第二十八話「覚醒者の結末」
ここでお終いかよ
ったく。
凡人が勝てるわけないなんて知ってたはずだろ
僕も随分と焼きが回ったらしい
今度は誰も助けなんてしない
いや、そもそも僕なんかいなくたって
誰も困らない
衛宮も遠坂も桜もお爺様も僕の事なんか見ちゃいない
主人公補正も大概にしろよ
・・・・・・幼女と巨人にぶち殺され、出来損ないの肉塊にされ、挙句にこのありさま
どんな世界にも居場所なんてありゃしない
――――何処で間違えたんだろうな
【・・・・・兄さん】
『ああ、桜か』
【ケガの具合はどうですか?】
『ヤブ医者が後一ヶ月もしたら退院だってさ』
【良かったですね】
『・・・・・・どうして・・・僕をお前は・・・』
【だって・・・家族じゃないですか。私達】
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
【それに先輩にはもう姉さんがいますから・・・】
『遠坂に衛宮を取られたのか?』
【・・・・・・姉さんなら、きっと先輩を幸せにしてくれます】
『そういうのを負け犬って言うんだぜ? 知ってたか?』
【―――――】
『・・・・・・・飯、作りにいけよ』
【え・・・?】
『僕の知ってる間桐桜ってのは根暗で陰湿で終始オドオドしてるが、衛宮士朗の事になると気でも違ったみたいに頑固になる馬鹿な妹なんだ』
【・・・兄さん・・でも、私は・・・・・・】
『聖杯戦争も終わった。お爺様の事なら気にするな』
【え・・・?】
『・・・言っておくがこれは償いじゃない。ほら、受け取れ』
【・・・カード?】
『胸に当てて幸せになりたいって願ってみろ』
【・・・はい・・・・・・え・・・コレ・・・】
『入院中に変な自称英霊から巻き上げた』
【?!】
『全国区の常連だった僕と互角以上。アンティールールで一回勝負。勝てたのは奇跡だった』
【・・・・兄さん・・・この・・・カード・・・】
『ほら、貸せ』
【あ?! に、兄さん!?】
『・・・お爺様。これで間桐の家はお終いにしましょう』
【それには――】
『いいんだよ』
【に、兄さ―――】
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゴミ箱』
【・・・・・・・・はい】
『これでお前は自由だ。家屋敷や土地の処分は管財人にもう頼んである』
【兄さん・・・・・・】
『財産は半分ずつ。後はあいつの家に行くなり、一人暮らしなり好きにすればいい』
【どうして・・・ここまで・・・・それに・・・】
『お節介な奴ってのを一度経験してみるのもいいと思っただけさ・・・もう帰れよ・・・眠くなってきた』
【・・・・・・・・・分かりました・・・】
『・・・・・・・・・桜・・・・・・・・・・・・・・・幸せになれよ』
【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい】
――――誰も頼んじゃいないんだよ
これは僕の物語じゃない
今更、こんな世界(IF)があったからってどうだってんだよ
クソ
『お笑いだな』
クソ
『凡人なのに凡人らしい結末を求めちゃいけないってのか?』
クソ
『僕は・・・選んだぞ』
クソ
『この僕だけの結末を・・・お前はどうなんだ間桐慎二。いや―――』
クソ
『この凡骨野郎(ワカメ)が!!!』
クソォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!
