No.669272

ALO~妖精郷の黄昏~ 第12話 ムスペルヘイム

本郷 刃さん

第12話です。
前回はキリトたちのニブルヘイム探索でしたが、今回はハクヤたちによるムスペルヘイム探索になります。

どうぞ・・・。

2014-03-09 12:29:45 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7902   閲覧ユーザー数:7353

 

 

 

 

第12話 ムスペルヘイム

 

 

 

 

 

 

 

ハクヤSide

 

「「「「「「「暑いっ!」」」」」」」

 

キリトたちと別れて階段を下り、最下の洞窟を潜り抜けた先で俺たちを待ち構えてたのは異常な熱気と硫黄のような匂いだった。

周囲はマグマや炎に包まれていて、余計に熱さを思わせてる。

ここに入る直前にティアさんに耐熱の魔法を掛けてもらったけど、それでも暑いぞ…。

 

「心頭滅却っていうけど、俺たち以外にこれはきついかもな」

「そうですね。僕たちは大丈夫ですが…」

「みんなのこと気に掛けておかないといけねぇな」

 

俺、ヴァル、シャインは割と余裕。SAOの時の砂漠や火山でそこそこ慣れたからかもしれない。

 

「あつい~…。水が欲しい~…」

「うぅ~、すごくあついです~…」

「これは、結構厳しいですね…」

「リズちゃんとシリカちゃんは特に大変そうね…」

 

リズ、シリカちゃん、ティアさん、カノンさんは辛そうだったりと大変そうな様子だ。

特にリズとシリカちゃんは大変かもな…ん、ピナはどうしたかって?

干からびてはいないが、シリカちゃんの頭の上で物言わない状態になってるよ。

 

「でもこの様子だと、念のために持ってきた素材としての水が役に立ちそうだな」

「お、そういや持って来てたっけな」

 

事前にキリトとティアさん、それにアスナやリーファちゃんからムスペルヘイムと呼ばれる世界が、

神話においてどんな世界なのかを聞いておいたから用意しておいたわけだ。

ヴァルも読書が趣味で神話系の本を読むことがあり、言っててくれたお陰でもあるか。

今回、俺たちの命運を握ってるのはティアさんとヴァルの知識ってところかもな。

 

「んじゃま、精神的な熱さにやられないように気を付けて進むか」

 

俺の言葉にヴァルとシャインがハッキリと答え、リズとシリカちゃんは元気無く答え、

ティアさんとカノンさんも苦笑しながら答えてくれた……前途多難っぽい…。

 

 

このクソ暑いムスペルヘイムにやってきて探索を始めて、少しが経った今…俺たちはモンスターと交戦中だ。

どんなモンスターかと言うと、溶岩とマグマの肉体を持ち、炎を纏う巨人の邪神型モンスターである。

多分だけどこれがキリトたちの言ってた炎の巨人族・ムスペルだろうな。

 

「ぜぁぁぁっ!」

「はぁぁぁっ!」

 

俺は愛用している鎌を使って連撃を叩き込み、ヴァルも愛用している槍で連突をかましている。

その時、巨人が両腕の拳を振り下ろしてきた……が、右の拳をシャインが盾でいなし、左の拳をリズがメイスで叩いてそらした。

 

「させねぇっての!」

「ハクヤたちはやらせない!」

 

おぉ、リズの言葉が嬉しいなぁ…っとと、集中集中っと…。

少しばかり気が抜けてしまったが即座に気を取り直して攻撃に戻る。

 

「てぇいっ!」

「やぁっ!」

 

2人が攻撃を逸らした隙を突いてシリカちゃんとカノンさんがそれぞれ短剣と細剣で攻撃を行う。

 

「くらいなさい!」

 

さらに、追撃としてティアさんが水系の魔法攻撃を行ったことで大きなダメージを与えた。

それにより怯んだことで大きな隙が生まれ、そこへ俺とヴァルとシャインが攻撃を行うことで、炎の邪神を倒すことができた。

 

「ふぃ~、ヨツンヘイムの邪神以下だったけど、やっぱそこいらのモンスターよりか強かったな」

「ステータスも高く、HPバーが2本ですからね」

「しかも属性は炎ときたもんだ」

 

武器を背中に収めながら言うと、ヴァルとシャインも感想を言ってきた。

確かにヨツンヘイムにいた霜の巨人族たちは氷の属性や属性のないモンスターだったからな。

トンキーを含めた丘の巨人族も属性無しだったし。

 

