No.662543 とある傭兵と戦闘機 (IS編第二話) 性能と理解者雪下 夾矢さん 2014-02-11 21:49:04 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:4499 閲覧ユーザー数:4327 |
翌日、私は言われたとおりに第三アリーナ第四番カタパルトピットに来ていた
織斑先生が先にここに居て、山田先生が私が来た後すぐにここに来た
「さて、定刻通りに試験稼動を開始する。第零番格納ユニットをコール」
空中に映し出されたディスプレイが自動的に切り替わる
そして、最初に打鉄零式と出会った時と同じように
そこには、私の機体が居た
「お前の専用機・・・コアNo.000 打鉄零式 改 専用装備換装型だ」
私の機体・・・零式は変わっていた
外見上は通常の打鉄と同じに見える・・・各部のエネルギーラインの発光色が違う程度で
他はそのままだった
でもーーーそこには、”私”が居る。そう私の本能が感じ取った
「これよりオートクチュール換装型の稼動試験を開始する。フェイリールド、装着しろ」
私は指示通りにその機体に登場する
そして、私を待っていたかのように起動画面が表示された
”おかえりなさい”
不意に、そんな声が聞こえた
「・・・ただいま」
その言葉を発した瞬間に、画面表示が全方位に展開される
その情報を私は体で記憶して、意識を同調させる
”フィッティング確立を確認、打鉄零式改 起動”
機体を固定していたアームが解除され、私は一歩前に出た
「フェイリールド、アリーナに射出後に現れるターゲットを全て無力化せよ」
織斑先生はそんな指示と共に扉の向こうに去っていった
「了解」
とりあえず返事をして正面に向き直る
カタパルトにシステムを同調させ、対射出体勢をとってスラスターを始動させる・・・が
スラスター「・・・・・(まだ仕事できないですぅ」
「え!?ちょっ!!待ったあぁぁぁぁァァァァァ!!」
スラスターは反応せず、頑固なカタパルトは無慈悲私は空を飛べないままにアリーナに射出された
そして、このカタパルトとアリーナの地面の距離はかなりある
もちろん、高速射出されている為ある程度は勢いで飛んでいくけどさ・・・
「わぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
地面に落下衝突、猛烈な勢いで転がっていく
「うっ、わっ、わわっ!?」
何とか、途中で回転を停止させて地面に両足で立つ事に成功した
ガガガガリガリガリッ・・・ザッ
砂煙を上げて、私はやっとの思いで停止した
「しっ・・・しっ・・・死ぬかと思った・・・さて、ターゲットはーーー」
顔を上げると、そこにあったのは
「ちょっと!!ここは今立ち入り禁止のはずよ!!」
・・・赤い丸っこい機体に身を包んだ人に始まって
「何事ですの!?このアリーナは貸切のハズですのよ!!」
・・・青色の機体に身を包んだ金髪クロワッさんに
「えっと・・・」
・・・先日確か一緒に買い物に行った記憶のある金髪執事に
「訓練の邪魔立てをする者は誰であろうと許さん」
・・・同じく買い物に一緒に行った銀髪眼帯使用人に
「何が起こっているのだ?」
・・・日本刀を二振りを構えたヤマトナデシコ?って言うのかな?ああいう人の事
「何だ?学園の・・・打鉄か?」
・・・見覚えのあるトラブルメーカーが一人
・・・・・・・・・・・・
ピピッ
”ターゲットを捕捉したな
これよりお前の機体の稼動実験を開始する
このアリーナに居る、”全てのIS”を無力化せよ
尚、この稼動実験の事はターゲットには知らせていない”
そんな文章が開かれると共に、アリーナのスピーカーが響いた
”緊急事態発生!!試験用ISが何者かによって強奪された
アリーナに居る専用機持ちは速やかに対処、捕縛せよ!!”
うわあ・・・私悪役じゃないですかそれじゃ・・・
しかも私のターゲットってさぁ・・・・
「全員専用機持ちじゃないですか・・・やだぁ」
思わず呟いてしまうほどダークな状況に私は絶望した
今日は第一学年専用機持ちによる総合演習の日で
この第三アリーナを丸一日全てを使って互いの技術を競う・・・ハズだったのだが
突然アリーナアクセス用カタパルトデッキから打鉄が出てきた
そしてその打鉄はアリーナの地面に着地ーーー
「わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ではなく落ちた
そしてカタパルト射出なので物凄い勢いでアリーナの地面を転がっていく
「なっ・・・何だ?」
イマイチ状況が飲み込めてない俺達はただ呆然とそれを見下ろしていた
だが・・・
”緊急事態発生!!試験用ISが何者かによって強奪された
アリーナに居る専用機持ちは速やかに対処、捕縛せよ!!”
