膝が地面に付き、口から血を含んだ吐瀉物を盛大にぶち撒けた。壊れていく紅夜の体を縫うように展開されたドラゴンの鎧が悲鳴を上げるように亀裂と破片が飛び散る。それを合わない大きさを無理やり壊しながら嵌るようにプロセッサユニットが壊れながら合わさる。

死ヌ気…?と空はその自壊していく紅夜に問うがそれは激痛に伴う悲鳴によってかき消される。

 

絶望を司る神と邪悪なる神殺しの龍と同じようで天敵同士の禁断の交わり。

お互いが拒絶し合いながら絶大なる力と力が矛盾を壊しながら混沌を描き一つの形となる。その思いは世界を否定し、変革を願う意思。新たな世界の中で負を受け入れる事で女神を高みに上がらせようとする愚かな自己犠牲の思想。だが、それが零崎 紅夜の全てであり、力だった。

その姿は女神に憧れ、女神のようになりたいと願った末路の姿。

 

『守りたい女の夢を―――』

 

「全力で叶えてみせる」

 

『例えその先が地獄だとしても―――』

 

「あいつらの希望が世界に広がると願って」

 

外道ながら王道。

その力は忌避されし誰もが持つ闇。

その意思は純粋で誰よりも気高い光。

軋み合う善と悪の瀬戸際で確立するのは存在そのものが破綻している化物。

 

『「黎明の果てを往く!!!」』

 

「―――ふざけるなぁぁぁ!!!」

 

大砲が着弾したかのような轟音と共に地面が爆発する。ただその動作は地面を蹴っただけ。だが、その一歩の怪力と同時にバックプロセッサから吹かれた光の推進剤によって後方の地面を破壊するほどの威力を出したのだ。

白金の美しさとは別に凶暴な獣の如き咆哮を上げながら上段に構えられた幅の広い剣が銀色の閃光なって待機を貫く。常人であったのなら斬られたことすら認識できないほどの速さの斬撃を鉄塊の様な分厚い刃をした黒曜日を盾にすることで防いだ。衝撃で周囲は一瞬真空状態となり、お互いエネルギーは地面へと走り瞬く間に粉砕する。

 

「「ゴフッ」」

 

二人は一斉に栓の抜けた水の如く吐血した。空の原因は神殺しの毒による汚染だ。放出される神を憎み憎み続けて構成された猛毒は空気感染によってプロセッサユニットの動きを阻害させ、身体に多大な負荷が掛かる。

紅夜はもっと酷い。吐血だけならず全身鎧からは亀裂が走りそこから毒と共に血が溢れるのだ。毒を生み出すものが自身の毒に全く耐性がないのだ。あまりの痛みに意識が何度も消える。痛みこそが感覚が生きている証であり、これが消えた時、ブラッディハードという存在の消滅である。つまり『死』。

 

「抑えるなよ……デペアぁぁ!!」

 

『は、誰がぁ!?』

 

亀裂から更なる毒が瘴気となって噴き出す。苦悶の声を思わず吐き出す空と痛み堪える為に食いしばっていた歯が砕ける。あの空に効果がある毒を作る故に一切の出し惜しみは許されない。『死』のカウントダウンが加速する。それは紅夜の魂魄が一番理解している。体は付いてきてくれるのだ。元より【罪遺物】と言われた史上最悪と邪神が評価する物だ。この程度(・・)で悲鳴を上げることは天と地がひっくり返ってもありえないと。

 

「ぐ、あああぁぁあ!!!」

 

「ッッ!!」

 

ブチブチブチと筋肉が引き千切れる音と共に空は後退させられる。単純な臂力で空を上回り始めたのだ。

空の表情が険しく歪んでいく。疑問が思考を駆け巡る。確かに紅夜は不幸な目に合い、そのたびに女神と共に乗り越えた。しかし、ここまで毒と血を吐きながら己を自滅へと追い合う紅夜の行動全てが狂気としか言いようがない。

 

「……あ」

 

「ッ、だらぁぁぁ!!!!」

 

一瞬、紅夜の姿勢がまるで鏡のように見えてしまった。

その瞬間の隙を激痛により敏感となっている紅夜は見逃さなかった。鍔迫り合い状態から重なる剣を話してドラゴンの爪を躊躇なく空の腹部に貫こうと伸びた。しかし、その突きでさえ無意識で空は避けて見せた。だが、それは計算の内であった。

 

抑える物がなくなりただ振り下ろされるだけの斬撃は刺突の為に低い体勢だった紅夜の背中を斬りつけた。そして膨らんだ風船に穴が開いて中の物が勢いよく噴き出すように神殺しの毒が血と混じって勢いよく無差別に散らばった。そしてその液体は、ほぼ密着状態であった空の顔面に降り注いだ。もし意識上でならば回避可能であったかもしれないが錯乱状態であった空にその散弾の様に広がった毒は避ける術はなかった。

