No.663141

双子物語番外2 バレンタイン2014

初音軍さん

大学編。姉妹百合ですが、妹からは本命の気配しないので姉の片想いなのですが、色々複雑な環境にある不思議なお話に仕上がりました。百合っていいものですね。キス長め

2014-02-14 13:33:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:693   閲覧ユーザー数:693

双子物語番外2 バレンタイン2014

 

 大学に通うようになって、少し遠いけど格安の良い物件を見つけた。

そのアパートの名は春風荘という。部屋の個数は少ないけれど、一つ一つが

広めに設計されている。

 リフォームしたてということで古くからあるその場所は空気が綺麗で

とても居心地がよかった。そして、時が過ぎて2月14日。

 

**

 

「ねぇ、雪乃。今日は何日だと思う?」

「2月14日」

 

「何の日でしょうか~!」

「知らないわよ。そんなことより、勉強しなさい」

 

 わかってはいるが、彩菜を甘やかさないように私は知らない素振りを見せて

勉強しろと促すが、そんな私の考えは姉にはお見通しのようで私が返事をした時点で

目をすごくキラキラと輝かせている。

 

「ねぇねぇ、バレンタインだよ。チョコちょーだい」

「なんで彩菜に渡さないといけないのよ」

 

「えー」

「えー、じゃなくてほら、遅れてる分取り返すわよ」

 

 ほんとは用意は事前にしてあったのだけど、ここまで擦り寄るようにしてくると

素直に渡せなくなってしまうではないか。

 

 がっかりしつつも私が目の前にいるとしっかりと勉強をしている彩菜。

普段からそれくらいしていれば困ることなんてないのに。

 

 私以外にも可愛い子を見つけると似たように声をかけては口説き落とそうとして

いるのだからほんとチャラい。春花は彩菜のどういうとこに惹かれているんだか。

 

 この場所に移り住んでから、両隣に春花と新しく出会った金髪碧眼の外国人の子と

一緒に生活をしている。彩菜とその外国の子…とはいっても国籍は日本なんだけど。

性格が合ってるのか、普通に友達付き合いをしている。

 

 前にその子にも挨拶代わりに口説いていたのを見かけたことはあったが

気づいてるのか気づいてないのか、その子はさらっと彩菜のアピールをスルーしていた。

 

「グレタもくれたのに~」

 

 その外国の子の名前が出て、私がはいはいって答えた後にちょっとした間ができる。

 

「もうもらってるの!?」

「うん」

 

 まだ朝の時間帯である。私たちは本日は午後に一つの講義があるくらいで

グレタは午前中にあるらしいから朝起きて外に出た時にもらったのだという。

それもちゃんと「友チョコ」と念を押されて言われたそうだ。

 

「グレタは積極的だなぁ」

「春花もくれたよ」

 

「彼女からももらえたのね。じゃあもう妹からのはいらないじゃない」

「それとこれとは別だよ! 雪乃のは本命!」

 

「…それ春花に聞かれたら殺されるわよ?」

 

 妹に浮気する姉ってどうなのだろう。色々想像つかないことを平然とやるから

冷や冷やしてたまらない気分だ。

 

「嫉妬してるの?」

「馬鹿じゃないの?」

 

 これは本音。本当にその気はないのにそんなこと聞かれても「は?」としか

反応しようがない。でもこんなくだらないやりとりをしつつも彩菜はどんどんと

溜まっている課題を消化していってくれた。そんな中で。

 

「これ終わったらご褒美で雪乃に一つだけ頼みごとしてもいい?」

 

 順調だったのに何か閃いたような表情をして筆を止める彩菜。

私は嫌な予感しかしなかったが、このまま調子を落としてしまうのには抵抗がある。

そういうのをわかっていても自分の欲望に忠実で何であろうと利用するのが姉だ。

 

「そのまま進めればあっさり終わるじゃないのよ」

「私がそう言われてすると思う?」

 

「…思いません」

「さすが雪乃。私のことわかってる~」

 

「なんで呆れられてるのに嬉しそうにしてるのさ」

「さぁねえ」

 

 これ以上無駄に時間かけるのも好ましくないから私は嫌々ながらも彩菜の言葉に

承諾した。昔のことがあるから、彩菜も変なことはしてこないだろうと思っていた。

 

「わかったから、早く進めちゃいなさい」

「その言葉忘れないでよね!」

 

 私の言葉で一気にやる気が上昇した彩菜は本当に勢いどおりに残った課題を

予想を上回るペースで仕上げて終わらせてしまった。

 

 すると座っていた場所からすかさず私の隣に回りこんで、私の肩に手をかける。

 

「ちょっと、忘れてないとは思うけど。変なことしたらどうなるかわかって

いるんでしょうね」

「うっ…」

 

 過去のトラウマが復活して一瞬にして戸惑う彩菜。私の肩に手をかけていた手が

やや震えているのがわかる。

 