アリーナにある全てのスピーカーから緊急事態のアラートが鳴り響く
「あ、あれがか?」
ただいま地面から起き上がった打鉄は何かを呟いたと思ったら近接用ブレードを呼び出した
「武器を構えた。これは戦闘の意思を表しているだろう」
「あら、私達に挑むつもりなのアイツ?量産型のクセに」
リンとラウラが攻撃態勢に移行した
武器を正面に構えた私は各部調整システムを起動した
そして唖然とした。スラスターはおろかスタビライザー、武装、シールドなど
ISとしての機能が全く機能していなかった
「たあぁぁぁぁぁぁッ!!」
と、大きな中国の刀・・・あの下品な形してるアレ
アレを二刀流にして突っ込んでくる明るい紫系の機体
あれ見てると日本刀が美術品として人気が高いのは頷けるね・・・シンプル・イズ・ベスト
これ万物の象徴!!・・・っと
「うらぁッ!!」
「ほっ」
ズドォンッ!!
私が紙一重で避けた位置にはバックリと斬撃の形跡が残ってる
今考えると・・・絶対防御が働いていない状況下でアレ喰らってたらヤバイね
と、言うわけで私の選択肢は
「逃げる!!」
ダッとバックステップでそのまま外周沿いに走っていく
「逃がさん!!」
と、ラウラのメイン武装・・・シュバルツア・レーゲンのレールカノン砲弾を射出する
「うわっと!?」
緊急停止、着弾タイミングをずらした私は爆風を浴びて後ろに倒れる
「くぅ・・・」
爆風の衝撃波などはそのまま私に直撃する為、すでに意識がハッキリしないレベルになっている
それでも・・・必死に私は逃げていた
今、私を動かしているのはーーーあるAWACSの言葉
”生き残れ”
今の私は、その言葉に引っ張られて動いている
早くーーー
PICスタビライズシステム スラストリンケージコネクト オンライン
声がーーー聞こえた
「パッシヴ・イナーシャル・キャンセラー オンライン」
自分の体が浮遊する感じが全身から伝わってくる
まるで、機体が私を支えているかのように
抱き抱えているかのように
速くーーー
各部EIBS PICスラストリンク確立 オンライン
またーーー聞こえた
「PIC制御システム EIBSを常時展開に設定完了」
その瞬間、私の全身に浮力を感じる
私には、それだけで十分だった
それだけでーーー私は戦える
すると意識がだんだんハッキリしてきて、私は情況を一瞬で把握した
「武装は近接ブレード以外シグナルロックがかかってて使用不可」
モニターを確認しながら設定を開いていく
視線を次々と開かれるモニターに通していく
細かい設定をキーボード入力で入力していく
現在進行形で皆からの攻撃を避けながらそれを行っていった
「それにしても思ったより攻撃が”あまい”なぁ・・・」
確かに攻撃力自体は強力なんだけど
砲撃にしろ、射撃にしろ、近接戦闘にしろ動きの先が読めてしまう程単調だ
各部パワーアシストシステムオンライン エネルギーラインの構築を完了
画面のセッティングの状態を示すメインコントロールステータスが100%になる
打鉄零式改ーーーステリアルドアーマーをパージ
というシステムの表示と共に、一時的に回避運動が止まる
目前に迫るはIS6機からの一斉放火
それがこちらに向かってくる姿が倍速再生で視界に飛び込んできた
バババババシュッ
空気圧が抜ける音と共に、打鉄のものと同様のおおまかな装甲パーツが外れる
そしてーーーその内側に存在する”本来の翼”
コアNo.000 ”シース・ストラティア” フライトオン
システムが切り替わり、その翼は大きく広がった
装甲によって内部に格納されていたスラスターウイングが開く
ーーーいつか見たガラスの破片ような翼が、
私の頭を覆っていたモニタリングヘルメットが外れて
それと同時に高感度クリスタルバイザーセンサーが頭に量子展開された
先程の邪魔(・・・)なヘルメットの数倍は周囲を広く認識できる
「近接武装”音斬”をコール、放出エネルギーを戦闘出力にシフトアップ」