 

「(視界が!?)」

 

「いくらテメェでも、視界がゼロで密着状態なら避けることは無理だよなぁぁぁ!!!」

 

己の体にある因子で体の構造を変化させる因子解放(レギオン・ドライブ)---は間に合わない。否、あれは体の一部であり当った時点で毒は体を陵虐する故に最善の手ではない。世界と接続することでありとあらゆることを強制的に破壊という形に終わらすことが出来る概念攻撃である絶壊なる審判者(デウス・クレアトール)も紅夜の特性上完全に無効化される。更に剣は背中に突き刺さり直ぐに抜ける状態でもない。咄嗟に脚部のプロセッサユニットに力を入れるが、毒の影響で反応が遅れる。

 

神殺毒(エル・ヴェレーノ)のオマケだぁぁ!!』

 

「!?!?!?!?!?」

 

横から空の体に突き刺さる龍爪、注入される毒。

デペアの意志に威力を抑えて即効性を高めた毒は瞬く間に空に体に広がった。いままで一番勢いよく空は血を吐き出す。臓器等にも届き意識が混濁して白目になる。状況は紅夜の優勢に思えたが、遅れて稼働した脚部のプロセッサユニットから推進剤が吹かれ、それによって動いた膝は寸分狂わず紅夜の顎を撃たれた。

 

『---おい、相棒、相棒!!』

 

デペアの苦しみの混じった声が虚しく響き。顔部に展開されていたプロセッサユニットとドラゴンの鎧を亀裂が走り砕いて顔が露出した。そのまま、地面に落ちた。毒を注入されたことに口から血の泡を出しながら痙攣する体で紅夜と距離を持つ。紅夜の体に切り込んだシェアエナジーで構成された剣は既に毒によって溶かされ姿ない。

 

「げほ、がは……」

 

地面に転がり空は胸を抑えた。既に周囲は空と紅夜で血一色で染め上げられている惨劇となっている。体を動かしただけで、激痛が体中を駆け巡り体中を犯し回る毒は皮膚を焼き空の肌は浸食されるように黒く染まっていく。そんな体でも空は地面に手を付けて体を少しだけ持ち上げて倒れた紅夜を見つめた。デペアが必死に叫んでいるが動かない。限界を超えていたのだろう、紅夜に纏った魔龍と魔神が合わさった混沌の鎧に亀裂は入り始め、崩壊を始めている。

 

「…………」

 

勝った。その一言は口から呟かれることはなかった。

指ひとつ動かさない紅夜を見続け、命を賭けて夢を守ろうとした紅夜の姿勢を思い出した。

 

「……は、はは、ゲホ……、あぁ、そうだよ……僕は、この世界が大っ嫌い……殺し尽くしたい人間を守る……女神。女…神に理由……を押し………付け、粛清と言う……名の……殺戮をす……る人間……ども。レイ…ちゃん……を忘れ……た世界が……ああ、大嫌い…」

 

誰よりも平和好きで。

誰よりも戦い嫌いで。

誰よりも国民を愛していた。

好きな人は誰も覚えていない。魔神と罵られ殺された女神の面影すらこの世界には無い。

 

「会い…たい……よ。……会いたいよ……」

 

美味しいと言ってもらえるために一杯料理について勉強した。まだ届かないけどシュークリームだって得意になった。髪の手入れや、化粧や男だったのに顔はいいと理由で無理やり付けられたり、可愛い服が似合いそうな理由でコスプレをさせられた。猫を被ったように空以外だと真摯を演じ、空相手だと無茶苦茶言って困らせた。例え神としての在り方が定められていたとしても、彼女の信念は無駄ではなかったとその存在は確かに在って、世界と人間の為に全てを奉げた慈愛の女神は居たのだと証明したかった。

 

「諦めんなよ」

 

『紅夜!!』

 

「その…レイちゃんって人は…女神……なんだ…ろう……?。お前は……人間……嫌いだ……から…なぁ」

 

空の沈黙に紅夜はそうかと呟いた。

 

「女神……なら…なおさ…らだ。俺……には、恋愛……とか良…く分か……んない、だけど……!お前が……惚れる程の女が………この世界…の在り方……を、望む…のか………!?この世…界を見て……喜んでくれる…のか!?」

 

「ああ、そっか……うん、…ありえ…ないね」

 

畜生と空は心の中で呟いた。

この世界の在り方は彼女の生き方を否定していることに気づいたからだ。

 

「うぐっ……紅夜……終わりだ」

 

「ああ……次で…終わりだ…邪魔するなよ…【私】」

 

