今更気付いた衝撃の真実とか
●エーリカさんの消失
私の名前は、ルイス・エーリカ・フロイス。またの名を、明智十兵衛光秀。
ある日の夕方。私は今、PCの前でマウスをクリックし続けています。
何故PCがあるのか、ですか? それは聞かないお約束です。
「なあ、エーリカ。さっきからマウスをカチカチし続けているけど、どうしたんだ?」
クリックし始めてから、2時間ほど経ったでしょうか。
背後から声をかけてきた男性、新田剣丞どの。
「剣丞どのですか。何か御用でしょうか」
「いや、特に用は無いんだけどさ。目を血走らせながらマウスをクリックし続けているのが気になってさ。
ちなみに、ひよやころはビビってたぞ。ほれ、鏡」
剣丞どのに手渡された手鏡を覗きこむ。
彼の言う通り、私の目は充血し、顔も強張っていました。
これは確かに怖いですね。彼女達が萎縮してしまうのも無理は無いでしょう。
「ご指摘感謝します、剣丞どの。
そうそう、マウスをクリックし続けていた理由ですね。
剣丞どのは知っていますか。『戦国†恋姫』のタイトル画面の『BaseSon』ロゴをクリックすると、作品タイトルを呼ぶキャラクターが変わることを」
マウスから手を離し、剣丞どのへと向き直る。私の言葉に、彼は驚きの声を上げる。
「え、そうなの!?」
どうやら知らなかったようです。無理もないでしょう。作者自身、発売から1月半かかってやっと気付いたのですから。
「後でチェックしておくか。
で、そのタイトルコールが原因でそんな顔になっているみたいだけど、何かあったのか?」
「……はい。実は、何度クリックしても、私が出てこないんです」
「なんだって!? それはおかしいだろ! エーリカって本編で重要な役割を担っていたじゃないか! それがどうして!」
そう、その通りなのです。本編のネタバレになるので詳細は省かせていただきますが、私は『戦国†恋姫』においてキーパーソンとなっています。
もっとも、私が持つもう1つの名前からも、大体想像できると思いますが。
「収録はしたはずなんです。ですが先程のように何度も何度もクリックしても、私が出てくることがないのです」
これは、何かの陰謀だとでも言うのでしょうか。
「ちなみに、他に出ていないキャラクターは?」
「これをどうぞ。ここに記しています」
キャラクターがタイトルを呼ぶ度に数えておいたメモを剣丞どのへと手渡す。書かれていない者の名は、
毛利新介(冒頭に出たっきりのモブ)
服部小平太(上に同じ)
松永白百合久秀(爆乳)
斎藤飛騨(かませ犬のモブ)
きよ(もっと出番があってもよかったと思う)
以上の5名。
「エーリカ、これって……」
「はい。見事にモブキャラばかりです。私はどうやら、彼女達と共に除外されてしまったようなのです」
「そう、なのか。君は、これからもマウスクリックをし続けるのか?」
「もちろんです。私が出てくるまで、何度でも。
しかし、今の私の顔は皆を怖がらせてしまうようですし、一端休憩に入ることにします。
少し風に当たって来ますので、PCはご自由にお使いください」
「ああ、ありがとうエーリカ。ゆっくり休んでくれ」
剣丞どのに別れを告げ、外へと足を運びます。
ああ、今日は気持ち良い風が吹いていたのですね。火照っていた身体に染み渡ります。
私は諦めません。私のタイトルコールを出すまでは。
●その後の剣丞くん
「兄上、さっきから何をしているでやがりますか?」
カチカチと何かを叩く音が聞こえやがったので、その部屋を覗きこむ。
そこには、我が姉・武田光璃晴信の
ヘッドホンはしていやがらなかったようで、彼がマウスをクリックしやがる度に、
『戦国†恋姫~乙女絢爛☆戦国絵巻~』
という声が聞こえてきやがります。なお、その都度声を発する人物は入れ替わるでやがります。偶に同じ人物が2連続で喋ることがありやがりますが。
「夕霧、か。どうした?」
兄上がこちらへ振り返る。その瞳からは、幾筋もの涙が流れていたでやがります。
「あ、兄上!? 何があったでやがりますか!」
夕霧は、兄上がこれ程までに号泣しているのを見たことが無いでやがります。いったい、何が彼をそこまで追い詰めたのでやがろうか。
「何があった、か。夕霧、君も原因の1つなんだぞ」
「え……?」
再びマウスをクリック。すると、ちょうど夕霧の声でタイトルが宣言されたでやがります。
それよりも、
「兄上。夕霧も原因の1つとはどういうことでやがりますか。もしや、知らぬ間に何か粗相でも?」
兄上は、姉上、いやこの日の本において非常に大切なお人でやがります。そんな彼の機嫌を損ねたとあっては、この武田夕霧信繁、一生の不覚でやがります。
一刻も早く原因を究明し、謝罪しなければ。
「それはこの、タイトルコールさ」
更にマウスをクリック。次に聞こえた声は、粉雪でやがります。それに何の関係が?
