No.660321 模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第15話コマネチさん 2014-02-03 22:51:41 投稿 / 全9ページ 総閲覧数:906 閲覧ユーザー数:892 |
「ぅああ~……」
季節は四月半ばの金曜日……、教室の机に突っ伏したアイが声を上げた。
「どしたん?アイ」
いつもの様にナナが話しかける。
「ナナちゃん……ついに破滅へのカウントダウンが始まったよぉ……」
諦めた声でアイは言った。
「いや、何大げさに言ってんのよ。さ来週実力テストがあるって通告があっただけでしょ?」
そう、先程担任から実力テストの日の通達があったわけだ。アイをはじめとした成績に自信のない生徒はアイの様に落ち込んでいた。
「そうだよ……大体テストの日なんてその前から解っていたいたじゃないか……」
ムツミもアイの机に寄ってきた。
「別に実力テストって言ったって一年生の時のおさらいでしょ?内容ある程度解ってるんだからそんな落ち込む事ないじゃん」
ナナとムツミ等は筆記でも割といい成績を出してる為余裕があった。
「そう言える二人がなんか眩しいよ……」
一年生の時の勉強内容を忘れているアイにとっては二人は直視出来なかった。
アイはガンプラはバトルと技術、共に高い実力を有する。だが勉強とスポーツはどちらも苦手だった。特に勉強はナナとムツミに教えてもらう事が頻繁にあった。
「アンタもガンプラは……ていうか自分が興味持った事に関しては凄い実力発揮するのにねぇ」
ナナが苦笑しながら言う。別にアイはガンプラ以外に才能が無いというわけではない。自分が興味を持ったものには凄い集中力を発揮する人間だった。
「典型的な一点集中型ってわけだね……。それを色んな事に向けられれば最高なのに……」
「お母さんみたいな事言わないでよムツミちゃん……、私だってそうしたいって気持ちはあるのに」
「あ……ゴメン……そういうつもりじゃ……」
「どしたの~皆」
「あ……タカコちゃん……」
その場にあっけらかんとした声が響く、タカコだった。タカコもまたアイ同様成績が振るわないタイプだったりする。
「実力テスト自信ないよ。どうしよう……」
「なんだ、そんな事でそんな顔していたんだ」
いつもと同じ笑顔でタカコはしれっと答えた。
「いや、なんだってアンタ……」
「別に中間や期末みたいに成績に影響あるわけじゃないんだし、別に諦めちゃっていいじゃん、勉強だけが学生の本分じゃないよ~」
「さすが毎回赤点取ってるだけあるわねアンタ……」
「いや~それほどでも」
「褒めてないわよ!」
「タカコ……さっき先生の話聞いてた?赤点組は宿題1・5倍だって言ってたよ……」
「え?」
「いや、だから1・5倍」
「……マジ?」
「マジ」
途端にタカコの顔が青ざめる。
「ど!どどどどうしよう~!一年生全体のフォローなんて二週間で出来ないよ~!!」
タカコは慌てながらムツミを掴み揺すった。
「オメーはよ……」
ひきつった顔で呆れるムツミ
「うう……アイちゃん……どうやらあたし達滅びの運命を受け入れるしかないみたいだよ~」
「そうだねタカコちゃん、死ぬときは一緒だよ……」
現実逃避か大袈裟に言いながら二人は抱き合った。
「口で言ってる割には余裕ねアンタ達……」
「まぁそれはそうとして……さすがに二人をこのままにしとくのは可哀想だよ……。ボク達も復習とかやっておく必要はあるから皆で勉強会とかしない……?」
『え?!本当!?』
そのムツミの発言にすぐさま食いつく二人
「じゃあ明日の土日にでも!」
アイが提案する。
「いや待ってアイちゃん……あいにくだけど来週からにして欲しいな……今週の土日は他校との合同で部活やるから……」
「あ、そっか、ムツミ陸上部だし前そう言ってたね~、じゃナナは?」
「ごめん、アタシも土日は親戚のお葬式出ないといけないから……」
「ナナちゃんも……てことは」
アイが隣のタカコとの顔を見合わせる。
「土日はあたし達だけでやるしかないって事ね……」
