第二十五話 GAME1-1
(花のような笑みを浮かべる子供達だったと思う)
世界には大勢の乞食がいて、世界には大勢の貧困があって、世界には大勢の恵まれぬ国がある。
その中には大勢の子供達がいる。
人口の半分以上が若年者で占めるようになってしまった国で世界の縮図が蠢いていた。
100cal(カロリー)足りないばかりに死に逝く子供達がいる反面、祖国は豊かだ。
極東の島国でありながら、食物に溢れ、廃棄すらしている。
その差とは何なのか。
考えたところで無駄なのは知っている。
豊かさとは対比するもの無くして成り立たない類の言葉だ。
持たざる者と持つ者の溝は深い。
ただ確かなのは弱者が食い物にされているから何処かの誰かの豊かさが保障されているという事だけ。
最貧国から穀物を大量に買い付ける穀物メジャーが悪いのか。
投機目的で何処までも穀物の値段を上げる資本家が悪いのか。
食物の無い悲惨さを知らぬ顔で放置し続けた先進国が悪いのか。
昨日の食事を捨てながらでダイエットに勤しんでいる国民が悪いのか。
穀物限界を知りながら己の国しか省みない世界中の市民が悪いのか。
未だ回答らしき回答があっても子供達は救われていない。
明日の糧に苦しいから盗みを働く。
今日の糧に困るから誰かから奪う。
明日の糧に怯えるから他者を廃す。
子供達にお腹一杯の食事より麻薬と銃を押しつける事を世界は望んだ。
武器弾薬に消える資源に豊かさの象徴は無い。
革命と武装蜂起と紛争と戦争と民族衝突と資源開発は豊かさを生まない。
搾取された末に細々と生き残る人々がいるだけだ。
【 先生 】
子供達に文字を教えた
【 先生 】
子供達と食事を共にした。
【 先生 】
子供達と地球儀を回した。
【 いつか先生の国に働きに行くよ 】
そう約束した。
【 そうしたら先生にきっと会いに行くよ 】
結果はどうだ。
結果はどうだった。
立てた学校は灰になり、子供達は連れ去られ、女は消耗品となり、男は麻薬漬けにされて戦場へ駆り出され、殺し合いの果てに国連軍なんて何処の国の人間かも解らない人間に包囲され捕らえられ銃殺されて、残ったのは嘆く者もいない荒野と芥子畑だけだったなんてお笑いもいいところだ。
そして、天罰のように病気が残った子供達も奪い去った。
世界は子供達を救わなかった。
先進国は見てみぬふりをした。
悪いのは誰か?
決まっている。
誰よりも悪いのは決まっている。
【 はい。これ 】
悠久の大地に咲く花を受け取った。
受け取ったのに。
それなのに辛い生活に嫌気が差して逃げ出した。
帰りたいと弱音を吐いた。
家族に会いたいなんて今更な台詞を呟いたのは誰でもなく。
どうしようもなく惰弱な自分。
『 うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッッッッ!!!!!!!!!! 』
走馬灯のように全てが脳裏を駆け去っていく。
鼻水が出る。
涙が止まらない。
視界が歪んでいる。
鼓膜はとっくの昔に破れている。
血が出る。
何かが喰い込んでいる。
頼りない腕で銃を振り回し、頼りない足で踏ん張り、頼りない声で叫び、頼りない自分が死に物狂いになる。
それは懺悔か。
それは悔恨か。
違う。
これは贖罪だ。
ただ自分が自分に課した償いだ。
『 うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!! うあ゛あ゛ああッッッッ!!!! あ゛ああ゛ああ゛あッッッ!!!! 』
お金がいる。
何もかもにお金がいる。
貯金ではダメだ。
そんなものはすぐに消える。
真っ当に働いてもダメだ。
そんな自己満足は屑にも劣る。
何もかもを変えるお金がある。
そう聞いたのだから、そうするしかない。
そうしないなんて嘘だ。
自分の心まで嘘になってしまう。
『 あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ、あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!! 」
犯罪?
知ったことじゃない。
親が泣く?
もう死んでいる。
だから、全てを変えるお金を欲した。
ゾブッッ。
そんな音がして足に力が入らない。
茶色い何かが自分の太ももに潜り込んでいた。
『 ―――――― 』
夢中で撃った。
撃った撃った撃った!!!
