No.674764

戦国†恋姫~新田七刀斎・戦国絵巻~ 第1幕

立津てとさん

どうもたちつてとです。
更新速度はバラバラになる予定の本作品ですが、今回は早く投稿できました。
今後の展開ですが、本編とは違った感じにしていきたいなと思っております。


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2014-03-30 07:23:42 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3302   閲覧ユーザー数:2902

 第1幕 出会い

 

 

 

 

心地良い風が草原を駆け抜けていき、何も遮るもののない光が大地を照らす。

 

(ん・・・朝か。誰かが襖を開けてくれたのかな)

 

微睡の中をゆっくりと掻き分け、目を開ける剣丞。

朝日がダイレクトに剣丞の顔を照らし、思わず目を閉じそうになってしまう。

 

(あれ、から日光?なんで部屋に・・・)

 

仰向けに寝たまま天井の方向を見てみると、そこには雲ひとつない蒼が広がっていた。

剣丞は外で大の字になって寝ていたのだった。

 

「え、空?え、草原?え?」

 

急いで起き上がり辺りを確認する。

 

一言で言える感想は、「現代日本じゃない」であった。

辺りは平地で、足下には草と虫が跋扈しており、遠くには山が見え、近くには街道らしき道もある。

ただ、自分が暮らしていた屋敷の近くにはこのような場所は存在しない。

 

「電線が無い・・・それに道もアスファルトじゃない。しかもこの格好・・・」

 

剣丞は寝るときに来ていた部屋着ではなく、昼の特訓の時に着ていた聖フランチェスカ学園の制服を着ていた。

 

「おいおい、俺ん家はどうしたんだよ・・・大がかりなドッキリか?CIAが俺を実験対象に選んだのか!?」

 

何がなんだかわからなくなった所で、剣丞はふと昔一刀が話していた話を思い出した。

その話の中で一刀は遥か昔の中国大陸にタイムスリップしてしまうというなんとも荒唐無稽な話だが、何故か今になってそれが強烈に蘇る。

 

「見たところ家の近くじゃないし、伯父さんの話とも合ってる。これってまさか・・・」

 

自分の中で思考が嫌な方嫌な方へと向かっていく。

 

「なーんだ異世界か!なら好きなことやりまくれるぜひゃっほう!!・・・ってんなわけあるか!!」

 

流石にタイムスリップはありえないと判断する。

当然と言えば当然だが、電線もなく、文明のぶの字もないこの平地は現代日本ではなかなかお目にかかれないはずだ。

 

「ちくしょう、ここは一体何処なんだぁぁぁぁぁ!!」

 

剣丞の魂の叫びが草原いっぱいに広がった。

 

 

 

「うおおおおおおおぉぉどこだここぉぉぉ!きいえぇぇぇっふ!!」

 

気狂いの如く叫び続ける剣丞。

こうでもしないと見知らぬ土地に1人放り出されたという不安で押しつぶされそうになるというのが本音だった。

しかし、そこにいたのは剣丞1人だけではなく。

 

「うるせええぇぇぇぇぇぇ!!」

 

剣丞の後ろから男の者と思わしき抗議の声がする。

 

「ひ、人?」

 

突然の事にビクッとなった剣丞が後ろを振り向くと、3人組の和服のようなボロを着た男たちがなにやら棒状の物を持ってこちらを睨んでいた。

見ようによっては山賊に見えなくもない。

 

「ど、どちらさま?」

 

剣丞がおずおずと聞くと、3人の男たちは横柄な態度で返してきた。

 

「あぁ?そりゃこっちのセリフだぞガキ」

「テメェこんな朝っぱらから大声出されると迷惑なんだよ」

「気が狂ってるんだな」

 

どことなく兄貴分っぽい男、チビで鼻がでかい男、太った男が剣丞を囲みながらガンを飛ばす。

 

(やっべぇぇぇぇぇ!なんかわからないけど怖い人たちに目をつけられた・・・しかもこの3人が持ってるのって刀じゃねぇか!)

