No.664153

真・恋姫†無双 裏√ 終章

桐生キラさん

こんにちは
今回でこのシリーズは最終回になります
雪の降る中繰り広げられる、二人の会話がメインです

2014-02-17 18:10:06 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2732   閲覧ユーザー数:2297

 

 

 

 

 

時刻は深夜。辺りは暗いはずなのに少し明るい。

近頃暖かくなり、もうすぐ春が来るのだろうと思っている矢先に雪が降ったからだ。

季節外れの、薄っすら積もるくらいの淡い雪。

僕はなんとなく、この空の下を歩いていた

 

 

 

三国同盟が締結され一年が過ぎ、今日はその一周年記念としてパーティーが行われた。

僕たち『晋』のメンバーはパーティー用の料理を作る事を依頼され、大量の料理を作る事になった。

作って、食べて、飲んで、騒いで…皆疲れ切り、グッスリ眠ってしまっていた。

本当に、一年前の決戦より疲れてしまったな

 

 

 

一年前のあの日、張譲との死闘で受けた傷はほとんど回復した。

後遺症もなく、普通に生活できる。華佗のおかげだ。彼には感謝してもしきれない。

しかし例外はあった。左眼の視力だけは、元には戻らなかった。

少し見えるのと、全く見えないとでは、雲泥の差とも言えるほど世界が変わる。

それでも、何不自由なく暮らせるだけマシなのだろう

 

 

 

外には誰もいない。人も、犬も猫も、虫でさえ、何もいない。

まるでこの世界に僕一人しかいないかのようだ。

辺りは静寂に包まれ、聞こえるのは自分が奏でる足音だけ。

しかし、しばらく歩くと見慣れた人物が城壁の上にいた。

咲夜だ。

僕は彼女に近づく為に城壁を登った

 

 

 

司馬懿、仲達。真名は咲夜。

正史では、諸葛亮と並ぶ魏の軍師として有名で、その子孫が晋を建国し、

最終的にこの三国を統一した。この外史世界では、僕が初めて出会った女性であり、

以来僕のパートナーとして、愛する人として隣にいてくれた。

僕の、掛け替えのない女性だ

 

 

 

零士「!」

 

城壁を登り、彼女に近づいて初めて気づく。彼女の放つ気配が、彼女の物ではなかった。

すると、彼女がこちらに気付き微笑んだ

 

咲夜?「こんばんは、東零士さん」

 

零士「こんばんは………君は、誰かな?」

 

咲夜?「あら、やはり貴方にはバレてしまうのね」

 

零士「まぁね」

 

彼女は微笑みを崩さず、まっすぐ僕を見つめた

 

管輅「ふふ。はじめまして零士さん。私は管輅。この外史の管理者の一人です」

 

零士「君があの、天の御使いの噂を流した張本人?なぜ咲夜の体を?」

 

管輅「私は、他の管理者とは違い実体がないの。この世界そのものが私だから。

だからこうして話すのも、誰かの体を借りなきゃいけない」

 

零士「世界そのもの?この世界の創造主は一刀君じゃないのか?」

 

管輅「確かにこの外史は、北郷一刀が想像したものよ。

そしてその想像を固定化し、創造したのが私。

言ってしまえば、北郷一刀が父で、私が母のようなものよ」

 

零士「じゃあ君は、この世界において神様みたいなものかい?」

 

管輅「当たらずとも遠からずね。

この世界の住人は皆、ある意味私の子ではあるし、並大抵の事は何でもできるわ」

 

零士「そうか。そんな神様が、僕に何の用だい?」

 

管輅「貴方の役割、張譲の抹殺は無事に済んだ。

だから、もし貴方が望むなら、貴方の居た世界に帰す事ができるわ」

 

やはり、この世界に来たのは何らかの理由があったのか。

そしてそれは、案の定張譲の抹殺。だが一つ疑問がある。

何故、彼女自身の手ではなく、僕に始末させたんだ

 

零士「君は何故、僕を選び、僕に始末させたんだ?神様なら、人一人消すくらい、訳ないだろ」

 

僕が彼女に問いかけると、彼女はその問いを待っていたかのように微笑んだ

 

管輅「私は確かに創造主の一人ではあるけれど、

だからと言って私自身は人の生き死にを管理していないわ。

それは他の管理者の仕事。基本的に不干渉よ」

 

零士「なら、張譲の件はどうなる?」

 

管輅「あれはイレギュラーだったわ。

確かに張譲はどのケースでも、悪として生まれ、悪として死ぬはずだった。

通常なら反董卓連合の時には既に死んでいなきゃおかしい。

しかし、于吉と左慈が張譲に細工した事で、

成長過程で彼の悪の炎が通常より類を見ない大きさにまで膨らんでいた。

それは、この世界の創造主、北郷一刀でさえも焼き尽くすほどのもの。

さらに言えば、あの于吉、左慈の工作で、それが他の管理者には認知できていなかった。

北郷一刀を死なせる訳にはいかなかった私は、急遽貴方を召喚し、そして始末させた」

 

零士「だが、君自身は気づいていたんだろう?