撃って、撃って撃って、撃って撃って撃って、撃ち続けた。
それでも視界は茶色いもので覆われている。
世界にはそれしかない。
それはまるであの日の大地のよう。
あの日、戻った世界で見た茶色い茶色い大地の色。
地雷が危ないよと誰かが言って、泣き崩れた大地の色。
世界はどうしようもなく悠久だった。
世界はどうしようもなく人の肌を浮き彫りにさせた。
銃弾の薬莢とまだ焼き払われていなかった芥子畑だけが清(さや)かに音を立てて。
【あんたの役目は第一GAME。ま、要は生き残れたらラッキーな捨て駒だよ】
お金を集めて、集めて集めて集めて集めて集めて、集めきった先で見つけた仕事。
金が欲しいならくれてやる。
金の使い道だけは用意しておけ。
言葉は簡潔でとても芳しい響きを伴っていた。
提示された金額は集めたお金の三倍。
もしもGAMEに出るならば、その契約金の頭金だけで四倍。
全てを前払いにして、弁護士と信用できる人に全てを託し、己の全てを最後の一円まで清算して、一文すらないただの女になったなら、GAMEに出られる。
家も住所も免許も名義も車も家財も売り払い、後はGAMEに出て生き残れれば、二十倍のお金が手に入る。
だから。
『 !!!!!!!!!! 』
茶色いものがプチュプチュ弾ける。
赤いものがビュクビュク跳ねる。
世界は斑になっていく。
世界はきっと子供達が死んだ日と同じ色。
それでいい。
でも、それではいけない。
生き残らなければ、お金は手に入らない。
だから、生きる。
生きて生きて生きて生き延びて。
ギギィイイ?
そんな可愛らしい音がして、指の感覚が無くなった。
引き金を引き続けているはずなのに世界はただ赤くなっていく。
命が大事?
今更。
怖くて怯えて何になる。
泣いて喚いて何になる。
茶色いものを両手で掴んで真っ二つに引き抜く。
ズルリと変な液体に濡れながら、足で地団駄を踏む。
潰して引き抜いて、潰して引き抜いて、潰して――――視界が茶色くなった。
片目はもう見えない。
銃は有るのか無いのか解らない。
世界は茶いろくなっている。
いや、くろくなっている。
ああ、もういいやなんておもえないのに・・・どうしてねむく・・・わからなく・・・それでもわたしは
ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ。
ちゃいろいなにかがこすれあ
こどもたちがよんでい
それならいっ
【ダメ】
え?
【そんなのダメ】
なんで?
ちゃいろいせかいがふきはらわれる。
せかいにいろがもどっていく。
そのいろはこんじき。
いつかみた。
あのひのおうごん。
そらをそめていた。
こどもたちのえがおをてらしていた。
どんなひとのこころもあらわにするいろ。
にぶいおかねとはちがういろ。
【死んじゃ、ダメ!!】
【あなたが誰なのか知らない! でも、こんなところで死んだらダメ!!】
体があたたかい。
いつの間にか。
茶色いものは全て動かなくなっていた。
『 どう、して? 』
応えはない。
ただ、金色の髪の擦れる音と。
温かな日の感触だけが、世界を染めていった。
それがGAMEに参加した最初で最後の日。
それ以降の事は覚えていない。
不意に見上げれば深夜の月。
公園で一人だった。
手元に残った小切手が、そのGAMEと自分を繋ぎ止めたものの、それも消えた。
最後に残されたのは無くなった人差し指と見えなくなった左目のみだった。
「・・・・・・」
そんな、夢から覚めた。
ダンボールに包まりながら冬の空を見上げる。
片目には未だ曇っている空が映る。
いつかはこの空もあの日のように輝くだろうかと、そう思いながら空き缶集めを始めようと起き上がる。
【あなたが―――――さんですか? わたくしこういう者なのですが】
見れば、見知らぬ男が傍らに立っていた。
渡された名刺にはGIO日本支社人事部部長の文字。
【『中臣修(なかおみ・しゅう)』と申します】
【我が社で働いてみませんか?】
【今、我が社は学校法人の経営に乗り出している最中でして。あなたのような人材を必要としています】
命以外の全てを失った自分に一体何が出来るのだろうか。
【勿論、来てくださるならあなたの現状の改善をお約束します】
高い人生の授業料を払って、残ったのは我が身一つ。
【子供達の笑顔をもう一度見つめてみませんか?】
「・・・・・・・・・話を聞いてくれますか?」
柔和な笑みを浮かべる悪魔のような囁き声の男に。
「花のような笑みを浮かべる・・・そんな子供達だったんです」
私は自分の一番大事な話から始める事にした。
*
奇特な人間もいるものだ。
彼は一人トップ集団から引き返した少女の事を惜しく思った。
第一GAME序盤。
多くのチームに言える事は何よりも他者の出方を伺うという一点に尽きる。
その為に敢えて捨て駒を持ち出して様子見だけさせる事も稀ではない。
十五チーム中で五チームが新規参加。
五チームが過去のGAMEに参加した経験あり。
四チームが各国からの飛び入り参加。
そして、最後の一チームがよく分からない。
十四チームほぼ全てのデータが揃っているというのに最後にエントリーされたチームだけが正体不明。
事前準備段階でまったく影も形も無かったチームのメンバーの顔は多彩だ。
ゲルマン系の少女。
アジア系の少女。
日本人の青年と壮年。
更に何人かも定かではない女。
女に関しては昔から日本を知っている仲間からの情報で日本を拠点にしている【あのフィクサー】ではないかとの話も出た。
第一GAMEで早くも出てきた十代の金髪の少女は手に何も持っていなかった。
男のような格好で身に付けるものも無く。
武器の類を隠し持っている様子も無く。
他の参加チームの殆どが訝しげに注視しても動揺せず。
GAME開始と同時に蟲の大群の中を颯爽と駆け抜け、トップ集団の中へと躍り出た。
そんな少女が何故か悲鳴を聞いて立ち止まり、蟲の絨毯を踏みつけるようにして戻っていった。
その時点で他のチームは少女に脱落の烙印を押して思考を停止したものの、彼は一人戻っていった少女について思考を巡らせていた。
華奢に見えながらも圧倒的な身体能力は見事と言う他無い。
何かしらの技術で身体能力をサポートしているのかもしれないが、身のこなしまでは身に付かない。
少女でありながら蟲に対する嫌悪で体を硬直させる事も無かった。
唯一惜しいと思えるのはその思考。
GAMEに参加するほどに深い闇の中を歩きながら悲鳴を見過ごせなかったという一点。
(どうすれば、ああいう人間が出来る?)