「戦闘中は気にならないけど、終わったらまた暑くなってきたわ…」

「仕方がないわよ。ここは我慢するしかないわ」

「ピナ、大丈夫?」

「きゅ~…」

「あらあら、大変みたいね」

 

リズが愚痴にも聞こえるようなことを言っているがそれをカノンさんが宥めてくれている。

また、シリカちゃんはダウンしているピナを気遣っており、ティアさんも心配そうだ。

う~む、これはキリトたちには悪いが早めに切り上げた方がいいかもしれないな……2時間は長いから、

1時間半くらいにしておくか…。

 

みんなにその旨を伝えてから、俺たちは探索を再開した。

 

 

 

 

しかし、探索を再開したものの新たな発見となるようなものは特になく、延々と溶岩地帯が続いている。

途中で炎の巨人族たちと戦闘になるが、それを退けても変化はあまりない。

ただ1つ、何度か火山を目撃して近づくとそれらがダンジョンであることが分かった。

主に世界各地にある有名な活火山や神話の残る山が名前として使われているらしい。

とはいえ、さすがに軽い探索目的でやってきただけなので入り口を通り、

ダンジョン名などを知り、MAPの位置を特定するだけの作業にした。

 

そしてムスペルヘイムの探索から1時間が経過した頃、俺たちは建物らしきものを見つけ、それに近づいた。

すると、それは間違いなく迷宮であり、外観は砦だ。

 

「ん~? ムスペルヘイムに妖精とは、また場違いな者たちじゃないのさ」

「っ、誰だ!」

 

いきなり女の声が響いてきて、聞こえてきた先の砦の上を見てみると、そこには1人の女が立っていた。

離れているから普通の人のように見えるけど、間違いなく常人よりも身長が高い。

 

「妾の名はシンモラ。炎の巨人が1人であるスルトが妻にして、この砦の主であるぞ」

 

この名乗りを考えるとイベントNPCみたいだな。

その時、後ろの方にいたはずのティアさんがシャインとともに俺のところに近づいてきた。

 

「ハクヤ君、彼女自身が名乗ったようにシンモラは炎の巨人スルトの妻です。

 同時に、彼女はおそらく伝説級武器(レジェンダリーウェポン)の1つである『炎剣レーヴァテイン』の所持者のはずです」

「マジですか? てことは、戦闘…それともイベント?」

 

どっちにしろ警戒しないとなぁ~…。

特に、キリトが言うには北欧神話に関係するNPC……その中でも言語モジュールが適用されてるAIは怪しいみたいだし…。

 

「この地は汝ら妖精が来るべき場ではない。早々に立ち去れぃ……立ち去らぬというならば…」

 

警告を行うシンモラ。最後の言葉を区切った瞬間、そいつは現れた。

霜の巨人族や炎の巨人族よりも一回りもデカい巨人。

明らかにボスであるその様にさすがの俺もビビるし、警戒を最大限に高める。

 

「妾と、このフョルスヴィーズルが相手をしようぞ…」

 

彼女はこの巨人のことをフョルスヴィーズルと言った。

HPバーは5本、あちらから攻めてくる様子はないけどさすがにこの本気を出しても勝てるような見込みはない。

なんせ、シンモラも参戦するというからな。

 

「これ以上踏み込むか、仇為すというのであれば……我らは容赦はせぬ。

 しかし、大人しく身を退くというのであれば、こちらも手は加えんよ。さぁ、どうする?」

 

そんなもん、元から決まってんだよ…。

 

「大人しく身を退かせてもらうよ。元々、ここらの探索に来ただけだからな…」

「賢明な判断であるな……では、こちらも退かせよう」

 

答えるとシンモラは満足そうな顔をし、フョルスヴィーズルはその姿を炎に変えてから消えた。

俺は振り返ってみんなの顔を見渡してから頷き合い、この場を離れる。

けれど、離れる間際にシンモラから声が掛かった。

 

「賢明な判断に称して、1つ忠告させてもらう……アースガルズの神々には、決して気を許すことなかれ…」

 

そう言い終わったところで振り返ってみたけど、既にシンモラの姿は砦の上から消えていた…。

 

 

砦から離れて近くにあった火山の迷宮入り口へと辿り着き、モンスターが現れないことを確信してから、

俺たちはようやく一息吐くことができた。

 

「もぅ~、心臓に悪いったらありゃしなかったわよ…」

「あたし、戦ってないのに死ぬかと思いました…」

「ま、生き残れたのだから良しとしましょ」

「そうですね。あ、お水どうぞ」

 

力が抜けたように地面に腰を下ろしながら言ったリズとシリカちゃんに対し、

カノンさんは苦笑しながら答えて、ティアさんが3人に水を配ってる。ま、力が抜けるのは分かるよ。

 

「いや~はっはっはっ、マジでハラハラしたぜ」

「まぁハクヤさんですから、撤退を選ぶのは分かってましたけどね」

「俺じゃなくてもそうするだろ……てか、さすがにボス2体とか無理」

 

シャインが陽気に笑い、ヴァルは笑顔で冷静に分析、俺は俺で実は肝が冷えていたり……いや、

敵が1体ならまだしも2体は、ねぇ?

