No.672406 ヒーロークロスライン二次小説 福岡港改造生物密輸事件 1リューガさん 2014-03-20 22:09:34 投稿 / 全5ページ 総閲覧数:574 閲覧ユーザー数:574 |
1999年9月26日(水)。
オルタレーション・バーストが起きた日。
両親が共働きだったオレの家では、学校から帰れば、ほか多くのかぎっ子と同じように、自分でご飯を温め、そしてテレビを見ながら食べる夕食が始まるはずだった。
だが、その日映し出されていたのは、どのチャンネルも臨時ニュース。
その内容はといえば、世界中で同時に特撮番組さながらに人間が怪人に変身しました。というものだった。
まったく違うテレビ局同士で、まったく同じタイミングで同じCMが流れるというのは、見たことがあった。
だが、すべての局で構成がまったく違うのに、同じ内容を伝えるニュースが流れているのが、真実であると伝えていた。
国会議事堂前で諮問に呼ばれた科学者が、自らも怪人になったと告白した映像は、その後も何度と無く再放送された。
彼、後にインスペクターと名乗る石和秀光教授は、オルタレーション・バーストのプロセスを平行世界を観測した人間が、己が欲する能力を量子レベルで自分に集約できるようになる現象だと言っている。
それからの数日間は、まさに人類史上かつて無い混乱期だった。
そこで人々が見たものは、今まで当たり前と思っていた社会が、いとも簡単に破壊されてしまうということ。
火を噴くノッカーズが、強盗を働いたコンビニを焼き尽くす。
時速500キロ出かけるノッカーズが、首都高速を走る自動車を弾き飛ばし、踏みつける。
面白そうに……。
彼らが欲するものは、犯罪を犯すことなのか?
多くの人が、そう思い始めた。
やがて怪人に異界の門を叩いた者・ノッカーズ、この世界にはオルタレーション・ワールドという呼び名が与えられた。
2001年には警視庁にBOOTS(Blitz Ordeer Of the NPA Toward Shadow・対能力者電撃機構)が組織された。
2002年には強力なパワードスーツ・ブースターが配備され、その後は各道府県に同種の部隊が作られてゆく。
それまで極秘とされた、青の七が公表されたのもその頃だ。
青の七とは、しいのなな。と読む。
オルタレーション・バースト以前から存在した、国家公安委員会直属の能力者による対能力者部隊だ。
より凶悪な状況には、自衛隊も投入されている。
ノッカーズ犯罪の被害者やその縁者によって構成された山桜隊は、その代表だ。
ノッカーズ犯罪に対する警備体制が確立されたんだ。
やがて、ノッカーズ化するのは数万人に一人という割合も明らかになるにつれ、混乱はゆっくりと収まっていった。
でも、オレにとっては比較的身近な問題だったと思う。
吉野 健太郎。当時11歳。
小さい頃からラジコンが好きだったオレは、よくビデオカメラをラジコンに乗せて遊んでいた。
自分で言うのもなんだが、裕福な家の息子の道楽だ。
言っておくが、普通の友達もいたぞ。
最初はラジコン飛行機やヘリコプターで近所を空から撮影するだけで満足だった。
だが、オルタレーション・バースト以降は、ノッカーズ犯罪を被写体に選んだ。
最初は好奇心からだった。
だが、すぐ悟ることになる。
ノッカーズでも普通の人間でも、悪い奴もいればいい人もいること。
そして、この社会は当たり前の存在ではなく、奇跡に等しいバランスの上に成り立っているということ。
オレは自分の社会に、それなりに価値があると思っている。