彼はブーツで蟻の大群の最中を疾走しながら片手のナイフを閃かせる。
周囲から飛び掛ってくる蟻に群がられないよう一時も足を止める事なく。
(我らが國にも中々あの種の目が出来る人間はいない)
研究棟内部の電源はもう入れられている。
視界は暗視ゴーグルを使わずとも明るい。
「・・・・・・」
思い出されるのは接続領域内で他の幾つかのチームが感情丸出しで少女を見つめていた時の光景。
その無礼にも程がある者達を見返した少女の瞳。
凍えるような冷たさも燃え盛るような熱さも無い。
無機質な硝子球の瞳。
感情と理性から切り離された視線には何も読み取れず。
見られた者の背筋に振るえが奔るような・・・【モノ】を観察する気配だけがあった。
幾分か興奮し高ぶっている参加者が大多数の中、その場に異様な静けさを齎したのは間違いなく非力そうな少女の眼光だった。
(久しぶりに呑まれそうな目に会ったが、あんな目をしながら何故他者を案ずる? 何処か噛み合わん)
彼はやっと蟻の大地を抜け切った。
蟻が入ってこないのはどんな理由からか分からなかったが立ち止まらずに階段を駆け下りていく。
大きな円筒形状の空間に階段が幾つも設置されていた。
三つの階をぶち抜いているシャフト。
その最下層まで続く階段は普通に歩けば二分以上掛かりそうな代物だった。
最下層までは電源が回っていないのか。
円筒形の底は薄暗い。
(あのGIOが用意したGAMEがこの程度であるはずもない。さて、どうする)
他のトップ集団は更に先行している。
しかし、彼は走りながらも決して周囲の警戒を怠らなかった。
黒い薄型のカーボン製防弾防刃服に各種装備を備え付けたジャケット。
拳銃はオートマチックを腰の後ろと両脇、両太ももに一挺ずつで計五挺。
アサルトライフルを片腕に抱えて、最新のエアフィルターを搭載したマスクと薄型の暗視ゴーグルを首の後ろに下げている。
それなりに良質の装備ではあったがGIOのGAMEでは軽装とすら言える。
安易に目標へと突撃すれば一瞬で命を落とす可能性は高い。
『うあああああああああああああああああああ!!!!!』
さっそく犠牲者の悲鳴。
彼が足を止めてゴーグルで最下層を覗く。
最下層近くの階段付近で百足らしき生物に男が一人巻き付かれていた。
他にはバッタらしき生物に蹴り飛ばされる者。
ゴキブリらしき生物に群がられる者。
蜘蛛らしき生物の糸に絡め取られている者。
本来の蟲は臆病であり、そもそも人間にわざわざ自分から襲い掛かるなど有り得ない。
(だからこその生物兵器か? いや、それにしてもおかしい。捕食対象が近くにいるにも関わらず人間を襲うだと? そもそも共存出来るような蟲の種類じゃないはずだが・・・GIOめ。何か隠しているな)
彼は視界の端に先行する最下層から一層上の通路へと侵入するチームの一隊を見つける。
(構造上、最下層には幾つかのルートで侵入出来る。二階から別ルートだな。これは)
即座に彼は階段の手すりにフックを付ける。
細いワイヤーを掴んでそのまま虚空へと身を躍らせた。
重力の捕まりながらもワイヤーを操り数秒で二階部分の階段の淵に下りた彼は周囲を一瞬で見渡し、脳裏に予め叩き込んでいた構造図と照らし合わせる。
三つの階に分かれている研究棟はシャフトを基本として四つの通路で区画を分けている。
最下層の中心。
サーバーの安置室へと行く為には最下層の四つの通路、その終端にある扉のどれかから入らなければならない。
扉を開けるコードは各自持たされている端末にインプットされていて、扉の制御システムが自動的に読み取って開くという話になっている。
つまり、まずは最下層へ降りるのが第一段階。
その最下層にある四つの通路のどれかの終端まで辿り着くのが第二段階。
終端の扉から中央へと向かい情報を得るのが第三段階。
得た情報を持って接続領域に帰るのが第四段階。
四つの段階を得ずして第一GAMEは終わらない。
