No.670809

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第024話

皆さんこんばんわ。

今回文章の書き方をガラリと変えてみました。
読みにくいや誤字脱字がありましたら、引き続きやんわりと注意して欲しいです。

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2014-03-14 23:52:20 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1153   閲覧ユーザー数:1088

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第024話「受け継ぎし者」

連合の洛陽復興は秋の終わり頃となり、各陣営はそれぞれの領地へと帰還して行ったが、元陶謙の部隊を含めた劉備陣営だけは決戦のあった虎牢関へと出向いていた。

この地へと出向いた理由は、今は亡き陶謙への黙祷の為。

この地には今回の戦で散った将兵の為の墓標が建てられている。

これは西涼の影村曰く「今回の戦は、元は両軍の勘違いにより始まったもの。よって我らはこれを教訓とし、散っていた者達に祈りを捧げる為にこの地に彼らを捧げる墓標を建てる」と宣言し、彼主導の下で立てたものである。

だが劉備軍が着いた頃より前に、先に影村の軍が虎牢関の地に立ち並ぶ墓標を訪れていた。

ここでは重昌は地に降り立ち阿弥陀仏を唱え、他の影村軍の将兵は騎乗しながら足から鐙を外している。

鐙を外すのは、相手に対する最大の経緯の表れである。

その者達もただ静止して黙祷をしていた。

だが1800年前の中国にその様な習慣があるわけでもなく、またこれは重昌が少し作法を少し変えている為に、それを判らない者からすれば異様な光景に見えるが、少なくとも今はこの地の霊魂に祈りを捧げていることぐらいは劉備軍も察した。

やがて重昌が経を終えると、彼は劉備軍に近づく。

「関羽殿、趙雲殿、その他将兵の者達に陶謙部隊の皆様。どうかこの地で散った者達の霊魂に祈りを捧げ、彼らの事を忘れないでもらいたい。それが生き残った我らの使命であると私は思っております」

いつものごとく劉備には目も止めずに、そうお辞儀をして言い残すと、彼は部隊を引き連れて事前に用意した西涼の天幕へと引き返していく。

どうやら今日一日の間は、この地に腰を下ろすようだ。

劉備軍も黙祷を捧げ、日も完全に暮れて夜になると、劉備と関羽は二人でとある場所へと向かっていた。

それは陶謙の墓である。

しかしそこには先客が居り、重昌が一畳程の板の上に座り、隼人の墓標の前で茶を点てているのであった。

その茶を点てる姿はなかなか様になっていたので、二人は言葉を失いしばらくその影村の姿に見入ってしまった。

「そんなところで座っていないで、こちらに来たらどうだ?」

墓標の前に茶の茶碗をコトリと置くと、彼はそう告げた。

劉備と関羽は警戒しながらも、彼の元に近づく。

重昌は板と道具を除けて立ち上がり、一つ後ろへ下がると、今度は二人が墓標前にいき陶謙に黙祷の祈りを捧げる。

そうした中で関羽の脳裏には、あの日のことが頭に浮かんできた。

それは関羽に陶謙が身をていして守ってくれたことであった――

 

陶謙の背中には呂布の方天牙戟が深々と刺さっており、関羽も状況が理解出来ず混乱していた。

自分の置かれている立場が整理できたのは、呂布が陶謙の背より獲物を抜ききった頃であった。

陶謙の背を見ると大量の血が流れ出しており、関羽はすぐにでも彼の名を呼ぼうとしたが、陶謙はニッっと笑って関羽をその大きな胸板から解放する。

そして呂布の方へと向き直り……

「ぐっはっはっはっはっ、やられたわい。儂に一撃を与えることが出来るのは重ちゃんだけかと思っていたが……面白い。ならば最後に本気を出すか」

高らかに笑いあげる隼人の背からは、未だ大量の血液が流れているが、彼を中心にその周囲に大きな気が立ち込めると、彼は先程呂布に弾かれ、地面に刺さった関羽の青龍偃月刀を抜き取る。

