No.659826 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第二十五話2014-02-02 13:49:42 投稿 / 全15ページ 総閲覧数:8684 閲覧ユーザー数:6047 |
洛陽にて~
「北郷さん、ご苦労様でした」
洛陽に着いた俺を董卓さんが出迎える。
「董卓さんも洛陽にまで出張ってくるなんて…天水の方は大丈夫なのですか?」
「はい、天水を始め涼州はそもそも黄巾党があまりいなかったですから」
俺の問いに彼女はにこやかに答える。
「ところで…もしかしてそちらの人達が?」
董卓さんが眼を向けたその方向には、一応形式上は馬車の中にいるだけのよう
に見えるが、実際は捕縛状態にある張三姉妹の姿があった。
三人は董卓さんと視線を合わす事無く、おどおどした様子で所在無くしていた。
「一応、言われた通りに捕縛した後はこっちに連れて来たんだけど…これからど
うするんです?」
「はい、まずはお風呂に入ってもらいます」
「「「お風呂!?」」」
董卓さんの言葉に三人は素っ頓狂な声をあげる。
「はい。でも疲れを取ってもらうわけではなく、謁見の為に身を清めてもらうの
ですけどね」
「謁見って…まさか?」
「はい、陛下が直々に詮議をされるとの事です」
それを聞いて最初は風呂に入れるとちょっと嬉しそうにしていた三姉妹の顔が
凍りつく。
「えっ、へいかって…皇帝陛下?」
「まさか…そんな事が。幾ら何でも皇帝陛下が自分でなんて前代未聞の事じゃ…」
「…………………」
それぞれ張宝・張梁・張角の反応である。ちなみに張角が無言なのは、半分失
神しているからだ。
それから一刻後、謁見の間にて。
「皇帝陛下のご出座です。皆、畏まってお迎えいたしますよう」
王允さんの言葉にその場にいた一同が平伏する。
ちなみにちらりと見えた王允さんの顔に青痣が少し見えたが、どうやら空様を
行かせた事は予想以上に命か夢に怒られたようだ。
それから数秒後、命が玉座につく…あれ?
「皆の者、面を上げよ」
その言葉は普段の命ではなく、皇帝劉弁の威厳に満ちたものであった…といえ
ば、なかなか格好良い話なのだが、どうしても違和感が拭えない。顔も声も命
では無いような…まさか?
俺はそう思い辺りを見回すと…衛兵の鎧兜を身に着けてしれっとした顔で立っ
ているのは命のような…さすがに兜を深めに被っているので、命だと気付く者
はいないのだが…あっ、俺と眼があった瞬間に視線を逸らした。ありゃ間違い
なく命だな。という事は…玉座に座っているのは夢か。でも俺みたいに知って
る人間からすれば違いも分かるが、ああしてすました顔で座ってると見分けは
つきにくい。さすがは双子といった所か。
「ではただ今より皇帝自らによる詮議を行う。皆の者、天におわす神々と代々の
皇帝に対し、決して嘘偽りを述べる事の無い事を誓いなさい」
その言葉に一同は神妙な顔で応えるが、正直俺は笑いそうになっていた。嘘偽
りって…そもそも玉座にいるのが皇帝じゃないし。
「さて、まずは…張角。あなたは何故このような争乱を引き起こしたのか?この
漢という国に不満のあっての事か?」
「………………」
皇帝に扮した夢の言葉に張角は無言のままであった。最初は彼女が発言するま
で皆待っていたが、しばらくそれが続くとさすがに焦れてくるのは当然の事で
あり…。
「ウオッホン!!張角、お言葉に何故答えん?何時までも黙秘は通用せんぞ?」
王允さんの咳払いと共に発せられた言葉にも怒気が少々込められているように
感じる。
それでも張角は一言も発しない。さすがにそれでは皆が納得するはずもなく、
皆の視線にも張角に対する怒りと侮蔑が込められる。
「ま、待ってください。姉が何も話せないのには訳があるんです!」
その場の空気を変えるかの如くに発言したのは張梁であった。
「あなたは張梁ですね。今の言葉はどういう意味です?首領はあなたの姉である
張角なのは皆が知っている事。その首領本人が何も話せないというのは合点の
いかない話ではないのですか?」
「違うんです。確かに名目上は姉を首領としてはいました。でも…」
「でも?」
「その…正直、姉にはあまり難しい事はさせていませんでした。特に軍の動きに
ついてはまったくと言って良いほど姉は関わっていませんので…」
「ほう、それではあなたが各地の軍に攻撃を指示していたとでも言うのですか?」
「…そうです。だから姉には何も責任はありません。処刑するなら私を『待って、
人和ちゃん』…姉さん?」
張梁がそこまで発言した時、張角がそれを止める。
「確かに私はあまり難しい事は分かりません。妹に任せていたのも事実です。で
すが、それはあくまでも私が首領として妹に一任していただけの事、責任は私
が取ります。ですので、処刑するのなら私一人で…妹達にはお慈悲をお願いし
ます!」
張角はそう言うなり土下座する。
「ちょっ、何言ってるのよ!処刑なら三人一緒でしょ!!姉さんがいない明日な
んて…」
「そうよ、天和姉さん一人処刑されてまで助かりたくなんか…」
張宝と張梁は姉にしがみつくようにしてそう叫ぶと嗚咽を洩らす。
その光景を見ていた兵達の中にはもらい泣きする者まで出る始末だ。ていうか
この三人、黄巾党の首領だったんだけど…その辺は分かっているのだろうか?