そのバランスを守るため、何かできることは無いかと考えた。
そして始めたのが、撮影した映像をネット上に流すことだった。
やがて、警察や人々からヒーローと呼ばれる正義のノッカーズや腕の立つ人間達も、その映像を利用するようになる。
腕の立つ人間の中に、オレのラジコン電波を逆探知した人がいた。
アルクベイン。
ヒーロー達の互助組織、エレメンツ・ネットワークの創設者で、オルタレーション・バースト当初から第一線で戦ってきたヒーローだ。
その人の勧めで、オレはエレメンツ・ネットワークに入った。
思えば人の縁というのは不思議なもので、なぜ電波を操る犯罪ノッカーズが押し入ってこなかったのか、不思議になる。
思えば昔のゴルゴ13でも、ネット検索をさもすごい技術のように紹介していたから、そういう物なのかも知れない。
そして、14年。
手に入れたもの、守ろうとして守れなかったもの、いろいろ抱え込みながら、現在に至る。
2013年2月
九州地方の北に位置する福岡県。
今日はオレ、吉野 健太郎が勤める義肢メーカー、小山ブレイスの会社説明会。
本社と工場は、県庁所在地の福岡市にある。
より正確には、九州自動車道と福岡都市高速道路4号線の交差点、福岡インターチェンジの近く。
医療器具は空気のきれいなところで作りたいという社長の意思で、国道545号線に面した森江山のふもとの田んぼだった所にある。
向かいがローソンだから、すぐわかるだろう。
近所に小山(株)福岡営業所があるが、こっちはベットの会社だ。関係ない。
……と以前なら言えたんだろうが、オルタレーションバーストが起こった後なら、量子レベルで不思議な縁が繋がっているのかもと、思えてくる。
研究施設は北九州学術研究都市にある。事業化支援センター(産学連携センター4号館)の5階だ。
パクパクむしゃむしゃ
いまオレ達が居るのは、学研都市にある観客460人を収容する会議場だ。
だが、今席についているのは100人ほど。
それも本来の目的である研究発表や産学官交流の為ではない。
れっきとした”爪と牙を持つ“犯罪被害者の互助組織、エレメンツ・ネットワークの作戦会議。
ミサイルから手裏剣まで飛び交う作戦のための会議だ。
オレの様な正規実動員、アルバイトもいれば、今回の作戦のために集められたフリーランスのヒーローもいる。
後ろになんか、小中学生にしか見えない一団が座っている。
そう見えるだけかもしれないが。
ガツガツもぐもぐ
だが、そんな小中学生でもオルタレーション・バースト前の地球なら1人で制圧できるほどの怪物だったりする。
そしてこの会場には、そんな小中学生でも怖がる存在が居る。
それは、これから起こる事件の首謀者じゃない。
目の前の壇上にいる、ただ1人の女子高生だ。
バリバリあぐあぐ
壇上に並ぶ他の出席者たちは、さすがに顔には出さない。
小山ブレイス社長の小山 良治さん。
いつもは博多弁で威勢のいい社長も今日は、めかし込んでる。
同じく小山ブレイスから精密重機械開発課課長・千田 駆さん。
通称千田隊長は元自衛官で戦車に乗っていた。
それも山桜隊。
そのとき、ノッカーズとの戦いで負傷して退官。
今は傷付いた内臓は再生医療で直し、右腕と両足は自社製品。
そして、オレのようなヒーローをまとめるリーダーの就任した。
福岡県警のBOOTSから長谷川 真理子さん。
BOOTSは福岡県内に福岡市と北九州市2個班ある。
その内、北九州班の隊長だ。
あの人の率いる部隊も、今この会場の一角にいる。
今のところ喧嘩とかは無いみたいだけど、内心どう思っているんだろう?