(二階の南は食堂と研究者達の私室が多く有る。通路も僅かに広い・・・確かに俺でも人数がいれば其処にベースを置く)
最下層にアタックを掛ける為エントリーしている全ての人間を投入したチームがいた。
たぶん二階の通路に入っていった数人は全員が南口の食堂に拠を置く。
(だが、蟲の性能が未だ不明確な以上、一箇所に留まるべきではないな)
どれだけの蟲がいるかも定かではない研究棟内で一箇所に留まれば、蟲を集める事にもなりかねない。
蟲は基本的に特定の能力で驚異的な性能を誇る。
しかし、本当に怖いのはその数。
最初の蟻が良い例であり、限られた装備で攻略する為には出来うる限り戦闘は少ない方がいい。
装備を過信すれば、最終的にどうなるか分かったものではない。
(北は物資の保管庫。各セクションへの搬送用通路が併設されている。最下層への小型のエレベーターに電源が入っているなら・・・狙い目か)
彼は注意深く周囲を警戒しながら小走りに北口へ向かった。
それが彼にとって最初で最後の間違いだった。
*
使命、任務、仕事、どんな言い方をしたところでやっている事は変わらない。
どこまでも続いていく徒労を積み重ねるという事。
その先に目的を果たすという事。
それだけの事に過ぎない。
蟲に喰われそうになってすら、やっている事の本質に変化は無い。
参加者達にはそれぞれの理由があるだろう。
理由が高尚か下劣かは分かれても各々にとって命を掛けるに値する理由である事は間違いない。
問題は常に己だ。
やりたくてGAMEに参加しているわけではない。
強制された結果がGAMEへの参加であるだけだ。
例えば、それは組織への忠誠を示せとのお達し。
例えば、それは捨て駒になれとの命令。
例えば、それはどうしようもない暴力を背景にした圧力。
一々挙げれば切りが無い。
弱者に拒否権が有るわけも無く。
逃げるなんて不可能に違いなく。
だから、どうしようもないと諦めて腹を括るのだ。
最下層まで何とか降りてもそこからは一人。
よく分からない蟲に追い立てられながら通路を突っ切って、真横の部屋から飛び出してくるトラップもいいところだろう蟲の顎を掻い潜り、縋る希望も無く通路の一番奥の扉を目指す。
二百メートルの障害物競走。
障害を乗り越えられなければ死あるのみ。
即、仏の仲間入り。
バックアップしてくれる人間なんていない。
転びそうになる足だけが頼りの一発勝負。
最後の最後まで気の抜けないゴールへの道程。
扉の前に辿り着いた時、もう心臓は早鐘も打たなかった。
振り返れば、蟲で一面を覆われた通路。
退路は無い。
端末を取り出して扉の前に翳せばロックが外れて開く。
駆け込んだ扉が閉まった時、恐ろしいくらい扉が打ち鳴らされた。
死の足音というものがあるならば、間違いなくソレだろう。
扉の中は明るい。
最下層より下に向かう通路。
施設の中央に位置するサーバー安置室。
扉は複数存在し何重にもロックが掛かっている。
一つ一つの扉が開き、最後の一枚が開ける。
丸い円筒形の室内。
その中央にあるのは薄く巨大な白いモノリス。
ブレードサーバー。
サーバーには幾つもの接続端子。
持たされていた端末からコードを引き出し接続する。
すぐにダウンロードが始まった。
ホッと一息付いたのは責められるような事ではないと思う。
しかし、致命的に脱力していた体が、致命的に立て直せず、崩れ落ちる。
声を出そうとして気付く。
チクリと全身に感じる痒み。
首筋から何かが不意にピョンと床に飛び降りる。
それはどんな家にも必ず一匹はいるだろう生き物。
蚤(のみ)だった。
普通よりも肥え太っているようにも見える大きな蚤。
馬鹿馬鹿しい、そう笑みが浮く。
そんな蚤を掴もうとした手がもう斑に腫れていた。
僅かに動く指で端末を掴もうとして、手が白い何かに触れた。
粘り気のあるソレが何かと考えるより先に目の前にカサカサと小さな足音を立てるものが通り過ぎる。
