No.663223 Infinite Stratos Demolitionモードレッドさん 2014-02-14 19:40:01 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:511 閲覧ユーザー数:508 |
夕暮れのオフィスで男は一人座っていた。ただ呆然とタバコのみを口にして宙を見上げている。終わるのだ。血と屍によって築き上げられた山の上で男はポツリと呟いた。ああ、これでようやく終わるのだ。と。その計画の為にどれ程の命を犠牲にしたか。見積もって5億ほどか。そんな非現実的な数字など男の頭の中に理解するだけのキャパシティは残っていない。どれ程の命が失われるかなど元よりこの男の計算には入っていない。重要なのは自分の計画がばれるのを防ぐ。その為に仕組んだ巧妙な舞踏劇を開催した。
仮面を被ってあたかも自分は脚本家ではなく、仮面舞踏劇の一人の役者のように振舞った。周りは和気藹々と踊る中を自分だけ無粋な顔をして演じた。それでも周囲は不審に思う事はなかった。それが自分の役目なのだから。そして自分の計画は急展開を迎え、そして起こるべきはずではなかった事態まで引き起こした。その時、やってしまったと。心の底から憔悴しきった眼で彼女を凝視した。自分はどれ程自分を責め抜いたか分からない。これでは自分が仕組んだ罠に自分で嵌りに行くようなものだ。しかし何と幸いな事か彼女は自分が仕掛けた罠に気づかずにいてくれた。
「はぁ…」
煙草の紫煙がゆっくりと天井へと霧散していく。男はそこで引き出しの戸を開け特に使う用途も無いのにコルト・ガバメントを取り出した。それを男は呆然と眺め回す。暫くの後、マガジンを装填しスライドを引き、立てかけられているマンターゲットへと照準を合わせる。発砲と共に勢い良くスライドから薬莢が排出され次の弾丸が薬室へと送り込まれる。男はそれに飽きたのかガバメントをデスクへと置く。
気づかなかったおかげか、それとも運命の巡り会わせか、思った以上に敵の敵は容易く動いてくれた。敵は極めて強大だった。道行くものの全てを踏み躙って前進する軍隊だった。そこで再び戦いが起こる。またもや思わぬ誤算が彼を襲う。自分の率いていた隊の全てが全滅したのだ。胸に戦士の名誉を掲げて彼らは必死に戦った。
そこで男は自分の胸のドッグタグを見た。白銀のプレートに所有者の血がべっとりと染み付いている。名前は血に塗れて読む事は不可能だが自分は何よりもこの持ち主が帰って来る事を望んでいた。だが彼が選んだのは一人の少年としての日常より、戦士としての名誉のあり方を望んだ。それが彼が生き続けた中での彼なりの答えだったのかもしれない。少なくとも今はそれを語ってくれる人間はいない。残されたのは彼女の関係者と自らの最後の盟友のみ。時間も無い。チェスの盤は既にキングまで後一歩のところで止まっている。彼は躊躇う事無く自分のキングの駒を一歩前へと押しやった。
そして男は予定していた最後の計画へと手を伸ばす。スマートフォンの電源を入れ、その番号を入力する。
そうして電話口に出たのは、若い女の声だった。
「ジークフリード?」
「久しぶりだな篠ノ之束。アレから3ヶ月だな。どうしてた?」
電話口の女性。篠ノ之は別にとへつらうように答えた。
「ジークフリード。戦争はもう終わったそうだよ」
「お前がいる限り俺の戦争は終わらない。そして今日、ここで終わらせる」
「クリームヒルト君とかモーちゃんが死んだように?教えてくれないかなぁ~。
君の友人はどれくらい死んじゃったのかな?あっごめんね。訂正するよ。どれくらい自分の手で殺しちゃったのかなぁ!?」
甘ったるい声が脳内にべとつく様に反芻する。こみ上げてくる生理的嫌悪感を抑えて再び彼は淡々と彼女へ話し始める。
「自分の手じゃない。殺したのはお前でもない。運命だ」
アレはアクシデント。元より想定外だった。ただそれだけの事。本来彼らが生きていてもこの結末には関与させない運びでいた。死んだか生きていたかなどジークフリードの計算には何ら問題の無いものだった。
「運命って言葉に私はそうそう騙されるほど頭の軽い女の子じゃないよ」
「そうか…そうだったな」
そう言ってジークフリードはへつら笑う。自分の馬鹿さ加減を嘲り笑ったのか、あるいはこれから向かう結末に笑ったのか。
「それに、ピョートル・ヴェルキーを保持しているのは私だよ。その事を君もしっかり理解しているはずだけど?」
「やるだけ無駄だ。俺の位置など把握してはいまい」
強気の語句がジークフリードの口から迸る。それに関して確信は無いが少なくともピョートル・ヴェルキーのミサイルは全弾使い果たしたのは紛れもない事実だ。衛星軌道上から核攻撃が来る事はまず無い。そのジークフリードの表情とは裏腹に束は依然として子供じみた笑い声を上げている。まだ彼女は余裕だという事だ。
「推察するにこれは脅迫電話だね。それも間違いなく実行する類の。そしてあなたはどうしても私を始末したい訳であって。そうなれば君は必ずここへ来る。ならば私は待てばいい。それだけの事でしょ?」
束は先程の脅迫電話の一部を聞いてその可能性へと即座に思い当たる。これまでの全ての行動から彼の動きを察するに、彼はあの計画に関わった主要メンバーを全て抹殺
する気でいる。いや、戦争の混乱に乗じて亡命した主要メンバー6人の内5人を消し去った。
私がその最後の一人。篠ノ之束を消し去る事によって、真実は闇へと葬られるのだ。
「まあ、そういう事だな。残された時間を今のうちに楽しんでおけ」
「ご好意に甘えて。私はそう簡単に殺されるような性質じゃない」
「安心しろ。死ぬのは一瞬だ」
ごくありふれた宣戦布告を行って、ジークフリードは肩の荷が下りたかの様にふう、と一息つく。
そうして目の前に立つ少女の姿を彼はじっと見つめる。この少女、かつて篠ノ之束の右腕と呼ばれ、彼女に愛されて共にその道を歩んできた少女。だがその頃の愛らしい面影は今は無く、ただ復讐に駆られて銃を握り締める復讐鬼と化していた。その彼女へと一つの言葉が投げかけられる。それは単純で、明快なもの。
「行くぞ。全てを終わらせる」
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――その手に掴むのは銃か、愛か。
狂気が渦巻く戦いの末に一人の少年が得た答えとは…
この作品はハーメルンと連動して投稿しております。