(おいFalSig、分かってるだろうな?)
(OK、任せとけって)
海鳴市、とある遊園地。エリア内の草木に隠れているkaitoとFalSigの二人は、双眼鏡を使ってある人物達を監視していた。
その人物達とは…
「はいどうぞ、美空さん」
「あ……ありがとう、ございます…」
ベンチに座ってソフトクリームを食べている、二人組の男女―――ディアーリーズと美空の事だった。
何故こうなったのか?
それは数時間前の事。かつての記憶が竜神丸によって消去されてしまっている美空に新たな思い出を作ってあげる為に、ディアラヴァーズ一同はその日の任務が無い旅団メンバーに頼み、ディアーリーズと美空の二人をデートさせようと動き出したのである。肝心のディアーリーズと美空は何も知らされていない状態で外出の準備をさせられたが、外出先で御互いが合流した事から事情を把握。二人はそのままデートの形で遊園地へと向かって行ったのである。
「美味しいですか? 美空さん」
「はい……美味しい、です」
そして今、ディアーリーズはチョコ味、美空はバニラ味のソフトクリームを食べながら休憩している真っ最中だった。ディアーリーズは慣れたように食べているが、美空はソフトクリームの冷たさに若干苦戦しつつも少しずつ食べていく。
「美空さん、次は何に乗りたいですか?」
「あ……えぇっと、その…」
美空は緊張しつつも、自分が次に乗りたいアトラクションを指差す。その先には…
「…え、ジェットコースター?」
それも、この遊園地に存在する中ではかなりハイレベルなアトラクションだ。予想と違っていた事にディアーリーズは美空の方を振り向くと、美空は何故か目をキラキラ光らせていた。
「…乗りたいんですか?」
「はい……すごく、楽しそうです…!」
(あれれ? 美空さん、結構好奇心が旺盛なんだな)
美空の意外な一面を見て少しばかり驚いたディアーリーズ。かと言って断る理由も無い為、ソフトクリームを食べ終わった二人はそのジェットコースターへと乗る事にしたのだった。それを草木に隠れて見ていたkaitoが、すかさず他のメンバーに連絡を取る。
「こちらkaito! 目標二名、ジェットコースターレベルSへと移動した! 応答願う!」
『こちらロキ! 了解、こちらもすぐに用意する!』
そして、そのジェットコースターの入り口付近に隠れていたロキとルカは…
「さて弟よ、二人はこのジェットコースターへと移動するようだ」
「え、ここに!? ここのジェットコースター、ハイレベル過ぎるから上級者向けだってFalSigさんから聞いてるけど…」
どうやらディアーリーズと美空が乗ろうとしているジェットコースターは、絶叫アトラクションの中でもかなりレベルが高いようだ。実際、入り口の近くに立てられている看板にも『心臓が弱い方、高い所が苦手な方などはお乗りにならないようお願いします』と書かれているくらいだ。
「弟よ」
ルカの肩に、ロキの右手がポンと置かれる。
「監視役を任命する、という訳で乗って来い☆」
「…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
この瞬間、ルカが監視役を務める事が決定した。
「…良いんですか? 美空さん」
「はい、大丈夫です…!」
本当にジェットコースターに乗る事となった、ディアーリーズと美空。ディアーリーズが心配そうな感じで美空の表情を見てみると、美空は何故かウキウキしたような表情でジェットコースターの発射を待っており…
(あぁもう、何で僕まで…)
そんな二人の後ろに、変装したルカが乗る形となっている。
「…何でこうなっちゃったんだか」
元々ルカ自身は、二人のデートを監視するつもりなど全く無かった。しかし自分の兄によって強制的に監視役を任命された事で休暇が丸々潰れた挙句、自分までこのジェットコースターに乗る羽目になってしまった。こんな状況に至る原因を作った兄に対する怒りが、現在も沸々と込み上がってきているのである。
(…仕方ない。乗ってしまった以上、頑張って耐えよう)
そんな風に考えている中、いよいよジェットコースターが発進する。レールの上をジェットコースターが少しずつ登って行き、そしてかなり高い位置まで来たところで…
「「「「「―――キャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」」」」」
ジェットコースターは、急降下した。ディアーリーズ達を含め、乗っている客達の絶叫が響く。
(ぬぉぉぉぉぉ……お、思ってたより、結構キツい…!!)