小さな蜘蛛。
見れば、いつの間にか体に薄く白いものが掛けられていた。
首を動かして上を見上げる。
頭上から幾つかの複眼が見下ろしていた。
「・・・・・・」
餌も罠も上等と。
渾身の力で銃を掴み持ち上げる。
撃てば、文字通り蜘蛛の子を散らすように小さなソレらが逃げていく。
シャカシャカシャカシャカ。
抵抗して抵抗して撃って撃って。
コンプリートの文字が端末に表示される頃。
視界は白く、少しずつ白く染まっていった。
*
第一GAMEを見つめていた招待者達は寛ぎながら定点カメラからの映像を見つめていた。
接続領域の扉の外。
未だ人は映らない。
しかし、殆どの客達は施設内で動き回るGPSの座標情報からGAMEが終盤に差し掛かっている事を知っていた。
客達の見る座標情報には異変が起きている。
全てのチームが今や殆ど重なるように移動していた。
座標の動き方は客達に賭けの行方よりも何が起きたのか知りたいとの欲求を駆り立てる。
GPS座標の固定は大概にして端末を持つ者の死を意味する。
死人が出るのは珍しくも無いGAMEにおいて動かない座標に一喜一憂する客は多い。
GAMEが始まってから二時間半。
散らばって止まっていたはずのチームの座標が何故か動き出した時、客達の半分以上は蟲に端末が運ばれているのだとそう理解した。
しかし、各チームの座標が一つずつ寄り集まっていくという現象に客達は自分達の考えているような事実とは別の可能性があるのではと興味を膨れ上がらせた。
部屋に到達したチームの座標すら、その一点に集まった時、客達は何が起きているのかと本気で不可思議に思い、己の想像しえない結末に胸を躍らせた。
定点カメラの位置は最初の通路をそのまま映している。
全ての座標が曲がり角に差し掛かる。
何が現れるのか。
それを客同士で賭け合った者が大勢いた。
あれはきっとチームを食い尽くした化け物だ。
いや、あれはたぶん端末を全て回収した猛者だ。
的外れと思える予測も的射たと思える想像も客達には娯楽の限りでしかない。
その座標の謎が角を曲がる。
最初に画面に現れたのは蜘蛛だった。
客達の間にどよめきが奔る。
勝った勝ったと驕る客に負けた負けたと溜息を吐く客。
その様子が一変したのは蜘蛛の後ろに数人の男達が歩いてきた時。
今度は負けた客が勝ったと騒いでいた客に大笑いする。
それで全てが決したかに思えた時、客の幾人かが気付く。
蜘蛛は何故かカメラに背後を晒し、何かを引きずるように下っていた。
更に蜘蛛の足の合間から蟻がワラワラと湧き始める。
その段に到って、GIO日本支社に招待された客達の殆どは静まっていた。
海外などの遠方で賭けを行っている客達も画面にただ釘付けになった。
肩を貸し合いながら歩いてくる男達。
血を流し、粘液に塗れ、体を自分とは別のチームに運んでもらっている者すらいる。
だというのに、蟲は男達を襲ってはいない。
それどころか。
複数の蜘蛛達が引っ張る白い糸の先には倒れた人間が蟻を下にして引きずられながら呻いていた。
無数の蟻と数匹の蜘蛛と倒れた男達。
敵対するはずの存在が何故か助け合いながら歩いてくる姿に客の一人はタバコをポロリと床に零した。
映像の中。
男達が接続領域の扉前に集結していく。
蟲に運ばれてきた者を掴み上げて担ぎ、無事な者は倒れそうな者に手を貸していく。
ギブアップした者以外の殆どが其処にいた。
蜘蛛や蟻達が仕事を終えたとばかりにカシャカシャ足を動かして通路の奥へと待避していく。
映像を見つめていた客の殆どは男達が無事帰ってきたというのに扉ではなく通路へと視線を向けている事に気付き、唾を飲み込んだ。
カツンカツンと靴音がして角を曲がる。
映像の中に見えたのは武装なんて何も身に付けていない金髪の少女と男が二人。
少女は大の男二人に肩を貸して歩いてくる。
大勢の蟲を背後にして平気で歩いてくる。
男達が自然に左右に道を譲った。
Shepherd.
