参之三 『 狐、動揺する 』
「さてと、言った手前。ちゃんとやんないとなぁ」
目の前に広がる賊。その数約一万。普通一人で相手しようなんて酔狂な人はいないだろう。本当の事を言えば、別に仙人である事を無理して信じてもらう必要はない。信じたい人は信じればいいし信じてもらえなくっても構わない。でも、今回はなんと言うか、雪蓮が嘘つき呼ばわりされてる気がしてすこし意地になってしまった。
「それより重い。(何がとは言わないが)早く終わらせて元に戻ろっと」
今の狐燐は転身した状態。単なる雪蓮の茶目っ気で今からこの賊を退治するまで女の子のままである。流石に肩が凝るから戻りたいけど。
「それじゃ狐鈴。よろしくね」
「ん?なんか字が違わない?」
「だって、どっちも狐燐だとこんがらがるしいいでしょ?」
「う~ん。雪蓮に任せるよ。じゃ、とりあえず行ってきます」
「ええ。私達はここから見てるから。どうしても無理そうなら直ぐに駆けつけるわ」
「分かった。じゃ!」
そう言って狐燐、改め狐鈴は賊に向かって飛んでいった。
「…空を飛ぶなんて、非常識ですね」
「まぁね。でも、その内蓮華も慣れるわ」
「なんか嫌です」
その一方では…
「明命。お主途中から狐鈴を睨んでおったがどうかしたのか?」
「い、いえっ。別に何も(胸が気になってしまったなんて口が裂けても言えません!)」
「そうか、てっきり男相手に女性らしさで負けて睨んでおると思ったのにのう」
「うぅ…(ばれてました)」
陣営では平和な談笑が続いていた。
「皆暢気だなぁ。まぁ働くのは僕だけだから仕方無いか」
そう言って高度を落して賊の前に降り立つ。突然空から人が降りてきた事に賊は動揺しているようだがこっちには関係無い。
「流石に一万は数が多いなぁ。獏耶の宝剣じゃ時間掛かるし紫綬羽衣と火竜鏢じゃ囲みきれないだろうし、やっぱりこれかな?」
そう言って取り出したのは申公豹に渡された宝貝、偽・禁鞭である。(参之一参照)
本来の十分の一の性能しかないが元がスーパー宝貝の禁鞭なら十分の一でも問題はない。だが、一応念のために左目の眼帯を外す。途端に耳と尻尾が飛び出す。半妖化の一歩手前、さしずめ獣人化とでも言う状態。
「ん~。ひッさびさに外したー」
突然の理解の範疇を超えた出来事が立て続けに起こり、賊は完全に放心状態になっている。
「じゃあ、行くよ!『禁鞭』!」
そして、偽・禁鞭を振るう。それだけの事なのに禁鞭は目にも留まらぬ速さで唸りを上げ賊を打ち据える。それも一人づつでは無くその辺一帯の地面ごと吹き飛ばす。
「ひぇぇ。化け物だー!」
「逃げろ、逃げろー!」
あまりの事に賊は戦う事もせずに逃げ始める。
「でも、無駄なんだよなぁ。十分の一でも1キロ先までは届くし」
因みに張奎さんの持つオリジナルは半径10キロで山でも壊せるらしい。ただし仙力の消費も半端ない上に扱いづらいらしいけど。まぁ、必要無いんだけどね。
そうこうする内に残りはおよそ五分の二まで減っていた。後すこし、そう思っていた。だが、
「早く!張角様の所に逃げるんだ!」
「えっ!?」
不意に狐鈴の手が止まる。
(今、なんと言った?誰の名前を叫んだ?)
手を止め、その名を叫んだ賊に近寄る。
「ひいぃぃ」
「お願いです。一つだけ答えて下さい。あなた達の親玉は誰ですか?」
「ちょ、張角様だ…」
「――もういいです、行ってください」
それだけ言うと呆けた賊を残して狐鈴は雪蓮達の待つ本陣へと戻って行った。
「おかえり。狐鈴」
本陣に戻った狐鈴を雪蓮が出迎える。
「うん…ただいま…」
「…どうかしたの?」
狐鈴の様子に気付き訪ねる。良く見れば何処と無く悲痛さを感じさせるその雰囲気に直感的に悟った。何か予想外の事が、それも少なからず狐鈴に関わることが、とそう感じる。
「何かあったのね?」
「うん。…ねえ雪蓮。もし友達が悪者になってたら、どうする?」
「えっ?」
突然の問いかけに意味が解らない。だが、彼(今は彼女だが)が真剣の答えを求めていることは理解できた。だからこそ雪蓮も真剣にその問いに答える。
「まずは話してみない事には何とも言えないわね。もしそれで本当に悪者になっているなら、救ってやりたいわ。例え最後に殺す事になっても…。それが救いになるなら私は躊躇わないわ」
「そっか…そうだよね。まずは話してみないと始まらないか。ありがと、雪蓮。とりあえず僕は先に帰るね。ちょっと準備したい事があるから」
「えっ、ちょっと狐鈴!?」
「あっ、それと雪蓮。今夜僕の部屋に来て。雪蓮にも手伝って貰いたいから。」
言うだけ言って狐鈴は江都に向かって飛んでいく。その姿は直ぐに見えなくなってしまった。
「雪蓮。狐鈴の奴、一体どうしたのだ?」
「さあ?ただ…」
「ただ?」
「仙人でも悩むことがあるのね」
「・・・はあ?」
「まあ、帰れば分かるわ。とりあえず引き上げましょう。蓮華達は今回は無駄骨だったけどね」
そう言って雪蓮は空を見上げ一つの確信を得る。狐燐が力を貸してくれるならきっと、失った物を取り戻せると。
あとがき
ツナ「久々に『虎と狐』を更新しましたよ」
狐燐「それはいいけどなんでこっちのあとがきでも僕が呼ばれるの?『Re:道』のオリキャラ呼ぶんじゃなかったの?」
ツナ「それなんですが今回は一つお知らせがあるので君なんですよ。まぁ、同じお知らせを『Re:道』でもしますけど。」
狐燐「ふーん。で?そのお知らせって?」
ツナ「実は、狐燐には今度、孫縁さんの所の麗異と絡んでもらうことになりました」
狐燐「・・・は!?」
ツナ「きっかけはコメントで絡ませたいとか言っちゃった事なんですが。同コメントで「どうぞ」と言われましたので正式に許可も頂いて、『虎と狐』の外伝として現在執筆してます」
狐燐「うそ…」
ツナ「マジです。なんか麗異君と狐燐は共通点が多いんですよ。演義の流れ組んでたり、親が狐だったりで、というわけで逝ってこい!」
狐燐「字がなんか違うー!」
ツナ「では、また次回!」
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狐がちょっとだけ本気出す。最後にお知らせあり
注:オリ主作品です。一部オマージュ