そして青の七から藤色の髪の少女。
ノッカーズ名クレイジー・ドール。本名クオーレ・アストゥートのもう一つの人格、ドルチェ。
会場の空気は、このドルチェのために放たれたものだ。
ハフハフモフモフ
イラついている派もいる。
オレの隣に。
久 広美。18歳。
さっきから買い込んだお菓子を一心に食べながら、鋭い視線でドルチェをにらんでいる。
ごっくん
「ねえ、健太郎」
お菓子を飲み込んで、ひそひそ声で話し出した。
「何だ?」
オレのひそひそ声。
「健太郎は、自衛隊やアメリカ軍の作戦に、参加したことあるの?」
ほっ。
良かった。
まだ自分の任務を忘れたわけでは無いらしい。
「ないよ。
自衛官でもアメリカ軍でも、基本的にノッカーズや変わった装備の持ち主と一緒に仕事はしないんだよ。
なるべく同じ装備を持った味方だけ集めて、それ以外の動く物は反射的に撃つんだよ」
広美はそれを聞いても、それほど恐れているわけではないようだ。
「それってまずくない?福岡には今、アメリカ海軍のイージス艦が2隻来てるんだよ」
へえ、よく勉強してるね。
オレは、もう10年近くも前になる、自衛隊と異能力犯罪組織の戦いを思い出した。
その主戦場だった栃木県足尾銅山跡地付近は、エレメンツネットワークでも立ち入り禁止だった。
BEATと呼ばれる人間をノッカーズとはまた違う何かへと変貌させる薬物の使用者・セクトと、捨てても惜しくは無いという意図が丸分かりの旧式装備で身を固めた自衛隊・山桜隊の血で血を洗う争い。
山桜隊だけじゃなく、付近住民だってセクトと見れば反射的に攻撃していたからな。
包丁投げつけたりして。
「ふ~ん。
じゃあ、自衛隊そっくりのノッカーズがいれば、平気なの?」
オレも似たようなこと考えて、イスラエル製無人偵察機・ヘルメス450そっくりのラジコンを作った事がある。
アメリカ空軍が足尾偵察に使用していたから。
でも、サイズが2回り大きかったせいで、簡単に見分けが付けられた。
あっという間に打ち落とされた。
その後アルクベインに、こっぴどく叱られたっけ。
それで高校時代のオレはアメリカ留学。
といっても、華やかなキャンパスライフではなく、傭兵会社で勉強付けにされて。
あれは辛かったなぁ。
それでも、そのおかげでヒーローに成れたから、良しとするか?
「なぜなら、君に出会えたから……」
と呟いたが、広美はおやつを再開していた。
こうなると、もう止まらない。
その食べっぷりと視線でドルチェの方が、自衛隊やアメリカ軍と戦う事より気に食わないようだ。
原因は察しが付くが今、解決できることでもない。
今は社長の話を聞こう。
自衛隊とかアメリカ軍の事は、千田隊長が元自衛官だから、質問タイムが来たら聞いてみよう。
福岡市には、小山社長が「奇跡の港」と言った博多港がある。
「博多湾には、海ノ中道によって九州本土と陸続きになっている島があります。
志賀島です。
志賀島と九州本土の間には野古島があり、これらが天然の堤防となりました。
志賀島では、1世紀に後漢時代の中国から贈られた奴国の金印が、江戸時代に発見されました。
鎌倉時代には元寇と呼ばれる当時の東アジアの大帝国、元の進攻も2度にわたって受けています。
野古島の西にある今津海岸には、その際に築かれた石垣がのこっています。
これも、博多港が天然の優れた港である証です。
そして現在、日本とアジアを結ぶ場所になっています。
いまや、九州地方の経済力は東南アジア1国以上とも言われています」
社長の誇らしげな話は、ここで終わる。
そして、許せないという思いを込めた、低いトーンの声で話し出した。
「だからこそ、博多港を犯罪に利用されてはならない。
3日前、世界征服を策謀する改造人間の集団、マジン団がこの港からどこかへ生物兵器を輸出するという情報が入りました。
ここからは、BOOTSの長谷川隊長に説明していただきましょう」
社長は直接戦う力は持っていなくても、こういう締めるところは締めてくれるから好きだ。
解説者が入れ替わり壇上のスクリーンに、2人の怪人が映し出された。
長い首を持ち、4本足で歩く巨大な草食恐竜フクイティタン。
1人はフクイティタンを後ろ足で立ち上がらせ、古代ギリシャ風の鎧兜を纏った者だった。
もう1人は牛の頭を持つミノタウロスと一般的に言われている怪人だ。
だが、身に付けている鎧は、恐らくこれまでの古代文明において一度も使用されることの無かったモチーフ、赤いトラクターが採用されていた。
「首謀者は、マジン団大幹部、自称太陽の親フクイペリオン」
首の長い方だ。
「直接指揮を執っているのは、農耕怪人アステリオスです」
ミノタウロスの方。
「彼は家畜や農作物の遺伝子改造を得意とし、マジン団の資金を調達してきました」
スクリーンに、彼の作品が映し出される。
緑色の肌を持つ牛や豚が映し出された。
植物の細胞を持ち、水さえ与えておけば、生きていけるらしい。
さらに体内にはアステリオス自身の体内から発見された電流生成菌というのを飼っていて、食べ物から発電できる。
ノッカーズの能力から、新技術が見つかるのはよくあることだ。
これは改造手術を行うのにちょうど良い電源というわけだ。
実際、この牛や豚にはサイボーグ手術で付けられたコンセントが付いていた。
だが、その緑の部分は1日ごとに、どんどん膨らんでいく。
やがて動物達の動きが止まり、その足は地面に生える幹になった。
緑の部分はどんどん膨らんでいき、コンセントも4本の足も飲み込んでいく。
最後は、緑の幹の上にまん丸の緑のボールが乗る、きのこのような物体になった。
次に映し出されたのは、草丈が3メートルはありそうな……稲?