「タカコちゃん……」
「……凄く不安の残る二人だけど……いいのかな……」
「ま、いいんじゃない?他にいないわけだし」
「アイちゃん……こうなったらやるしかないよ!土日はあたし達だけで勉強会開こう!」
「タカコちゃん……そうだね!頑張ろう!」
「気合だけなら見てて安心出来るけどね」
「本当に大丈夫かなぁ……」
……
そして二日後……月曜日の放課後、四人はいつもの様に歩道を並んで歩いていた。
「最近は割と四人で帰れるよね」
アイが言った。ムツミとタカコは部活持ちな為、帰りは一緒になる事は少ない。
「そうだね……。毎日ってわけじゃないけど、うまく都合ついてるし……」
「そういえばさ、アイとタカコ、ちゃんと出来た?土日の勉強会」
ナナの発言に『え?!』と同時に反応するアイとタカコ。『ギクリ!』と効果音がつきそうなリアクションだった。
「その反応……駄目だった?」
やっぱり、等とは思ってないがリアクションを見れば予測はしやすい
「ナ!ナナちゃん!なんて事言うの!」
「そうだよナナ!あたし達だってやれば出来るんだから!」
ムキになって返す二人、かえってそれが怪しく見える。ナナは「ホントに?」と首を傾げながら聞く
「疑うなんて酷いよナナちゃん!」
「そうだよ!あたし達だって土日は凄い充実した時間を過ごしたんだから!」
と、その時だった。
「ヤタテ・アイだな!?お前に挑戦するぜ!」
男が声をかけてきた。
「うわ!挑戦者だよアイちゃん!」
「うわってなんだよ失礼だな!」
声の主はジャージを着たツンツンとした髪型の少年だった。年齢はアイ達と同じく高校生位だろうか。隣に同じくジャージを着た男がいる。
「学校指定のジャージ?その胸の刺繍、三帯(さんおび)高校の生徒ねアンタ達」
ナナが言う。三帯高校。アイ達の山回高校から5キロ程離れた農業高等学校だ
「その通り!俺達はチーム『グリズリー』!そしてリーダーの『セキラン・ライタ』!!コンドウ・ショウゴを倒したというお前を倒せば
俺達は名を上げる事が出来る!その為に勝負を受けてもらう!嫌とは言わさないぜ!」
自信有り気にアイを指さしセキランと名乗る少年は言った。
「いいよ、受けてあげる!」
「聞けばお前達はいつも二人らしいな。勝負は2対2でどうだ?」
「OK、アタシも付き合う」
「ありがとうナナちゃん。丁度良かったよ。本当はバトルしたくてたまらなかったんだ。初陣を飾りたい奴がいるからね……」
「あ!あれ使うんだねアイちゃん!」
ニッと笑うアイに続いてタカコが反応する。
「……アレ?」
そして模型店、『ガリア大陸』でガンプラバトルが行われる。モニターには『今回のステージはギガフロートです』と表示された。
ギガフロート……ガンダムSEEDの外伝・アストレイに登場した施設。民間用マスドライバーを備えたそれは全長数10kmに及ぶ人工島であり、
浮体構造物として移動能力を有した機械的な浮島だ。島と言っても自然の類はなく全体が機械的で巨大な施設といった方が正しいかもしれない。
「あれ?アイは?」
母艦、アークエンジェルから降りたナナのストライクI.W.S.P.が周囲を見回す。今回はアイとは離れた場所で始まった様だ。
『ちょっと離れた場所に出たみたい。すぐ行くよ』
と通信をしたその時、ナナのストライクに弾が飛んできた。
青空にライトグリーンの敵機が見える。立ち上がったトカゲ、ガフランに似た機体。ガンダムAGEに登場したバクトという機体だ。
ガフランやゼダスに良く似たフォルムだがその二機に比べかなり太ましい。
バクトはゆっくりとした動作でトカゲの尻尾に当たる部分、ビームランチャーを展開させストライク目掛け撃ってくる。
「スローすぎるわよ!」
ナナは横にステップをかけビームを回避、距離があった為背部のレールガンでバクトに狙いを定める。
「いけぇ!」
ナナがレールガンを発射、バクトにレールガンは命中し爆発と共に煙が立ち込める。
ナナは心の中でこれで仕留めたという安心感があった。だが次の瞬間、ランチャーのビームが煙を突き破りストライクに迫ってきた。
「嘘っ!?」