右腕に音斬を呼び出し、システムを起動させる
シィィィィン・・・
振動共振部から刃に超音波振動が伝わる
それを確認した時には、私は皆の頭上に飛翔していたーーーさあ
” Garm1 engage ”
行くよ、”ストラティア・サイファー”
「何よ!!何で当たらないのよ!!」
「何故だ・・・動きが読まれているのか?」
先程から強奪されたと思しき打鉄をリンとラウラが攻撃しているのだが
その攻撃をあの打鉄は、フィールドを周回しながら急減速のみで対応
全ての攻撃を回避していた
「僕が援護するよ!!」
「私も援護しますわ!!」
それに更にシャルのリヴァイヴとセシリアのブルー・ティアーズの援護射撃が加わる
四人の砲撃、射撃がその打鉄に向かって飛翔していく
しかし、その攻撃もまた簡単に回避して打鉄は周回を続ける
「それにしても・・・どうして攻撃して来ないんだ?」
そう、その打鉄は攻撃を回避するだけで反撃をして来ないのだ。しかもーーー
「~♪」
片手でディスプレイ操作しながら、打鉄の搭乗者は砲火の中で楽しそうに鼻歌を奏でていた
そこから見られる状況というのはーーー余裕以外の何でもない
「一夏!!私達も加わるぞ!!」
「あ、ああ!!」
箒に催促されて、俺も雪羅の荷電粒子砲をその打鉄に向けた
「一斉砲撃だッ!!」
ラウラの号令と全員の呼吸のタイミングが合い、一度に全員の攻撃がその一機の打鉄に降り注ぐ
ドゴォォォォン・・・
その総火力集中砲火は爆煙と爆風でアリーナの視界を一時的に消失させた
「やったか!?」
爆煙が晴れると、そこには打鉄の装甲の破片が散らばっていた
「フッ、状況終了か」
「はぁ・・・所詮量産型よね、防御型とはいえ性能に限界があるってのよ」
全員で一息付いていると、セシリアが何かに気が付いたみたいだ
「・・・お待ちください」
「どうしたんだ?」
「搭乗者はどこに行ったのですか?」
「さあ?あんだけの攻撃を喰らってあれだけの装甲の量が破壊されてたら
無事じゃ済まないわよ。消滅したんじゃない?」
元々、国家が保有する戦術兵器であるインフィニット・ストラトス
その重要性は戦略核兵器にも匹敵する
それを強奪ともなると、法の最高レベルの刑ーーー極刑が適用される
「ま、大犯罪者が一人や二人死のうが関係ないわよ」
「・・・ではリンさん、一つ質問よろしくて?」
「何よ、文句でもあるわけ?」
「・・・私達は”6人”でしたわよね?」
「ええ、第一学年の専用機持ち7人のうちのフィリアを除いたメンバーよ」
「ではーーー」
セシリアはアリーナの地面を見た
そこには太陽の日差しを受けて、俺達の機体で薄暗い影ができていた
「なぜ、あそこの影が”7つ”あるのですか?」
「ハァ!?アンタ数も数えられないの?いち、にー」
リンが数を数えていって、そして答えを言い放った
「七つよ・・・・ッ!!」
リンが気が付いたとほぼ同時に、全員が自分達の頭上に目を向けた
そこにはーーー太陽を背にして俺達を見下ろす”何か”が居た
そしてーーー
「ガルム1 エンゲージ」
その言葉と同時に、太陽の影が消えた
ビーーーーッ
と、突然白式のダメージレベルがレッドゾーンに突入する
「なっ!?何だーーーがあっ!?」
突然の出来事に声を上げた瞬間、俺は地面に叩きつけられた
「ぐっ・・・何が起こって・・・」
衝撃波の苦痛を堪えながら、俺は白式を確認する
白式の装甲にはいくつもの剣戟の痕跡が深く入っていて、装甲が大幅に欠損していた何箇所もあった
まさに、あの一瞬でこれだけの攻撃を俺は受けていたのだ
そして、白式を強制解除されて俺は地面から上空を見上げた
そこにはーーー成す術もなく僅かに見える謎の機体に蹂躙される仲間の姿があった
「くそっ!!」
ラウラがレールカノンを構える、目標は正面から急速接近する機体・・・だが
発射する寸前に敵の機体のブレードがレールの間に飛び込んだ
シィィィィィン
という、何か少し金属で金属を撫でるような音を立てて
