「このあたりが実質的な国境、そろそろ漢の影響下にあるはずですの」
「ここまでくれば洛陽までもう少しか。遠かったなぁ」
「百里を行くものは九十九を半ばとす。洛陽周辺はともかくとしてこのあたりはまだ治安も良くないし、安心するのはまだ早いわよ?」
3人の少女は国境近くの邑を訪れていた。邑とはいってもそこそこ大きめの邑ではあるが。
一人は金髪を頭の両側で小さな輪を作っている。
一人は濃い茶髪をお嬢様結びにし、緋色の学生服のような服を着て同じような色のいわゆるモルタルボードのような帽子をかぶっている。
一人は薄緑の髪を左右非対称なツインテールにし、緑を主とした騎士礼装のような服を着ている。
目的地は3人ともに洛陽、それぞれに噂を聞いて洛陽に向かう道中に出会い、行動を共にしている。
曰く、漢王朝は反乱軍を叩き潰すだけの力を取り戻しつつある。洛陽は董卓と天の御遣いの力により活気づいている。
今後ますます力が増していくだろう、と。
その天の御使いという物に興味を持った事もあるし、連合軍が董卓を討伐にいく以前と噂の内容が全く変わっている事も気にかかっていた。
「分かってるよ、だから今日はこの邑にとどまろうって言ったんだし」
時刻は午後3時頃。おそらく次の邑に今日中にたどり着くのはムリだろう。
そこまで急ぎの旅でもなかったし路銀もあるのでわざわざ野宿する利点はなかった。
そうと決まった所で早々に宿を取り、部屋でのんびりしているのが現状である。
「こんな所の邑に他に泊まりの客がいるとは珍しいですの」
他にも客が来たらしい、隣の部屋から声が聞こえる。人数はおそらく4人ほど、と3人は感じた。
何を話しているかまでは分からない。
そもそも他人の話しを盗み聞きする気もなかったし、3人は雑談に興じる。
そして1時間ほど経過したころ、バタバタと、隣の客が部屋から駆け出していく音が聞こえた。
「なんだ?」
「ずいぶん急いでる様子だったわね」
「なんですの?」
金髪の少女が窓の外に目を向ければ、3人の男女が駆けていくのが見えた。そしてその3人と逆方向に何人もの人が走っていく。
邑の様子がただ事ではない。
「……、どうやら盗賊みたいですの。隣の部屋の人は腕に覚えがあるので迎え撃ちに向かった、といった感じですの」
少女は目で2人にどうする? と問いかける。2人の答えは決まっていた。
「黙って見過ごすって手は無いね」
「そうね、その3人の助太刀に向かいましょう」
それぞれに獲物を持って外に駆けていく。
どうやらよほど腕に自信があるのか3箇所に分かれて迎撃に向かったらしい。こちらも3人。
3人の姿を見ていた金髪の少女はしばし考えて2人に指示を飛ばし、三つに別れる事にした。
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薄緑の髪の少女が駆けていけば盗賊に取り囲まれた女性が居た。
白い動きにくそうなロングスカートの服を着ている青い髪の女性。
取り囲む男達は下卑た笑いを浮かべ、徐々に距離を詰める。
女性はその表情を意に介した様子も無く、涼しい顔で道の真ん中に立っているのだ。
「それ以上よらない方がいいですよー?」
「何?」
「えーい!」
気の抜ける掛け声と共に、その腰の大剣を抜き、振り抜けば間合いに入っていた男数人が一度に吹き飛ぶ。
「へぇ……、っと、ぼーっとしてる場合じゃないね、助太刀するよ!」
その女性の背後を守るように走りこみその獲物、両側に刃のついた槍を振り回す。
その一振りでこれまた数人の賊が弾き飛ばされる。
「助太刀感謝しますー、私は糜芳子方と申しますー」
「あたしは田豫国譲」
「俺らを無視してのんきに自己紹介してんじゃねぇよ! やっちまえ!」
「あぁはい、ごめんよ」
「早く逃げないと、血を見ますよー?」
田豫は盗賊を蹴散らしながら考えていた。
何故ここに天の御遣いの忠臣であり、董卓軍の一員である糜子方がいるのかと……。
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3つにわかれたうちの一人を探すとそれはすぐに見つかった。
その女性は大きめの弓を構え、次々に矢を放ち、迫り来る盗賊を一人で迎え撃っていた。
武器を持つ手を狙い、矢を命中させていく腕は見事なものだったが数の差が厳しいようで距離を詰められていくのが見て取れた
「手助けは必要かしら?」
「そうですね、私一人では少々難儀なので手伝ってもらえれば幸いですが」
「では前に出るわ、私を撃たないで頂戴ね?」
「大丈夫ですよ、この弓の安全地帯は的の前ですから」
女性の返す言葉を聞きながら少女が前にでてその獲物、錫杖で盗賊を殴り倒す。
多数の盗賊を一度に相手取る必要があるものの、戦い方が防御を重視するためか、たやすくそれを防ぎ、次々に盗賊を打ち倒していき、