とっさにコンバインシールドを構えビームを防ぐナナ。しかしその出力は大きくシールドは弾き飛ばされ。
ストライクは後ろに大きく跳ね飛ばされる。
「きゃあっ!!」
尻もちをついたストライク。姿を現したバクトは右掌にビームサーベルを発生させストライクに近づく。
「くっ!」
ビームライフルで応戦しようとするナナ、バクトは左掌のビームバルカンをビームライフルに撃ちこむ。
「しまっ!」
ナナが手放そうとする直前にビームライフルは爆発、誘爆によりビームライフルを握っていた右手は破損、ボディもダメージを負ってしまった。
「くっ!」
そのままバクトはビームサーベルの範囲まで近づき右手を振り上げた、だがその時。
「ナナちゃん!ジッとしてて!」
「えっ!?」
アイの声だ。直後に耳をつんざく大きな音と共に、ストライクの前を大きなビームが高速で通り過ぎた。
ビームはバクトを左から直撃し、バクトを撃った方向へ吹き飛ばす。 ゴロゴロと転がるバクト。
ナナがビームの撃たれた方、マスドライバーを見る。ジェットコースターの登りの様なマスドライバーのレールの上、
真っ白い機体、否、赤いラインの入った白い機体が両手で銃を構え、立っていた。
「やっぱ凄いな……ビームライフルの四倍の威力のビームマグナムは……」
「アイ!新しいのってそれ?!」
「そう!ユニコーンガンダムだよ!」
ユニコーンガンダム、『機動戦士ガンダムUC[ユニコーン]』主人公機、普段は真っ白いスマートな姿だが『デストロイモード』と呼ばれる姿になると
装甲がスライドし変形、赤いラインが入り、ガンダム顔の大柄な姿に変わるという変わった特徴のガンダムだ。
赤いラインはサイコフレームと呼ばれる独自の素材を使われており、設定上恐ろしい程の反応速度とパワーを持つ、その為パイロットにかかる負担も大きく
本編では専用のパイロットスーツやら薬剤投与やらでかかるGを抑制していた。……があくまでそれは本編での話、
ガンプラバトルでは多少上級者向けではあるが高水準なパラメータを持つ高性能機だ。アイの機体は追加装備で『リボルビング・ランチャー』と呼ばれるグレネードと
『アームド・アーマーDE』と呼ばれる、ブースター兼ビームキャノン兼シールドという贅沢な複合兵装を背中に装備していた。
なおアイの使用しているHGユニコーンはサイズの関係上デストロイモードに固定されている。
「凄い……全身にあんなにシールが……」
ナナはユニコーンの装備よりも姿に驚いた。ユニコーンは真っ白な為専用シール、つまり専用デカールが発売されている。
ユニコーンは全身にそのデカールを貼りまくっていた。
「まるで本当に兵器みたいだ……」
観戦していたムツミもまた、ユニコーンの情報量の多さに驚いていた。
「へへ~当然だよ。丸2日かけて頑張って貼ったもんね~!」
タカコが自慢げに話す。
「……2日?」
「あ……!いや!なんでもないよ!なんでもない!」
ハッとしたタカコは自分の発言を不自然に否定した。
「……」
バクトは形勢不利と見ると、背を向けてその場を離れようとする。
「逃がすもんですか!」
アイは背中のアームド・アーマーDEを吹かすとバクト目掛けて飛び立つ。
「ちょっと重いかな!」
Gポッドの中でアイは今まで使っていたAGE-2Eとの感触の違いを感じていた。かなりの推力だ。お互いの距離はぐんぐん縮まる。
「背中からならこれで!」
アイはユニコーンのビームマグナムを両手で構えバクトに狙いを定める。が、その時Gポッドに警告音が響く。別の機体の攻撃だ。
「チッ!いつもいつも!」
アイはしょっちゅう同じシチュエーションに愚痴りながら真上に急上昇、自分がさっきいたであろう位置を大型ビームが飲み込んだ。
アイはビームの飛んできた方向を見る。
「あのバクトを吹っ飛ばすとはやるじゃないか!でもなぁ!ビームマグナムの威力で出来たようなもんだ!」
セキランの声だ。彼が乗っているのだろう。
バクト同様、ゆるやかな速度で青空に不釣り合いな黒い機体が飛んでいる。背中からキャノンを備え、前回戦ったゼイドラによくフォルム、それは…