灼熱の業火の中。
全てを焼き払われたフィールドで間桐慎二は立ち上がる。
立ち塞がるのは強大な存在。
G秋葉X。
フィールド魔法すらも消失した都市の一角で煙に包まれた周辺に生き物の姿は見えない。
手札すら握っているのは一枚きり。
他のカードは何処に行ったのか定かですらない。
勝利はどう見ても決まっていた。
五体のモンスターを破壊したG秋葉のライフはもはや数万という値を記録し、その攻撃力も同等以上となっている。
それに比べ殆どアドバンテージが消え失せた慎二に残されたのは一ターンの半分と手札一枚。
死に掛けながらも真の力を解放した秋葉は静かに立場が逆転した男に聞く。
【これが最後通告と思ってください。負けを認め這い蹲って許しを請うなら助けてあげます】
「・・・め・・・よ」
【何ですって?】
慎二が顔を上げて秋葉を睨み上げる。
「ごめんだっつってんだよッッッ!!! この貧乳ッッッ!!!」
【――――――な゛ッッッッ!????】
「はッ、何が許しを請えだ!? でかくなって偉そうな事抜かす前に変わらない自分の胸元眺めて物を言えよ。このド・貧・乳・が!!!」
空いた口が塞がらない様子で一瞬だけ秋葉がふらついた。
――――――――――――――――――殺す
正に悪魔の怒りを買った慎二の下にまで怒りに溢れ出す力の余波が押し寄せてくる。
「僕はカードを一枚伏せてターンエンド」
秋葉の怒りに任せて発動した檻髪によって周辺の物体の全てが熱量を奪われ形を失っていく。
強大な力の渦に都市を支える地盤が全て消えていく。
ガラガラと落ちていく奈落の中央で同じく虚空に立つ慎二に向けて秋葉が都市中から奪い去った熱量の全てを集めて撃ち放った。
半径数百メートルの熱線(ビーム)が慎二のいる空間を飲み込んで消滅させた―――かに見えた。
【嘘ッッッ?!! 何で!!!?】
慎二にまでビームは届いていなかった。
たった一枚の伏せカードが熱線を遮っていた。
「これだからお嬢様ってのは・・・アンタの敗因は怒りのあまりオレのターン中に伏せカードを破壊しなかった事だ」
ベキベキと罅割れ行くカードに慎二が腕を突き込む。
そして、グッと抜き出した。
同時にカードが割れ、慎二がビームに飲み込まれる。
【は、はは・・・何をするのかと思えば・・・これでお終いです】
「誰がお終いだって?」
【そんな!? この力の本流の中で生きていられるはずが!?】
熱線の中。
慎二は抜き出した腕を横に広げて、ただ秋葉を見上げ続けていた。
その姿には傷一つない。
熱線が途切れる。
「罠カード発動――――――『自爆スイッチ』」
【自爆!?】
「あんたの攻撃宣言に合せて発動させてもらった。このカードの効果はライフ差が極大の場合、自分と相手のライフを強制的に0にする」
【な、そんな事をしたら貴方だって!?】
「僕はただの凡人だ。臆病で弱くて力なんてなくて自尊心ばっかりデカイだけのワカメ・・・だが、勝者になれなくとも足を引っ張る事くらいは出来る」
慎二が握っていたスイッチを秋葉に突き出した。
「ライフが0になった者は魔力が枯渇する。その姿を構成してる力が魔力かどうか知らないが、僕は最初から魔力や魔術回路なんて無いんでね」
【―――そのスイッチから手を離しなさい!!!】
「ふん」
慎二は絶対強者の慌てぶりにニヤリと嗤った。
【止めなさい!!!?】
「いいや、限界だ!!! 押すねッッッ!!!!」
スイッチが秋葉の拳の届く寸前で押し込まれた。
拳が慎二にぶち当たりながら裂け、輝く粒子となって空に散っていく。
分解されていくG秋葉Xの中から少女が奈落へと落ちていった。
慎二も例に漏れず。
底も見えない暗黒に飲み込まれていく。
「結局、勝てないか・・・はは、僕にはお似合いの末路だ・・・ははは、あははははははは」
勝てない戦いに負けなかった。
その勝利の哄笑がいつまでも闇に響き続けていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして、世界が撒き戻る。
「た、たたた、たずげでぇええええええええ!!!?」
もはや這うように駆け込んだ廃工場内部には・・・・・・決闘者が一人ドラム缶の上で缶コーヒーを飲んでいた。
「お、おま!? お前!!? た、たたた、たす、助!?」
お気に入りのブルーアイス・マウンテンをそっと置きながら「落ち着け」と彼が慎二の肩を叩く。
「ようやく。追い詰めました」
「ひぃ!?」
思わず振り返った慎二が薄暗い外に赤い瞳を見つめて思わず下がった。