こいつは毎年田植えをしなくても、水を張った田んぼじゃなくても育つらしい。
しかも、土壌の汚染物質を稲穂に吸収してくれる。
植えつけた最初の年、重化学会社の汚染水をまかれた土でも、問題なく育った。
と思ったら、次の年には与えられた肥料の養分をすべて吸い尽くしてしまった。
周りの雑草は次々枯れていく。
それでも、収穫はできた。
エンジンつきチェーンソーでエッチラオッチラ。
やがて、砂漠のように代わった土の上に、アステリオス米だけが並んだ。
背は相変わらず伸びている。
だが、ついに養分が追いつかなくなった。
最後は自分も枯れていく。
なるほど。さっぱり使えん!
「皆さんも覚えているでしょう。
3年前のノッカーズ極左テロ組織KK(ノッカーズ・クラン)の事件を。
あの時はヒーロー達は周辺への警戒のみでしたが、今回は我々と共に正面に立ちます。
小山ブレイスが誇る可変高規格双腕重機・オーバオックスを開発・運用するオーバジーン・オークスンが全機出動します。
他にも周辺各県警のBOOTSや、青の七が参加します。
私たちが自浄能力を示さなくては、安心して世界中の人が使える港を維持することはできません。
そのために、この作戦は必要なのです」
質問タイムになった。
さっきの事について聞いてみよう。
今回の作戦で起こりうる被害についても。
「都市での戦闘で最も恐ろしいのは、火災だろう。これは地震などでも言えることだ」
オレの質問に答えたのは、千田隊長だ。
「福岡市は人口100万人以上の大都市。
これまで晴れの日が続いたから、空気が乾燥している。
風は弱いが、火災になれば上昇気流が発生し、ビル街であおられてさらに燃え広がると、覚悟してくれ」
オーバジーンオークスンという部隊名は、お盆の時に飾られる茄子の牛からとられている。
今日は、いつも一緒にいる秘書の墨島 桜洗さんがいない。
ほか組織との調整のため、出かけているのかもしれない。
「自衛隊や米軍には作戦のことを知らせているが、積極的にかかわることは無い。
相手がマジン団だろうと、福岡市を焦土にするわけにはいかないからな。
それでも、俺達の手に負えなくなれば、嫌でも決断せざるを得ないだろう。
事はイージス鑑2隻どころの騒ぎじゃなくなる。
自衛隊、アメリカ軍のほかに、距離的に近い韓国軍だって応援に来るかもしれないぞ」
彼はそこで一呼吸おき、会場を見回してから言った。
そして千田隊長は壇を降りた。
「だから、自衛隊や他国の軍隊は、こっちの事情をまったく知らないと思っていい。
誤解を気にせず、敵と見れば反射的に襲ってくる。
そんな時は話し合おうとか、どういう奴らか見てやろうなどとは考えるな。
逃げろ。
もし逃げることができない、差し向かいで話し合う必要がある場合は、武装を解除してからにすること。
そのときは、ゆっくりとした動きで。
急な動きだと、武器を取り出す行為だと思われて、撃たれるからな」
そして、すさまじい過去にふさわしい、緊張感の無い、真実性のある、にこやかな言葉で、オレの両肩をぽんとたたいた。
「だから、探し物がうまいアウグル君。
君が密輸品をすばやく見つけてすばやく知らせ、すばやく俺達を呼ぶのが1番なんだ」
え~~。
広美は相変わらず、お菓子を食べジュースを飲んでいる。
後ろを見てみる。
あの小中学生達は期待を込め、手を組んでオレに祈っていた。
周りの大人たちも。
BOOTS!