「クロノス!?HGは出てないハズなのに!」
「ミキシングしたんだよ!ゼイドラと組み合わせてなぁ!!」
『クロノス』、ガンダムAGEに登場したバクトの後継機だ。設定上フレームがゼイドラと共通している為同じ部分が多い。しかし
高機動、接近戦用のゼイドラと比べこちらは遠距離戦に特化した機体だ。しかも肥大化した手足に関わらず、本編ではゼイドラ並に早い。
そのままクロノスは背中のキャノン、クロノスキャノンで撃ってきた、二条のビームがユニコーンに迫る。
「チッ!」
背部の放たれたビームをかわすアイのユニコーン、
「こっちだってぇ!」
アイはお返しとばかりにビームマグナムで撃ち返そうとする。が、その時、横からビームの邪魔が入る。
さっきのバクトが胸のビーム砲を撃ってきたのだ。
「あぁもう!邪魔しないでよ!」
かわしながらアイが愚痴るも、クロノスはその隙に右手のガトリング銃、クロノスガンを撃ちながらユニコーンに迫る。
「バンシィ・ノルンの装備か!だがフェネクス(二つ同じ装備を持ってるユニコーンバリエーション機)
が発表された今となってはありがたみがないな!その上中途半端にユニコーンモードか!」
セキランが言う。アイのユニコーンガンダムは今の姿の他に、『ユニコーンモード』というサイコフレームの閉じた姿が存在する。
アームド・アーマーDEもデストロイモードで形が変わるのだがアイのアームド・アーマーDEはユニコーンモードしか無い。
つまりデストロイモードなのに一部装備はユニコーンモード、公式的にはあり得ない半端な姿だった。
ちなみにこれはアームド・アーマーDEを移植したユニコーン二号機がユニコーンモードだった為、デフォルトで装備しているフェネクス(三号機)は
きちんと対応したアームド・アーマーDEが付属している。
つまりセキランはアイのこの改造を意味がないと言ってるわけだ。
「仕方ないでしょ!持ってるのこれしかなかったんだから!!」
クロノスガンをかわしながら、アイはうるさいと言わんばかりに左腕にビームサーベルを持ち応戦した。
クロノスはなおもクロノスガンを撃ちながら突っ込んでくる。
ユニコーンのパワーはAGE―2Eの時より上だ。クロノスがクロノスガンの先端からビームサーベルを発生させる。そのまま二機はぶつかり、つばぜり合いになった。
「くっ!重い!」
クロノスのパワーは凄まじい。ユニコーンでも押し切られるかもしれないとアイは思った。
アイは、すかさず右手のビームマグナムでクロノスを撃とうとする。だがクロノスは残った左腕でビームマグナムを掴む。
「必要ないぜ?コイツにはさぁ!」
「!?」
そのままクロノスはビームマグナムを握り潰す。
「嘘!?」
確かにパワーは大きいがここまで強いとアイは思っていなかった。
「次はコクピットを頂くぜ!」
「!?させない!」
そのまま左掌のビームサーベルでコクピットを貫こうとするクロノス、アイは右腕のビームサーベルのホルダーを前面に展開。
ビームトンファーを発生させクロノスのビームサーベルを受け止める。お互い腕を交差させながらこう着状態となった。
そのまま二体は力比べになる。その頃ナナは……
「しつこいなぁ!」
ナナはバクトに追いかけられながら、レールガンで応戦していた。幸いバクトの動きは遅い。距離を取ればそんなに怖くはない。
と、バクトは急に動きを止めた。ナナのストライクを追うのをやめたのだ。
「諦めた?」とバクトの挙動に思うナナ。
しかしバクトはユニコーンに体を向け、ランチャーを構えた。このまま身動きの取れないユニコーンを狙い撃つつもりだ。
「ヤバい!アイ!」
アイが劣勢なのはナナにも見えた。すぐさまバクトのランチャーに向けてレールガンを放つ。ランチャーはレールガンを受けて爆破。
強度が上がってるとはいえ細いランチャーは耐えられなかった様だ。
そのままナナのストライクは残った左腕で対艦刀を抜きクロノスに飛んだ。
「ストライク!?」
「ナナちゃん!?」
アイはナナのストライクがユニコーンの背後から近づいて来てる事に気が付いた。