「関羽ちゃん、よく見ておくがよい。儂の死の舞を。そして我が死を乗り越えて力とせよ。そして少しでも多くの人に伝えて欲しい……俺の死に(いき)様を!!」

途中一人称も変わり、関羽は彼が何をする腹積もりか判らなかったが、とりあえずこれだけは予想出来た。

彼は死ぬ覚悟であること。

止めなければならないことも判っていた。

しかし一人の武人として、それでも彼の本気を見てみたいという気持ちもあったのである。

彼女が迷っている間に、隼人は二・三度素振りをして、頭上で獲物を振り回した後構えた。

「陶恭祖…参る」

次の瞬間、彼は大きく振りかぶって呂布に斬撃を与える。

あまりにも大振りであった為、呂布は懐に踏み込み一気に腹部を突いてやろうと考えたが、その考えは甘かった。

そんな考えを持ち出そうとした時には、既に陶謙は呂布の頭上目掛け獲物を振り下ろしていた。

あまりにも早い動作に呂布は咄嗟に判断し、自身の獲物を頭上で構えてその攻撃を防ぐ。

「ほう良く防いだな。だがこれはどうだ?」

彼はそう言いながら次々と斬撃、突き、打撃などを繰り出す。

「………重い」

苦悶の表情を浮かべ、そう呂布は口から漏らした。

やっとの思いでその斬撃を受け止めているようであった。

苦戦している呂布を見て、後方の陳宮が叫んだ。

「思い出したのです!!恋殿、その者は陶謙、またの名を閃剛将軍。閃光の様に速く、豪傑の一撃の様に重い攻撃が噂となって、その名が付いたのです。今その者の相手をするのは得策ではありませぬ。恋殿、撤退を!!」

呂布は隼人の攻撃を利用して大きく後ろへ下がると、その更にバックステップで後方へと下がる。

「……ん。恋も今思ってた……このまま戦っても、今の恋なら恐らく……勝てない」

彼女は陳宮の乗ってきた馬の後ろに素早く飛び乗り、そのまま何処かへと撤退していった。

隼人は偃月刀を豪快に振り回し、最後には鍔の先を地面に刺して仁王立ちになり叫んだ。

「逃げたいものは逃げるがいい!!我こそはと思うものはかかってこい!!陶恭祖、1,000でも10,000でも地獄に送ってくれよう!!」

既に撤退を始めている軍に対して、追い討ちをかけるようなこの一喝。

張遼の捕縛、呂布の撤退により戦意が喪失した董卓軍は、烈火の如く虎牢関に撤退していったが、その虎牢関も連合の手によって落とされ、軍は散り散りにされていた。

関羽は先程受けた打撃の痛みが残る右腕を抱えながら陶謙に近付いて行く。

だが次の瞬間、陶謙は膝から落ちていくように崩れていき、関羽は腕の痛みも忘れ、慌てて彼の体を前から受け止め、仰向けにさせる。

その支えている背中からは大量の血が流れ続けていたままであるので、その流れた血で濡れた自分の手を見た瞬間、すぐにでも軍医に連れて行かねばという気持ちに駆り立てられつが、隼人は関羽の手を握り待つように自制を促した。

「関羽ちゃん、俺は、もうダメだ。いくらなんでも血を流しすぎたし、それに元より、治る傷でも無かった」

「そんな……何故です?陶謙様、何故私の様な一介の将なんかの為に――」

涙を流しながら訪ねてくる関羽に対して、隼人は優しく微笑みながら、血塗られた手で彼女の頭を撫でた。

「………劉備ちゃんに連れられ、初めて君を見たあの日、私は君の目に惚れてしまった。……かと言って、男女の様な意味ではなく、君が武人として私をしっかりと見るその目、それが私を狂わせたらしい。そして予感させるのだよ。いずれ君は多くの人々を救うが、その逆により多くの命も奪うことになる。果たしてその重圧に耐えれるかどうか。なればこそ、この俺の死をもって知ってもらおうと思った。人の死とは、生きることの素晴らしさとは、双肩に背負う責の重さとは――」

