No.66730

白蓮のメルト

komanariさん

前作「思春の昔話 アフター・ストーリー」への多くのご支援・コメントありがとうございました。皆さまのおかげで、恐れ多くもランキングに入ることができました!
閲覧してくださった皆様。支援してくださった皆様。コメントしてくださった皆様。重ねて、御礼申し上げます。

さて、今回は蜀ということで白蓮の話です。

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2009-04-03 01:03:57 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8946   閲覧ユーザー数:7208

今日は近くの町まで視察だ。

視察と言っても、町の警備部隊への視察だが・・・

 

そんな予定で視察に行ったのだが、町についてみるとなぜか町が騒がしい。

 

「あ!将軍様!!ちょうど良いところに!!」

と、町の警備部隊らしき兵士に言われ、話を聞いてみると、何でも盗賊崩れが酒家で酒を飲み酔っ払った挙句に、酒を持って来いと騒いでいるとのことだった。しかも、手に剣を持ち、偶然酒家にやってきた近所の娘を人質にとっているらしい。

 

それしきのこと、町の警備部隊だけでなんとかしてほしいものなんだが・・・

 

でもまぁ、頼られている状況で、それを無下にすることもできないから、成都から連れてきた部下たちと連携して、その娘を助けた。

 

(全く、私ですら出来ることなんだから、警備隊だけでできないはずはないんだが・・・。愛紗に言ってこの町の警備部隊を鍛えてもらおうか・・・)

 

そんなことを思っていると、助けた娘の親族だという老人が、私に桃の花の形をした髪飾りを差し出してきた。

 

私は、当然のことをしたまでなんだから、そんなものを貰う理由はないと言ったんだが、何でも助けた娘はこの老人のたった一人の親族らしく、私がこの町に来ていなかったら、きっと娘はあの賊にひどいことをされていただろうから、その礼がしたいとのことだった。

 

確かに、私たちが来なかったら事態はもっと深刻なものになっていたかもしれないが、それでもその礼として髪飾りを貰うのでは、ちょっと高価すぎる。

 

そう言って断ろうとしたのだが、何でもその老人は髪飾りなどの装飾品を作っている職人らしく、この髪飾りは自分の小遣いの足しにと余った材料で作ったものだから、そんなに高価なものではないと言って、なかなかあきらめてくれなかった。

 

どうしようか困っていたのだが、結局老人に根負けして受け取ってしまった。

 

「どうせなら、お付けになってみてください。」

と言われて、その髪飾りをつけられてしまった。

 

「よくお似合いですよ。」

と言われたが、なぜか北郷の顔が目に浮かんできた。

 

(あいつ、なんていうかな・・・)

 

なぜかは分からないけど、そんなことを思っていた。

 

 

 

 

町での視察も終えて、成都に戻ると、ちょうど北郷が一人で町をぶらぶらしていた。

まったく、一国の主が護衛も付けずにふらふら出歩いているのはどうかと思うんだが・・・

そう思っていると、北郷が声をかけてきた。

 

「あ。白蓮!視察お疲れ様。・・・?その髪飾りどうしたの?」

 

そう言われて、初めて気付いた。

 

(あの町でつけられた髪飾り、外すの忘れてた!!)

 

「い、いやこれはっ!その・・・。そ、そう!視察に行った町でだな、いろいろあって・・・その・・・」

顔が赤くなっていくのが分かった。

 

今すぐに外そうと思ったその時だった。

 

「そうなんだ。その桃色の髪飾り、白蓮の服の色と合ってるね。」

北郷が突然そう言った。

 

「・・・え?」

 

北郷の言葉を聞いて、私の心の中に温かいものが広がった。

 

「そ、そうか?そ、その、変じゃ・・・ない、か?」

 

「うん。全然変じゃないよ。よく似合ってる。可愛いよ。」

そう北郷は、照れもせずに笑いながら言った。

 

(な、なんでそんなことを照れもせずに言えるんだよ!)