(ヤ、ヤバい……軽く死ぬ勢いだこれ…!!)
想像以上のキツさに、ディアーリーズやルカもだいぶ大変そうな表情をしている。しかし、そんな彼等に対し…
「…!!」
何故か、美空は楽しそうな表情をしていた。
「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ…!!」
「大丈夫、ですか…?」
「だ、大丈夫です…!!」
ジェットコースターを乗り終えた後、ディアーリーズは若干の吐き気に襲われていた。美空に背中を擦って貰いつつ、どうにか呼吸を整える。
「いや~すまんな弟よ。大丈夫か?」
「あ、兄貴……いつか、覚えてろよ…!!」
一方で、ルカもなかなかにキツかったようだ。ロキがケラケラ笑っている中で、予め用意しておいた酸素スプレーでどうにか酸素補給している。
「次……あれ、乗りたいです…!」
「え、また絶叫系ですか…!?」
美空に手を引っ張られ、またディアーリーズは次のアトラクションへと連行される。
「あ、ヤバい!! こちらロキ、目標二名が次のアトラクションに向かった!」
『こちらアスナ、了解! すぐに監視役を向かわせるわ!』
その後も、ディアーリーズと美空は様々なアトラクションに乗っていく。
「「「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「うぶ…ヤバい吐きそう…!!」
次の絶叫系アトラクションにて、ディアーリーズだけでなく監視役のawsまでもが、思わず吐きそうになってしまいそうになったり…
「…♪」
「み、美空さん…!?(ちょ、胸が背中に当たって…!!)」
(おいFalSig、ちゃんと撮ったか!?)
(OK、バッチリだ!!)
メリーゴーランドにて、美空に抱きつかれて顔を赤くしているディアーリーズの姿を、FalSig達が陰でこっそり激写しまくっていたり…
「ウル、さん…顔、赤いです…よ?」
「い、いえ!! 大丈夫です、大丈夫ですから!!(言えない…!! 美空さんの……それなりに柔らかかっただなんて、絶対に言えない…!!)」
「いや~凄ぇ楽しいぜヒャッホォォォォォォォォォォォォォォウッ!!」
「ちょ、馬鹿、回し過ぎおぇぇぇぇぇぇぇ…!?」
コーヒーカップにて、顔が赤い事を美空に心配されているディアーリーズを他所に、久しぶりのコーヒーカップで童心に返ったkaitoが支配人の意見も無視してコーヒーカップを回転させまくったり…
「美空さん、次は何に乗りたいですか?」
「次は……あれ、乗りたいです…!」
ディアーリーズと美空が手を繋いで移動する中…
「おい、あの女ちょいと絡んでや…ぶげぁっ!?」
「な、テメェ等何しやが…ほがっ!?」
「悪いけど、狙うなら他を当たってくれよ?」
「こちらokaka。邪魔なチンピラ共は、ハルトによって無事排除されたぞ」
『了解。汚い虫が寄らないよう、もうしばらく監視を続けてくれ』
「おっおー♪」
okakaとハルトによって、美空に目を付けようとした不良達が次々と捻り潰されたりしていた。この時、気絶した不良達を咲良が木の枝で突っついて遊んでいたのはここだけの話である。
「えぇっと、まだ行ってないアトラクションは……あ」
「ッ!!」
ディアーリーズと美空は次に、お化け屋敷の前まで到着していた。しかし美空は先程までと違い、お化け屋敷を見た途端にディアーリーズの後ろに隠れる。
「…美空さん?」
「……」
「…行きましょう。僕も一緒に行きますから」
「…!!」
美空はコクコク頷いてから、ディアーリーズの背中にくっ付く形でお化け屋敷へと入っていく。その様子を、陰で焼き蕎麦を食べていたガルムは見逃さない。
「こちらガルム、目標二名はお化け屋敷へと突入した!」
『了解! こちらはアン娘と朱音さんに連絡するから、お前はそのまま尾行してくれ!』
「オッケー任せろぃ!!」
焼き蕎麦を食べ終わり、ガルムは空のパックをゴミ箱にダストシュートしてから同じようにお化け屋敷へと突入していく。
「ッ…」
「う~わ、凄い気合いの入ってるセットだなぁ…」
お化け屋敷内部。その真っ暗な通路の中を、ディアーリーズと美空の二人は進んでいた。しかしやはり怖いからか、美空はディアーリーズの腕にしがみついたまま離れようとしない。ディアーリーズは彼女が自身の腕に抱きついているからなのと、彼女が抱きつく事で彼女の胸が腕に当たっている事から緊張を解せず、上手く進めないでいた。
『クカカカカカッ』
「ッ!!」
「おぶっ!?」
途中、通路の壁から出てきた骸骨を見て、美空は驚いてディアーリーズに抱きついた。いきなり抱きつかれた事でディアーリーズは危うく倒れそうになるも、何とか踏み止まる。
「美空さん……やっぱり、ちょっと怖いですか?」
「ッ…!!」
(あ、可愛い…じゃなくてっ!!)