背後に回ろうとしたり抜けたりする盗賊は残らずその矢の餌食となっていく……。
「あなた、名前は? 私は簡雍憲和」
「私は糜竺子仲です」
簡雍は考える。
彼女の采配は的確だったようだ、背後を気にしなくていいため戦いやすい。
それにしても糜子仲、兵も連れずにこんな所にいる、ということは変わった国境あたりの視察にでも来ているのだろうか、と。
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「今すぐ引き返すなら見逃してやる、血を見る前に立ち去れ!」
金髪の少女が探す男はすぐに見つかった。
その男は大声を張り上げて賊を退散させようとしていたのだから。
それでも賊は怯みこそするものの退く様子はない。
剣を持って一人が男に走り寄ろうとするとその男が何かを投げたかと思えば、盗賊の手から血がふきだし、武器を取り落とす。
「これが最後の警告だ、立ち去れ!」
「あ、相手は一人だ、やっちまえ!」
「一人じゃないですの。一人で相手をするにはちょっと相手が多いようですし、お手伝いしますの」
少女はそういって男の隣に並び立ち、獲物を抜く。その獲物は蛇矛によく似た刃を持つ剣。
「そりゃ助かる……。逃げててくれればよかったんだけどそううまくは行かないか……。
やっぱり、愛紗のようにはいかないな」
そう言いながら、小刀を取り出して盗賊の手を狙い、無力化をはかるように戦い始める。
少女もそれに合わせるように、無力化することを主目的として動き、次々に手傷をおわせていく。
問題は弓使いが数人混じっている事。その矢を小刀で、剣で弾き返しながら戦うのは中々に骨が折れた。
「危ない!」
金属のこすれあう音。少女にはその矢が見えていて、回避も十分行えたのだが男にはそう見えなかったらしい。
男が伸ばした手には鉄の扇が開かれ、その矢を遮った。
そして逆の手に持った小刀を小さく投げ、刃の先端を持ちと弓使いに向けて投擲すれば、それは吸い込まれるようにその腕へと命中する。
「その武器は……」
「話しは後! 話していられるほど余裕無いから!」
その勝負はそれから半刻も経たぬ内についた。
盗賊100人余りは6人の手によって無力化されてお縄につき、邑は平穏を取り戻した。
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忍者隊が早い内から盗賊の存在を察知し、避難誘導をしてくれたおかげで人的な被害は無かった。
「助かったよ、俺は島津北郷、君は?」
「姓を諸葛、名を均、字を子魚と申しますの」
「ああ、朱里の妹さんね……。えええ!?」
いや、驚いたようん、ものすごい驚いた。
だって前に月が名前を借りた時に朱里が『凡人だから名前貸しても大丈夫』って言ってたのに……。
めっちゃ強いじゃないかこの子。お前のような凡人がいるかってレベルだよ。
前の世界とこのへん違うのかもしれないけどさ。
あ、俺今めっちゃ素に朱里の事、真名で呼んだ……。
「お姉様をご存知ですの?」
どうやら怒られなくて済んだっぽい。一安心。いやだって人によってはものすごい過剰反応するんだもん。
天泣しかり春蘭しかり……。
「うん、知ってる。というかこの邑に来てるけど、会う?」
国境あたりの視察に行きたいって話しが月から出て名指しで護衛に指定されたんだよな……俺。
それと政に強くて戦闘もこなせる天梁と、見た目がいかにもお嬢様なんでダミーに天泣。
皆でぞろぞろいくのもあれだし、文官がみんな城あけちゃ不味いでしょってことで、
軍師3人の中から一人ってことになって、モメるかなーとおもったらそんなことはなく、
紫青と桂花が辞退したので自動的に朱里ということになった。ちなみに詠は最初から留守番で確定していた。
……あとで聞いた話しだと、俺のちょっと長期の休暇、っていう側面もあったらしい。
それと2人が辞退したのはかつての3軍師の中で一番合流が遅かったため、気を利かせたらしい。
とまぁそんな理由で朱里もこの邑に来ている。今は月と一緒に宿で待っているはずだ。
天泣と天梁、それと諸葛均の連れの2人と合流して月の所へ。
合流した2人の名を聞くと、確か史実では政治家系の人だった覚えがある。
どんな人だったかまでは覚えてないけど……。
「はわ!? 静里……!?」
で、諸葛均と顔を合わせた朱里の第一声がこれ。
「お姉ちゃんの知り合い?」
「……いつの間にか新しい妹が出来たんですのね。お姉様?」
「はわわわわわ……」
朱里がいつになく慌ててる。マンガだったら白目になってるんじゃなかろうか。
しかし月、狙いすましたかのようなタイミングだなぁ……。
思い出してからコッチ、時々お姉ちゃんって呼んでるのは聞くけど。諸葛均の名前を借りてた名残らしいけど。
ていうか絶対狙ってたよね? ね?
