No.670232

キミ行(ゆ)き世界の箱庭(佐幸)1

◆当作品はコピーで発行済みですが、【9/21の戦煌!5 ス34b】にて前後の時期入れて出します。その場合「コピー本持参の方に限り、250円引き」で頒布◆
戦国バサラの学バサ設定の転生パロもの。一見、佐政や家幸ですが、立派な佐幸。そして家→三。
もしかして関幸もありかもしれない。

2014-03-12 23:11:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:944   閲覧ユーザー数:944

関ヶ原で真田の旦那と別れてから、大体400年。

 生まれ変わりなんてもんが猿飛佐助と名を馳せた、元忍びの俺様にあるのも驚きだったけど、真田の旦那と再会出来るのもまさかだよね。

 一年違いだけど同じ高校と知った時は、奇跡なんて本当にあるんだなと、胸にこみ上げたもんだよ。

 ただこの国の、八百万の神様たちは、ちょっとだけ意地悪だった。

 昼休みの屋上で、俺様と、俺様の同級生である元・奥州筆頭サンの二人で真田の旦那を待つのは日課となった、ある日。

 雲一つない青空に、今更なことを愚痴りたくなった。ちなみに隣にいる伊達政宗ー今生でも隻眼ーは三段重箱、俺様は二段重箱で、自分と真田の旦那の分の昼食を用意している。

 きっと数分もすれば、元気な足音を立てて来てくれる。だからこの寂しさは、今だけ。

「どうして真田の旦那だけ記憶ないんだろ。独眼竜はどこまでも独眼竜だってのに。ていうか片倉の旦那まで片倉小十郎なのってどうなの、今生でぐらい立場逆転してたらどうなのさ」

「うるせえぞ猿」

「別にあんたに言ってない。勝手に聞かないでくれる?」

 飲み込んだ俺様の溜め息が、あろうことか独眼竜の口から出た。

「ったく、ウダウダしつけえぞ。まさかてめえがそこまで女々しいとはな」

 語尾は鼻で笑いやがった。やだやだ、殺意が重すぎて、無意識にありもしない懐に手を入れてしまいそうになる。今度、先を尖らせたさい箸の一本ぐらい忍ばせておくか。

 旦那、まだかなあ。天を仰げど屋内へ戻る扉を眺めても気配一つ無い。

 別に、本当に旦那の記憶がなくたって俺様は構わない。当然でしょ、会えたんだよ、それ以上の何を求めるってえの。

 命を削りあう必要もない、明日どころか今日を生き延びるか保証もない世界じゃない。テストと進路に追われる、学生という箱庭世界。

 まあ、旦那と学年が違うのは残念だし、独眼竜と俺様が同い年っていうのが果てしなく不本意だけど。

 だからこそ、ちょっと言いたくなったのかもしれない。

「俺様を女々しいって言うけど、伊達サンとこも、罪深いよねえ」

 たっぷり嫌みたらしく言ってやった。羨ましさ八割、呆れ二割な感じで。

 だってさ、どう考えたって正しいのは真田の旦那なんだよ。記憶がなくて当たり前。過去をリセット出来るからこそ、生まれ変わるんだと思う。

 真田幸村がどんな最期だったとしても、きっと旦那は後悔していない。俺様がどれだけ理不尽だと叫んだ最期でも、それは真田幸村にとっての理不尽じゃなかったんだ。

 だから、本当は記憶がなくて、ほんのちょっとだけ安心した。

 今の旦那の中に人殺しの草はなく、血生臭い栄養も無いから根も生えようがない。

「過去の記憶が無いからこそ、旦那は先入観の無い出会いをしてくれる、傍にだっていられる」

 隣の独眼竜が、間髪入れず「ha.おい忍び」と、かつて聞いたままの憎たらしい返しをしてきた。横目で睨むと、独眼竜は本気で怒っていたから、思わず隻眼を凝視してしまった。

「先入観云々は幸村じゃなく、てめえの方だろが。あいつにてめえの自虐を押しつけてんじゃねえよ」

 伊達政宗が仰ぐ天は、俺様が見たのと変わらない青色。かつてこの男が背負った、狭い世界の広い国色。けれど、この世の空に重さなんて欠片もない。

 苛烈な怒りがそんな空に霧散したかのように、次に俺様を見る独眼竜の隻眼は、明らかに勝ち誇っていた。

「おっと、自虐じゃなくnarcissistか」

「はあ?」

「忍びが自己陶酔とは、ほとほとあいつも変わった奴を従えてたもんだ。まったく400年経っても同情するぜ」

 言うにことかいて、笑いながらなんてことをっ

「そんなんであいつが来た時、てめえがどんなツラ晒すのか楽しみだぜ」

「何それ」

 どうにも独眼竜の言い方が気になったけど、それを上回るのがナルシスト発言。何で俺様がナルシストなんだよっ自己陶酔てなによ、俺様とかすがを一緒にしないでっ

 今からでも遅くない、手持ちのお箸で両耳ぐらい刺せる。俺様の本気の殺意に水をさしたのは、ほかでもない真田の旦那だった。

 予想通りの激しい足音を立て、壊れんばかりに勢いよく扉を開けてやってきた。けれど、少しばかり予想とは違う形相。いつもなら太陽をも影らすほどの明るくて元気な様子なのに、今は、そんな太陽を焦がす怒りがにじみ出ていた。

「さぁあすけえええっ!」

「はいっ……いっ?」

 かつて呼ばれたままの呼び方と肺活量に、驚きながらも条件反射で、立ち上がって返事をしてしまった。今生で出会ってからは、一度とてそんな風に叫ばれたことはない。

 懐かしい呼ばれ方にも驚いたけど、明らかにつり上がった旦那の目尻には泣いた跡があった。目も鼻もうっすら赤い。

 どうして?いつどこで泣いた?誰が泣かせたの?

 一方、独眼竜は予期していた事象のごとく、座ったまま耳を手で覆い、真田の旦那の叫びを回避していた。そしてエコーで旦那の声が空に消えていくのを確認してから、ゆっくりと手を外す。

「よう、遅かったな。その様子だと、あいつと会えたのか?」

「あいつ?」

 眉を顰めて独眼竜を見下ろす俺様の傍に、旦那は、あっという間に近づいてきた。珍しく対処に遅れている俺様の胸ぐらを掴んだ手は力強く、怒りのオーラを全身に滲ませている。

 どうして泣いたのか、その怒りの意味も分からない。けど、これだけは分かる。

 真田幸村は、猿飛佐助に怒っている。

 ならひとまず殴られたとしても、それを受け入れてから理由を聞くかと、覚悟を決めた俺様を睨み上げながら、旦那は一心に叫んだ。 

「俺を殴れ佐助っ」

「・・・・・・はい?」

 殴りづらい体勢のまま目を丸くする。その目が呆然とした物に変わるのは、5秒後。

 開けっ放しになっていた扉の奥から、400年遡る関ヶ原の地で、東軍の総大将を背負った男が現れた。

 記憶よりも幾分小柄な奴は、東照権現と、誰とはなしに呼ばれていた。

 間違えるはずがない。とっくに力は失ったとはいえ、俺様の魂に闇が落ちる感覚を忘れることなんて出来ない。

「徳川・・・・・・家康・・・・・・っ」

 何せあれは、かつての地で、真田の旦那を討ち倒した男。


 
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