むしゃむしゃばりばりごきゅごきゅもきゅきゅごっくん!
ここはエヴァンジェリンが所有する別荘―ダイオラマ魔法球の中にあるエヴァンジェリンの居城、レーベンスシュルト城の大広間
今、この大広間には何者かが物を咀嚼する音が大音量で響いていた
「もきゅもきゅもきゅ…ごっきゅん!」
その音の原因はウルティムスだった
高級そうな料理の数々を次々と口に放り込み腹に収めていく
テーブルマナーなんぞ有ったものではない
「…茶々丸、城の備蓄は大丈夫なのか?」
「いいえ、マスター。このペースで行くとあと十分もしない内に一年分の食料備蓄が底を付いてしまいます」
「…マジか」
「マジです」
エヴァンジェリンが緑色の髪を靡かせる、メイド服を着た少女に問いかける
メイド服の少女―絡繰茶々丸が問いに答えると、エヴァンジェリンははぁ…と溜息を吐きながらウルティムスに声をかける
「おい、ウルティムスとやら。もう食事は良いだろう。食ったのだから私の質問に答えろ。お前の目的は何だ?魔法世界を滅ぼし、完全なる世界へ導く事か?」
エヴァンジェリンが邪悪な魔力を放ちながらウルティムスに詰問する
真祖の吸血鬼たるその牙を見せつけながらのその問いには威圧感がたっぷりだ
同席していたネギやフェイト、読唇術師の宮崎のどか、麻帆良学園学園長の近衛近右衛門、紅き翼の高畑・T・タカミチにアルビレオ・イマ(今はクウネル・サンダースと名乗っているが)、関西呪術協会の長にして京都神鳴流随一の剣士である近衛詠春
宮崎のどかが気絶しかけ、そうそうたる顔ぶれの面々がその威圧に気圧され冷や汗を流す中、ウルティムスは全く怖気ずに言い放つ
「えぅ?目的なんか無いよ。強いて言うなら強くなる事かな!あーおいしかった!ありがとうお姉ちゃん達!」
無邪気な笑顔でそう言い放つウルティムス
お礼を言われたエヴァンジェリンと茶々丸は僅かに顔を赤らめ動揺する
「っな、お姉ちゃんだと…?は、初めて言われたぞそんな事は…」
「お姉ちゃん…マスター、何でしょう。顔が熱を帯びています。ネギ先生の事を考えているときと似ています。マスター、この現象は何なのでしょうか」
「目的意識が無い?それはどういう事だいウルティムス。僕達アーウェルンクスシリーズは完成すると同時に、必ず目的を設定されるはずだ」
顔を赤らめ、イヤンイヤンと体をくねらせるエヴァンジェリンと茶々丸
そんな二人を無視してフェイトが怪訝な顔をしてウルティムスに問いかける
「テルティウム…いや兄さんと呼ばせてもらうよ。兄さんも知ってるでしょ。僕は完成まで時間がかかるから、我らが主は僕を自動的に作成するように術式を組んだ魔法を使っていた。勿論完成した暁には造物主に対する忠誠心と目的意識を植えつけられるはずだったよ」
「ならば何故だ?」
「その忠誠心と目的を植えつける前に、造物主が打倒されたからだよ」
明かされた事実にこの場に集まった面々が絶句する
ネギはのどかに顔を向けて今の発言の真を問う
のどかのアーティファクト『
その効果は対象の人物の名前を呼んでから本を開くと、対象の心理や情報が分かるという物である
のどかは本に目を向ける
その本には落書きのようにディフォルメされたウルティムスが描かれ、ふきだしと日記の部分には『嘘じゃないよー!(>□<)』と大きく描かれている
「う、ウルさんの言ってる事は本当です」
「うん?ウル?」
「あ、う、ウルティムスさんだと長いのでー…ダメでしたか?」
「ウル…うん良いね。気に入ったよ。これからはウルで良いよ」
ウルティムス改めウルは呼び方を気に入ったようだ
「では、改めて問おう。君の目的は『強くなる事』。それで間違いは無いのじゃな?麻帆良学園や、魔法世界を害するつもりは無いと見てよいのじゃな?」
近右衛門が老齢とは思えない程のギラついた眼光でウルに問いかける
下手な答え方をしたら、瞬時に魔法が飛んでくるだろう
「もちろん無いよ。目的も、今は特に無いから強くなりたいってだけだしね。僕は学習能力特化の個体だから」
「…ふむ」
ウルの答えを聞いて近右衛門は目を閉じ、顎を手で撫ぜながら深く考え込む
―今、この麻帆良学園は戦力が必要じゃ