レールカノンは横一文字に分割された
「ッ!!このッ!!」
ラウラは両腕に装備されたプラズマブレードを振り回すが
ドフッ
一瞬、そのISが居た場所に水蒸気の塊が発生する
そして、シュバルツアレーゲンの装甲が火花を上げて砕けた
生身の俺では、その攻撃を行った機体を捕らえる事は不可能だった
「この私が・・・捉えきれないだと・・・?」
そうしてアリーナの地上にラウラが落ちた
シュバルツア・レーゲンの装甲もまた、幾重もの斬戟痕で重大なダメージを負っていた
戦闘不能、ISへのダメージが甚大で強制解除寸前だった
「う~ん、ちょっと使ってみようかな・・・”スピア・ヴィアリス”」
と、対峙するISはライフルのようなものを呼び出した
「ついでに、リオ・リージットを展開」
すると腰部の装甲が開き
「ターゲットセミアクティブ・・・ロック、フルファイア!!」
そこから四発のミサイルが上空に向けて打ち上げられた
「さて、終わらせるよ」
すると上空に展開されたミサイルは、全て一機ずつ皆の機体に向かっていった
「こんな攻撃じゃ・・・ッ!?」
リンがそのミサイルを回避していると、その正面から攻撃を仕掛けるIS
回避に専念していたリンは対応しきれず、火花を上げて墜ちていった
「くっ・・・ミサイルが囮なら!!」
セシリアがブルーティアーズを射出、ミサイルを撃墜する
「これで・・・ッ!?」
箒を追っていたハズのミサイルの一機がセシリアの索敵視界の外側から直撃する
ガキィンッ!!
ミサイルは起爆せず、セシリアの絶対防御シールドを弾頭部が貫通して停止する
バシュウゥゥゥッ
絶対防御シールドの内側・・・つまり防御できない空間に貫通した段頭部からガスが噴出される
「ぐっ・・・これは・・・催眠ガス・・・」
それに気が付いたセシリアは対応が間に合わず、意識を失って地上に落下した
「私を無視するな!!」
と、箒が空中に浮いているISに向かって突っ込む
「頭悪いね。そんな事だとーーー」
ギィッ!!
そのISはブレードで箒の突きを横に弾いて
「すぐに喰われるよ」
スラスターで回転加速させた蹴りを箒の頭部側面に叩き込んだ
そのまま箒は地面にクレーターを作り、先程リンを狙っていたミサイルが追撃
セシリア同様、気を失って倒れた
俺達は、打鉄だった一機のIS相手に圧倒されていた
その動きは、次元が違うものだった
「僕も一応専用機を持ってる身だしね」
と、シャルは多段層ミサイルポッドを展開
「行くよリヴァイヴ!!」
一斉に発射する
その蒼いISに向かってあらゆる方向からミサイルが襲い掛かる
「・・・♪」
襲い掛かるミサイルに向けて、その機体の搭乗者は微笑んだ
ドドドドドドドドドドォン!!
総勢、三十五発のミサイルがその一点に集中的に降り注いだ
ラファールの異名”移動する火薬庫”の名に恥じぬその火力は
アリーナの視界を奪う煙を上げてその場を満たしたーーーだが
「・・・ふあぁ・・・」
その爆心地に居たハズのそのISは、シャルの真後ろにて退屈そうに欠伸をしていた
シャルの首筋に、刃を向けながら
「まだ続けるの?」
「・・・僕にはあなたを止められないよ」
「そう・・・」
そして、シャルと共に地面に降りたISは
最後にーーー地面に降り立ってこう言った
「う~ん・・・少し加減したつもりなんだけどね」
とりあえず細かかな調整をせずに専用機持ちを戦闘不能になるまで攻撃したけど
「理性の加減が利かないね・・・反応に機敏なのはいいけど
それだけにもう少し私自身を抑える必要があるかもしれないね」
調整画面をいじりながらうんうんと頷いていると
「貴様、打鉄をどうするつもりだ?」
織斑先生が、何も武装せずにこちらに歩んできた
ついでに、突然何やらのメール文が届いた
”ちょっとした茶番だ。付き合え”
あ~はいはい、こういう流れ嫌いじゃないですよ先生
「ーーーこの子をどうしようが私の勝手です」
「そうか、それならばーーー」
