No.661244 ランドシン伝記 第17話2014-02-07 16:31:40 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:377 閲覧ユーザー数:376 |
第17話 護衛民
聖騎士エリーの闘気に、周囲の白百合-騎士団の隊員達は
畏(おそ)れを感じていた。
クオーツ「それは、本気で言ってるのですか?」
と、クオーツは困ったふうに言った。
エリー「はい。皇子殿下・・・・・・。なにとぞ、なにとぞ、反逆者と
行動を共に、なさらないでください」
と、エリーは剣を構えながら言うのだった。
ミリト「ま、待て、エリーッ!お前、自分が何をしているか」
エリー「分かっておりますッ!皇子殿下に剣を向けた時点で
死を覚悟しております」
そう言って、エリーは手首を斬った。
エリーの左手からは-おびただしい血が、こぼれだした。
エリー「皇子殿下。皇子殿下が強い決意でククリ島へと
赴(おもむ)かれようと-しているのは、分かります。
ですが、皇国に忠誠を誓う聖騎士として、
それは、それだけは絶対に、許す事が出来ません。
故に、力づくで止めさせて頂きたく存じます」
クオーツ「・・・・・・聖騎士エリー。頼むから手当(てあて)をしてくれ。
いや、何を言っても無駄か・・・・・・。分かった。
決闘だ。その血が尽きる前に、君を倒し、俺は
先を進むよ」
エリー「私の心配は-ご無用。この決闘の勝敗が-どうであれ、
私は命を捧げる所存で御座(ござ)います」
クオーツ「・・・・・・重いな。それが、聖騎士の覚悟か。
なら、俺も真剣に-かかろう。ヴィルさん、
使わない方の剣を貸してください」
ヴィル「は、はい」
そう言って、ヴィルは安物の剣をクオーツに渡した。
クオーツ「行きます」
そして、クオーツは一気にエリーへと剣を振った。
それに対し、エリーは-その大きな体に似合わず、俊敏(しゅんびん)な
動きを見せ、次々とクオーツの剣を弾(はじ)いていった。
その死闘を見て白百合-騎士団の面々は、唖然(あぜん)とした。
ミリト(馬鹿な・・・・・・。何て速さだ。これが、エリーの本当の
実力?気付かなかった。これだけ離れて居ても、動き
を目で捕らえきれない)
と、ミリトは半ば放心しながら思うのだった。
周囲を大量の火花が散っていった。
クオーツ「クッ・・・・・・」
流石(さすが)のクオーツも一級の聖騎士-相手では、苦戦していた。
すると、何かが白百合-騎士団の方へと飛んできた。
女騎士「何・・・・・・これ?」
そして、頬を拭(ぬぐ)うと、それは血だった。
エリーの血が周囲に-まき散っているのだった。
女騎士「ヒッ」
と、女騎士は叫びをあげるのだった。
クオーツ(マズイ・・・・・・早く戦いを終わらせないと、エリー
さんの体が・・・・・・仕方無いッ)
そして、クオーツは一旦(いったん)、エリーから距離を取った。
一方で、エリーは血を大量に流しながらも、唇を噛(か)み、
意識を保(たも)っていた。
クオーツ「・・・・・・俺が甘かったです。本当の本気で行きます」
そう言って、クオーツはヴィルからもらった剣を地面に-
突き立て、背中の自身の剣を抜き放ち、魔力を通すのだった。
その剣は-あまりに神々しく、並の剣では無いと-その場の
誰もが感じた。
対して、エリーは魔力を全開にして、最上級-剣技を構築した。
それに対し、クオーツは-ただ、肉薄し、剣を振るった。
次の瞬間、エリーの最上級-剣技と、その剣は砕けた。
エリー「ッ・・・・・・」
エリーは自身の敗北を悟り、力なく両膝(りょうひざ)を地面に着いた。
クオーツは-ゆっくりと剣を鞘(さや)に収め、エリーの方を
向き直った。
誰もが言葉を発せ無かった。
エリー「無念です。皇子殿下が死地に向かわれるのを見ている
事しか出来ぬなど・・・・・・」
と、言うのだった。地面には血だまりが出来つつあった。
それを見て、クオーツは悲しげにエリーを見つめた。
クオーツ「・・・・・・分かりました。俺の負けです。ククリ島に
行くのは諦めます。ヴィルさん、申しわけ-ありま
せん。俺は、そっちには行けません」
と、クオーツはヴィルに対し、言うのだった。
ヴィル「いえ。その優しさこそが皇子殿下の美徳です。確かに、
皇子殿下が来て下されば、百人力どころでは無いで
しょうが、我々も戦士です。自分達の力だけで、何とか