 

今にも斬りかかって来そうな3人を前に怖気づく剣丞だったが、ここで折れてはいけないと質問を投げかけてみる。

 

「あ、あのーつかぬことをお聞きしますが、ここってどこですか?」

 

剣丞の腰の低い質問に、兄貴風な男が答える。

 

「あぁ?ここは摂津国外れの街道だが・・・って、おめぇこの辺の奴じゃねぇのか?」

「摂津ってどこだよ・・・俺は昨日まで家で寝てたのに目が覚めたらこんなところにいたんです。何か知りませんか?」

「俺たちがそんなこと知るわけねぇだろ!」

「で、ですよねー」

 

 

 

3人は剣丞から離れ、ヒソヒソ話を始めた。

 

「なぁチビ、デク、あのガキどう思う?」

「変な奴だが、着てる服はちょっと高そうですぜ」

「あんな素材見たことないんだな」

「そうだよな・・・ならやることは1つか!」

「おうさ!」

「だな!」

 

(ん?なんだあの3人。急に刀なんか抜いて)

 

剣丞が自身の身に迫る危険を感じたのは、3人の殺気に満ちた目と合った瞬間だった。

 

「身ぐるみ置いていけやぁ!」

「ひいぃぃ!」

 

チビ男の斬撃を剣丞は草原に飛び込む形で避ける。

 

「ちぃっすばしっこい」

「任せるんだな!」

「そんくらいの速さなら、ってのわぁ!?」

 

デブ男が力任せに振り下ろした刀を後ろに飛ぶことで避けるが、着地点にある何かに足を引っ掛けて転んでしまった。

 

「ヘッ、あの野郎コケやがったぜ!」

「今ですよ兄貴!」

 

「いったぁ・・・ん?ッ、これは・・・!」

 

剣丞が足下にある何かに気付き、ソレを咄嗟に持ち上げる。

 

「くらいやがれぇ!超絶兄貴斬り!!」

 

兄貴風の男がまっすぐに刀を振り下ろすモーションをとった。

 

「で、出たぁ兄貴のお家流!」

「勝負は決まったんだな」

「クソッ、もうどうにでもなれ!」

 

急いでソレ――刀――を持ち上げ、目の前で横に構える。

鞘から抜いていないその刀が、兄貴風の男が振り下ろした刀とぶつかった。

ガキィンという思わず耳を塞ぎたくなる音が辺りに響き渡る。

 

(どうだ・・・?)

 

見るとどうやら剣丞の持っている刀に変化は無い。

異常が見られたのは振り下ろされた方の刀だった。

 

「な、な、な何だあの鞘の硬さは!」

 

兄貴風の男が慌てるのも無理はない。

持っていた刀が鞘の硬度に負けて折れたというのだから。

 

「兄貴の刀が折れたんだな!」

「んなバカな!兄貴の刀は大名仕えの侍をぶっ殺して手に入れた業物で、そんじょそこらの鈍とはわけが違うはずなのに!」

 

(なんとか防げた・・・にしてもこの刀)

 

剣丞が手に持つ刀を見やる。

柄と鞘のデザインからして、この刀は剣丞が一刀から譲り受けた7本の内の1本であることに間違いなかった。

 

(相手は動揺している。今なら隙を見て攻撃を加えることもできるし逃げることもできる・・・どうする?)

 

「てんめぇ・・・俺を怒らせたな・・・!」

 

兄貴風の男が顔を真っ赤にして近づいてくる。

どうやら逃げるタイミングは完全に失われたようだった。

 

(こうなったら、抜いて戦うしかないのか)

 

この刀があったということは、近くに他の刀も落ちているかもしれないが、今は探している時間は無い。

なにより、今度は兄貴風の男に加えてチビ男とデブ男もジリジリと近づいてきているのだ。

 

刀に手をかける剣丞。

だがそこに楔を打つ声が聞こえたのはその時だった。

 

「お止めなさい!」

「「「ッ!?」」」

「な、なんだ?」

 

突然割り込んできた声に反応する4人。

そしてその4人の間に風のように入ってきたのは、長い金髪を後ろで束ねた女性だった。

 

「1人に3人がかりで挑むとは、随分必死なことですね」

「な、なんだテメェは!」

 

女性は兄貴風の男の問いかけに答えなかった。

 

「名乗るほどの者でもありません。ていっ!」

「ぐあぁっ!」

「あ、兄貴!」

 

女性が素早く踏み込み、西洋風の剣を居合の要領で斬り上げる。

その軌跡の中にいた兄貴風の男は肩口を斬られ、倒れ込んだ。

 

「お行きなさい。命までは奪いません」

「く、くそ・・・覚えてやがれ!」

 

兄貴風の男は捨て台詞を残すと、チビ男とデブ男に背負われながらその場を後にした。

 

 

 

「た、助かったぁ・・・」

「危ないところでしたね」

 

金髪の女性が剣を収め、こちらを向く。

髪色でも思ったが、顔立ちからして日本人ではないと推測できた。

 

「あなたは?」

 

剣丞が問いかけると女性は微笑みながら答えた。

 

「申し遅れました。私の名はルイス・エーリカ・フロイス。エーリカとお呼びください」

 

エーリカと名乗った女性が頭を下げる。

それにつられて剣丞も頭を下げた。

 