先生が右腕を上げようとする
そのタイミングで、私は音斬を振り上げた
「邪魔ですーーー」
その刃を振り下ろした
そして先生の腕に当たる前に、音斬と右腕部を展開解除して
パシン
と、素手で織斑先生とタッチする
「「「「!!??」」」」
皆が物凄いびっくりしてる。ま、そりゃそうだよね
強奪された機体と知らされていた機体というのは
先生が実戦に近い状況を作るための”アグレッサー”だった
って事だからね
でもアグレッサーかぁ・・・葉夏が聞いたら怒るだろうなぁ
アグレッサーに対しての容赦が全くといって無いからねあの子
ま、あの子達が戦った状況はアグレッサー=ベルカのエース部隊の寄せ集めだもん
ベルカのパイロットってなんか血の気多いんだよね
さらに技術はあるから面倒な事この上ない
「さて・・・お前達は今、”第三世代試験専用機をもってして
一機の第二世代試験ISに完全な敗北を喫した”
と、言う事だが相手が悪かった。ガルム1、ピットに戻れ」
ん、仮想敵と言う事だからコールサインなのかな
まあ、大人しく指示に従っておこう
「ウィルコ」
そうして、私はタッと飛翔してピットに戻った
「ガルム1、ピットに戻れ」
一瞬で飛翔した相手の機体は、空中で軽やかにロールしながらピットに戻っていった
「あいつは私がアグレッサー役をさせる為に雇ったエースだ
IS学園特務戦闘機隊の一番機を任せている。名前は・・・まぁ、ガルムとでも呼んでおこうか」
皆に淡々と説明してる千冬姉・・・唖然と、その説明を聞くしかないだろ
だってよ・・・数で勝っていてチームワークも中々のものになっていると思っていた
だがーーーそんな慢心は、その蒼と白に彩られた謎の機体によっていとも簡単に打ち砕かれた
完膚なきまでに、絶望を通り越してもはや認めてしまうくらいの
「教官、質問があります」
「先生と呼べ」
「この件に関しては、教官として質問にお答えください」
ラウラは痛むであろう左腕をおさえながら、千冬姉に詰め寄った
「・・・いいだろう。大方、織斑と篠ノ乃以外の専用機持ちは全員同じ事を思っているのだろう?」
「「「・・・」」」
ん?どういう意味だ?
「ガルム・・・確かにリヴァイブのアサルトライフルの名前でもあるけど・・・」
「傭兵の・・・しかも、パイロットの”ガルム”となりますと・・・」
何だ何だ?・・・何の話だ?
「ガルム・・・元ウスティオ共和国所属の”紅き地獄の犬”
二番機の”片羽の妖精”そして一番機ーーー”円卓の鬼神”」
ラウラの瞳は強さを秘めたものへと変わる
「世界を滅ぼそうとした悪魔ーーー片羽の妖精
そして世界を救った英雄ーーー円卓の鬼神」
そして、沈黙する
「ーーー答えはノーだ。円卓の鬼神は男、現在年齢は40代で行方不明だ
とてもじゃ無いが、ISを扱える人間ではない」
私の零式・・・シース・ストラティアは初期設定はもちろん
姿勢制御システムの安定化、スラスター初期化、武装システム全ロック
その他全てのISとしてのシステム系統がほぼ手付かずの状態で
私はアリーナという戦場に放り投げられたのだ
絶対防御システムも何も無い、生身の状態で戦わさせられたのだ
「お前ならあの程度のハンデと戦力差はものともしないだろう?」
ハンガーで織斑先生を問い詰めていたらそんな回答が返ってきた・・・毒抜かれちゃったよ
「先生の中で私はどんな存在なのかを教えてもらう必要がありますね」
全く・・・私は運がただいいだけの唯の人間なんだし
織斑先生は私を何だと思ってるんだろうか?
「ふぇ・・・フェイリールドさん、本当に何者なんですか?」
「・・・フェイリールド、山田先生に話していいか?」
・・・どうしよう
山田先生は恐らく私を普通の一般市民だと思っている
たぶん、大人しいどこにでもいる普通の子供だと
でも・・・本当は人殺しなのだ
戦闘機のパイロット・・・兵士なのだ
・・・怖い
山田先生はこの事を知った時、どう思うのだろうか?