「そ、それなら……それなら、これからもっと教えてくださいよ!!生きて、もっと生きて私に教えてください!!」

「残念ながら………それは出来ない」

「ダメです、生きることを諦めたr「そうではない!!」」

もはや声も絶え絶えの中、隼人は関羽の耳の芯にまで響く大きな声を軽く血反吐吐きながら答え、その血も若干ではあるが彼女の顔にかかってしまう。

「……俺はな、癌なんだよ、関羽ちゃん。良くもって半年だと。この事実を知っているのは、重ちゃんだけだ」

その時、彼女の頭に大きな鈍器な様なもので殴らたぐらいの衝撃が頭の中に走った。

もはや陶謙は助からない事実。

自分達にその様な重大なことをふせていたにも関わらず、自分達を援護してくれたこと。

彼の異変に、少しでも気付いてあげられなかったことなど、彼女の脳裏に様々なことが駆け巡る。

すると何か陶謙が関羽に話しかけてきた。

「いいか関羽ちゃん、劉玄徳はまだまだ甘い。この先彼女についていけば、彼女を尊重しがちな君のことだ。いつかは君にも破滅が及ぶ。なればこそ、君が彼女を自制させなければならない。ただ厳しくするだけが自制ではない。臣下は主君の命令を聞くだけにあらず。時に主君に逆らってでも『貴方は間違っている』と言う勇気が必要だ。そして時にはあらゆる方向からその考えを見ることも……な……」

そして隼人の瞼はどんどんと力を失い、閉じようとしている。

「陶謙様、寝ちゃダメです。陶謙様!!」

先程まで関羽の頭を撫でていた隼人の右手は彼女の顔を撫でる。

「ふふふ、もはや何も見えなくなってきたわ。これでは君の目を見ることも出来ない………関羽ちゃん、最後に二つの願いを聞いてくれないか?」

「な、なんですか!?なんでも仰ってください!!」

「………真名」

「え?」

「君の真名を……呼ばせてくれ、そして、俺のことも真名で呼んで欲しい」

小さく2秒間を置き、彼女は直ぐに返答した。

「は、はい。私の真名は愛紗です。どうか受け取ってください、隼人様」

それを聞き、隼人は微笑み小さく「ありがとう」と言った。

「……後一つの願いだが………強く、抱いてくれ……ここは、寒、い。重、ちゃ、ん……死ぬの、恐い………寒い、暗い、冷たい。しげ、ちゃ…の…お、ちゃ、のみ…のみ、t――」

途切れ途切れで震えながらそう呟く彼を、大粒の涙を流しながら、関羽は隼人の名を叫んで抱きしめ、その抱きしめられた体を隼人は弱々しい力で抱き返した。

「………あたた、か、い。気持ちが…いい……。ありがとう。………愛紗、ちゃ、ん」

強く隼人を抱きしめていた関羽であったが、いつの間にか隼人が自分の体を抱く力が弱くなっているのに気づき、少し力を緩めて彼の名前を叫びながら体を揺する。

だがいくら同じ動作をしても何の反応もない彼を見て、彼が絶命したことを認識出来た時、言葉に言い表すことの出来ない哀しみが弾け飛び、彼女は天に向かって泣き続けたが、絶命した隼人の顔は、何とも晴れやかな笑みのままであり、本当に死んでいるのかと思わせる程であったかという。

 

――

そんなことを考えている際、関羽はつい涙を堪えられなくなり手で抑えながらもすすり泣く形になり、それを劉備は心配そうにするが今、それに触れられたくない関羽はつい劉備の厚意を断り「一人にしてくれ」と懇願した。

今、どうすることも出来ない劉備は、陶謙の墓を後にするが、劉備が去って以降、重昌はおもむろに関羽に近づき、「使え」と言いハンカチを渡して彼も墓を後にした。

厳密には渡したというより、握らせたという方が正しい。

影村のことを嫌う関羽が、彼の厚意に甘えるはずもない。

だから彼は無理矢理にでも彼女にハンカチを渡したのだ。

その後、ひとしきり泣き終えた彼女が若干目の下を赤くしながら向かった先は、西涼軍の重昌の天幕。

いくら自分が嫌っている相手とは言え、厚意を与えられれば返さないのは無礼にあたる。

持ち合わせもないので、気は乗らないがせめて礼はと思いながらここに来たのだ。

しかしいくら夜で警戒が薄いからと言って、大将がいる天幕までの道のりに兵が一人もいないのはおかしいと思ったが、そこは悔しいほど知恵が働く彼のことだ。

きっと、この状態の自分を兵に見せまいと思い、事前に兵を割いてくれたのだろう。

途中、偶然あった兵でさえも、事情を軽く話せば通してくれたぐらいだ。

一つ大きめの天幕に着くと、彼女は「失礼する」と言いながら入っていき、彼は扇子を取り出て何かを舞っており、邪魔をするわけにもいかないので、暫く見物しながら待つことにした。