涙目のまま、美空はコクコクと連続で頷く。それを見たディアーリーズは愛らしさを感じつつもすぐに気持ちを切り替え、彼女の頭を撫でる。
「大丈夫です。僕がついてますから」
「…は、い!」
その後もゾンビメイクをしたスタッフ、突然壁を突き破って来る無数の手、突然消える灯り等、様々なトラップに翻弄されつつ、二人は少しずつ先へと進んでいく。そんな二人の後方では、ガルムがきっちり尾行している。
(さぁて……このまま行けば、朱音さんによって仕掛けられた豊富なトラップ、そして最後には幽霊メイクをしたアン娘による最大トラップが待っている。あの二人のトラップで美空ちゃんを怖がらせる事で、ディアに抱きつかせる。予定では大体こんなところだが、本当に大丈夫かね…)
自分達の作戦が上手くいく事を祈りつつ、ガルムはディアーリーズと美空に気付かれないよう静かに尾行を続ける。
しかし…
「はい、お疲れ様でした~!」
「ふぅ…何とか出れましたね、美空さん」
「はい…ウル、さん…!」
「…あり?」
結局、そのトラップは何も発動しないままディアーリーズと美空の二人はお化け屋敷の出口まで到着してしまった。おかしいなと思い、ガルムはお化け屋敷で準備していた筈のUnknown達に連絡を取る。
「こちらガルム……おい、どういう事だアン娘!! あの二人、結局お化け屋敷を脱出しちゃったじゃねぇか!! そっちは一体何やってんだ!?」
『あ、あぁガルム……すまない、私とした事が、不慮の事故を起こしてしまって…』
「…は?」
お化け屋敷、特殊メイク室…
『不慮の事故って……どういう事だよ?』
「いや……どうせ幽霊役をやるんだったら、念には念を入れてメイクしておいた方が良いだろうと思っちゃってさ。その結果…」
「「「キュゥゥゥゥゥ~…」」」
「…私の姿を見た姉貴や幽霊役のスタッフ達までもが気絶しちゃって、それどころじゃなくなっちゃったんだ。ごめんちゃい☆」
『『『『『何やってんだ馬鹿野郎ッ!!?』』』』』
これにはガルムだけでなく、他のメンバー達からも一斉に突っ込みが入るのだった。
その後、ディアーリーズと美空は観覧車の前までやって来ていた。そんな二人の姿を、草木に隠れていたFalSigやkaito、ディアラヴァーズ一同がしっかり監視する。
「とうとう、観覧車までやって来たか…!」
「ほう、一番の目当てであるアトラクションに来たか……あれ? 支配人とaws、それにルカは?」
「乗り物酔いで、先に
「うぉい!? せっかくお楽しみの時間が来たってのに…」
「それは良いが……kaito、その手に持っているデバイスは何だ」
「あぁこれ? 実は美空ちゃんのマフラーにこっそり盗聴器を仕込んでたのさ。後はこのデバイスで会話も丸聞こえだし、実に便利だぜ」
「おぉ!? kaitoちゃんナイス、それ俺にも聞かせて!!」
「私にも聞かせなさいよ!! 気になっちゃって仕方ないじゃないのよ!!」
「ちょ、聞く順番はそっちで決め…あれぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「お~いお前等、ディア達の話は聞かないのか~?」
「もう良いよokakaさん、俺達だけでひとまず聞いときましょうや」
「そういう事だな。さぁ聞こう」
「あ、わたしも聞く~!」
ハルトやディアラヴァーズの皆が一斉にジャンケンをし始めた中、ロキ、okaka、FalSig、咲良の四人は盗聴用デバイスでディアーリーズと美空の会話を聞く事にするのだった。
「ふぅ~…どうですか美空さん、ここの景色は」
「高い……それに、綺麗…」
観覧車のゴンドラにて。ディアーリーズと美空は向かいの席に座り、外の景色を見渡していた。ちょうど時間帯も夕方で、赤い夕日が街全体を綺麗に見せている。
「ウル、さん」
「? はい、何でしょう」