・・・でも、いつかは訪れる事だもんね・・・私は先生に頷いた
「山田先生、フェイリールドのF-15・・・あの機体は武装装備使用不可だと言いましたよね」
「え、ええ。アクロバティック用の機体だと・・・」
「実際は・・・あの機体自体が装備できない武装は無い」
「えっ・・・」
「フェイリールドは、あの機体を用いて
アクロバット飛行ではなく”実際に戦闘”を行っていたんだ」
と、織斑先生が書類を山田先生に渡す
それをめくって、二度見して
「っ・・・!!まさか・・・信じられません!!
こんな事を、フェイリールドさんができる訳がありません!!」
・・・取り乱す山田先生は、私の両腕を揺さぶった
「・・・事実なんです」
私は答えた
それしか方法が無いから
「そこに記されている事は事実です。山田先生」
「っ!!でも、それなら貴女の年齢はーーー」
「46歳・・・私自身、そんな年を重ね生きた覚えは無いです
でもーーーー”私は、今ここに生きている”んです
原因はどうであれ、私がここに生きているという事実は変わりません」
それは、私の時間が30年前より停止しているという事になる
それは事実だし、現実だ
私は、その空白の30年間を”知らない”
「ーーーッ!!」
山田先生は、私を強く抱きしめた
「それが事実だとしても・・・苦しすぎます・・・こんな事・・・」
山田先生の涙が私の肩に落ちた
衝撃的な、想像以上の闇を彼女は抱えていた
「フェイリールドは、あの機体を用いて”実際の戦闘”を行っていたんだ」
織斑先生から渡された資料
電子情報交換システムが一般化した今、紙という媒体は衰退しつつあるはずなにの
それは、濃縮された歴史の色合いと雰囲気が染み込んでいた
一枚の、フィルム写真という媒体
新しい手書きの手紙。そこにはこう記されていた
” ウスティオ空軍第6航空師団第66飛行隊 ガルム隊
幾多の戦線を潜り抜け、そしてウスティオの首都からベルカの兵を追い出し
ウスティオ共和国の解放をその手で行った
そして、ガルム隊の戦いは”解放”から”殲滅”へと変化した
ベルカ追撃の任を受けたガルム隊は、向かってくるベルカの戦闘機を落とした
二番機である俺は、敵機が砕け散るまで攻撃を行ったが
一番機である彼女は、戦闘不能となった機体に追い討ちをかけるような事はしなかった
そして、ベルカであの世界最悪の事件が起きた
”紅の地平線” ベルカが自国内の主要都市に核弾頭を投下
自国の七つの都市を、この世の地図から消し去ったあの悪魔の事件だ
その時にーーー俺達はその空に居て、そしてその空で別れた
それから俺はーーー国境無き軍隊によるクーデターに参加していた
この腐った世界を、一度全てゼロの状態に戻そうと奔走していた
しかしーーーその最終段階で、ガルム隊一番機は立ちはだかった
ーーーー彼女は、それを止めるべく最後の砦へと飛び込んできたのだ
世界をゼロにする為の鍵は、俺が握っていた
そしてーーー俺達は闘い合った
そしてーーー俺は負けた
最終的に、俺は世界をゼロにする事はできなかった
だがーーー俺の人生は、ゼロに戻った
だから今度はーーー俺がフリーズしてしまった彼女の人生を、ゼロに戻してやろうと思う”
彼女の名は、フィリア・フェイリールド
ガルム隊一番機であり、俺の相棒だった”少女”だ
その姿は不思議な事に今も変わらないままのようだ
写真を一枚同封しておく。持っていても虚しさしか残らん昔の記憶だ
代わりに、彼女が失った人生をーーーよろしく頼むぞ、”世界最強”
そう書かれており、その端にクリップで一枚の写真が挟んであった
そこには、”ガルム隊とクロウ隊、ヴァレー基地にて”と書かれており
5人のパイロットスーツを着た人物が写っていた
その中央に、肩を組もうとする金髪の男性と
それを嫌がる、蒼い髪を長く伸ばした少女が居た
嘘・・・でしょ?
何故、ここに写っているの
何故ーーーここに”彼女”が居るの?
何故ーーーフェイリールドさんがここに写っているの?