「実は、
………………は?
兄上は今、何と言ったでやがりますか。口調? え? あまりにも予想外の答えに、理解が追いつかないでやがります。
「さっきエーリカに教えてもらってさ。このタイトル画面、ロゴをクリックすると色んなキャラがタイトルを呼ぶんだよ。
でもさ、犬子がタイトルの最後に『だワン!』って言う以外普通なんだ。
例えば夕霧なんか、『戦国†恋姫~乙女絢爛☆戦国絵巻~ でやがります!』って言うもんだと思ってたのに、そんなこと別に無かった。
他にも――」
あまりにもどうでもいい理由だったでやがります。
夕霧は兄上を放置し、その場を去ったでやがります。
後で聞いた話でやがりますが、兄上は夕霧が去ったことにも気付かず、喋り続けていたとか。
心配して損したでやがります。
余談だが、その数日後。タイトルコールを収録し直す人が続出したとか。
●そして、バレンタイン前夜
日が沈み、夜になりました。
身体がすっかり冷え、頭もスッキリしたところで、私は部屋へと戻ることにしました。
その途中、私は久遠どのに声をかけられました。
「金柑、話がある」
彼女の顔はこれまで見たことがない程に真剣そのものでした。
そのような顔をするということは、織田家に関わることか、剣丞どのの事でしょう。
私は、早く戻りたい気持ちを抑え、その話を聞くことにしました。
「2月14日には、愛する夫に『ちょこれぃと』という菓子を送るという風習があると聞いた。
貴様なら詳しいことを知っているのだろう。申せ」
そういえば、明日は2月14日、バレンタインデーでしたね。
朝から周囲が慌ただしかったのは、そのせいでしたか。
ですが……、
「いえ、そのような風習はありません。
バレンタインデーとは、男女が愛を誓い合う日であって、チョコレートを送るなんてことは別にないですよ」
そのような風習を作ったのは、チョコレートを製造する日本の会社であって、女性が男性に贈り物をするという決まりなどないのです。
「そ、そうなのか!? では、身体中に『ちょこれぃと』を塗りたくり、『わたしをた・べ・て♪』というのは!?」
えー……。
「あの、その話はどこから聞いたのですか?」
1人しか思い浮かびませんが。
「剣丞だ!」
やはり彼ですか。さすがにドン引きです。
「それ、どう考えても騙されていますよ? そのような変態的な行為、いくらなんでも……」
「んな!?」
私の指摘を受け、ようやく騙されたことに気付いたのでしょう。久遠どのの顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていきます。その色は、リンゴよりも濃い程です。
「け、剣丞ぇええええええ!!!」
よほど恥ずかしかったのでしょうか。彼女は腰に提げていた刀を抜き放ち、走って行ってしまいました。
剣丞どの、貴方が今夜無事に生き延びることを祈っております。
あとがき
作中でも言いましたが、これを投稿した3時間ほど前にタイトル画面の隠し要素に気付きました。
そんでもって、何度もクリックしたにも関わらず、タイトル画面でエーリカさんの声を聞くことができませんでした。聞いたという人、いますか?
それにしてもこの剣丞くん、変態である。
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戦国†恋姫の短編その5。
このあたりからウチの剣丞くんがおかしくなっていった。
ハーメルン様とのマルチ投稿です。