誰かプライドを持って自分を売り込んでくる奴がいないかと期待したが、無駄だった。
だから、君らのほうが・・・・もういいや。
数分後、説明会が終わり、出席者は三々五々散っていく。
だが、広美は座って待っていた。
オレも一緒に待つことにした。
彼女のお菓子は、ようやく失われた。
その時、いきなり立ち上がった。
「健太郎、ちょっと行ってくる」
ブン!
人間離れした。本当の意味で人体の構造を無視したスピードで彼女はいなくなった。
あっ。今、壇上のドルチェ達が控室の方へ向かった。
広美もそっちに行ったのかな?
なんだかいや~な予感がするぞ。
オレはリュックから砲弾のよう形のスマートフォンを取り出した。
ずっしり重くて大きい、ちっともスマートではないが、機能はスマートフォンだ。
ショックを受け流せるように楕円形をしており、立てて置けるように一方の楕円の先が平らになっている。
「変形」
迷惑にならないようオレがそうささやくと、砲弾型スマートフォンは犬型ロボットに変形した。
ランナフォン。
元は、ノッカーズが能力を使うたびに壊れてしまう携帯電話に、逃げる機能をつけたものだ。
こいつは走るのが速い犬型だが、ほかにも飛行能力を持つワシ型。手先が器用なゴリラ型がある。
そして、オプションで様々な機能を追加できる。
「見張りを頼むよ」
犬型にそう頼むと、ランナフォンはバウ!と一鳴きして胸を張った。
やれやれ。
早くこいつをレンタル開始しなきゃならないんだがね。
オレは広美を追いかけることにする。
大人(オレ26歳)が子供(広美18歳)の責任を取らなければいけないかもしれない。
おじゃましま~す。
控え室のひとつで、広美とドルチェが向かい合っていた。
「あんた、クオーレはどうしたのよ」
クオーレとは、ドルチェのもうひとつの人格だ。
ドルチェはすべてを切り裂く能力をつかさどり、クオーレはおいしいお菓子作りと普段の生活をつかさどる。
クオーレの時は、髪の色が藤色からピンクになり、きつそうな顔も優しくなる。
広美のやつ。
やたら機嫌が悪い声だ。
「その質問は、今後の作戦に必要なことなのか?」
普段男勝りなドルチェの声に、疲れが出ているみたいだ。
「大有りよ!」
うわあ!
どんな硬いものも、次元を捻じ曲げようが何しようが防げない切断能力を持ち、地獄の女神とさえ言われるドルチェに怒鳴るなんて、こいつくらいだなぁ。
「私のバウムクーヘンはドコ!?」
その理由がこれだもん。
すまないね。
こいつが戦う理由は、この世のおいしい物のためだから。
そのためなら絶大な飛行ノッカーズ能力で、日本どころか世界でも宇宙でも飛んでいくのは、ドルチェもオレも知ってる。
東京に住んでいても、クオーレのいる福岡県直方市まで飛んでいき、手作りお菓子をタカル
「失礼ね!材料代は払ってるわよ!」
へえ。初めて聞いた。
ふー。
ドルチェは深~いため息をついた。
「まあ、お前達になら話してもいいかな」
そして、疲れ切った様子でソファーに沈み込んだ。
いつも強がる君が、珍しいな。
「まあね。もう1週間もクオーレにあってない」
広美の顔から怒りが消え、代わりに強い憂いの表情が浮かんだ。
「何それ!1週間もノッカーズ能力を維持してるの?!」
それにはオレも驚いた。
オレはノッカーズじゃないからわからないが、能力の発動とは相当、感情が高ぶらないとできないらしい。
しかもその状態で能力を抑え、普段道理の生活を送るのには大変なストレスがかかるのは想像できた。
オレで言えば何日も徹夜するようなものか?