 これでいいんだけれど、何だか頑張った後にご褒美お預けするとかこっちの方が

心苦しくなってくる。保身のためには妥当な対応だというのに…。

そんな私の心の甘さが悪いんだろうなって思いつつ、彩菜の手の上に自分の手を

乗せて彩菜の目を見る。

 

「少しだけだからね」

「もしかしてツンデレ?」

 

「やっぱりやめようかしら」

「いやいやいや、ごめんごめんなさいいいい」

 

 必死に謝る彩菜が面白くて少しの間だけ遊ぶと、我慢できなくなったのか

彩菜はその場で私を押し倒してくる、それはもうゆっくり優しくと。

 

「待って」

「なに?」

 

 心変わりしたのかと心配していそうな顔をしている彩菜に私は倒されたまま

手を伸ばして近くにあったバッグから一つのラッピングされた箱を取り出して

彩菜に渡した。

 

「ほら、チョコ」

「さっき無いって…」

 

「そんなわけないでしょうに…」

 

 妹からの家族のチョコとして買っておいた代物だ。それをもらって気の毒なくらい

嬉しそうにありえないことを叫んでいた。

 

「本命!」

「ありえない!」

 

「本命!」

「あんまりふざけたことを言うと没収するわよ!」

 

「はい、すみません」

「よろしい」

 

 まるで犬を躾けるような感覚で迫ろうとする彩菜を人差し指の先を唇に当てて

動きを止めた。まるでご馳走を目の前にして待てをされてる犬のような表情で

私を見ている彩菜。

 

 その後、何を思ったか。彩菜はそのままの体勢で袋から取り出した一口分のチョコを

口の中に放って、優しい笑顔を浮かべていた。

 

「せっかくだから美味しい方がいいでしょ…?」

「もう、仕方ないわね…」

 

 もう二度としないという約束をして、チョコを口に含んだ彩菜とゆっくりキスをした。

口の中でチョコがとろけて甘い味が広がっていく。

 

「んぅ…」

「ん…ん~」

 

 ちゅっちゅぱっ…。

 

 美味しさとか気持ちよさの前に、彼女持ちである私は罪悪感の方が強くあって

素直に受け入れられるわけがなかった。

 

 私は途中で切り上げようと、彩菜に合図すると驚くほど簡単に口と体から離れてくれた。

 

「離れるときは随分とあっさりなんだから」

「だって、これ以上して雪乃に嫌われたくないし~」

 

「普通だったらあの時点でアウトなんだけどね」

「それはデレとしてとってもいいのかな」

 

「あのね~。私彼女がいるんだから変なことさせないでよね!」

「ごめんなさい」

 

 引っぱたいてでも引き剥がそうとしなかった私も私だけれど。

それでも彩菜に対しての思いは特別なものが芽生えることはなかった。

ちょっと他とは違う姉妹の形。

 

 だけど私が本気で拒絶しなければ周りも許容するんだから、おかしいのは私だけでは

なかっただろう。だけど、そんな周りの優しい空気が好きだからもう仕方ないんだ。

 

「雪乃ってさ、向こう行ってから寛容っていうか、すごく包容力が出てきたような

気がする」

「そうかな?」

 

「そうだよ、まるでダメな子供を見ているお母さんみたいでさ」

「そうかも」

 

 だからこそ本来はしっかり躾けないといけないんだから私はダメ親なのだ。

せめて依存だけはしないように心がけて…。

 

 そんな決意をしていたところに、彩菜の手が私の服の中にもぐりこんできて

私は思い切り迫ってくる手を服越しで思い切り叩いた。

 

「こらっ、調子に乗るな!」

 

 賑やかで大変で、だけど楽しくてスリリングで。そんな毎日が行われている。

イベント毎に騒がしくて、ツッコミ役としては忙しいけれど思ったより充実しているのだ。

 

「あ、私のホワイトデーのお返し今のでいい?」

 

 急にとんでもない話を振る彩菜に、浸っていた私は驚いて上半身を起こして言う。

 

「バイト代とかどうしてるのよ」

「生活費以外はみんな女の子に使ってるよ!そして最近足りないから…」

 

「だから今のがお返しとかないわー。そこはしっかりと返すように。

私に対してのお返しは高くつくわよー」

 

「うわーん、雪乃厳しい~~~~」

 

 泣いてすがる彩菜に私は妥協せずに突き放した。ただでさえ勉強みてキスさせたのに

これ以上は譲歩できない。特にお返しとか興味はなかったが彩菜の誠実さを計るのを

試したのだ。

 

 それから彩菜はお金の使い道を自分なりに考えて、私はお返しの当日を待つことにした。

変なバレンタインの日だったけど、これはこれで楽しかったのかもしれない。

 

 ありがとう。

 

 私の感謝の言葉が彩菜の耳に入ると面倒なことになるのでこっそりと呟くように言った。

 変な生活、変な周囲の人々。これからも私の生活は飽きるという言葉が当分

出ることはないであろうと、予感したのだった。

 

お終い


 
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