第二章‐玖話 『 天は蒼く黄天は沈む Ⅳ 』
「では予定通り今夜決行と言う事でよろしいですか?」
「ええ、構わないわ」
「こちらも意義はない」
「私達も異論はありません」
口々に同意の言葉が続いていく。それを聞き終えて最後に会議を締め括る。
「では各陣営作戦に備えて準備を」
大天幕での会議を終えてそれぞれの代表が自陣へと戻っていく。その様子を見送り終え彼女…皇甫嵩も自分の天幕へと戻っていく。天幕の中、その机の上には二通の文が置いてある。一通は洛陽からの凶報、もう一つは会議の直前に”飛燕”なる者が届けてきた吉報だった。
「柊…」
そのどちらもが彼女の友に関すること。
本当なら今すぐにでも確かめに行きたかった。
しかし、黄巾討伐の任を帯びている今それは出来ない。
なら、彼女に出来ることは一刻も早くこの乱を終わらせることだけだった。
「おかえりなさいませ、華琳様。会議の方はいかがでしたか?」
金髪の少女が天幕に戻るとすかさず猫耳の
「予定通りに今夜決行することになったわ。」
「そうですか。それで此方はいかに動きましょうか?」
「そうね、特に何かを気にして動くことはないわ。ただ…」
「ただ?」
「ここまで人心を掴む張角達の才。あれは今後、私の覇道の役に立つわ」
「かしこまりました」
華琳と呼ばれた少女の意図を汲み猫耳の少女はすぐさま動きだす。自分の軍師を務める少女の働きに、華琳は笑みを浮べていた。
「ただいま~」
「おかえりなさい。桃香さん」
「ただいま朱里ちゃん。愛紗ちゃんは?」
「すこし風に当たってくると」
「そっか」
劉備の陣営その天幕の外で関羽は空を見上げていた。あの日、御使いと出会いそして否定された日。(一章‐弐話 参照)
『正義も悪も関係ない、その先のもの』
今でもその言葉の意味は分からない。ただこうして桃香の語る理想に共感してくれる者達がいるのを見てやはり自分達のしていることは間違いではないのだとそう感じる。
青龍偃月刀を掲げ黄巾党が居る場所を見据える。
また一つ、大陸から悪を失くすために。
日が沈み、辺りを闇が包み込むなか今この場所だけは煌々と赤く染め上げ怒号や咆哮などが飛び交い、大地を紅く濡らしていた。
討伐軍による作戦が始まったのだ。討伐軍は稲葉の読み通りに火計を使い攻め込んでいた。もはや、砦が墜ちるのも時間の問題であった。
「太白、白妙。稲葉さんが準備できたって」
「分かったッス」
「本当にこのまま行くんさ?」
砦内では太白達の一行は討伐軍の包囲網を突破するための準備をしていた。と言っても何かしら策があるわけではなく、ただ包囲の薄い義勇軍が抑えている場所を突っ切るだけの力技でしかないが。
だが、その中に張角達三人はいない。彼女達は太白達の申し出を断りこの乱を引き起こした責任を取るために砦に残ることを選んだのだ。
「皆まだ居たの!?もう討伐軍がそこまで来てるって」
「でも三人を置いて行けないんさ!」
太白達の元に来た張角に向け叫ぶ白妙に張角はゆっくり近づくと優しく抱きしめると静かに言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「ごめんね。でも歌うことしか出来ない私達を支えてくれた人達を放って私達だけ逃げるなんてやっぱり出来ないから。」
「白妙、早くしないと自分達もやばいッス」
「でも、角ちゃん達が…」
「天和」
「ふぇっ?」
「天和。私の真名。一緒には行けないけどせめて持って行って」
「自分は太白ッス」
「私は流琉です」
「あたしは稲葉」
「ちぃは地和だよ」
「人和です。といっても今更真名を教える意味は無いかも知れないけど」
いつの間にか全員が集まり真名を交わしていく。
「…アタイは白妙なんさ」
最後に白妙も真名を名乗る。
「皆早く、今ならまだ間に合うはずだから。…元気でね」
急かすように白妙達を送り出すと天和は小さく呟く。次第に闇に溶け込みその姿が見えなくなるまでその場で見送り続けた。
「お前が張角か?」