関西呪術協会と和解したとは言え、世界樹のもつ莫大な魔力を狙う組織は数が知れん
あのような事件があったばかりで魔法先生達はそちらの対応にかかりきりになるじゃろう
とは言え魔法生徒達だけに世界樹の防衛を任せるのは不安が残るのう
いくら魔法世界で実戦経験を積んできたものがおるとは言え、生徒の大半は実戦経験など皆無じゃ
実質、今この麻帆良の戦力と言えるのはエヴァンジェリンにネギ君、婿殿か…
…であるならば
「ウル君にフェイト君。君達に学園長として、関東魔法協会のトップとして提案があるのじゃが、耳を貸す気は無いかね?」
―この近衛近右衛門、一世一代の大博打、仕掛けてみる価値はあるじゃろう
★
「…麻帆良に所属する、ねぇ…」
「僕は別に良いよ。ネギ君の計画の進行状況を近くで確認できるのは僕にとってもメリットだ」
ウルは渋り、フェイトはこころよく承諾する
「何故渋るのじゃ?君の目的は強くなる事なのじゃろう?ならばここ以外の好条件は無いはずじゃ」
「理由を聞かせてもらいたいな」
「聞くまでも無いと思うがの」
学園長の言葉を聞き、ウルは考え込む
―確かにここ以外の好条件は早々無いだろう
最強の魔法使い『
そしてその彼女の技法『
神鳴流最強の剣士、近衛詠春
強力なアーティファクトを持ち、重力魔法を自在に操るアルビレオ・イマ改めクウネル・サンダース
そして彼らは魔法世界にも太いパイプを持つ
エヴァンジェリンは賞金首故除外するが、ネギは各国の首脳陣との繋がり
詠春とクウネルは言わずもがな、
特にかの千の刃、ジャック・ラカンとは戦ってみたい
麻帆良に所属すれば彼らの援助と指導を受けられる
「分かった。僕も麻帆良に所属するよ」
その考えに至った途端、ウルは首を縦に振っていた
「うむ、では君の引き取り先を決めねばな。…エヴァンジェリン、おぬしに頼むぞ」
「は!?待てジジィ何故私なんだ。詠春でも貴様でも良いだろ!?」
「彼の指導をできるのはおぬしのこのダイオラマ魔法球の中くらいでしか無理じゃろう?ほかの魔法生徒と同じように指導して、万一にでも魔力が暴走すれば秘匿なんぞあったもんではないわい」
「ぐ、ぐぬ…な、ならアルでも良いじゃないか!図書館の地下なら問題ないだろう!」
「おやおやキティ。それは本気で言っているのですか?彼ほどの魔力が暴走したら、最悪古書などがすべて灰に帰すかもしれないということが分からないとは…歳ですか?」
「貴様よりは年下だ!そしてキティと呼ぶな!」
ぎゃあぎゃあと混沌としてきた話し合いの場
その中で、ウルは席から立ち上がりトテトテとエヴァンジェリンの傍へと近づく
「ん?な、なんだウル。私は貴様を引き取る気なんぞ…」
「…ダメ、ですか?」
きゅっ、とエヴァンジェリンの着ている白いドレスの裾を掴んで上目遣いでエヴァンジェリンを見上げるウル
その目にはうるうると涙が溜まっている
「っ、うっぐ…」
「おやおや、泣かせてしまいましたねぇキティ?」
何だかんだで根は子供好きのエヴァンジェリンは罪悪感に苛まれる
アルビレオはニヤニヤと面白そうにその様子を観察している
「~~~!あーもう分かった。私の負けだよ。貴様を私の家で引き取ろう」
ガシガシと頭を掻き毟った後、観念したようにエヴァンジェリンは了承の言葉を告げる
その途端、ウルの表情はぱぁっと花が咲くような笑顔になった
「ありがとう!エヴァ!」
「っうむ、感謝しろよ。…そうだな、義理とは言え私の家族になるからには『
「お前はこれから、ウルティムス・ファートゥム・レオーネ・マクダウェル、だ。
エヴァは胸を張りながらウルに名前を付ける
ウルは少し顎に手をやり、考える
「運命の獅子…運命はフェイト兄さんから、獅子は…エヴァから?」
「うむ、そうだ。私の
「ううん、良い名前だと思うよ。うん、気に入った。これから僕はウルティムス・
こうしてウルティムス・F・L・マクダウェルとしての、ウルの生活が始まったのだ
しばらくもう一つのネギま!とゼロの使い魔の更新は停止させていただきます
エタるつもりは無いので、気長にお待ちいただけると幸いです
Tweet |
|
|
2
|
1
|
追加するフォルダを選択
第一話 獅子、引き取られる