「アイ!待ってて!今助ける!」
『ヴェイガン系ってのは何度も戦ってるもの!大方コクピットは頭でしょ!』そう思いながらナナはクロノスの頭に対艦刀を振り降ろす。
察したクロノスはユニコーンとの力比べを諦めそのままバックステップ。
振り降ろした対艦刀は頭部には当たらず、左のクロノスキャノンに当たる。しかし……
「何これ!?切れない!」
そう、対艦刀はクロノスキャノンを切断出来ず、キャノンにそのまま突き刺さった。
まるで木にナタを打ちつけたように……
「貴様!!」
クロノスは後退中に右側のクロノスキャノンをストライクに向け発射。シールドを弾かれたストライクに防ぐ術は無く、ストライクのコクピットを貫通する。
「あっ」
「ナナちゃんっっ!!」
アイが叫ぶ中、コクピットを失ったストライクはそのまま爆散。ここでストライクは撃墜となった。
後ろからもバクトがゆっくりと迫る。このままでは挟み撃ちだ。
「これで事実上二対一だな!」
ライタはクロノスキャノンに突き刺さった対艦刀を引き抜きユニコーンに投げつけた。
「くっ!」
アイのユニコーンはビームトンファーで対艦刀を弾く、だが直後クロノスは右肩でタックルをかましてきた。
全体重を乗せたクロノスのタックルにアイのユニコーンは弾き飛ばされ。倒れはしなかったものの膝をついた。
「無駄だ!お前は俺に勝つ事は出来ない!」
クロノスは追い打ちとしてクロノスガンをユニコーンに放つ。
「まだまだ負けるつもりなんてないよ!」
アイは左腕のアームドアーマーでクロノスガンを防ぐ。弾き飛ばされた際に追い打ちが来ると解っていた為、すかさず背中のアームドアーマーを左腕に移動させていた。
そしてクロノスに先端のビームキャノンを向ける。
「撃たせるか!」
ライタはそう言うとクロノスの火器を全てユニコーンに向け発射。
「っ!」
アイはアームドアーマーで防御態勢を取るも、ビームの嵐はユニコーンを襲う、そして大爆発を起こした。
「フン!現実は厳しいんだよ!」
勝った。そう確信するライタ。だが撃墜扱いのアナウンスが流れていない。
「やってないのか!」
「安直すぎるよ!」
撃墜扱いになってないとライタが判断したと同時にアームドアーマーを失ったユニコーンが突っ込んできた。それも腹這いの体勢で。
「なんだその体勢はぁっ!」
「ぅああああっ!!」
火器を向けようとするも瞬く間にユニコーンはクロノスの懐に入った。そして……クロノスの横を通り過ぎた。
「なんだ?なんともないじゃないか!脅かしやがって!」
後ろで立ち上がったユニコーンへ振り向こうとするライタ、だが……
「あんまり動かない方がいいよ。倒れるから」
「何……っ!」
ライタがクロノスを振り向かせる途中、クロノスがバランスを崩し横転した。
「なんだとぉ!」
ライタはクロノスの足を見て驚愕した。両足首が斬り落とされていたからだ。その隙をアイは見逃さず、右腕のビームトンファーでクロノスを袈裟に切り裂く。
右股間接から入り、そのまま右肩の付け根を切り落とした。
「ぅおおっ!どういう事だ!」
「さっきナナちゃんの対艦刀がクロノスキャノンを切った時、エポキシパテが詰まってるのが見えた」
アイはナナの切ったクロノスキャノンの切り口を見て気付いた。ミント色の切り口。これはタミヤの高密度タイプのエポキシパテだ。
エポキシパテ……、粘土の様な形状をしている模型用のツールだ。硬化剤と組み合わせて使用する事により時間を置くとカチカチに固まる。
これにより形状を整えたり、無い形状を造形する事が可能だ。
今回のクロノスに使用されてる高密度タイプは、数あるエポキシパテの中で最も固く弾力性があり、最も重い物だった。
ガンプラバトルではパワーに反映され、スピードを犠牲にユニコーンすら圧倒する力を発揮する事が出来たわけだ。
「それで体重を重くすればパワーは増す、だけど可動の邪魔になるから間接まではパテは仕込むことは出来ない。
だから関節が弱いと思ったけど、ビンゴだったね」
そう、仮想データ内では本来の重量より五倍の重さだ。スピードと燃費の悪さは半分以下だがパワーと打たれ強さは倍以上になっていた。