「・・・まさか人の頭に豪速で空き缶をぶつけておいて逃げる人間がいるなんて思ってもみませんでした」
彼が慎二の前に出てペコリと頭を下げる。
「貴方は・・・?」
「・・・・・・」
「この下種野郎の保護者、ですか?」
コクリと彼が頷く。
「おま!? 助けてるのか貶してるのかどっちなんだよ!?」
慎二の鳩尾にとりあえず一撃叩き込んで黙らせた彼がソソクサとお茶の用意を始める。
「・・・・・・」
「え? お詫びにお茶を出す? そ、そんな事ではこの男を許したり―――」
ササッと冷たいコンクリの床に座布団を敷き「まぁまぁ」と接待モードな彼がお茶を何時の間にか出しつつ、お茶菓子を並べる。
「・・・・・・」
彼が冷たいコンクリの床に慎二の額をガンガン押し付けて一緒に土下座した。
「・・・わ、分かりました。そちらが誠意を示すなら許すのも吝かではありません。それにだ、出されたものを食べないのは礼儀に反しますから・・・」
とりあえず溜飲を下げた秋葉がお茶を啜り始める。
ホッとした様子で溜息を吐いた彼が慎二にお説教してくるので少しだけ待っていて欲しいと頼むと秋葉もさすがに自分にも叱らせろなんて言う事はなく、頷いて二人を見送った。
外に出た時点で慎二が彼に掴まれた腕を振り払う。
「お前どっちの味方なんだよ!?」
「・・・・・・」
「断然、黒髪ロングの味方? おま!? それでも此処の居候か!? 此処は仲間を助けたりするのがお約束って奴だろうが!!?」
「・・・・・・」
「ただのワカメに味方しても一銭にもならないとか!? 喧嘩売ってるのか!? そうなんだな!? そうなんだろ!!!」
一頻り騒いだ慎二がゼェゼェと息をしてアスファルトの地面にバッタリと倒れ込む。
「・・・クソ・・・僕の頭は繊細なんだぞ・・・何度も床に叩きつけやがって・・・」
もう降参とばかりに力が抜かれグッタリと横になった。
「・・・・・・」
「あ? 何だよ。どうしてあのデッキに自爆スイッチが入ってたのか?・・・何の話だ?」
「・・・・・・」
「第二デッキ? あ、あぁ、確かに入ってるがどうして知ってるんだよ?」
「・・・・・・」
「少しだけ見直したって・・・意味がまるで分からないだろ・・・それにあんなアンマッチなカード入れるなんて馬鹿だろ普通」
「・・・・・・」
「なら、どうして入れてるのか? あんな意味不明な構築のお前が言うな!!? あれはただコストでライフが飛んでく時用の保険さ」
彼が懐からサイフを取り出すとソレを慎二に渡した。
「?」
「・・・・・・」
彼の言葉に慎二が視線を逸らす。
「帰ってみたらどうだって・・・余計なお世話だ!!? 誰があんな魔窟に・・・それに今の状況とまるで関係な―――」
彼が現在の間桐桜の現状を告げる。
それを何も言わず慎二は聞いていた。
聞き終わった後、もう立てないと倒れこんでいたはずの脚が立ち上がる。
「・・・・・・・・・・・・・一週間程旅に出てくる」
それ以上何も言わず慎二がサイフの中身を抜き取ってから放った。
「これは借りといてやる。必ず返してやるから待ってろよ」
その返事を聞く事なく。
慎二がその場を後にした。
その後姿はまるで【妹の為に命を掛けてデュエルをした男】のようで、彼は少しだけ微笑んだ。
「・・・・・・」
彼の目の前に淡い緑色の粒子を纏って一枚のカードが戻ってくる。
『第五魔法・青』
本来ならば絶対的な力を持つカードの輝きは少しだけ薄くなっていた。
デュエルで使うにはもう適さない程に消耗しているのは明白。
使えてもデュエル後にデッキ枚数の補充が数回出来る程度だと気付きながらも、彼はそのカードを使った事を後悔していなかった。
ドローカードですら決闘者が創造する。
それだけの域にあるデュエリストが一人誕生した。
その事実は彼にとって何物にも変えがたい力となる。
【エコールド・ゾーン】
コンボと戦い方次第ではアルクェイドと互角以上にも戦えるカード。
その本来この時代に存在しないカードを呼び出すだけの力は英雄と呼ばれるような人間にしか発現しない。
カードに全てを掛けた未来の男達。
その仲間入りすら出来る素養が確かに負け犬の背中には宿っていた。
「・・・・・・」
夏の夜が始まるまで四日。
冬へと向う空に小さな呟きが漏れる。
それは彼が己を【召喚させた】一人の勝気な少女の名前だった。
To Be Continued
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ワカメ、覚醒す。