舞はとても幻想的で美しく、無骨者な自分ですら惚れ惚れとするものであった。

こんな舞を舞う者が、あの燃え落ちていく洛陽で見た、鬼の様な人物とは思いもしなかった。

あれは連合陽動作戦のときのこと――

洛陽の街は燃え、宮中近くに位置する董卓邸でのことだ。

劉備と関羽は消火活動とは別に行動を始めていた影村達を発見し、こっそりと後をつけると、虫も殺せない程可憐な少女がおり、その者の正体が董卓であり、彼女の軍師である賈駆の口から明かされる真実、今回の乱の首謀者が皇帝である劉弁の仕業ということだ。

その事実を知り、劉備は影村に「真実を見れていない」と言われたことを思い出し、いかに自分が今回軽率な行動をしたかと後悔していた。

一方重昌側では、董卓は何か覚悟をしたような思いを込めて、それを重昌に伝えようとしていた。

「………先生、私は、今回の戦いを止めれなかった罪を、この命で償おうと思います」

「ちょ、ちょっと待ってよ、月。今回のことは月のせいじゃないわ!!月が死ぬ理由なんて!!」

責任を感じ、その命を投げ出そうとしている親友を、賈駆は必死に止めようとする。

ちなみに董卓が重昌のことを先生と呼ぶのは、賈駆が普段から重昌のことを話しているからだ。

「いいの、詠ちゃん。今回、この騒動を止められなかったのは、私に力がなかったから。私自身がもっと強かったら、劉弁様もあんな風には――」

「やめて!!」と連呼しながらすがりつく親友の言葉を押しのけて、彼女は重昌に近づき、膝を落として目をつぶった。

その覚悟を悟ったかの様に、重昌は腰の毘沙門剣を抜き取って、愛紗に「水」と言い、彼女はその剣に水をかける。

剣の刀身の側面がキラリと光った時に、賈駆は董卓の前で表腕を広げて重昌に懇願した。

「やめて下さい、先生!!月だけは!!月だけは!!」

涙で顔を崩しながら懇願するかつての弟子に、重昌は一喝した。

「賈文和!!軍師とは、なんぞや!?」

鬼教諭の一喝で彼女は震えながらも、親友の一大事であるので、決して怯まず、彼女は重昌の目を見返す。

「策破られた時死すべし。主君、死覚悟決めた時共にすべし」

私塾にて彼に教えられたことを高らかによみあげた。

「自らの主君の覚悟を無駄にすることが、軍師の役目であるか!?」

「確かに月は僕の主君です。だけど………かけがえのない、僕の親友であり、家族です」

先程まで涙で崩れていた顔も、彼女は泣くことを止め、彼を見つめた。

そこにいたのは、董卓軍参謀・賈駆文和では無く、ただ、一人の親友を守ろうとする少女がいた。

その顔をしっかり見つめた上で、重昌は愛紗に賈駆を拘束しておくように命じ、彼女は愛紗によって拘束され身動きが取れなくなる。

「……皇甫、君は止めてくれるなよ」

次は問を皇甫嵩に投げられるが、彼女はそっぽを向いて「止められるわけないよ」と言った。

やがて重昌の右腕は高らかに挙げられていき、その時間は一分であったか十分であったか、無限に続く空間の様に思えるほどで、燃え盛る炎の音も、賈駆の静止を求める懇願の叫びもただただ虚しく流れるだけであった。

そして彼の剣が振り下ろされた瞬間、董卓の血が勢い良く部屋に飛び散った。

だが首を落としたにしては明らかに血の量と勢いが足りていないことに気づいた者が彼女を見ると、彼女の頭と胴体はしっかりと繋がっていたが、代わり彼女の片目が、眉から頬にかけて大きな傷跡を残していた。

重昌は着物の裾を破き、その布を彼女の傷口に押しやった。

「望み通り君には罰を与えよう。君への罰は、生きて生きて生き抜くことだ。たとえこれから誰かを失い絶望しようとも。戦に敗れ、男に捕まり強姦され女の尊厳を失おうとも。君にはその命尽きるまで生きてもらい、私の下で君が犯したと思った罪の分だけ贖罪してもらおう」