バクトも同様の改造が施されているのだろうとアイは確信した。
重くなったという事は総重量がモロに足に来るという事。だから足の関節が一番脆いとアイは予想した。予想は見事的中したわけだ。
「やった!アイ!」
Gポッドから出たナナが称賛の声が入れる。
「まだだ……」
「!?まだ生きてる!?」
ライタが呟きと共にクロノスは飛び。そのままクロノスはその場から逃げ出し、海へ飛び込んだ。
「仕留め切れなかった!?追わなきゃ!」
だがユニコーンにビームキャノンが迫る。アイはアームドアーマーで防御、さっきのバクトが胸のビームで撃って来たのだ。
「邪魔しないで!」
アイはバーニアを吹かしバクトを翻弄する。動きの遅いバクトは対応しきれずあっさりユニコーンに背後を取られた。
そのままユニコーンは頭部をビームトンファーで突き刺した。コクピットを潰された事によりバクトは撃墜扱いになった。
アイのユニコーンもクロノスを追いかけ海に飛び込む。水中ではビーム兵器の威力が半分以下になる上に動きも悪くなる。アイは注意しつつクロノスを探す。
クロノスキャノンが飛んできた事によりクロノスはアッサリ見つかった。
「待ってたぜ!まだ俺は諦めねぇぞ!水中なら足なんて飾りだ!」
「こんな所に逃げ込むなんて本当に諦め悪いね!」
アイはユニコーンでクロノスの周りを高速で動き、クロノスをかく乱すようとする。
「チョロチョロ動きやがって!だがまだ……なんだ!?動きが鈍い?」
「ッ?」
「し……しかも沈んでいく!」
クロノスの動きが鈍い事にアイとライタは気付いた。更にクロノスがドンドン沈んでいることに、それを見たアイは気付いた。
「そうか……自分で墓穴を掘ったんだ」
「何……?」
「重量が重すぎたんだよ」
そう、高密度パテはエポキシパテの中で最も重い。水に入れてしまえば小石を入れたかのようにどんどん沈んでいく。
「クソッ!上がれ!上がってくれクロノス!俺は!俺達はなるんだ!アイツを!ヤタテを倒して一流のビルダーに!」
ライタは操縦桿とペダルを吹かしながら自分の相棒に訴えかける。だが思う様に動かない。
「悪いけどもらうよ!」
そのままアイはユニコーンを突っ込ませ、クロノスの頭部にビームトンファーを突き刺した。
クロノスはそのまま目で弱々しくピピピ……と光を発した。自分の相棒に『勝てなくてゴメン……』と伝えるかのように
「ク・クロノス……」
最後にライタはそう言うとクロノスと共に沈黙、深海へ沈み……見えなくなった……
これにより勝敗は決した。 アイ達の勝ちだ。
「ナナちゃんのおかげで向うの仕掛けを見抜けたし助かったよ」
両手でユニコーンを持ちながらアイはナナに礼を言う。
「いいよそんな事、それにしてもカッコいいわねアンタの新しいガンダム」
「そう!作るの大変だったよ~。サイコフレームとボディで分けて塗装したから余計に時間かかっちゃって~」
「あ~やっぱり?それ以外でもそのシール。アンタに借りた模型雑誌で載ってたけど、それって水につける奴でしょ?手間かかったんじゃない?」
「ところでタカコ……、さっき『2日かけて』って言ってたけど……タカコも手伝ったの……?」
ムツミが不意に呟く。タカコは「え?!」と反応する。
「タ・タカコちゃん!?」
アイも明らかに動揺する。ナナは不審に思った。
「……アイ、アンタまさか土日って」
「タカコ……君は」
「え?いや、別にそんな事……」
冷や汗を流しまくる二人。ナナとムツミはジト目で迫る。
「眼を逸らさない……」
「怒らないから言いなさい」
「アイちゃん……」
「タカコちゃん……そうだね、観念して言おう……実は……」
二人はしょんぼりしながら話し始めた。
――2日前――
時刻は午前11時、アイの部屋、アイとタカコは床に敷かれた座布団に座り、
テーブルで向かい合いながら教科書と睨めっこしていた。……二人とも頭からオーバーヒートの煙をふきながら
「ア……アイちゃん……ここの公式なんだっけ?」
「え?いや私に言われても……」