なら何故他の管理者に告げなかったんだ?貂蝉とか卑弥呼とか」

 

僕がこの世界に来た当初、貂蝉は僕の存在をイレギュラーと呼んでいた。

そしてあいつは、今回の件を一言も話していない。知っていたら教えていたはずだ

 

管輅「あぁ、だって言っていないもの。私、あの人苦手なのよ」

 

零士「……それは、冗談か?」

 

管輅「ふふ、半分は。もう半分は、私は他の管理者と会うことができないから。

だから伝えようがない」

 

零士「どういう事だ?」

 

管輅「そうね、私は他とは違うから、他の管理者と接触するといろいろマズイのよ。

だって、私はこの世界を自由に作れるのよ?」

 

なるほど、確かにそれはマズイ。

例えば張譲みたいな奴が、管輅を騙す、もしくは操ったりしたら、

それだけで世界は崩壊しかねない。そう考えるなら、確かにそれは適切な処置なのだろう

 

零士「そうか。そういえば、もし僕が張譲抹殺を実行しなかったら、どうしていたんだ?」

 

管輅「そんな心配はしていないわ。だって貴方、悪は絶対に殺す事を信条としているのでしょ。

だから呼んだ。貴方のその絶対的な力と、絶対的な正義を利用する為に」

 

ずいぶんと、わかった口をきくな

 

零士「それで、用が済んだから今度は帰ってもいいか。ずいぶん勝手だな」

 

管輅「えぇ。だから選ばせてあげる。ここで生きていくか、帰還するか」

 

僕は咲夜や皆の事を思い出す。

ここ数年、皆には大切なものを貰ってきた。

それは、元の世界に居ては得られなかったもの。

かけがえのない、温かな思い出。答えは決まってきた

 

零士「悪いが、僕はこの世界で生きていくよ」

 

管輅「ふふ。貴方なら、そう言うと思っていたわ」

 

彼女は微笑み、この淡雪の中を歩き始めた。

僕は彼女の歩幅に合わせ、ゆっくりと後ろをついていった

 

 

 

 

 

 

管輅「貴方にはもう一つ、お礼言わなければいけないわ」

 

彼女は歩きながら、ポツリと漏らした

 

零士「なんだい?」

 

管輅「この子の事」

 

そう言って管輅は自分の胸、つまりは咲夜の体に触れて答えた

 

零士「咲夜の事かい?」

 

管輅「えぇ。数ある外史世界でも、彼女が表舞台に立つことは一度たりとなかった。

だいたい、貴方が数年前に救ったあの日に亡くなってしまうから」

 

零士「………」

 

だからか。一年前、張譲が咲夜を見て驚いていたのは。

あいつは管理者の記憶を持ち合わせている。

絶対に死ぬはずの存在が生きていれば、驚くだろう

 

管輅「貴方も知っての通り、彼女は全ての要素を兼ね備えている。

武力も、知力も、カリスマ性も。あの北郷一刀を唯一倒せる存在。バランスブレイカー。

それが司馬懿だった。しかし、この世界の主人公はあくまで北郷一刀。

主人公を倒してしまう存在はいらなかった。

そこで他の管理者がシステムとして組み込んだ。あの日、彼女が殺されるよう。

それも私の意思に関係なく。強過ぎる力は砕かれる」

 

確かに、彼女の才覚は凄まじかった。

武も知も兼ね備え、人を惹きつける魅力もある。

僕に制限がなかったら、間違いなく晋を建国していただろう

 

管輅「他の管理者は焦ったでしょうね。司馬懿が生きている。それだけで脅威。

張譲、貴方に次いで、三人目のイレギュラーだった。

気づくはずもないでしょうけど、貴方達って常に監視されていたのよ。

貴方達が何か問題を起こしたら、迅速に処理できるように。

あぁ、でも安心してちょうだい。今後、彼女の命が狙われることはないわ。

司馬懿に野心があれば別だったけど、それどころか結果的に北郷一刀を助けたんだもの。

障害にならないとわかれば、管理者は干渉しないわ。

これで、他の外史の司馬懿の扱いも、見直されるといいんだけどね」

 