私はそう思った。

 

でも、うれしかった。

北郷にそう言ってもらえたことが、すごく、うれしかった。

 

そんな気持ちを悟られまいと、私は憎まれ口を叩いた。

 

「全く、誰にでもそんなこと言っているんだろ?」

 

「あはは。」

北郷は笑いながら頭をかいていた。

 

(否定はしないんだな・・・)

 

少し、気持ちが沈んでいた。

 

「と、とにかく。一人でこんな所をうろちょろしてちゃ危ないから、城まで一緒に帰るぞ!」

 

気持ちと一緒に、話を変えようと思った。

 

「うん。よろしく頼むよ。」

 

北郷はそう言って笑った。

 

 

 

 

 

「伯珪様。我々は先に戻りますので、お二人はごゆっくり・・・」

 

空気は読めているんだろうが、今は読まなくてもいいというのに私の部隊の副長がそう言って部下を連れて先に行ってしまった。

 

「お、おい!お前ら!」

そう言っているのが聞こえている筈なんだが、誰ひとりとして止ろうとはしなかった。

 

(あぁ、私はあいつらを率いているはずなのに・・・)

 

そんなことを思っていたが、北郷は

「・・・はは。それじゃあ、行こうか。」

と微笑んできた。

 

「~~!!!」

恥ずかしくて、言葉が出てこなかった。

 

北郷はというと、そんなことを気にする風でもなく、少し歩きはじめていた。

 

「ほら白蓮、早くしないと置いてくよ。」

 

「あ。ま、待て!」

落ち着かない気持ちを隠しながら、私は北郷の後を追った。

 

「それでさぁ。鈴々が星の楽しみにしてたメンマ食べちゃったらしくてさぁ・・・」

 

北郷はそう、楽しそうに喋っていた。

 

「そ、そうなのか・・・」

 

私は、隣を歩く北郷を見ながら生返事を返した。

 

(あぁ、なんか楽しそうにしている北郷も・・・)

 

そう思っていると、北郷が突然振り返った。

 

「・・・白蓮も、そう思わないか?」

 

さっきまで見つめていたことがバレていないかと、私はドキドキしていた。

 

「!!・・・あ、あぁ。そうだな。」

 

「やっぱり、そうだよなぁ。それでだな・・・」

北郷は私の答えに満足したのか、話を続けた。

 

(よかったぁ。バレてないみたいだな・・・)

そう思って胸を撫で下ろしていると、突然北郷に腕を掴まれた。

 

「え!?ちょ、ほ、北郷どうしたんだよ!?」

私は動揺していた。

 

「雨が降ってきたみたいだから、そこのお茶屋さんの軒先貸してもらおう。」

北郷はそう言って、店の主人と話を始めた。

 

「ごめんな、白蓮。俺につきあってもらったばっかりに・・・」

北郷はそう申し訳なさそうに言った。

 

「そ、そんなこと・・・気に・・・すんな。」

私は、何とかそう言った。

 

(私は何でこんなに緊張してるんだよ・・・!?)

 

自分の中で答えは出ていた。

 

 

でも・・・

 

 

(あいつは、桃香たちの思い人なんだ・・・私なんかが・・・)

 

そう思う私と、

 

(あいつは、私の思いにも応えてくれるかもしれない・・・)

 

そう思う私が、心の中でせめぎ合っていた。

 

(あぁ、どうすれば・・・)

 

そう思っていると、北郷が話しかけてきた。

 

「店の人が傘貸してくれたから帰れるぞ。」

 

そう言う北郷の手には傘が一本握られていた。

 

「お、おい!それしかないのか??」

 

(一本しかなかったら、そしたら・・・)

 

「すみませんねぇ。ずいぶん前にお客さんが置いてったものなんですが、これしかないもんで・・・」

店の主人がそう言って来た。

 

「大丈夫。結構丈夫そうな傘だから、まだ使えるよ。」

北郷も、そう言って北郷は傘を開いて見せた。

 

(そ、そう言うことじゃなくて・・・!!)

 

「もう暗くなってきたから、早く帰らないと愛紗に怒られちゃうし・・・。」

北郷はそう言って笑った。

 

「確かに、そうだけど・・・」

 

「それに、雨もしばらくやみそうにないしさ。」

北郷は、私と相合傘になることをそんなに気にしているようではなかった。

 

(なんで、お前はそんなに普通でいられるんだよ・・・!)