キリトやアスナみたいに指揮能力が高いわけでもないし、暑さの影響でみんなの士気もちょっと低かったし、

今回は色々と欠点も多くて戦闘にも影響がでそうだった。

なにより、今回の目的はあくまでも軽い探索だったし、欲を出し過ぎれば身の破滅ってな。

 

「さて、適度に休憩を取ってから探索を再開。そのあと『回廊結晶(コリドークリスタル)』で撤退、OK?」

 

俺の提案にみんなが賛成し、休憩をしたあとで再び探索を行い、適度にMAPデータを集めた。

それからしばらくして、ムスペルヘイム探索開始から1時間半が過ぎ、

俺たちは一足早く回廊結晶を使ってイグシティに転移した。

 

無事、イグシティに帰還し、マスターの経営する喫茶店に向かい、俺たちはキリトたちの帰還を待った。

俺たちがイグシティに帰ってきてから20分後、マスターの店のドアが開き、キリトたちが帰ってきた。

 

ハクヤSide Out

 

 

 

 

キリトSide

 

回廊結晶を使いニブルヘイムからイグシティに帰還した俺たちはマスターの喫茶店に到着した。

ドアを開けて中に入ると、そこには既に帰還していたハクヤたちBチームが揃っていた。

 

「おかえり~。それとおつかれさん」

「ただいま。そっちこそ、おつかれさん」

 

ハクヤが労いの言葉を掛けてくれたのでこちらもそれに応え、空いている席にアスナと並んで座り、

その前にあるテーブルにユイも腰を下ろした。みんなも各々席に着いていく。

 

「キリト君たちもお疲れ様でした。こちらはサービスです」

「ありがとうございます、マスター」

 

久しぶりに会ったマスターからのサービスをありがたく受け取り、差し出された飲料を口にする。

これだけでいままで張りつめていた気が一気に抜けた感じがしたよ。

 

「んで、どうだったよ? ニブルヘイムは」

「とにかく寒かった、これに限るな…。それに怪しいNPCにも会ったよ、鉄の森の魔女に」

「そりゃまた、如何にも怪しい感じで…」

「そういうムスペルヘイムはどうだったんだ?」

 

こちらの経過を簡単に話し、今度はハクヤから聞いてみることにする。

 

「こっちは逆で、クソ暑かったよ…。そんで、こっちも怪しいNPCっていうか、ボス級と遭遇した」

「なに…?」

「シンモラっていう女と、フョルスヴィーズルっていう炎の巨人の2体。

 戦闘にはなってないけど、ソイツらが居た砦に近づけば戦闘になるかもしれねぇ」

 

そこから詳しく聴いてみると、どうやら退くように警告を受けたらしい。

それは俺たちも同じで警告を受けて退散したことを伝えると驚いた様子を見せている。

 

「どうにもイベントっぽい感じだな」

「難易度は高いだろうけどな~」

 

互いに笑みを浮かべて話す俺たち。

けれども、まずは双方無事に済んだことを祝ってグラスをぶつけ、飲料を飲み干した。

 

「あ、キリトくんとハクヤ君だけ乾杯してる!」

「あたし達も混ぜなさい!」

 

そこにアスナとリズが食いついてきたので飲み物を頼み直してから今度は全員で乾杯した。

そのあとはみんなでニブルヘイムやムスペルヘイムの情報を話し合ったり、

今後の出方を検討しあったりし、各自解散することになった。

 

 

 

 

新生アインクラッド第22層の自宅、そのリビングのソファーにアスナとユイの3人で座り、寛いでいる。

 

「ふぅ~。やっぱりアスナが淹れてくれる紅茶は美味しいな…」

「そうですね♪」

「ふふ、ありがとう」

 

彼女が淹れる絶品な紅茶を飲むとやはり落ち着く。

ユイも美味しそうに飲み、アスナは俺たちの感想に喜んでくれている。

家族3人で過ごす団欒の時、1時間前のニブルヘイムでの時間が嘘のように穏やかでいられる。

 