そして、この手紙に記されていた事が真実だとすればーーー
「そこに記されている事は事実です。山田先生」
フェイリールドさんが、その事を後押しする
「っ!!でも、それなら貴女の年齢はーーー」
「46歳・・・私自身、そんな年を重ね生きた覚えは無いです
でもーーーー”私は、今ここに生きている”んです
原因はどうであれ、私がここに生きているという事実は変わりません」
ーーーそう、饒舌に、人事のように言い放った
まるで諦めているかのように、彼女の瞳は、蒼く深く・・・暗くなっていく
この年にして、彼女はそうならざるを得なかったの?
普通の子供としての人生を、彼女は歩んでいない
それが彼女の中で、異常として染み付いた生き方なのだから
生きる為に操縦桿を握り、生きる為に戦闘機を操縦し、生き延びる為に敵機を墜とす
でも、それ以上に彼女は今を生きようとしている
彼女にとっての”戦う”という意味と、私達のISを用いた競技としての”闘い”の意味の重さの違い
・・・それでも彼女はこの世界を背負った
この世界を・・・守ったのだ
それだけに、彼女の言葉の全てが”重い”
こんな・・・これだけの事を一人で全て背負い込んでいた
無意識に、私はフェイリールドさんを抱きしめていた
「それが事実だとしても・・・苦しすぎます・・・こんな事・・・」
そう、それだけこの生徒が抱える闇は暗い
それがただ、悲しくてしょうがなかった
でもーーー
「でも、今ここに居る私は幸せなんですよ」
その一言で、その微笑みで私の心に広がった彼女の暗闇は
一瞬にして消え去った
フェイリールドさんは、それだけ暗い過去を抱えている
抱えているからこそ、彼女の心の優しさと温もりは普通の人のそれ以上に大きい
だからこそーーー彼女は、今を普通に生きる事ができる
それが、彼女の本当のーーー”強さ”
「と、言う訳です。先生、別に気にしなくていいですよ」
「はい・・・」
うん、やっぱり山田先生は混乱してたね
それでも、先生は納得してくれたからいいけど
「おかあさんっ!!」
ん~フィアが私の腰にしがみ付いてきた
「ん~いい子にしてた?」
「はいっ」
んー・・・フィアを見てると昔を思い出すようなそうでないような不思議な感じがする
自分と似てるからかもしれないね
「山田先生、これからもよろしくお願いします」
そう頭を下げて、私はピットから出た
「・・・山田先生」
「はい・・・」
「あいつの人生は通常とは程遠いものだ。受け入れ難いのは仕方がない」
「・・・そうですね、でもーーー」
「?」
「その人生があるからこそ、彼女は”優しさという強さ”を持っているんですよ
だから、私は彼女の人生を否定したくありません」
「・・・そうだな」
「ラリー・フォルク米軍総司令官・・・私が思っていたよりも優しい人なんですね」
「滅多に表に出てこないからな。ここに写る本人だ・・・”片羽の妖精”」
そこに居た番犬の姿を感慨深く見つめた
番犬と呼ぶにふさわしくないエースパイロットだった少女
その細い腕に染み付いているのは世界最強のイーグルドライバーとしての記憶
そしてーーー世界を救った一人の英雄の暗い影だった
おまけ ★ミ ←ナガセに殴られて星クズになったハミルトン
「ふむ・・・ケストレルか・・・」
環太平洋戦争・・・ベルカ事変が終結して早一年
その戦争を終結させる事に使命を全うし
あるいは、その戦争を終らせた鳥の群れの巣となりえた場所を守った一人の男
ニコラス・A・アンダーセンは悠々と戦後の穏やかな時代の流れに身を任せていた
戦時の彼の役目はーーーオーシアの原子力航空母艦を指揮する最高司令官
つまりーーー”艦長”
そんな彼は退役し、戦争が終った一年目の記念日に
終戦後すぐに閉鎖された孤島の基地に立っていた
そして今、その空母に愛着を覚えていた艦長は
その艦の艦歴ーーーつまり、船の歩んだ人生を簡易的に設けられた木製のベンチで眺めていた
その艦の名はーーーケストレル
ヒューバート級の航空母艦の七番艦”だった”歴戦の航空母艦だ
「”彼女”の初戦役は1995年の4月24日、ベルカ戦争が始まって一ヶ月後か」
「ベルカ戦争・・・私はあの時の行動をこれ程まで良かったと思った事はありません」
と、彼の隣でビンに入った炭酸飲料を口に付けていた中年の男は
少し苦しそうに顔を綻ばせた
「君の現役全盛期の時代かね。確かーーー凶鳥フッケバイン だったかな?」