客達の一人が呟いた。
惹き従える者。
その意味を正確に理解する外国の客達は脳裏に同じ答えを見出した。
少女が両肩の二人を男達に預けて、後ろを振り向く。
「ありがとう」
少女の呟きを聞いてか。
今まで通路の奥にいた蟲達がまるで潮が引くように消えていく。
「・・・あんたのだ」
「え?」
蟲を見送った少女に男の一人が蜘蛛の糸に塗れながら震える手で端末を渡した。
「誰にも文句は言われないさ」
少女が端末を見て、それがサーバーのデータが入ったものだと気付く。
男達はその光景を見つめながら何も言わなかった。
「ギブアップだ」
糸に塗れた男の声と共に扉が開く。
第一GAMEはあっさりと幕が引かれ、客達の間にも静寂だけがあった。
*
映像を部屋で見続けていた久重がさすがに驚いた様子でカメラに映ったソラを見つめていた。
「NO.08“The Shepherd”もうすでに開放されてたってわけ」
未だに顔が青く具合の悪そうなシャフが嗤った。
「知ってるのか?」
久重の言葉にシャフが吐き捨てるように言葉を紡ぐ。
「生物を制御する為の脳機能干渉プログラム。有り体に言えば都合の良い洗脳プログラムよ。博士が死んだから他のオリジナルロットにすら組み込まれてない。【D1】が抱えるプログラムの内で最も悪性な代物。ふん。お似合いじゃない」
シャフが具合も悪そうに俯いた。
「ダウトだよ。さすがにまだ人間の脳を完全に支配するような技術は確立されてない」
アズの言葉にシャフが皮肉げに応える。
「それはそうよ。そっちは心理学分野で【連中】が研究を継続中だもの。あれはあくまで生物の脳機能を簡易制御する為の代物。本来はBMI技術への適合や脳機能の強化に使う補助プログラムに過ぎないわ。ま、それでも蟲程度ならああいう芸当もできるんでしょ。博士がどこまで出来るものを作ってたか知らないけど・・・」
シャフが瞳を細めた。
「せいぜい気を付ける事ね。いつの間にかあの子の思い通りの人間にされてるかもしれないわよ?」
毒の混入を忘れない物言いに久重がやれやれとシャフを見つめる。
「ま、それは後で本人に聞くとして、だ。お前・・・蟲とかダメなのか?」
「―――ッ!! そんなのあんたに関係ある!?」
「さすがに野外でGAME中に蟲が怖くて気絶しましたとか格好付かないだろ?」
「―――蟲が嫌いな女の子がいちゃ悪いっての!?」
「自分の事を女の子とか言うには程遠い存在だと認識してないのか?」
「ッ、言わせておけば?! あの子だって初めはあんなの絶対無理だったわよ!?」
「初め?」
「研究所(ラボ)には緊急時のマニュアルがあった。食料制限で備蓄の代わりに蟲を食べる訓練なんてあんたした事ないでしょ? 蠅(ハエ)に蜚(ゴキブリ)に蝗(イナゴ)。ゲテモノを一ヶ月も食べさせられれば誰だって―――ぅう」
嫌な記憶でも思い出したのか口元を押さえてシャフが青くなった。
「結果が出たようだね」
アズの声に久重が振り向くと画面に各チームの得点が映し出されていく。
「お嬢さん。コレを」
今まで静観していた田木が何処から取り出したのか小さな紙袋をシャフに差し出す。
それに耐え切れなくなったのか。
シャフが部屋からバタバタと外へ駆け出した。
「蟲・・・喰えるか?」
久重の質問にアズが苦笑いした。
「昔食べた事があるけど、口には合わなかったね。どうやらソラ嬢は訓練で百点。シャフ嬢は零点だったらしい。僕は五十点くらいかな」
「ふむ。蟲は消毒すれば結構イケる口だが? 近頃は自衛隊にも蟲の缶詰があって結構美味いものだ」
「順位が出るよ」
アズの言葉に三人が黙って画面に見入る。
一位。
天雨。
232Point。
「何処のチームだ?」
「何処って僕達だけど?」
「・・・そう言えばチーム名とか聞いてなかったな」
「行き当たりばったりでチームを集めてたからね。僕も言い忘れてたよ」
「ホントにな」
己にすら呆れた様子で久重が苦笑する。
久重もまったくチーム名なんて気にした事が無かった。
「でも、少なくとも僕が知る限り、僕達以上にスキルのある人間も珍しいよ。今回のGAMEに参加する人間の資料は一通り見たけどね」
「そりゃな。闇のフィクサーに元エリート自衛隊員に不思議少女×2もいれば」
「君だって一応はジオプロフィットのスペシャリストだろうに」
「本格的に開拓され始めてまだ半世紀の分野だぞ? その系統の法律には詳しいし、関連の情報は色々と新しいのを仕入れてるがまだ新しい学問として未熟過ぎだろ。関連書籍を十冊も読めば誰でもジオプロフィット博士だっての」
(謙遜してる割に大学で講師を引き受けてくれって君は頼まれてるけどね)
アズが知る限り、久重はそういった頼みを断り続けている。
優秀でなければ声なんて掛けられるわけもない。
「久重。どうやら今日の主役がご帰還だ」
久重が後ろを振り向くと同時に扉が開いた。
「ひさしげ」
「早かったな」