気付けば砦の門は既に破られ背後には大剣を肩に担いだ黒髪の女性が立っていた。本当に間一髪で白妙達を逃がすことが出来た。そのことに天和は安堵の笑みを浮べた。
「このまま行けばもうすぐ義勇軍とぶつかるよ!」
砦を出て一直線に突き進む先頭は稲葉が殿は太白が務めている。稲葉が偵察していたときこの先は義勇軍が布陣していた。この包囲網を突破するには官軍を相手にするより義勇軍が相手のほうが突破できる確率は高い。並の相手なら稲葉の一団に加え太白、白妙、流琉のこの一団を止めることは出来ない。そう思っていた。だが、
「うおおお!」
突如、咆哮と共に襲い掛かられる。それを寸でのところで受け止める。
「ほう、我が刃を受け止めるとは。賊にしてはなかなかやるな」
「稲葉さん!」
「大丈夫」
駆け寄ってくる流琉にそう言ってみるが状況はかなり不味い。今、一撃を見舞ってきたのは恐らくここ最近賊の間でも噂になっている『黒髪の山賊狩り』。いくら相手が義勇軍でもコレを相手にするのは骨が折れる。
「流琉ちゃん、後ろを連れて先に行って」
「あたしはコイツを抑えとく」
「なら自分も残るんさ」
その場に追いついた白妙が武器を構えて言い放つ。
「太ちゃん、るーちゃん先に道を作ってて欲しいんさ」
「分かったッス。流琉、ここは二人に任せとくッス」
「うん。二人共絶対に追いついてね」
「逃がすか!」
「行かせないんさ!」
関羽が動き出した瞬間に白妙が行く手を遮るように斬馬刀を振り下ろす。
「一つ聞きたいことがあるんさ」
「なんだ?」
「なんで皆して天ちゃん達を苛めるんさ?」
「何を馬鹿な、悪を討つのは当然のことだろう」
「天ちゃん達は何も悪くないのにさ?」
「悪人は皆そう言う」
関羽の答えに白妙はその身を震わせる。奥歯を噛み締め、斬馬刀を強く握りしめる。
「白妙ちゃん?」
白妙の様子に隣にいた稲葉もすこし心配そうに声を掛ける。だがその声は白妙に届いておらず、代わりに凄まじい怒気が放たれる。
「今分かったんさ。お前みたいなのがいるからいけないんさ!」
叫ぶと同時に関羽に肉薄する。馬鹿でかい斬馬刀を持っているとは思えない速度で間合いを詰めると一気に振り下ろす。
「お前みたいな分からず屋がいるから天ちゃん達が犠牲になるんさ!」
初撃を受け止めた関羽に続けざまに振り下ろす。その時の斬馬刀は淡い光に包まれていた。
「くっ」
その一撃に危険を感じ関羽は紙一重でかわす。振り下ろされた一撃は轟音を響かせて辺りを吹き飛ばした。
「あっ、見えましたよ。アレじゃないですか?」
「…なんか太白達以外に沢山いるし」
天水の領内で太白達を待っていた白雪達の元にようやく太白達が姿を現したのは日が昇りきった頃だった。
「白雪お迎えありがとッス」
「なんとか全員逃げ切れましたね」
「まぁ、白妙のおかげだね」
「…お前等誰だし。なんで白妙は寝てんだし」
「まあまあ、それより早く帰ろ。先輩やお兄も待ってるだろうし」
「白雪。この人誰ッスか?」
「とりあえず天水に戻りましょう。ここでこうしているのも些か問題がありますし」
なかなか話が進まない中、鬼灯が切り出す。その提案に誰も異論はなかった。
その頃の天水では和輝が貂蝉と共にとある問題を持ち込んで大変なことになっていた。
あとがき
新キャラが沢山増えながら第二章完結です。そして次回から皆さん気になってる(よね?)反董卓連合編に突入していきます。がその前に拠点を挟もうかと思いまして。その為にちょっとアンケートを取ってみようかなと思います。対象になるのは
月・詠・恋・霞・華雄・流琉・鬼灯・太白・白妙・白雪・稲葉・一刀・和輝・楓
と、とりあえず二章で出てきたキャラです。(シェアもあり)
そしてこれに+αが三章での董卓軍ということになります。
ではまた次回!
たくさんのコメントお待ちしております。
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二章完結です。最後にアンケート実施してます
『Re:道』と書いて『リロード』ということで
注:オリキャラがでます。リメイク作品です