もし足の小指を何かにぶつけた時、その痛みのストレスを感じると同時に家が真っ二つになったら……。
「まあ、そんなところね。
いったい何が原因なの?」
広美の質問に、ドルチェは悩んでいるようだ。
そうだろう。
ひとつの体を共有しているが、ドルチェとクオーレはお互いを姉妹のように認識している。
ドルチェにしてみれば、引きこもった妹の恥をさらすようなものかもしれない。
「あのな、クオーレには付き合いたいと思っていた男がいたんだ。
片思いなんだが、高校の同級生に。
そいつとは、同じ料理部の仲間でもあり、一緒に料理を作っている間に仲良くなったんだ。ところがー」
「その続き、待った!!!」
その話を、いきなり広美が遮った。
「そうゆう辛い話なら、私にも覚えがあるよ。
あんたの場合、ノッカーズのクオーレとノーマルの彼の壁を見ないわけにはいかないんだよね。
言わなくていいから」
そう優しく宥める広美。
オレはクオーレがクイダオーレしたのかと思った。
それを、今度はドルチェが遮った。
「彼はそんなやつじゃない!
むしろ僕の人格も尊重していた!」
これは珍しい。
真っ赤になって、もじもじしているドルチェなんて!
だが次にはドルチェの表情が暗くなる。
「だが、彼はこだわりが強すぎた。
彼は高校を辞め、福岡へ料理修行をしに行ったんだ。
ラーメン屋台をしてる、おじさんがいるって。
だが、周囲の人はそう思わなかった」
彼がクオーレとドルチェの能力を怖がり、逃げたと噂されたんだそうだ。
それはクオーレもやる気なくすだろう。
「で、どうする気なの?」
広美が訪ねた。
「今度の日曜にでも、彼に会いに行こうと思っていたんだ。
もう一度彼のラーメンを食べれば、クオーレはきっと自信を取り戻す。
この事件で先延ばしになるだろうけど、福岡を守る。それが今できる唯一の事なんだ!」
ドルチェは強くそう言った。
「当然、私のバウムクーヘンのためにもね」
ツンデレ気味に広美が言う。
なんだかんだで、仲がいいんだ。
その日の夜。
え~っと、隊長はなんと言っていたっけ。
☆:‘アウグル心の窓☆:‘
「だから、探し物がうまいアウグル君。
君が密輸品をすばやく見つけてすばやく知らせ、
すばやく俺達を呼ぶのが1番なんだ」
だったら、もっと大勢人がほしいよ~!
と愚痴を言いかけてやめた。
絶対不可視の偵察員。音も無く、お供します。
アウグルこと吉野 健太郎には応援が必要ない。というか出来ない。
PM8:59。
博多港の東区にある香椎浜埠頭は、夜でも忙しい。
目の前には3段積みの巨大コンテナ。
それが横に6列。奥行きは場所によって違うけど大体10列。
そんな山が……考えたくないからやめた。
オレの頭上では、コンテナの山をまたぐ橋型クレーンが、またひとつコンテナを下ろす。
コンテナを受け取るのは巨大なフォークリフト。
その次はトレーラートラックだ。
トラックはコンテナ船の横まで行き、そこからフォークリフトが地面に下ろす。
最後に長さ50メートルのアームを持つガントリークレーンが、コンテナを船に積み込んでいく。
そんなクレーンが幾つも並んでいる。
積み込み先は、日本最大級の財閥、小暮グループの大暮船舶が去年から使っているコンテナ船。
空冠丸。積載重量9万2259トン。
あのクレーンには、1時間に1個50トンのコンテナを40個も積み込む能力があるらしい。
その騒がしさは、24時間止まることがない。
その音以外、何も聞こえない。
オレは、コンテナの影から出る決意をした。
だが、その姿は誰にも見えない。はずだ。
かの有名な光学迷彩。
全身を可視光線やレーダー波を含めた電磁波を捻じ曲げ、そこに何もなかったかのように見せるメタマテリアルのスーツを着ているからだ。
ただし、今被っているHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)には、ワイヤーフレームで書かれた姿が表示される。
光をきれいに曲げる都合上、まん丸のスーツしか作れないのは、まあご愛嬌だ。
その手には、同じくワイーヤーフレームで書かれたカービン銃のようなものがある。
中身はより優れているといえるが、劣っているともいえる。
液体窒素カッター兼ショットガン。
相手に押し付けて引き金を引くと、液体窒素が微細な隙間に入り込み、膨張する際の圧力で切断する。
それより遠くの相手なら、当たると電流を流す弾丸。スタン弾の出番になる。
他にも、対物攻撃用に徹甲弾がある。
これの小型版が、オレの両腕にも搭載されている。
ただし、今使うのは違う機能だ。
オレは液体窒素カッターの銃身部分を触った。
HMDの視界の左右に、1つづつ小さなウインドウが開く。
カッターを覆う光学迷彩カバー。
銃身の部分だけは、そこが映した映像を目で見ることができる。
そしてコンテナの陰からそっとだした。
目立たないよう、人の視線よりも低い位置で。
相手に見えないオレがそんなことをして意味があるのか?