「ははっ・・・昔はそんなあだ名を付けられていたものですが
今となっては霞みつつある昔の思い出です」
先程の表情とは変わって、少しはにかんだ中年の男
かつてそういう名前で呼ばれ、自国の部隊で有名だった元が付くエースパイロット
彼の現役最後の戦いは、自国のエースとしてではなく
世界のエースとも呼べる勇気ある行動だった
その男の名は、ピーター・N・ビーグル
本名はーーーヴォルガング・ブフナー
彼の実家は貴族という肩書きを持つ一族だった
そんな彼の祖国とは・・・件の話では重要な国ーーーベルカ公国
そう、彼はベルカのエースパイロットだったのだ
「ケストレルに攻撃を仕掛けたのにも関わらず、私はあの船に迎えられた
不思議な感覚でしたよ」
「ケストレルに攻撃を?ベルカ戦争当時にかね」
「ええ、そこに記されている日時と全く同じ日時でね
しかし私の攻撃は届かなかった」
「?」
「私の機体は被弾し、帰還を余儀なくされた
私が基地に着いた頃には、攻撃に参加した8割の機体が墜とされ
作戦は失敗したとの通達がありました」
「ふむ・・・」
「無理も無い、あの船を守っていたのはあの”片羽”と”鬼神”だったのですから」
「それは・・・ガルム隊の事かね?」
「よくご存知で・・・」
「当然だよ。当時の私は彼らを見上げて歓声を送っていたのでね」
「・・・私は、ベルカを離れる際に爆弾を抱えておりました
艦長は・・・ベルカの炎の壁をご存知ですね?」
「ああ。あの”紅の地平線”か」
ベルカの炎の壁とは、ベルカ戦時中の1995年、ベルカが自国内で起こした暴挙
七つの戦術核を自国の中の七つの街で起爆した・・・悪夢を体言したかのような事件
「その計画はーーー実は八つの核を起爆させる計画でした」
「どういう事だね?」
「その計画の八つの核爆弾のうちの一つは、私が街に直接投下するという計画でした」
「・・・・・」
「しかし、私は・・・私の中のプライドが、それを許さなかった
私はその兵器を抱えた機体を無断で持ち出し、国から亡命しようとしました
・・・そして運命の地、エリアB7R・・・円卓にて私は追手の目をくらます事に成功しました
しかし・・・B7Rは鳥篭の中で争う鳥達のように激しいドックファイトが繰り広げられていた
ここで撃墜されては、この地を火の海に変える事になるかもしれない
この爆弾だけは・・・決して起爆させてはならない
その一心で、私は狭い円卓内を逃げた
ふと、レーダーの背後に機影が現れた
そしてすぐに機体に弾丸が刺さる音が響き、機体が揺れた
失速する機体を制御しようと必死に・・・する必要は無かった
被弾したのはエンジンのみで、フラップやヨー等の操作系統には全く被弾していなかった
操縦桿を傾け、推力なしで私の機体は降下を始めた
そんな私の上を、黒い影が遮った
相対速度はほぼ同じ、その機体に描かれていたのはあの時の機体と同じ塗装
そしてーーー赤い犬のエンブレムでした」
「後は聞いた通りの流れか・・・世の中は思ったより繋がっているな」
「全くです・・・現に、そのお陰で私は今、ここで平和な生活を贈れている」
「くぅ~ん・・・」
そんな二人の足元に、黒い一匹の犬が歩いてきた
「カーク、お前もよくここまで来れたな」
頭を撫でるその姿は、かつてのエースパイロットとは思えない程温厚なものだった
それこそ、”彼ら”が慕うオヤジさんの姿のそのものだった
「今思えば・・・はるか昔の事のように思える闘いだったな」
「そうですね・・・」
そう遠くを見る二人の影は
今はもう海鳥達の憩いの場となっている、人工的な鳥が羽ばたく為の道に
真直ぐーーー色濃く伸びていた
はい、今回オフザケが過ぎまして精神科に行こうか本気で考えた作者です
・・・うん、戦闘描写のショボさなんて気にしないでください
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よろしくお願いします
PS、 AC5のラストムービーに出てきたビンの中身はスプ○イトだと思う(混乱
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メイド喫茶店のゴタゴタがあった翌日、主人公はこっち側の機体と再会する。そして、最初に与えられた稼動試験はかなり危険な予感?
そして、主人公にとっての理解者はーーー?