懸念していたことを先に言われ、僕は安堵する。

これでとりあえず、咲夜の安全は確保されたんだな

 

管輅「司馬懿だけではないわ。貴方は多くの、死の運命にあった人々を救ってくれたわ。

呉の孫策、魏の夏侯淵、そして蜀の劉備…」

 

零士「劉備?先の二人は確かに助けたが、劉備は知らないぞ」

 

管輅「そうね。確かに貴方は劉備を直接救ってはいない。でも、きっかけを作ったのは貴方よ」

 

零士「……あの日の事か?」

 

僕はあの、左眼の視力を失った事件を思い出しながら答える

 

管輅「えぇ。劉玄徳という存在も、なかなか不安定でね。あの子が表舞台に立つ事は、実は稀なのよ」

 

零士「そうなのか?仮にも、三国志を代表する人物でもあるんだぞ?」

 

管輅「そうなのだけれど、その劉備のポジションに就くのが、北郷一刀だとしたら、どうかしら?」

 

零士「…なるほど。確かに必要なくなるかもしれないな」

 

この世界においては、北郷一刀が絶対的な基準だ。

彼と同等の人物が同じ陣営にいるなど、本来は好ましくないのだろう

 

管輅「えぇ。本来、北郷一刀が蜀に流れる外史においては、必要のない人物。

だから多くは、時が来る前に死んでしまうか、農民として一生を終えるかなのよ」

 

零士「そうだったのか」

 

話を聞く分には、この世界はずいぶんと北郷一刀が優遇されるんだな。

それ故に、張譲は反逆にでた。そしてあの時も…

 

零士「定軍山の戦いを未然に防いだのは、まずかったのかな?」

 

あの時の体の異常、北郷一刀の道を妨げたことによる矯正力。

本来なら消されるほどの力だったらしいが…

 

管輅「あの時はびっくりしたわ。

私は貴方がこの世界に来る際、あらゆる矯正力を受けないように細工したつもりだったのに。

北郷一刀に敵対する時に受ける矯正力だけが残っているんだもの。さすがに焦ったわ」

 

零士「となると、歴史改変自体は許されていた訳か」

 

管輅「えぇ。定軍山での戦闘時は、私も大変だったのよ。貴方が矯正力に抗えるように対抗したりして」

 

だから、事が済んだら体がすぐ軽くなったのか

 

零士「それは、いろいろ迷惑かけたね」

 

管輅「いいのよ。おかげで、この外史の住人は理想的な程生きているのだもの」

 

それ程までに、外史世界の住人は不安定なのか。神様ってのは、ずいぶんと放任的なやつらしい

 

零士「それにしても、一刀君はずいぶん優遇されているんだな」

 

管輅「あら、案外そうでもないのよ。彼がこうして成し遂げる外史もあれば、

志半ばで死んでしまう外史も存在する。今回は成し遂げた外史ね。

それに、あなたが董卓や賈詡といった優秀な人材を引き入れてしまったから、

今回はかなり苦労したみたいよ。彼女たち、北郷一刀が蜀に流れる外史では、

北郷一刀の侍女として匿われるんだもの。涙目で政治に携わっている姿は、少し笑ってしまったわ」

 

そういって管輅はクスクスと笑っていた。ずいぶんと、感情豊かな神様だ

 

零士「なら、君たち管理者は、一刀君に何を求めているんだい?」

 

彼女の言葉通りだと、別段、擁護しているようには感じない。

となると、考えられることは、北郷一刀という人物を使って何かをしているとしか思えない

 

管輅「そうね、簡単に言ってしまえば、北郷一刀が想造する外史世界を観察するため。

彼は普通ではないわ。ここまで多岐に渡って外史を想像した例は他にはいない。

一見同じ様で、実は微妙に違いがある世界。

私自身、それ自体に興味はないのだけれど、他の管理者はそこに興味を持った。

だから管理者は、データを取るために北郷一刀という貴重なサンプルを擁護した。

まぁ中には、北郷一刀をご主人様と慕っている者もいるようだけれどね」

 

なるほど、なら一刀君は、ある意味では実験動物のようなものなのか。

外史の管理者はずいぶんと学者寄りのようだ

 

零士「ん?なら、君自身が一刀君を擁護する理由はどこにある?」

 

彼女はそれ自体に興味を示していないと言っていたが…

 