そう御思いの読者さんへ。
あるんです。
オルタレーション・ワールドは油断ならない。
銃身が映した右側の画面。
一人、紺のオーバーコートを着た男がいた。
ヘルメットはかぶっているが、私服を着ているから港湾関係者ではない。
つまり、見張り。
大柄な男だ。
がっしりした体格に真一文字に結んだ口元。その目には強い意志が感じられる。
昔なら、こんな状況でも、ただお兄ちゃんが立っているだけだろうが、今は十分特殊な状況だ。
あの見張りの目は白くにごり、肌は灰色。
体はゆらゆら揺れながら、半開きの口からよだれを垂らしながら「あ~う~」とか唸り、誰か近づくと手にした銃を見境無く撃ちまくるか、喰らいに来る。
そんなゾンビだった可能性だってある。
まあ、変なところで紳士的なマジン団ならあり得ないが、ゾンビだった場合は使い捨ての兵器であるのが常だ。
つまりあれは、油断なら無い見張り。
武装は…ノッカーズ…!
HMDに、新着メール。
開くと、付近一帯のコンテナと、マジン団の見張りの配置図だった。
半径およそ100メートルに6人。
すでに目の前の見張り以外にはオレの部隊がついている。
後10秒でPM9:00。
ほかの埠頭で配置に付いたヒーローやチームから、次々に配置完了の通信が入る。
証拠を消されてはたまらないから、全員で一斉に始めるのだ。
通信が傍受された場合のために、ぱっと訊いただけでは分からないせりふを符合として使う。
1人1人順番に話し、俺の符号「占い師をサイバー大学の前で見かけました」と話した。
さて、始めるか。
オレは、見張りの顔が向こうに向いた時、スタン弾を向けた。
そのとき、男の姿が消えた!
『キキー!』
「うわア!」
後ろから聞きなれた電子音声と聞きなれない叫びが聞こえたのは、同時だった。
振り向くとそこには、さっきの見張りがいた。
彼はあっけに採られた表情で、両手で持つサブマシンガンを見ている。
必死に銃の引き金を引こうとしているが、凍りついたそれは、もう用を成さない。
オレは昔ながらの銃剣道の要領で、サブマシンガンを覗き込む男の顎を、液体窒素カッターの銃床で殴りあげた!
意識が飛んだ男は、そのままふらふらと倒れこんだ。
目がいいのか、もしかしたら予知能力かもしれない。
それに瞬間移動の複合型ノッカーズか。
もし銃を握りつぶせるぐらいの握力なら、やばかったけど。
男の顔は、さっきの例えに出てきたゾンビ兵のように、白目をむいて半開きの口からはよだれをたらしていた。
その顔はまだ幼さが残っている。
少なくとも、26歳の自分よりは。学生かも知れない。
「悪いな。大人は汚いんだ」
俺は、何となくすまない気持ちになって言った。
でも、お世辞にも男っぽいとは言えない高い声は、ヘルメットにさえぎられる。
変わりに、背中からボイスチェンジャーで低く加工された声が流れてきた。
飛行ユニットを収めたバックパック。
オレはその上に、いつもゴリラ型ランナフォンを乗せている。
さっき『キキー!』と鳴いた奴。
そして、加工したオレの声を流してくれたのもこいつだ。
いま見張りにぶっかけた液体窒素は、カッターではなく、一時的に相手を凍らせる機能だ。
銃だけを凍らせるとは、よく働いてくれたね。
当然、さっきに『キキー!』はヘルメットの中だけに響いた声だ。
そしてこの埠頭には、すでに60個持ち込んでいる。
ほかの見張りは…すでにボール状に集合合体したランナフォンにぶち当たられて、気絶したようだ。
オレは、音を立てないように走り、コンテナを開く準備に取り掛かった。
開けたら爆弾がドカン!というは嫌だな・・・。
そう考えて、開発した装備がある。
扉の一番薄そうなところに、ジュースの缶ほどの機械をとりつけた。
機械に繋がる有線コードを伸ばしながら、20秒の間に走れるだけ走った!