「俺は新田剣丞です。危ないところを助けていただいてありがとうございました」

「フフッ、よいのですよ。それに言うほど危ない状況でもないように見えましたが」

「み、見てたんですか?」

「ええ、最初から」

「最初から!?」

 

最初から見てたのならすぐに助けてくれてもいいだろう、と頭の中でぼやくが、流石に助けてもらった身でそれを言うことは憚られた。

 

「先程から見させていただいた所、武術に通じているようですが」

「え、えぇ。子供の頃から色々やってました」

「まぁ、そうなんですか」

 

確かに先程3人の攻撃を避けきれたのは、日頃から色々な師匠に代わる代わるしごかれてきた賜物かもしれない。

そう思うと何の意味もないと思っていた特訓にも意味があるような気がしてきた。

 

「ところで新田様」

「剣丞でいいですよ。なんか仰々しいのは苦手で」

 

頭をかいて笑ってみせる剣丞。

 

「わかりました。剣丞様は何故このような所に?」

「そ、それは・・・」

 

本当の事を言って信じてもらえるのだろうかという不安が脳裏をよぎる。

しかし剣丞には目の前にいるこの女性はきっと信じてくれるという気がしてならなかった。

 

「実は俺、ここがどこだかもわかってないんです」

「わかってない?ここは摂津の――」

「ああそういうのじゃなくて、そのせっつとかいう地名もわからないんです」

「摂津がわからない?困りましたね・・・」

 

先程の兄貴風の男も摂津という名を口にしていた。

恐らく摂津という地名がこの辺りのスタンダードなのだろう。

 

「そもそもゆうべは自分の部屋で寝てたはずなのに朝起きたらこんなところで寝てるし、もうなにがなんだかなんですよ」

「そうなんですか」

 

与太とも思われてもおかしくない話を親身に聞いてくれるエーリカに、話してよかったと剣丞は安心していた。

 

「行くあてなどは?」

「残念ながら、こんな知らない所に運ばれちゃ何もできないですよ」

 

エーリカはしばらく考えた後、こう提案してきた。

 

「では、私の家に来ますか?」

「・・・へ?」

 

突然の事に耳を疑う。

ついさっき出会ったばかりの住所不定な不審者を自分の家に置こうというのだ。

悪い人ではない、と思っていてもあまりのうまい話につい身構えてしまう。

 

「私は天主教という神の教えをこの日の本に広めるために海を越えてやってきました。その天主教の教えは隣人愛・・・困っている人を放ってはおけません」

「天主教?」

「はい。日の本では仏教が盛んですが、天主教も広めようということなので」

 

(天主教ってあのキリスト教のことだよな・・・?)

 

エーリカの言葉に嘘があるとは思えない。

「天主教」や「日の本」といった古風な物の言い方やその天主教が広まっていないということからやはり時代が、という見解も頭の中にあるが、剣丞はそれらをひとまず置いてエーリカについていくことにした。

 

「・・・わかりました。しばらくお世話になります」

 

色々気になることは残るが、このまま野垂れ死ぬかもしれなかった状況においてエーリカの提案はまさに生死を決めることと同じであった。

 

「はい、よろしくお願いします。では私の家は堺にありますので、少し歩きますがここから南に向かいましょう」

(堺ってあの大阪の堺か?)

 

では、と出発しようとしたエーリカだったが、剣丞が思い出したかのようにそれを止める。

 

「あ、ちょっと待っててもらっていいですか?」

「どうかしましたか?」

「この刀の他に、まだこの辺りに刀が落ちてると思うんで、それ俺の刀なんでちょっと探してみます」

 

そういって剣丞は草原をくまなく探し始めた。

 

「そうなんですか。私も探しましょう」

 

エーリカも手伝ってくれたおかげか、残りの6本の刀とホルスターは10分程で見つけることができた。

 

「その刀、全部使うのですか?」

「ええ、まぁ・・・」

 

エーリカが驚いた顔でこちらを見る。

剣丞は居た堪れないように目を逸らした。

 

 

 

こうして剣丞はエーリカと共に堺に行き、エーリカの家に住み着くことになった。

今が何年なのか、ここは日本でいうどこなのか、大名の勢力情勢、今川義元が上洛を狙っていることなど。人の流れも多く情報量も多い堺では色々なことを知ることができた。

1つひとつ知る度に剣丞は驚愕するのだが、なにより自分が一刀の話していたタイムスリップに巻き込まれたという状況にしばしば放心状態になることも何度かあったが、慣れてくるとその回数も減ってくる。

 

エーリカの家は外から見ると一見粗末な教会だが、内装はとてもしっかりしていて、生活に不自由はなく、この世界に来てからの1か月を剣丞はこの地で過ごすのであった。

 

 


 
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