夢もしばらくはそれを眺めていたが…。
「三人とも、気持ちは分かりますが場所をわきまえるよう」
厳しく発するその声に三姉妹は泣くのを止める。しかしその眼は完全に赤くな
っていた。
「詮議を続けます。三人の何れかで構いませんので答えなさい。何故あなた達は
此度のような争乱を引き起こしたのですか?漢に対する不満があったのかそれ
ともあなた達自身が皇帝や王になりたかったのですか?」
そう聞かれた三姉妹は所在無さげに眼を合わす。そしておずおずと語り出した
のは張梁であった。
「決して不満とか皇帝になりたいとかいう欲望ではなかったんです。というより
実は私達にも此処まで大きな争乱になってしまった理由は分からないんです」
「分からない…とは?」
「最初はただの旅芸人として各地で活動していただけだったんです。でも、幾ら
頑張っても成功を収める事は出来ず、たまに呼んでくれるかと思えば、女三人
だけなのをいい事に芸なんかそっちのけで『幾ら払えば閨を共にしてくれるの
だ?』みたいな事ばかり言ってくる富豪や役人ばかり…正直そんな生活に嫌気
はさしていました。不満では無いとは言いましたが、自分達の芸を正当に評価
してくれないこの国に嫌悪を抱いていたのは事実なのかもしれません」
張梁のその言葉を夢は神妙な面持ちで聞いている。さすがに国の上に立つ立場
の人間として考えるものはあるようだ。
しかしある疑問が頭をよぎる。
「あの、よろしいでしょうか?」
「一刀、どうしました?何か質問でも?」
「はい、今の話を聞きますに三人の活動はまったくと言って良い程成功していな
かったように感じますが…なら何故あんなに多くの人間が一気に集まったので
すか?正直、努力の賜物というにはあまりにも大きすぎるのではないかと…」
俺がそう言うと、張梁は何やら考えていたが、何かを思い出したかのように話
し始める。
「ならばおそらくあれが…実はそうやって細々と活動をしていたある日の事なの
ですが、姉…張角が応援している人に貰ったとか言って一冊の本を持ってきた
のです」
「本?もしかしてあなた方を捕まえた時に燃やしたあの本ですか?」
「はい、そうです。最初はただの古ぼけた本としか見てなく、好事家なら多少な
りとも高値で買ってくれるかとも思って中を見ると、そこには人を集めたり人
気を取る方法が書かれていました。試しに一つ二つ試してみると、今までに無
い位の大成功で…思えばあれから一気に活動の幅も付いてくる人の数も増えた
のではないかと」
「そのような本が…しかし一刀はそれを燃やしたと言いましたね。それは何故で
すか?」
「はい、おr…私が彼女達を見つけた時、張梁さんの懐から何やら怪しい気が漂
ってくるのを感じたのです。まるで、そのままでは彼女の身体を乗っ取ってし
まうかのような程の。そこで同じくその気を感じ、その気に対抗しうる力を持
った楽進にその対処を依頼したのです。案の定、懐の中から怪しい気が立ちこ
める本が出てきたので楽進の気弾で塵一つ残さず灰にしてもらった次第です」
俺がそこまで言うと、王允さんが何やら思い至ったかのように口を開く。
「張梁、もしやその本の名は『太平要術』と記されていなかったか?」
「…その通りです」
「王允、そなたその本を知っているのですか?」
「はっ、私も噂でのみ耳にしたのみですが…何でも人をひきつけ、集まった者達
の悪意を吸い上げ、挙句の果てには人の世の営みをも破壊する呪いの書の名で
ございます」
「「「呪いの書!?」」」
王允さんの言葉に三姉妹の声が驚きに彩られる。
「そんな…あんなに人を集めて成功させる術が書いてあった本が…まさか」
「そりゃ人は集まるだろう…何せ多くの人から悪意を集める事が目的である以上
まずは人が集まらなければ話にもならないしね」
張梁は呆然と呟くが、俺の言葉に唇を歪ませる。
「なるほど…多くの人間を集め、悪意を吸い上げ、世を破壊する力を生み出すと