撤収までは3分間で済ませたい。
コンテナの陰に隠れ、作業開始。
少量の液体窒素が、カッターとなって穴をあける。
大爆発は起こらなかった。
こういう自動化は得意なんだ。
俺はコンテナの前に戻った。
これでやっと、ベルトから伸ばした触手を送り込める。
ミミズほどの太さのそれは、ワイヤーを通じてベルトの左右に隠されたジョイスティックとキーボードでコントロールされる。
撮影、移動、サンプル確保など。
後ろをまたゴリラ君に任せて、コンテナ捜索を始めよう。
中は、上下に分けられた大きな棚になっていた。
というより、2段ベッド?
冷凍室になったコンテナの中には、アイスノンの布団をかぶり、こっちに頭を出して眠る牛の頭があった。
牛の頭に、カメラを近づけてみる。
緑色ではあるが、毛が生えていた。
こいつに使われてるのは、表の世界では実験中の技術。
だが、マジン団なら、特に農耕怪人と呼ばれるあいつなら、この牛達はF1カー並みのスピードで走り回り、何万ボルトもの電撃を放ってもおかしくない。
マジン団は、そんな違法な改造手術を行える組織だ。
触手からはさみを取り出し、頭皮を採取する。
これをワシ型ランナフォンで後方にいる生物学者の元に運べば、正体がはっきりするだろう。
そうでなきゃ困る。
ビィー ビィー ビィー ビィー ビィー ビィー ビィー ビィー
突然、けたたましい警報が鳴った!
辺りを見回すと、赤色灯まで回っている。
バレたか!?
急いで触手を引っ込め、透明ポーチからワシ型ランナフォンを取り出す。
このランナフォンには、液体窒素発射機能が無い代わり、物を運べるようになっている。
ふたを開く動作さえ、もどかしく感じながら、サンプルを収めた。
そのとき、大勢の人影がコンテナの陰から現れた。
マジン団か?!
全員私服なのが、その証拠だ。
列の一人が、突然こっちを向いて叫んだ!
「隊長!あそこのコンテナの前に誰かいます! 匂いで分かります!」
たちまち叫んだあいつの顔は犬のそれに変わっていく。
一行はたちまち立ち止まり、着ていた服の肩に手をかけた。
バサッ! バサバサッ!
たちまち、服が脱げたかと思うと、その下から現れたのは全身黒タイツ。
目だし棒の両目には、頭からあごまで彩るイカヅチの紋章。
ベルトのバックルは、爬虫類のような5本指が鷲摑みにする地球。
マジン団の戦闘員だ!
しかし、あの一瞬の着替えって、どうやるんだろう。
オレのスーツにも組み込みたいけど、どうやっているのか、さっぱり分からない。
先頭を走っていた隊長と呼ばれた男は、彼らの前に立ってこっちを睨み付ける。
中肉中背の若い男だ。
・・・待てよ、改造人間に見た目は通用しないんだっけ。
「誰だ!そこにいるのは!」
男はそう言い放つと、自らも身を異形にやつす。
その顔は、白い2本の角が目立つ黒毛の牡牛だ。
左肩からは、トラクターのエンジン部分を模した赤く巨大な四角い鎧が伸び、先にはちゃんとライトもついている。
全身も赤い金属の鎧が覆っていく。
そして手足には1つづつ太いタイヤが盾のように生えてきた。
最後に手に長い柄の戦斧が握られる。
「農耕怪人!アステリオス!参る!!」
そのベルトのバックルは金。つまり幹部だ!
アステリオスは戦斧を体の周りで回転させる。
中国拳法の棒術のように。
そして、猛スピードで突進してきた!
その刃には高圧電流を意味する青白い光が宿る!
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現在雌伏中の全作品クロスオーバーな漫画企画、ヒーロークロスラインの小説です。 もともと、ぴくHXLという企画のために書きましたが、企画主が夜逃げしたため、途中から本物のHXLヒーローが出てきます。 とんでもない数のヒーローが怒首領蜂! 長い目で見てください!