やってみます」
クオーツ「旅の安全を願っています。ヴィルさん、それに
ヒヨコ豆-団の皆さん」
と言って、クオーツは胸に手を当て、敬礼した。
それに対し、ヴィル達も敬礼を返すのだった。
クオーツ「ともかく、手当(てあて)を」
そう言って、クオーツは包帯を取りだし、エリーの手首に
巻いた。
エリー「お、皇子(おうじ)殿下、お止め下さい」
と、エリーは-うろたえるのだった。
そして、騎士団の治癒(ちゆ)術士が駆けつけ、治療を開始した。
それを軽く見届け、ヴィルは背を向けた。
ヴィル「さぁ、行こう。旅は-これからが本番だ」
とのヴィルの言葉に、トッセ達は『オオッ!』と答えるのだ
った。
その様子を聖騎士ミリトは見ている事しか出来なかった。
ミリト(負けた・・・・・・完全に私は負けた。私じゃ手の届かない
領域の騎士達が、これ程まで存在するなんて。何より、
エリー・・・・・・。お前、お前が-それ程、強かったなんて。
滑稽〈こっけい〉だな。あぁ、滑稽だ、私は)
と思い、ミリトは天を仰(あお)いだ。
ミリト「フフッ、フハハハハッ。アッハッハッハッハ!」
と、乾いた笑いをあげるのだった。
エリー「ミリト様?」
と、治療を終えたエリーが心配そうに声を掛(か)けた。
ミリト「エリー・・・・・・。聖騎士エリー。以後の指揮は-お前が
とれ・・・・・・」
エリー「で、ですが・・・・・・」
ミリト「私は疲れた・・・・・・。ふ、フフフ」
と、言うミリトの瞳には-どこか狂気が感じられた。
エリー「・・・・・・了解いたしました。カレーヌ分隊は、ミリト様の
護衛の任につけ。伝令隊は急ぎ、状況を最寄りの-
ケセラ支部へと伝えよ。残りは第3守護陣を皇子殿下を
中心に展開。急げッ!」
とのエリーの命令に、白百合-騎士団は迅速(じんそく)かつ規律正しく
従った。
そして、クオーツを囲うような陣が出来上がった。
エリー「全体ッ、半歩で、前へ進めッ!」
との号令で、騎士団は規則正しく、足を上げ、ゆっくりと
進むのだった。
・・・・・・・・・・
夜の海を灯台からの光が照らしていた。
その光は漁船や貨物船が座礁(ざしょう)しないように
導いているのだった。
そして、その灯台の上に、一人の杖を持った女性が立っていた。
女性「風・・・・・・風の声が聞こえる。あの人が-やって来ると」
と、呟(つぶや)くのだった。
そして、女性は目を瞑(つむ)った。
女性「ヴィルさん・・・・・・」
との女性の-か細い声は、誰の耳にも届かぬまま、夜の海に
消えていった。
・・・・・・・・・・
ヴィル達は夜の道を歩いていた。
トゥセ「団長・・・・・・しかし、なんか、パーティが-どんどん
むさくなっていく気がするんすけど」
ヴィル「はは、まぁ、楽しくていいじゃないか」
トゥセ「でも、そろそろ女性も増えていいと、思うんす」
すると、カシムが口を開いた。
カシム「そうだ。トゥセさんは知らないと思いますけど、
ケシャさん-は女性ですよ」
と言って、カシムは茶猫のケシャを見た。
トゥセ「あ・・・・・・そうですか・・・・・・」
ケシャ「ちなみに、陛下も女性です」
と、茶猫のケシャは口を開き説明した。
ヴィル「あ。ケット・シー陛下も女性だったんですか」
ケシャ「はい。とても-お美しいです」
と、頷(うなず)いて言うのだった。
ギート「しかし、猫がしゃべるというのも、不思議なモン
じゃな」
と、ドワーフのギートは言うのだった。
ケシャ「普段は-しゃべらないように、しています。
私が-ただの猫と思わせておいた方が、
後々、役立つ事も-あるでしょう」
アーゼ「はぁ・・・・・・。良く考えているんですね」
トゥセ「ところで、団長。港町で漁船を-どうやって、調達
するんです?」
ヴィル「実は港町クーリカに知り合いが居るんだ。風守(かざも)り-の」
アーゼ「風守り-って船が無事に港に着くように、監視している
ヒトですよね?」
ヴィル「ああ。獣魔-大戦の折り-に知り合ってな」
トゥセ「へぇ、まぁ、どうせ、ゴツイおっさん-なんでしょ?
今までの流れから行くと」
ヴィル「いや、当時、15だったから、今は27か、そこらだと
思うぞ」
トゥセ「あ、そうすか」
アーゼ「トゥセ。風守りって、ほとんど女性だぞ」
とのアーゼの言葉に、トゥセは耳をピクつかせた。
トゥセ「団長ッ。なんすか、それ。おかしいですよね?