管輅「ふふ、私は母体よ?夫を助ける理由は一つじゃないかしら?」

 

つまりは、一刀君を男性として気に入っているという事なのだろうか。

はは、どうやら一刀君は、神様まで落としてしまっているようだ

 

 

 

 

 

 

零士「おっとそうだ、僕の方も礼を言わなきゃいけないな」

 

ある程度知りたい事を聞いた僕は、管輅に話しかける。

管輅は歩いている足を止め、僕に振り向いた

 

管輅「あら?なにかしら」

 

零士「この世界に呼んでくれた事だ。僕がどんな人生を送っていたかは、君がよく知っているんじゃないか?」

 

僕は思い出していく。

あの世界での出来事。力を利用され、裏切られ、殺して…

守りたいものすら守ることのできない、絶望の日々。帰ろうとは思えないな

 

管輅「えぇ。候補は他にもあったけれど、貴方が一番、あの世界を憎んでいたようだったから。

容易にこの世界に組み込めたわ」

 

零士「その通りだ。世界をより良いものにする為に、いろんな人間を殺してきた。

まぁ結果は実らなかったがな。うんざりしていたよ、あの汚い仕事に汚い世界は」

 

管輅「そう。なら張譲の抹殺は、貴方には酷だったと思うのだけれど。

結局は、あの世界に居た時と変わらない仕事を任せたのだから」

 

零士「だが、その件は直接依頼されていないだろ?あれはあくまで、僕個人の意思だ。

それに、何でも屋として、魔術師としての僕の仕事はあれで終わりだ。

そう思えば、苦ではないよ。これからは飲食店の、一料理人として生き、死ぬつもりだからね」

 

管輅「ふふ、そう。貴方を呼んでよかったわ」

 

零士「僕も、ここに来れてよかったよ。ありがとう」

 

管輅「ふふ、今日は話せてよかったわ。私はそろそろ行くわね。

咲夜の事、私の子ども達の事、よろしく頼むわ」

 

零士「あぁ。もちろんだ」

 

 

ヒューーー

 

 

僕が答えると、彼女は微笑み、直後に強い風が吹いた。

そして僕が目を瞑ったその一瞬で、彼女は姿を消していた

 

零士「そこで見てるといいよ。君の子達は、僕が責任を持って守る」

 

僕は空を見上げ、そう呟く。その言葉に答えるかのように、さらに風が吹いた。

僕は笑みを漏らし、その場を後にした

 

 

 

さぁ帰ろう

 

 

 

皆がいるあの家に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

 

こんにちは、桐生キラです!

 

 

 

はい、といった感じで、真・恋姫†無双 裏√全65話、いかがだったでしょうか?

 

前回で綺麗に?オチているとは思いますので、この回は完全に蛇足と言ってしまっても過言ではないんですが、裏√はこの話を元に作ったようなものなのです

 

つまりは…

 

1.零士が外史入りした理由

2.司馬懿が死ぬ理由

 

この二つを説明して初めてこの小説は終わりを迎えます

 

前回のあとがきにも触れましたが、裏√は所謂本編の裏側が舞台のお話であり

 

なぜ、原作で司馬懿が出てこなかったのかという発想を元に書いた作品になります

 

その中で、北郷一刀という「主役」に敗れる悪党の心境や

 

外史の仕組みをなどを盛り込んでいます

 

司馬懿=三国を統一するきっかけを作る人物なので、生きていれば北郷一刀最大の敵になるだろうという発想から、司馬懿は表舞台に立てなかったのじゃないかな、という解釈になります

 

そういった解釈から、司馬懿は死に、何度か言いましたが「主役」は北郷一刀になるのです

 

この回を含め、外史に対する解釈は、あくまで私個人の主観によるものなので、これが正解とは思いませんし、これが間違っているという意見があれば、それはそれでいいと思います。ただ、こういう考えがあったということをご了承ください

 

 

 

思ったよりも長くなったこのお話ですが

 

毎度毎度付き合ってくださった方、コメントをくださった方、お気に入り登録してくださった方、メッセージをくださった方、

 

本当にありがとうございました!

 

みなさんの応援があったから完走できたんだと思います

 

未熟な部分は多々あったと思いますが、その都度指摘してくださる方々も、本当にありがとうございました

 

 

 

次回作もいろいろと考えていますので、その都度お付き合いしてくださると作者は幸せに思います

 

重ね重ね、今まで本当にありがとうございました!

 

またいずれどこかで会える事を祈っています!

 

それでは!

 

 

 


 
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