『おいこらぁ!二人ともそれ以上はヤバイよ!!夜天はともかく紅夜!これ以上は本当に存在が砕けるぞ!!!』

 

「最高…の一撃を……出すだけだ……最後まで……付き合って…くれる……よな…相棒?」

 

『ッッッッ!!死んだら殺すぞ相棒!!!』

 

血だらけの体を二人は蘇った死者の様に震える足で立ち上がった。

指一本でも押してしまえば簡単に倒れた場合はもう動くことすら困難を極めるだろう。その時に意識があるかどうかすら怪しい。

それでも、二人はプロセッサユニットを再構築した。後は最後の力で己の最強の技に込めるだけ。

 

「ブラスタ……モード…」

 

「相棒……俺に……合わせろよ…」

 

『分かった相棒、信じるよ』

 

神話が描かれている絵本で登場するような神々しい弓兵の形に変化したプロセッサユニット。未だに痙攣し続ける体と襲い来る燃えるような激痛に空は無表情になっていた。この程度、邪神と戦う日々を送っていたころを思い出せば程度で済む問題だ。最早ただの意地だけになってしまっていても、空のあいつに勝ちたいという意思は原動力となって、銃と弓が合体したそれの銃口を紅夜に向けて引き金に手を掛ける。全ての魔力とシェアエナジーを一点に集中して空中上にターゲットスコープが表示される。未だに紅夜は地面に落ちた黒曜日を手に取り、立ち上がったばかりであったが、エネルギーが完全に充填されターゲットスコープが臨界を意味する表示が真っ赤に染まった時、空は躊躇なく全ての思いと共に引き金を引いた。

 

 

「ルミノックス・エクシードォォォ!!!!」

 

一瞬、世界に二つの太陽が輝いたと錯覚するほどの光明が神界を照らした。

放たれた極太の光砲が島を破壊尽くしながら突き進む。その威力は正に破壊者に相応しき絶対なる力の象徴。この世界の管理者が放つ悪しき者を消滅させる光輝燦然の彗星の前に紅夜は天に向かって黒曜日を両手に持って構え、ゆっくりした動作で顔に水平にした黒曜日を空に向けた。

 

「(---あ)」

 

その構えに空は全てを悟った。だが、何も出来ない。

今まで負担を掛けてきた体は、毒によって汚染された体。それはもう空とは無意識で膝を付いていたからだ。

 

 

全ての因果を。

全ての運命を。

全ての物語を。

 

語り始めるそれは革新される前のこの世界に送られる最後の鎮魂曲。

悲しいことはあった。苦しいことは合った。怒り狂いたくなること合った。楽しいことを合った。

それは終わり、ブラッディハードとしての戦いを始めるために女神達を支えていくための決意を示すための花火。

 

「破壊するーーー」

 

回る周る廻る。

全ての力。ブラッディハードの紅夜のデペアの力が黒曜日を中心にして三重螺旋を描く。これに大きな力はいらない。ただ、圧倒できるだけの威圧さえあればこの技は完成する。

 

「紅龍破」

 

解き放たれる最後の力。荒れる災禍の竜巻。それは空の放ったより小さい物で合ったが関係ない。

最初から力で勝負してしまえば負けることは目に見えている。ぶつかり合う光の魔砲と闇の竜巻は一件、光の魔砲が優位を見せたが、闇の竜巻は光の魔砲を|巻き込みながら《・・・・・・・》莫大にエネルギーを増幅させて触れる全てを破壊尽くして目標である空目掛けて突っ込む。直ぐに放射を辞めて空は残りの全てを防御結界を貼る。暴虐的な破壊力の前にはそれは紙の如き防御であり、瞬く間もなく亀裂は走り駆け巡りエネルギーは傷を大きく開いていく。周囲の地面は最早塵芥となった。貼った防御結界からはみ出たプロセッサユニットは一瞬で消滅してその威力を物語るが、空は両手を前に突き出しながら耐えていたがーーー。

 

「約束を果たすぞ紅夜(兄貴)

 

最後の砦だった防御結界が粉々に砕ける荒れ狂うエネルギーの螺旋の中で空の前に立ったのは紅夜の姿。

拳が握られている。それに空は瞳を閉じて薄らと笑みを浮かべた。その瞬間、顔面に衝撃が走り、螺旋に乗った空の体は宙に舞った。

 

 

ーーーありがとう。

 

 

「……バカじゃねェか」

 

『ああ、全くバカだ』

 

殴る瞬間に耳に届いた空の感謝の言葉に唾を吐き、これだけの過激な戦いを引き起こしておきながら変わらず美しい青空を見上げながら紅夜もゆっくりと瞳を閉じて満足げな表情で意識を闇に預けた。

 

 

 

 


 
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