もうこんな感じで30分だ。
「あーもう!やめやめ!こんな調子じゃ絶対間に合わないって!」
タカコは座った姿勢から上半身を床に投げ出した。前を切り揃えたセミロングの髪がぶわっと広がる。
「駄目だよタカコちゃん!今やらないと時間だけ無駄になっちゃうよ!」
「そんな事言ったって解んないんだもん~、その上頭だけどんどん加熱しているみたいだよ~。せめて休憩しようよ~」
両手をバタつかせゴネるタカコ。
「休憩って……」
アイは部屋の時計を確認する。やり始めて1時間は経っている。
「まぁしょうがないか……でも少し休憩したらまた始めるからね」
「やた~」
タカコは上半身を起こしながら笑顔を見せた。と、その時、アイの勉強机の上にガンプラの箱が置いてあるのが見えた。
『HGUCユニコーンガンダム デストロイモード』だ。
「あ、新しいガンプラ?ちょっと見せて~」
「あ!待ってそれまだ出来てない!」
タカコはガンプラに興味があるわけでは無い。しかし初めて入る友達の部屋だ。何があるのか興味が沸いたのだろう。
箱を開けると分解状態のユニコーンガンダムが入っていた。組んだパーツはほとんど無い。
「うわっ!すっごい細かい」
「それまだ時間かかるんだよ。塗装とかは終わったんだけど」
「え?じゃあ後組むだけなんじゃないの~?」
「そういうわけじゃないよ。シール貼らないといけないからさ」
同じく箱の中に入っていたHGユニコーン用のデカールとネットで印刷したであろう完成写真を見せる。凄まじく細かい上に凄まじく量が多い。
「ふ~ん」
その時タカコの頭にあるアイディアが思いついた。うまくいけば休憩時間を引き延ばせるかもしれない方法を。
「アイちゃん!あたしそれ貼るの手伝うよ!」
「えぇ?!ダメだよそんな!」
タカコの発言にアイは理解できなかった。勉強しなきゃいけない状況なのにガンプラ作りになるのはさすがにマズイと思ったのだろう。
「アイちゃんだって本当は早く完成させたいでしょう?」
「そりゃそうだけど……、日を考えてよ」
「じゃあちょっとだけ!息抜き程度だから!」
「そりゃ……ちょっとだけだよ」
ユニコーンを早く完成させたいと思っていたのはアイも同じだった。タカコが手伝ってくれるのなら素直にありがたかった。
教科書とノートを片づけてテーブルの上にユニコーンとデカール、そして綿棒の詰め合わせと水の入った塗料皿(金属製はさびるのでプラスチック製)を置いたアイ
「このシール……水転写デカールは普通のシールと違って一度水に浸す必要があるの。ちょっと手間がかかるから見ててね」
まずは貼りたいデカールの部分をデザインナイフで切り取る。ある程度の余白は残しておく。当然デカールの下にはカッティングマットを敷いている。
「次に切った部分をピンセットでつまんで塗料皿の水に浸すの。水につけたら皿のふちに置いてね。入れっぱなしだとデカールだけ浮くから」
そしてしばらくして、再びピンセットでデカールの余白をつまむ。
「そしたらパーツの貼りたい位置にデカール持って行って、ピンセット持ってない方の親指でデカール抑えながら台紙を引き抜く。うまく台紙にデカールが浸透してればすんなりいくから」
そしてピンセットから綿棒に持ち替えるアイ。
「水がついてる内はある程度動かせるから、貼りたい位置に持ってこれたら綿棒で水分を吸い取って完成、ユニコーンの場合完成図と睨めっこしながら、ひたすらこれの繰り返しだよ」
「ひゃ~細かい~、うまく出来るかな~」
「だったら辞めとく?」
「うぅん、やってみるよ」
少し尻込みしてしまうがすぐテスト勉強には戻りたくない。タカコはデカール貼りに挑戦すべくデザインナイフを手に取った。
で、二時間後……
「やった……両腕完成……!」
デカールを貼った両腕のパーツがテーブルに置かれる。
「うぁ~目ぇショボショボするぅ~」
ずっと集中していたのだ。タカコは眼がしらを抑えながら言った。
「とりあえずこれで終わり、さ、勉強にとりかかろうよ」
ユニコーンをしまおうとするアイ。しかしタカコはテスト勉強に戻りたくなかった。