そのまま久重の前まで来てソラが止まる。
「一位。取れたわ」
何処か陰りのある顔で報告するソラの頭に久重が手を置く。
「ああ、見事だった。それによく頑張った」
「でも・・・」
「気にしてない。あそこで見捨ててたらオレが助けに行ってるかもしれない」
おどけた久重にそれでもソラの顔は浮かない。
「だけど・・・NDも使って・・・」
「別にいいよ。そこは僕が矢面になるからね」
アズが笑う。
「え?」
「どういう事だ?」
「僕も腹を決めたって事。チーム名を見て僕の姿を知ってる連中がいれば納得してくれるよ」
二人がアズの言っている意味が分からず同時に頭へ疑問符を浮かべた。
*
第一GAME終了から三十分。
不自然に髪の黄色い全身傷だらけの少女亞咲は自室の壁一面に映している参加者達の記録を閲覧していた。
一人ソファーで寛(くつろ)いでいると端末に着信。
亞咲が掛けてきた名前を見て端末を耳に当てる。
「会長。新規のチームが一つ潰れました。それに古参の方も幾人かリタイアです」
耳から聞こえてくる暢気な声に亞咲が目を細める。
「それにしても趣味が悪いかと。生物兵器なんて嘘よく考え付きましたね?」
テーブルの上に置いてあった水滴だらけのカップからチューハイが手に取られた。
「ただの食品サンプルやサンプル作りの為に作った適当な蟲の暴走。大型化させる為に蟲の脳を肥大化させて人間みたいな食欲を植え付けようだなんて・・・変態過ぎたかと」
会話相手が何やら言い訳らしき言葉を並べ始める。
「前から言おうと思っていましたが、食用蟲の大型化研究なんて卑猥な事をしてるのはウチくらいですよ?」
端末から疑問の声が上がった。
「何処が卑猥なのかって・・・日本はそういうお国柄だと思います。蟲を食べようとして蟲に食べられたなんて笑い話やホラーじゃなくて猥談の類です」
感心するような声に亞咲がやれやれと肩を竦める。
「日本文化が分かってきたじゃないか、ですか? いえ、理解できません。それでCEOの件はどうしますか? 今回のあの少女の性能とチーム名から客の幾人かが気付いたようですが」
冷静な声が応える。
「放っておけと? 分かりました」
それから声の主に亞咲が幾つかの命令が下される。
「はい・・・はい・・・では、軍閥からの使者にはそのように」
端末が一方的に切れる。
それを見計らっていたかのようなタイミングで部屋の扉が叩かれる。
「どうぞ」
亞咲の声を検知した扉のロックが外れる。
ぞろぞろと入ってきたのはスーツ姿の男達だった。
男達の先頭に立って歩いてくるのは髭を蓄えた四十代の男。
野性味に溢れる獣よりも鋭い視線が同じくスーツ姿の亞咲を捉える。
筋骨隆々とした肉体はスーツをはち切れんばかりに内側から膨張させていた。
「亞咲さんですね? 軍閥統合本部から参りました。第四特務大隊隊長『池内豊(いけうち・ゆたか)』と申します」
丁寧なお辞儀と共に笑みを浮かべた男に亞咲が興味も無さそうに映像を見ながら応える。
「日系八世の中国人。軍閥に入る前はPMC(民間軍事会社)最大手で軍事顧問をしていらっしゃった『あの池内豊さん』ですか?」
「はい。その池内豊です」
「ウチの人間が一応警備してたはずなんですが、どうしましたか?」
「少しの間、眠って貰いました。通してくれと言っても通してもらえなかったので」
「それで今日は何の御用でしょうか?」
「今現在軍閥統合本部にはGIOに対して幾つかの疑念が有りまして。その疑惑を晴らさなければ、日本にご迷惑が掛かるものと思い此処まで」
「疑惑?」
「ええ、GIOからの支援が一方的に打ち切られるのではないかとの話です」
「可能性の話で言えば無きにしも非ず、というところですか」
サラッと流した亞咲の答えに微動だにしない男達の目尻がほんの微かに釣り上がる。
「ほう。それはまたどうして?」
「単純にリスクとリターンの天秤が動いただけです。あなた達を支援するリターンよりもリスクが高くなる可能性が出てきたと捉えてください。別にロシアや日本の政府から圧力を掛けられているわけでも無ければ、今更怖気づいたわけでもありません。単にその可能性があるというだけの話です」
「出来れば、リスクの内容が知りたいのですが」
「・・・天雨機関。ご存知ですか?」
池内が頷く。
「ええ、存じてます」
「それが動き出しました」
「解体されていたのでは?」
亞咲がテーブルの上に置いてあった冷め切ったコーヒーを口にする。
池内が今回のGAMEの情報を知っているだろう事は最初から分かっている。
それを踏まえて事情を話せと言っているのだろう男にどう説明するか。
亞咲は一拍の間を置いた。
「あなたは天雨機関がどういう実態を持っていたか知っていますか?」
「そう詳しくは。ただ、日本国内にいる優秀な科学者と技術者を集めた総合学術研究機関であり、その成果は不老不死にまで到達したという噂がある程度でしょうか」