「すいません、名乗っていませんでしたね。私は董卓仲穎です。騒ぎの鎮圧への協力、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる。三人三様に驚いてるけど、世間の董卓像との乖離によるものなのか、相国がこんなところで兵もつれずに居る事なのか
もしくはその董卓が朱里をお姉ちゃんと呼んだ事によるものなのか……。
ま、どれでもビックリするよな、普通。
取り敢えず簡単に自己紹介を済ませると、
「じゃあ、島津北郷ってやっぱり……」
「島なんていう姓、聞いたこと無いしそう考えるのが自然なんじゃなくて?」
「あなたが噂に聞く天の御使ですの?」
と、今度は興味が俺に移ったらしい。
「一応そんな風にも呼ばれてるよ。どんな噂が伝わってるかはしらないけど……」
「えっと、確か……」
話しを聞くと、見た目なんかに関する噂はそのままなんだけど。
反董卓連合で董卓の策略により絶体絶命の危機に陥った連合軍を助けるために、天の御使は自らの首を差し出す覚悟で董卓に下った。
董卓に下った天の御遣いは董卓を改心させて洛陽の発展や漢の再建に尽力しており、今やその力は反乱軍を軽く叩き潰す程まで回復している。
「うーん……」
あってるような間違ってるような……。
しかし、馬騰のやったことは無駄じゃなかったんだな。ちゃんとこうして噂が流れてるんだから。
「ここだけは訂正させて欲しいんだけど……、董卓……月を改心させたっていうのはデタラメだよ。
月は元々暴政なんて振るってなかったし、漢を立て直そうとしてるのも月だ。俺はその手助けをしてるに過ぎないよ」
「そもそも天の御遣いってなんなんだ? 乱世を平定するために現れるんだっけ?」
「俺はただ、少し違う知識と常識を持ってるだけの異邦人だよ。
怪我をすれば血を流すし、泣きもすれば怒りもする。ただの人だよ。称号みたいなものかな」
「今は董卓さんの臣として動いているんですの?」
「臣、というのとはまた違うかもしれません。ふふ、一刀さんはそういうのはあまり好まないですし。
どちらかと言えば『友』になるでしょうか。名目上は臣ですけどね」
この問に対しては月が応えた。
「信頼してるんですね」
「ええ、かつては大国の政を仕切っていたこともある人ですから」
「月、あんまりそういうことは……」
「ふふ、仕事のすすめ方を見る人が見ればすぐわかりますから」
そういって、月は3人に視線を向ける。
「私達はこれから洛陽に帰る所です。
百聞は一見に如かずといいますし、あなた方さえよろしければ洛陽を見に来ませんか?