 

すこし、悔しかった。私がこんなに悩んでるのに・・・

 

「わ、わかったよ。しょ、しょうがないから・・・入って・・・やるよ。」

せめて、強気な言葉でと思ったのだけど、言ってて恥ずかしくなった。

 

「うん。行こ!」

北郷はそう言って笑った。

 

(・・・・あ。)

 

一瞬。その笑顔に見とれてしまっていた。

 

「さ、白蓮。早くっ。」

 

「お、おう。」

 

私は意を決して傘に入った。

 

「・・・それにしても、なかなかいい雨だなぁ。朱里に聞いたけど、この時期の雨って農作物には大事らしくてさ・・・」

 

北郷がそんなことを言いながら、私の隣を歩いていた。

 

手を伸ばせばすぐに触れられそうな北郷との距離に、

半分この傘に、

 

私は息がつまりそうで・・・

胸の高鳴りが聞こえるんじゃないかと心配で・・・

 

「・・・?おい白蓮。そんなに離れてたら雨で濡れちゃうぞ。」

北郷はそう言うと、私に近づいた。

 

「・・・!!」

北郷が傘を持っている左手に、私の右手が触れた。

 

「~♪」

北郷は別に気にした様子はなかった。

 

右手が震えた。

 

(どうしよう。震えてるのがバレたら・・・!!)

 

「・・・・お。雨上がったみたいだな。」

 

ふと、北郷の左手が離れた。

 

「あ・・・。」

 

「うん?どうした白蓮??」

 

「い、いや。何でもない・・・。」

 

離れていく北郷の手を見て少しさみしくなった。

 

(もう少し、あのままでも・・・)

 

「う~ん。さっきまで雨降ってたのに、きれいに晴れたなぁ。」

北郷は、そう言って空を見上げていた。

 

私は、離れていった北郷の左手を見つめていた。

 

(待て待て、私!あいつは桃香たちの思い人であって、それで・・・)

 

でも、それでも私は北郷と・・・

 

(手・・・つなぎたいな・・・。)

 

そう思っていると、鈴々の声が聞こえた。

ふと見れば、もう城の城壁についていた。

「あ。お~い!お兄ちゃーん!!」

 

「お。鈴々!どうしたんだ!?星からのお説教はもう終わったのか?」

 

「違うよ。星があんまりにもねちっこく言うから、鈴々は逃げて来たのだ!」

 

「おいおい。それじゃあ、捕まった時に余計に怒られるんじゃないのか?」

 

「いいのだ!その時はその時なのだ!!」

 

「はは。鈴々らしいな・・・」

 

ふと、北郷が私の方を向いた。

「白蓮、付き合ってくれてありがと。」

 

「い、いや。特に何かしたわけでもないし。気にするな。」

私は出来る限りの笑顔でそう言った。

 

でも、本当は・・・

 

(あぁ、もう終わりか・・・。)

 

そんな気持ちでいっぱいだった。

 

「うん。それじゃ白蓮。またね。」

 

「あ、あぁ。また・・・な。」

 

北郷はそう言うと、城の中へ歩いていった。

 

「ふぅ・・・。また・・・な。か・・・。」

 

その時私は、自分の気持ちをどうすればいいのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

桃香や雛里、月たちのアドバイスで、私が北郷と結ばれたのは、それからしばらくしてからだった。

 

 

 

 

あとがき

 

どうもkomanariです。

 

前作、「思春の昔話 アフター・ストーリー」に多くの支援、コメントをくださった方々ありがとうございました。

 

えっと、今回は蜀の白蓮さんですが、読んで頂いた通り、今回のお話はSupercell様の「メルト」を元に作らさせていただきました。

 

なんていいますか。自分の気持ちに正直になれない白蓮さんと「メルト」の素晴らしい歌詞がよく合うんじゃないかと思って、作ってみました。

 

あの時代に傘があったかは知りませんが、とりあえずなかったとしても、その辺はご愛敬ということにしていただけると嬉しいです。

 

今回は、蜀のだれにするかですっごく悩んで、他にリクエストしていただいた斗詩や蒲公英も考えてみたのですが、どうもいい話が浮かんでこず、最終的に、神曲の歌詞を借りるという逃げ道に逃げてしまいました。すみません。

 

皆様のご期待に添えていないような気がしてなりませんが、そうでないことを祈っています。

 

今回も僕の書いたものを閲覧してくださってありがとうございました。

 

 

さて・・・次は何を書こうか・・・。

 

 

 

 


 
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