「表向きの天雨機関に関する情報は今でも幾つかネット上でも散見されます。そして、データを分析すれば分かる事ですが、機関の研究の殆どは機関内部では行われていませんでした」
「どういう事でしょう?」
「天雨機関そのものはあくまで予算を付けてもらう名目で立ち上げただけの伽藍堂のハリボテ。その内実は研究者から予算と引き換えに研究成果を蒐集する蒐集機関だったという話です」
亞咲がカップをテーブルの上に置く。
「年に一回は集まって研究者同士の交流をしよう。蒐集した研究成果を基礎に新たな産業を生み出そう。本来はそういう目的で設立された機関でして。所属していた研究者にしても殆どは研究資金欲しさの名簿貸し。幽霊みたいなものでした。故に本体で働いていたのは極少人数せいぜい十数人に過ぎませんでした」
池内が興味深そうに話に聞き入った。
「その中核となったメンバーを総称して事情を知る者は天雨機関と呼称しています。ハッキリ言えば、我々のような人間にとって天雨機関とは中核研究者個人を指す場合が殆どの単語なんですよ」
「それでその天雨機関がどう我々の件に関わってくるのでしょうか?」
「中核メンバーの一人一人の才能は他に比べても突出するものでした。そして、それは今現在も変わらない。彼らの殆どが表舞台から消えていますが、その影響力は今でも世界の警察を仕切る大統領より上です。彼らはそれぞれに得意分野を持っていた。
その分野においてなら、現在の世界に彼らを上回る人間は存在しない。もしも、彼らが左と言えば、GIOも左と言わざるを得ない。
もしもそれを拒否するならGIO本体と天雨機関との抗争に発展するでしょう。その時点で発生するだろう天文学的な損失は軍閥の援助から得られるリターン程度では見合わない」
「天雨機関から脅迫を受けていると?」
「いえ、陳腐な言い方をするなら戦争のお誘いと言ったところです」
「GIOが人間一人如きを畏れますか」
亞咲が苦笑した。
本当に池内の言う通りだった。
普通ならば笑い話だ。
笑い話で済ませられる程度の戯言だ。
それでも世の中には理不尽という言葉が存在する。
「池内さん。あなた日本のアニメはお好きですか?」
「?」
「人間型ロボットや巨大ロボットが出てきたり、遺伝子を改良した人間やクローン人間が現れたり、夢のある技術が何故か戦闘の為に使われてみたり。今では五十年以上前のアニメに近いものが出来上がっています。でも、天雨機関はそれを地で行きますよ」
「言っている意味がよく分かりませんが?」
「我々GIOは物量的に無茶な行動が出来ます。そのつもりなら一国と事を構えて戦争すら出来ます。それどころかその国の経済活動を根こそぎ破壊したりも出来るでしょう。そして、それと同じように彼らは質的な無茶が出来る。
彼らは一個人で核弾頭を製造し、あらゆるセンサーを掻い潜る戦闘機を作り、如何なるコンピューターにもハッキングでき、様々な病原体で世界を死と恐怖に染める事が可能です。
その気があるなら世界を道連れに出来る能力があります。それが一企業に向けられるとするなら、テロリストより性質が悪い」
「本当にそんな事が個人で出来るのならば確かに」
「それが出来てしまうから問題なんです。彼らは天雨機関という組織で巨額の資金と恐ろしく先を行く技術を手に入れた。特定の分野において必ず世界の一歩先を往き、その技術一つで世界に莫大な影響を及ぼす。もしも、この世界に未だ【黒い隕石】が降っていなかったならば、彼らに対応できる人材も残っていたかもしれない。しかし、世界中で諜報機関が弱体化している昨今、本気の彼らを止められる組織は皆無です」
池内がいつの間にか亞咲の前に立っていた。
「ならば、我々が止めましょう」
胸に手を当てて答える池内に亞咲が首を横に振る。
「軍閥の特殊部隊程度では荷が重いかと」
「何事もやってみなければ分かりません」
「・・・そうですか。ならば、これを」
亞咲が自分の横に置いてあった数枚の資料を池内に渡した。
「彼らに今回のGAMEで勝ってください。そうすれば、幾分かの譲歩を引き出す事が出来るかもしれません」
「ご期待に沿えるよう努力するだけしてみましょうか」
「どうぞよろしく」
二人の間には終始笑みしかなかった。
数分後、男達が引き上げて行った後。
「会長。茶番好きにも程があります」
亞咲が冷蔵庫から一面に詰められた缶コーヒーの一本を取り出しながら愚痴った。
小道具のコーヒーカップから流し台に香り高い液体が捨てられていく。
「好きな女の子に意地悪って、小学生ですか。まったく・・・」
そうして第二GAMEにおいて新規参加チームが加わる事となる。
各チームは補充人員をメンバーに向かえ、再びのスタートは翌日の夜となった。
喜びに笑いあう久重達は新たなGAMEが更なる過酷さを帯びるとは未だ知らずにいた。
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