盗賊退治に助力していただいた事ですし、私の客として招かせていただきますので」
月の申し出に3人は頷き、洛陽まで同行することとなった。
───────────────────────
洛陽に到着すれば、そこは3人が想像する以上の活気を見せていた。
暴政の噂など本当にデタラメであったかのよう。事実デタラメなのだが。
ひとまず3人は董卓達と別れ、街を見て歩く事にした。洛陽に入った時に董卓から手紙を渡され、
それを見せれば城に入れるから一度来て欲しい、と言われていた。
で、董卓達と別れたのだが……。
「将軍様、ちょっとちょっと!」
島津だけはそう言って店先に出てきた店主らしき人に呼び止められ、しばらく話し込んでいた。
こうなると長い事を知っているのか董卓達は先に城へと向かっていった。
「百歩譲ってみても将軍には見えませんの」
「だねぇ……」「そうね……」
話していた内容は、どうにもくだらない世間話。菓子屋の店主に子供が出来たとか、しばらく居なかったから寂しかったとか。
で、その店主から桃をもらってそれをかじりながら歩いている。
その様子を子供に見られて囃し立てられ、桃を与えて買収。
その後、巡回の兵や買い物に出てきたらしい文官に話しを聞いてみたが、悪いうわさはほとんど無い。
「司馬懿様とあんなに仲がいいのが羨ましい……」
「それより糜芳ちゃんと仲良しなのが……」
等、妬み僻みはあるものの、それも笑い話の域を出ていないように感じた。
島津の仕事ぶりについて聞いてみれば。
「あの人は休むということをしらない。休日というのは警邏の仕事の日の事」
「仕事をしすぎてたまに立ったまま寝てる事がある」
「模擬戦に行く途中に居眠りをして馬からおっこちるのを見た」
「部屋の灯りが朝までついていることがある」
等々。どこまで本当か分からない話しだが、共通しているのは夜遅くまで仕事をしているということと、休日というものをろくに取らないということ。
「……、地方の領主とは雲泥の差だなぁ」
「彼風にいうなら、天の御遣いという称号に負けないように頑張ってるように見えるわね」
ひと通り街での情報収集を終えれば、3人は董卓に言われた通り、城へと向かった。
───────────────────────
仕事に一区切り突いたので思い切り背伸びをする。
時間は既に日が落ちて3時間ほど経過している。
いやまぁ、別に今日やる必要はなかったんだけど、無駄に時間があいちゃったんでつい……。
そうしているとトントンとドアを叩く音。
開いてるよ、と返事をすれば入ってきたのは昼間に街で別れた3人。
多分月に言われてきたんだろうなぁ。最近忘れがちだけど、ノックって教えないとしてくれないし。
「おや、いらっしゃい。お茶でも出そうか?」
「いえ、大丈夫ですの」
「それより、あたし達ここに仕官することにしたから、これからよろしく」
「洛陽の街の様子や、評判を聞いて、月さんと暫く話してみて決めたのよ。
それで、政等を実質取り仕切ってるのはあなただから挨拶してくるようにって言われたの」
「いやいやいやいや……」
「それに、ここにいる皆を束ねているのはあなただと仰ってましたの」
「あぁー……。まぁそれはそうかもしれないけど。」
詠、華雄、霞以外はどっちかいうと俺についてきてる人間だしなぁ。
霞と華雄は俺『も』主らしいし。月も詠も思い出してからというもの前の世界にいた時みたいな接し方してくることがあるしなぁ。
「まぁ今日から一緒に仕事することになるんだし3人に俺の真名を教えとくよ。俺は一刀だよ」
「私は静里ですの」
「涼音だよ」
「私は優雨」
「静里に涼音に優雨ね」
「さて、真名の交換も終わった事だし仕事といこうかしら」
そういって優雨が俺の対面に座り、書簡を手に取る。静里と涼音もそれに続く。
「え?」
「月さんに言われたんですの、絶対仕事をしてるから早く寝られるようにお手伝いしてあげて、と」
「仕事熱心なのはいいけど、まわりにあんまり心配かけるのはどうかと思うよ?」
3人の言葉に俺は苦笑いするしか無かった。
あとがき
どうも黒天です。
コラボ企画!
というわけでJack Tlamさんの書いている
真・恋姫†無双 異伝 ~最後の選択者~
とのコラボ企画がありまして、この3人が登場することとなりました。
「あちらで出来ない一刀とのイチャイチャを実現しよう」という。
ただ、こちらに合わせて弱体化補正が入ってます。そのまま出すと強すぎるので……。
他の人のキャラを動かすというのは緊張しますね。
気をつけて書いたつもりですがこれじゃない感が出ていないかと心配しております。
さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
また次回にお会いしましょう。
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今回は3人ほど新キャラが出てきます。
コラボ企画が立ち上がったのでそれ絡みの人々です