いう事か。確かにそうであるならば、その呪いの力が此処までの争乱を引き起
こしたと考えてもおかしくはありませんね。おそらく三人が争乱を止める事が
出来なかったのも、軍勢を動かす所まで突き進んでいたのも呪いの力のせいと
も言えそうですし」
「ならばその本のせいという事でこの者達には責任は無しとするのですかな?」
「…そういう風に簡単に言えれば楽なのですが、そういうわけにもいかないでし
ょう。三人には何かしらの罰は必要です。そもそもその太平要術なる本のせい
だとしてもそれを用いた責任はあるのは必定ですから」
王允さんの問いに答えた夢のその言葉に三姉妹の息を飲む音が聞こえる。
「…ならば、やはり責任は私が取ります。どうか私の首を刎ねて下さい。その代
わりと言っては何ですが、妹には寛大なるお沙汰をお願いします」
「何言ってるのよ!責任なら私達にもあるわよ!」
「私達はずっと三人でやってきた…だから最期まで三人一緒に行きましょう、姉
さん」
「ちぃちゃん、人和ちゃん…」
三姉妹はそう言うなり抱き合って泣き始める。その時…。
「うむ、何とも麗しき姉妹愛よの!!」
命が兵士の列の中から出てきてそう三姉妹に声をかける。とは言っても、俺は
それが命だと分かっているが、三姉妹にとっては『いきなり現れて何言ってる
の、この兵士は?』みたいな困惑気味な顔をしている。
「妾も妹がおる故、お主達の気持ちは良~く分かる。本来ならば此処までの争乱
を引き起こした張本人達という事ならば極刑が妥当な所なのじゃろうが、此処
は一つ少しばかり軽くしてやろうと妾は思うが、どう思う?」
「…そうですね。まったくの無罪というわけにもいかないでしょうけど、姉様が
そう言うのであれば」
いきなり現れた兵士に困惑していた三姉妹は玉座に座っている皇帝とおぼしき
人物がその兵士を『姉』と呼んだ事にさらなる困惑の度合いを深める。
「あ、あんた一体何者なのよ…?」
「おおっ、そうじゃったな。そういえば名乗っておらんかったな」
命はそう言うと兜を脱ぐ。
三姉妹はその中から出てきた顔を見て驚く。それもそのはず、その顔は玉座に
座っている皇帝?と同じ顔であったからだ。そこに、
「妾が劉弁じゃ。今のお主達の話、近くで良~く聞かせてもらったぞ」
命がそう名乗りを上げると、三人は眼を見開いたまま固まる。
「りゅ、劉べ…まさか?」
「ああ、妾が皇帝の劉弁じゃ」
そして命がそう会心の笑顔で答えた瞬間、三人の顔はみるみる内に青ざめ…。
ドサリという音と共にその場で昏倒していた。
「おや、何をそんな失神する程の事があったのか?」
「いや、いきなり自分の目の前にいたのが皇帝本人だったらそうなるって」
「そうなのか?此処まで大きな争乱を引き起こしておきながら肝の小さい事よの」
そう言いながら命は『ドッキリ大成功!』と顔に書いてあるかのような笑みを
たたえていたのであった。
「「「し、失礼いたしました…」」」
しばらくして正気に戻った三姉妹は平伏したままそう申し訳なさそうに言う。
「まあ、気にするでない」
そして夢に代わり玉座に座った命はしれっとした顔でそう声をかける。
しかしその直後、命は表情を切り替え、
「さて、それではそなた達への裁きを申し渡す」
そう言葉を告げると、三姉妹の顔に緊張が走る。
「幾ら呪いの書の力が原因だとはいえ、此処までの争乱を引き起こした首領たる
張角達の責任は重大である。さらにこのまま張角達が存在すると思わせる事も
これからの政に差し障りが出かねない。よって、そなた達には今ある名を捨て
てもらう」
「名を…捨てる、ですか?」
「ああ、でも真名まで捨てる必要は無いがな」
「でも何故そのような…このまま私達を処刑してしまった方が話が早いのではな
いのですか?」
張梁は訝しげな顔でそう聞いてくる。まあ、確かにこの場で首を刎ねた方が後
腐れは無さそうだが。
「確かにな。じゃが、お主達の責任は死を以て贖える程度の物では無い。名を捨