「今日は大変だったけど、それ以上に楽しかったね」

「そうだな。やっぱり未知のエリアや迷宮っていうのは魅力的だからな」

 

楽しそうな表情をするアスナに俺も同意する。確かに楽しかったな。

 

「でも寒いのはいやです~!」

「ははっ、ユイはずっとアスナのポケットの中に避難していたからな」

「ぐっすり眠っていたものね」

「うぅ、寒いのがいけないんですぅ…」

 

ユイは寒いのが苦手なようで苦言を上げている。

俺もアスナもそんな愛娘の愛らしい表情や仕草に微笑が浮かぶ。

俺たち『神霆流』のメンバーは寒さや暑さに耐性があるが、

魔法を使って耐性を上げてもアスナやユイには厳しいものだろう。

 

「次はムスペルヘイムにでも行ってみるか」

「暑いのならまだ我慢できると思います!」

「じゃあ次は頑張ろうね」

 

意気込むユイの姿に俺もアスナも今度は和む。娘の成長が嬉しくて仕方がないのは俺だけではないはずだ。

 

「ですが、ハクヤさんの言っていたシンモラやフョルスヴィーズルのことも気になります」

「うん。それにニブルヘイムの方に居たイアールンヴィジュルのことも気になるよね…」

「シンモラは伝説級武器の『炎剣レーヴァテイン』の保有者の可能性があるし、

 フョルスヴィールズは炎の巨人族の中でも固有名のあるボス級、

 イアールンヴィジュルの居たあの『ヤルンヴィド』の奥にも何かありそうだったからな…」

 

普通のプレイヤーなら気にならないのだろうが、

俺たちはこのALOの根幹を知る者であるためどうしても気になってしまうのだ。

まぁ性分といえば性分なのかもしれないが、出来る限りは厄介事を押し留めたいとは思う。

特に1年前の夏のリヴァイアサンやクラーケン、昨年の年末のキャリバー入手の際のノルン三姉妹やトールにスリュム、

さらに新エリア解放におけるアースガルズでのオーディンやヘイムダル、

そして今回の両NPCの存在などはまったくもって無視することは出来ない。

 

「ま、どうせいま考えても仕方がない…これからみんなで考えていけばいいさ。いまはこの時間をゆっくり堪能しよう」

「そうだね。もうわたしたちだけじゃない…みんなで一緒に考えて、一緒に立ち向かっていけばいいもの。

 それじゃあ、ぎゅっ~♪」

「わたしもするです~♪」

「ちょっ、まっ、はははっ!」

 

楽しそう笑顔を浮かべて抱きついてきたアスナとユイ。俺も思わず笑い出し、2人を抱き締め、温もりを感じる。

 

今日のニブルヘイム探索は疲れたし、ムスペルヘイム組も大変だったと思う。

それでも、これも冒険の楽しみであるのだから、やめられない。

 

キリトSide Out

 

 

 

 

No Side

 

――ALO ニブルヘイム・ヤルンヴィド最奥

 

「俺の子らの血が流れ、肉が落ちたか……くくっ、次は俺の元に来てほしいものだな…」

 

キリトたちが去った後、その最奥部の巨大な広間に一際巨大な肉体を持つ獣がそう言葉にした。

 

灰色の剛毛を纏い、口の間からは巨大な牙がむき出しになっており、

尾は霜の巨人族ほどもあり、瞳は強力かつ凶悪な眼光を秘めている。

獣の傍には巨体を持つ女性が1人、幾人もの魔女たち、獣に次ぐ巨体をほこる2頭の獣、その2頭に次ぐ大きさの獣たち。

 

「黄昏までの合間の暇つぶしになれば、なお良いがな。妖精共よ、精々楽しませてくれよ…」

 

冷笑を浮かべる獣、彼の名は…、

 

「この、フェンリルを…!」

 

悪神ロキの長子、悪評高き狼、フェンリルである。

 

No Side Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

ムスペルヘイムの探索も少しばかりフラグを立たせて終了となりました。

 

後半のキリアスユイのほのぼのは書いている途中で自分が成分を欲しくなったから書きました、反省はしていない!

 

それでもって最後の最後でフェンリルさんの登場・・・後々ですが対面することになりますのでお楽しみにw

 

次回は『第4回バレット・オブ・バレッツ』の決勝の様子を投稿します。

 

原作ではサトライザーが参戦して彼が優勝することになりましたが、本作では・・・。

 

それではまた次回にて・・・。

 

 

 

 


 
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