「あ!アイちゃん!でも腕だけだよ!まだ両足も武器も完成してないじゃない!」
「え?まさかまだやるつもり!?駄目だよ今度こそ勉強しないと!」
「だ!大丈夫だよ!え~と……、その分休憩時間削れば問題ないから!」
「えぇ!ぶっ続けでやるつもり?!」
「却ってあたしが気になって集中できないよ~!」
別にタカコがガンプラ作りに目覚めたわけではない。しかしこっちの方が集中出来る分こっちをやってた方がタカコ的には良かった。
「う~ん、そう言うなら……両足だけだからね」
で、またまた二時間後……
「両足までこれたよ……」
「凄い凄い!」
デカールを貼った両足のパーツが(以下略)
「で、もう三時になっちゃったけど……」
「アイちゃん……もうあたし思ったんだけど今日の所はユニコーンに集中して、明日ガーッと勉強に集中した方がいいと思うんだ~」
「いや……まぁ確かに今から勉強に取りかかるんじゃ中途半端かもしれないけれど……」
「じゃああたしがお股に取りかかるからアイちゃんは上半身やって~」
「充実した時間過ごしてんだか、時間無駄使いしてんだか解らなくなって来た……」
そしてまたまた二時間後……
「いや~胴体もあらかた貼り終わって残りも減って来たね~」
デカールを(以下略)
「うん、でもまだ武器とか残ってるよ」
さすがにもうこれ以上続けるわけにはいかない。時刻は午後五時、タカコは今日お泊りする用意はない。今帰らないと真っ暗だ。
「じゃあ明日残り一気にやって完成までこぎつけようよ~」
「そうだね、さすがに明日なら午前中に完成まで行くと思うし……」
そして結局明日の午前中でも完成には至らず……、日曜日の午後まで使ってようやく完成までこぎつけたのだった……
「というわけで完成したの。大変だったよ~」
「……『大変だったよ~』じゃなぁあぁいっっ!!!!」
『ひうぃ!!』
普段ジト目のムツミが鬼の様な形相になる。大声が店に響いた。
「高校性が二人もいて!!二日かけて勉強そっちのけでガンプラ作成ってどういう事ぉぉ!!!」
「ム!ムツミ!待って待って!勉強解んなかったから仕方ないじゃん!」
ひきつった笑顔でなだめようとするタカコ
「開き直るなあああっっ!!アイちゃんもアイちゃんだよっっ!!!!ホイホイとタカコの言うがままにされてぇぇっっ!!」
「ひぃぃっ!!ごめんなさい!!」
「まぁまぁムツミ、まだ二週間あるわけだし、完全に取り返しのつかなくなったってわけじゃないんだし」
「ナナ!でも!」
「その分スパルタでやればいいじゃない」
アイとタカコはナナの発言にビクッとなる
「そ・そうだね……、残りの期間で挽回すれば……」
「と、いうわけで残り二週間、毎日勉強会開こうね。アイ」
「ナ・ナナちゃん……」
いたずらっぽく笑うナナにアイは戦慄していた。
「あたしは新聞部があるから別にいいよね~」
「駄目だよタカコ……。部活後でもボクが叩き込むから……」
「あはは……やっぱし?トホホ……」
アイとタカコはその場で頭を垂れた。可能性の獣……ユニコーン、しかしそれを生み出すのに別の可能性を削り取ってしまったアイ達なのであった。
「……あんな奴らに負けた俺達って一体……」
……ライタ達も別の意味で頭を垂れていた。
これにて15話終了となります。コマネチです。
テスト期間中に限ってガンプラ作りたくなった事があるのでこのネタを思いつきました。
どんどんアイとタカコがダメ人間になってゆく……
そして今日の登場ガンプラです。
ユニコーン
http://www.tinami.com/view/660346
クロノス
http://www.tinami.com/view/660329
よろしければどうぞ。
※デカールの貼り方説明に不備があったので直しました。すいません…。
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第15話『可能性の獣』
アイがコンドウに勝利した事実は、周辺から腕利きのビルダーを呼び寄せる結果となった。
だがそれとは別に最強の試練がアイに襲い掛かる…。