て、人に後ろ指を指され、泥水をすすってでも生きてこの国・この大陸の行く
末を見届ける事こそがお主達の責任であり、罰であるという事じゃ」
なるほど…確かにそれはある意味死よりつらい話かもしれないな。どんなつら
い事があっても死に逃げるのを許さないという事でもあるし。
「それとな…お主達の力をみすみす逃す手も無いと思ってな」
「私達の力…ですか?」
「うむ、もう太平要術は無いがお主達にはその中にあった人を集め、人気を得る
方法の記憶はあるじゃろう?それを役立ててもらいたい」
「それがどうお役に立つと?」
「正直な話、身から出た錆とはいえ洛陽もまだまだ復興の途中でな。その為には
何より人が集まる事が必要となる。人を集める為に必要となるのは住みやすい
環境、そして娯楽じゃ。住みやすさについては妾達がもっと考えていかなけれ
ばならんのじゃが…」
「つまり私達の歌で娯楽を提供する…という事ですか?」
張梁の言葉に命は大きく頷く。
「しかし私達三人だけでそれをするのは些か…」
「分かっておる…一刀、お主にはその手伝いを命じる」
…そこでいきなり俺ですか。でもそういう事なら…。
「一つだけ条件というより提案がありまして、それを承認していただければ」
「何じゃ?」
「その仕事、我が配下にして友人でもある及川にお任せ願いたく」
「ほう、あの及川か…確かに一刀よりあやつの方が向いてそうじゃな。分かった、
任せよう。三人もそれで良いな?」
「「「はい…」」」
「ならばこれでこの話はしまいじゃ、三人の事は一刀に預ける。それと三人の活
動に必要な資金等については王允と相談して決めるよう」
命はそれだけ言うと夢を伴って謁見の間を出て行った。
「それじゃ三人ともこっちに来てもらっても良いかな?俺の名は北郷、これから
よろしく頼むよ」
「その前に…結局私達はどうなるのよ!?」
張宝が少々苛立った様子で聞いてくる。
「だから洛陽の復興の為に活動してもらうという事さ。しばらくはこっちの言う
通りに動いてもらうのと、ただ働きとまでは言わないけどしばらくの間は少々
君達三人の見入りは少なくなるけどね」
「何よそれ!何であんたらの言う事に『待って、姉さん』…何よ、人和」
「北郷さん…でしたね?私達がその活動をすれば処刑は無く、活動の為の資金と
かはそちらで持ってくれるという事で良いのでしょうか?」
「そうだよ」
「分かりました、私達三人の命が助かるのであればその話受け入れます」
「ちょっ、人和!何を勝手に『この話を受けるか首を刎ねられるか私達にはその
二択しか無いの』…分かったわよ」
張宝もようやく渋々ながらも受け入れる。
「あの~、結局私達は助かるって事でいいのかな?」
話についてこれなかったらしき張角がようやくそう聞いてくる。
「しばらくはこっちの言う事を聞いていてくれたらね」
「分かりました。私の真名は『天和』です。これからよろしくお願いします」
そしていきなり真名を預けてくるのでその場の皆が驚く。
「ちょっと姉さん、いきなり何を…」
「ちぃちゃん、人和ちゃん、私達は命を助けてもらった上に、これからこの人の
お世話になるんだよ?」
「…分かったわよ、私の真名は『地和』!」
「私は『人和』です。よろしくお願いします、北郷様」
「というわけで三人の世話はお前の仕事だ。ちなみに拒否権は無いぞ。何せ陛下
の思し召しだからな」
「…まあ、こないに可愛い娘の世話役を出来るのはむしろ大歓迎やけどな。でも
かずピー、それだけとちゃうんやろ?」
「よく分かってるじゃないか。まずは当然の事ながら彼女達の監視役という事だ
な。それと、これから彼女達の活動を続けていくにあたって多くの人間との接
触が増えてくるだろうから…」
「悪意から三人を守るのと、そこに集まる情報からワイらに有益な物を選別して
報告するっちゅう事やな。そういう事なら任せとき!…ゴホッ、ゴホッ」
及川はそう言うとドンと胸を叩く…その直後に咳き込んでなければきまったの