彼は董卓にそうして忠誠を誓わせようとするが、それに対し皇甫が絡んできた。

「まて影村。月の命が助かることは、友人として好ましく思う。だが彼女を生かすことにより、お前には何の利益がある?これが連合にバレでもすれば、反逆者を匿った罪で反西涼連合も出来る可能性もあるのだぞ?」

その通りだ。

董卓の指導者としての能力は、荒れ果てた洛陽をかつての活気を取り戻させる如くの活躍を見せたため、統治者としては他を比べても群を抜いていることであろう。

しかし現段階で彼女を匿うことは明らかに得策ではないのだが、彼は既に拘束は解かれ、董卓に寄り添っている賈駆に訪ねた。

「詠、君にとって、董卓とは?」

彼女は答えた。

「戦の時は、僕が守ってあげなければならない妹の様な存在で、普段は日常で抜けている僕を支えてくれる姉のような存在」っと。

そしてまた重昌は答えた。

「生徒は全て私の子の様な存在。その娘の姉妹であれば、その者も私の娘。子を守らない親が何処にいる?」っと、何ともの彼らしい屁理屈であるが、皇甫嵩もその様な屁理屈は嫌いではなかった。

話が一段落着いた頃、隠れていた劉備達は、何かの弾みで立てた音で見つかり椿(愛紗)に捉えられた。

「誰かがいると思ったら、やはり貴様か、小娘。はっきり言っておくぞ。今ここで起きたことを誰かの公言でもしてみろ。反西涼連合が結成される前に貴様ら全員を捉えて、また貴様が統治する国の民も皆含め、地獄の様な苦しみの中で殺してやる。私は、家族を守るためならばなんでもする。それだけは覚えておけ」

劉備が見上げる重昌の顔は黒い影を帯びており、関羽にも地獄の閻魔を見た気分になったのだった。

 

――

そんなこともあり、今関羽の中の重昌に対する像が揺らいでいた。

未だに嫌悪する対象であることに変わりはないのだが、長安で見せた死の舞にしろ、今目の前で行われている舞にしろ、美しさの中にどことなく哀しさが込められているようである。

やがて舞が終わると、彼はよく来たと言って茶の用意を始めようとする。

特に長居をしたくない関羽はその茶を断りかけたが、わざわざ用意したものを断るは礼に反する為、一杯だけ馳走になることにした。

季節は秋であるので、少し肌寒い。

入れられた熱いお茶を一口飲むと、秋の肌寒さも少し飛んでいく様であった。

やがて彼女は本題に入り、彼に預かったハンカチを取り出し、礼を言って返した。

「関羽殿、教えてくれないか?隼人の散りざまを……」

先程まで隼人の墓前で泣き尽くしたので、もう涙は出ないはずであった。

彼女は彼の戦いから、最後までを淡々と語り聞かせた。

「……そうか、それ程私の茶が良かったか」

そう言うと、彼は天幕の奥に行き、一つの箱を持ってこちらに来た。

中から出てきたのは、黒い泥の塊のような器であったが、それはどことなく美しさも兼ね備えていた。

「これは私があいつに贈るはずだった湯呑だ。洛陽についた際は、これであいつをもてなそうとしていた」

その湯呑を見ながら、彼は何かを思い起こす様に微笑み、関羽に向き直って言った。

「関羽殿、あいつの代わりに、この湯呑を貰ってはくれまいか?」

突然の申し出に少し驚いた。

自分はこの影村という者に嫌われているはず。

それに自分がいなければ、彼の友である人物が早死することも無かった。

その相手に隼人に贈るはずであった大事な物を渡すと言うのだ。

勿論その申し出に対する疑問も述べた。

「……確かに、私は、君たちが嫌いだ。だがそれは私個人の感想。あいつが信じた君のことだ。ならば、その人物に渡すのも道理。受け取ってくれ。ただし、この湯呑は滅多なことでは割れはしないが、落とした衝撃には脆いほど弱い。丁重に扱ってくれ」

手渡された湯呑は、どことなく手にしっくり来る感じであり、骨董には興味が無いが、それでもそれらの中に入れても業物であることは判った。

彼女は元に入っていた箱を貰い受け、丁寧に包装し西涼陣営を後にした。

帰り道、彼女は思った。

隼人が「重昌を見て学べ」と言っていたことを。

【………判りました隼人様。自分として気は進みませんが、あの者をしかと見定めとします。それが隼人様の願いとあらば】

 


 
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