「ごめん、なさい……ワガママ、沢山…聞いて貰って…」
「美空さんが謝る事なんて、ありませんよ。美空さんが沢山思い出を作れたなら、僕も充分満足です」
「それ、でも……頼んだのは、私…だから…」
美空は席から立ち上がり、ディアーリーズの隣に座る。
「美空さん…?」
「ウル、さん……わた、し…良かったんでしょう、か…? 本当に、このままで…」
「それは…」
『感情の高ぶりによる暴走か、それを除いても精神崩壊を起こして発狂死か……どの道、彼女にはもうこれ以外に生きる道はありません』
「ッ…」
かつて美空の記憶を消失させた竜神丸の言葉が脳裏に浮かび、ディアーリーズは苦い表情になる。
本当ならディアーリーズも、彼女の記憶を元に戻してあげたいところだろう。しかしそれは、団長の勅命により許されていない。もし破れば即座に反逆者と見なされ、旅団の全勢力によって捻り潰される事になるだろう。仮に許されていたとしても、今の彼女は散々記憶を改竄された所為でデリケートになっている。下手に干渉すれば、本当にどうしようもない事態になってしまうのだ。
「私……何だか、沢山…抜け落ちてる……大事な、思い出も…そんな、気がして…」
「…僕の所為です。僕に力が無かったから、美空さんは過去を失ってしまった……だから」
美空がゆっくりとディアーリーズの肩に頭を摺り寄せ、そんな彼女の頭をディアーリーズが優しく撫でる。
「思い出、沢山作ります。幸せな思い出を、美空さんの為に……それが、僕の…」
「…違う」
「え?」
「私……だけじゃ、ない…」
頭を撫でられていた美空が、ディアーリーズに抱きつく。
「美空さん…」
「前にも、言った……あなたと、一緒が良いって…」
ディアーリーズの頬に、美空の手が触れる。
「あなたも、幸せになって……私、だけじゃない……あなたも…皆も…皆で、一緒に…」
「ッ…僕には無理です、だって僕は―――」
ディアーリーズの言葉が遮られる。何故なら…
「―――ん」
美空によって、自身の唇を塞がれたのだから。二人の唇が合わさったまま数秒間続き、そして離れる際に互いの唇に銀色の橋がかかる。
「…それ以上、言わない、で」
「…美空、さん?」
「ウルさんは、ウルさん……だから」
「ッ…」
ディアーリーズは目から一筋の涙が流れるも、すぐに涙を拭ってから美空と顔を向け合う。
「…本当に、僕で良いんですね?」
「私は…ウルさんじゃなきゃ、嫌だ…!」
「ッ…美空さん!」
「ん…!」
再び二人の唇が合わさる。舌と舌が絡んで涎を舐め取り、愛を求め合う情熱的な接吻は長時間に渡って続く事となるのだった。
「…なぁ」
「あぁ……戻ろうぜ、
盗聴器で聞いていたロキ達も流石に悪いと思ったのか、盗聴用デバイスの電源を切ってから遊園地を後にするのだった。
遊園地でのデートから、数日後…
「…ここ、が」
「はい……美空さんの、
某次元世界。ディアーリーズは美空を連れて、彼女の故郷があった土地に到着していた。二人の視線の先には、この地に暮らしていたであろう人たちの墓だけが残っている。その中で、二人はとある墓石の前に立つ。
その墓石には…
-
美空の母親の名前が刻まれていた。
「ここに、美空さんのお母さんが眠っています」
「…私の、お母さん」
二人は墓石の前でしゃがみ込む。
「ごめんなさい……私は、もう…あなたの事を、思い出せない……けれど」
墓石の前に、花束が置かれる。
「墓参りは…何時でも、来る事は出来る……だから」
「どうか、安心して眠って下さい……美空さんの事は今度こそ、僕が守り通してみせます…」
二人は両手を合わせ、静かに黙祷する。
その瞬間、暖かく優しい風がこの地に吹かれるのだった。
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獅子、美しき空と共に