そ、そんな知り合いが居るなんて。し、しかも
出会いが、15?は、犯罪ですよ、これ」
と、トゥセは全身を震わせながら、ヴィルに詰め寄った。
ヴィル「別に、お前が思ってるような事は、何も無いって」
トゥセ「嘘だッ。俺の第六感がビンビン反応してますよ。
団長、実は結構、もててるんじゃないっすか?」
ヴィル「いやぁ、そんな事、無いと思うけどなぁ」
すると、ドワーフのギートが口を開いた。
ギート「ふ。ヴィル殿はなぁ、我が祖国、ストルヘイブにては、
大モテじゃったのだぞ」
トゥセ「うう。いいなぁ、団長・・・・・・」
ヴィル「い、いやぁ、まぁ、そういう事もあったけど」
トゥセ「どうせ、その風守りの女の子も、獣魔-大戦で格好良く
現れた団長に、惚(ほ)れて、今もなお、団長を待ち続けて
いる、とか-そういうオチなんすよ。かー、やってらん
ないっすよ、ほんと」
ヴィル「・・・・・・トゥセ、お前の想像力は結構、すごいな」
トゥセ「あ、ども」
アーゼ「トゥセ、多分、褒(ほ)められて無いぞ・・・・・・」
トゥセ「うるせぇ、自覚させんな。しかし、団長、それ、
やばいですって。絶対、俺達に協力して-くれま
せんよ。ガチで」
ヴィル「どうしてだ?」
トゥセ「だって、憧れのヒトを、ククリ島なんて危険な所に
行くのを見過ごす事なんて、きっと出来ませんよ」
アーゼ「確かに。トゥセ、お前、彼女居ない歴が実年齢の
割に、女心が分かってるかもな」
トゥセ「うっせぇ!」
ケシャ「でも、恐らく、その可能性は-ありますね。その場合、
むしろ、最大の敵となる可能性すら-ありますよ」
と、茶猫のケシャの言葉に、ヴィルは頭をかいた。
ヴィル「いや、でもさ。12年前の話だし、そもそも、すごい
綺麗な子でさ、そんな子が、そんな長い間、俺を好き
でいるなんて、あり得ないと思うんだよなぁ。
いや、そもそも、何で俺に惚(ほ)れてる設定なんだ?」
トゥセ「分かってない。分かってませんよ、団長ッ!俺には
分かります。今でも、その風守り-ちゃんは団長を
待ち続けてるんですよ、きっと」
アーゼ(彼女いないのに、妙な説得力があるんだよなぁ。
まぁ、俺も彼女-居ないけど)
と、思うのだった。
カシム「何か、泣けて来ますね」
ヴィル「いや、あのさ。お前ら、考え過ぎじゃないのか?」
トゥセ「でも、団長、安心してください。万一、戦う事になっても、
団長が『一緒に来てくれ、愛してる』って言ってチュウす
れば、絶対、付いてきますよ」
それに対し、茶猫のケシャも大きく頷(うなず)いていた。
ヴィル「はいはい・・・・・・。ともかく、先を進むぞ。夜のうちにな」
と、ヴィルは先導するのだった。
すると、先に灯りが見えた。
ヴィル「止まれ・・・・・・」
とのヴィルの言葉に、皆は立ち止まった。
ヴィル「トゥセは俺と一緒に偵察だ。他のみんなは-ここで待機
しててくれ」
との指示に全員が了解した。
そして、ヴィルとトゥセは気配を殺し、様子を伺(うかが)い
に行くのだった。
そこには護衛民の検問(けんもん)が存在した。
護衛民とは自治組織であり、一種の警察機構のようなモノ
であった。ただし、その役割は、モンスターの掃討なども-
入っており、かなりの実力者も居るのだった。
トゥセ(うわ・・・・・・嘘だろ。あいつら、メチャクチャ、強い
んじゃねぇの?ってか、マジでやばい。これ以上、
近づいたら、ばれる。どんなに気配-隠してても
ばれる・・・・・・)
と、トゥセは背筋を凍らせながら思うのだった。
そんなトゥセの心情と裏腹(うらはら)に、ヴィルは草むらから出て、
護衛民に近づいていった。
トゥセ(団長ーーーーッ!)
と、内心、叫びをあげるも、トゥセは-その場で見ている事しか
出来なかった。
護衛民もヴィルの存在に気付き、抜刀した。
しかし、ヴィルが話しかけると、雰囲気(ふんいき)が変わり、彼らは
剣を収(おさ)めた。
ヴィル「トゥセ、大丈夫だ。来ていいぞ」
とのヴィルの言葉に、トゥセは『へ?』と、ポカンと口を
開けるのだった。
しかし、ヴィルの言うとおり、トゥセも草むらから出てきた。
そして、ヴィルとトゥセは護衛民にテントの中へと連れられて
行くのであった。
・・・・・・・・・・
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ヴィルと聖騎士ミリトの決闘は幕を下ろした。
しかし、一方で、聖騎士エリーはクオーツを
止めるため、剣を抜くのだった。