に相変わらず少々残念な奴だ。
「ねえ、こいつ本当に大丈夫なの?」
地和は少々ジト眼で及川を見ていた。
「大丈夫、見た目はこうだけど腕は確かだから」
「そう!ワイに任せとけば、あっちゅう間に三人を大陸一のアイドルに仕立てて
みせるで!!」
「「「あいどる?」」」
「ええっと…人気者って事かな?」
「「人気者…しかも大陸一の」」
俺がそうアイドルの言葉の説明をすると、天和と地和は恍惚とした表情を浮か
べる。
「そうや!皆、大船に乗ったつもりでワイについてくるんや!そしてあの空に輝
く一番星を共に目指すんや!!」
「「おお~~~っ!!」」
そして及川が空の彼方を指差してそう叫ぶと二人はそれに乗っかってはしゃい
でいたが…。(ちなみに今はまだ昼間であり、本日は曇り空だったりする)
「人和、君も大変だろうけどよろしく頼むよ。おそらく手綱は君が握る必要があ
るだろうけど」
「…そうですね」
人和は一人頭を抱えながらため息をついていた。
それから数日後。
「張角の首を獲った?」
ようやく戦場から戻ってきた空様から聞いたのはその一言だった。
「おう、見ろこの首を」
空様はそう言って無造作に首が入った袋を取り出す。その中から出てきたのは
…確かに張角の首だ。但し、それは大陸中に出回っている張角の人相書きに書
かれている髭面のおっさんの顔と同じ顔をしているというだけだが。
「顛末は夢から聞いた。でもこのまま張角が行方不明のままでは色々と具合が悪
かろう?そこでだ…」
「これを張角の首として公表するってわけですか。でもこの首は一体何処から?」
「洛陽に帰る途中で盗賊の住処を発見したので霞や恋と一緒に軽く皆殺しにして
きたのだが、その中にこれがあってな。丁度使えるんじゃないかと思って持ち
帰ってきたというわけさ」
軽く皆殺しって…まあ、やめておこう。この人のフリーダムさにいちいちツッ
こんでいたらきりが無いし。
「それで命達はどう言ってました?」
「皆の眼を欺けるなら問題無いとの事だったぞ?」
そりゃそうですよねー。まあ、事実これがベストとは言わないけどベターでは
あるのだろう。
そして次の日、この偽首が張角の首として城門の外に晒されたのであった。
天和達はいかついおっさんの首が『張角の首』として晒される事に抵抗はあっ
たようだが、背に腹は変えられないと渋い顔でそれを受け入れていた。
こうして長きに渡って大陸中を混乱の渦に巻き込んだ黄巾党の乱も終焉を迎え
たのであった。しかしこれで乱世の終焉とまではいかないであろう事は容易に
想像出来る。でも今この時だけはしばしの平穏を満喫する事にしよう。
・・・・・・・
そして十日後。
再出発する事になった張三姉妹のライブが行われる事となった。
とはいえ当然本名は名乗れないので、及川の発案でユニット名をつける事とな
り、そのお披露目の場でもあったのである。
「「「皆、今日は来てくれてありがとう!私達が『数え役満☆姉妹』で~す!こ
れからも皆の為に歌っていくので応援よろしくね~♪」」」
新たな旅立ちを迎える三人に対する声援は尽きる事無く続いていたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
一応、今回で黄巾編は終了です。
少々…どころか大分強引な展開になってしまいましたが。
ちなみに各諸侯へ対する論功行賞その他は後々に…また
そこから新たな火種がという予定です。
そして次回からはまたしばらく拠点的な話をお送りして
いきますので。
それでは次回、第二十六話にてお会いいたしましょう。
追伸 次の拠点辺りからようやく一刀争奪戦の幕開けです。
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お待たせしました!
黄巾党の首領である張三姉妹を確保した
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