No.666330

押しつけろ!袖の下!

理緒さん

バレンタイン企画の小説です。トカゲから企鵝さんに家族チョコ(意味合いとしては袖の下チョコ)を渡させていただきました。企鵝さんのキャラが少し天然ボケ方向に偏っている気がしますので、ご注意ください。
登場するいつわりびと:企鵝 トカゲ

2014-02-26 19:50:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:493   閲覧ユーザー数:474

甘ったるい匂いの中、少し視線を巡らせればすぐに目的の人物は見つかった。美しい青の外套と銀灰色はずいぶんと見つけやすい。

片手でチョコレイトの包みを弄びながら、トカゲは軽い足取りで人ごみをかき分けていった。

 

 

「こーんにーちは~、企鵝」

 

いつも通りの声で話しかけると、企鵝はクルリとこちらを振り向く。あぁ、トカゲでしたか。と言う表情は楽しげで、好物らしい甘味に囲まれているからだろうか。

 初めこそここのつ者の誰かの声音を借りて話しかけようかとも思ったが、恐らく彼愛用の直刀で三枚に下ろされる未来しか見えない。今回はからかうことが目的ではないから、悩みはしたがいつもの声姿形で行くことにした。

 

「なかなか沢山受け取っているみたいで、お兄さんは嬉しいよぉ~…一個よこしなさいな」

 

「お断りします」

 

笑顔で得物の直答のごとく切れ味で断られたが、予想の範疇。懲りた様子もなくニヘラと笑っている。両手を広げて顔の横で振り、敵意は無い事を示して見せた。

 

「冗談だっての。むしろおいら、企鵝くんに渡すために来たんですもん」

 

 どこからかトカゲは青い飾り紐のついた箱を取り出す。茶色の包み紙も上品で、飾り紐に添えられた造花が繊細だ。茶屋の装飾が赤や桃で彩られた中で、青の飾りは嫌に目立つ。

 

「贈るチョコとしては「家族チョコ」だけど、私様から言わせれば袖の下チョコってところだね」

 

「そこまではっきり名言するのはすごいですね」

 

呆れたように企鵝が笑う。だって、本当に袖の下なのだから。同盟を組むには自分は怪しすぎるし、企鵝は死にたがりだし。口約束をするにはいつわりびとという肩書はこれ以上なく不釣り合いだ。……と思っている。

 

「俺っち自体はあまり腕も立たないですし?企鵝みたいに腕の立つ奴とはお近づきになっておきてぇんですのよ」

 

 強いて理由を見つけるならば、同い年だという一方的な親近感と……後は、個人的な興味。

 トカゲ自身は生きる手段の一つとして金品の強奪を中心とした活動からいつわりびととなった。企鵝は死ぬために凶行を重ねている。

 ここのつ者を嫌うトカゲと、ここのつ者に温かさを感じている企鵝

 

(ここまで真逆ですと逆に興味も湧くってもんだぜ)

 

トカゲからすればここのつ者が嫌いなだけで、別に同業者に敵対心を持っているわけではない。手を組めるなら表向きだけでも組んでおいた方が仕事は楽なのだから。……特に、自分の弱点を補える、腕の立つ奴とは。

なんとなくではあるが、まわりのここのつ者たちには聞かせて得のある話題ではないからか、わずかにトカゲの声もひそひそとしたものになる。

 

「いつか気が向いたら組んでもいいって思うなら貰っておけばいいですし?その気が無いんでしたら……」

 

「ありがたく貰います。」

 

間髪もいれずに、みなまで言わせずに。企鵝から嬉しそうな声が返ってきた。

 

「……ん?」

 

 思わず良く回るはずの舌が止まり、目が丸くなった。

……疑われたり、吹っかけられたり、探りを入れられても痛い腹など無かった。ただ、手を組むための布石のように渡したチョコレートだ。しかし、疑われて当然の申し出をここまで素直に受け取られて、しかも嬉しそうに受け取られるなんて言うのは完全に予想外のこと。

 

「私もトカゲの様に騙すのが得意な人とのつながりは持ってませんし。……トカゲ?」

 

 予想外過ぎて呆けていてトカゲの表情が少し動いて、カカオ十割のチョコレートでもたべたような渋い顔になる。

 

「……お前…一応いつわりびとって呼ばれている部類の人間でしたわよね…」

 

「…………あ、そうですね、たまに忘れますが」

 

「忘れるものですか!?」

 

 ……いいや、もう。この件に関してはいちいち突っ込みを入れていたら持たない気がする。

同い年と聞いて興味を持つという、ほんの些細なきっかけだったが、知れば知るほど、変な奴だ。そして、正反対。そのうち立ち位置も正反対になるんじゃないだろうか。敵に回ったら厄介なんだろうな…武力じゃ太刀打ちできないから、それなりの策を打たないと。

 

「ついうっかり、ここのつ者の方々がその辺り、敵意が無ければ分け隔てなく関わってくれるので…忘れますね」

 

「はいはい、企鵝が天然ボケかます方だとは存じなかったぜ」

 

 言いながら、身長差の関係で企鵝の腹に押し付けるようにしてチョコレートを受け取らせ、トカゲは少し考える。もうこの茶屋での用事は済んだ。苦手としているここのつ者が大勢いる空間から逃げ出すのも一つの手だろう。

 もうひとつの手は…いつわりびと同士、つながりを持っておくこと。

ありがたいことに、まだトカゲを目の敵にしている面々は来ていないようだ。ならば、せっかくタダでチョコレートが食べられる機会を逃す手は無いだろう。

 

「企鵝、少し付いて回らせていただきますわね?」

 

 わざとらしい位の笑顔を振りまいて、企鵝の後ろについて、ひょこりと歩き出した。

 チョコレートは美味しかった。もう少し食べておきたいのだ。

 

さて、トカゲが紛れ込んでいることに気付いた音澄寧子が塩を持ち出し始めるのはもう少し後のお話。

 


 
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