「う、うーん・・・」
眠りから覚めたみほは目を擦り、目覚まし時計を探す。
「あれ・・・なんか柔らかい・・・?」
触れた物が目覚まし時計でないことに気付き、寝ぼけた目を凝らして見てみると、ドイツ第三帝国の戦車兵の制服を着た女性の胸だった。
触られた女性は怒り、みほを怒鳴り付ける。
「ちょっと、中尉!なに戦闘中に私の胸に触ってるんですか!?」
「あっ・・・すいません・・・私は中尉じゃなくて、みほなんですけど・・・」
その声で目覚めたみほは謝って、自分の名前が間違っている事を伝える。
「あれ・・・?私いつの間に戦車の中・・・それにⅢ号戦車の車内に・・・?それにこの服・・・」
自分がいつの間にかこの車内にいる女性戦車兵と同じドイツ第三帝国の戦車兵の戦闘服を着ていることや、戦車の車内に居ることに驚く。
今の状況が全く理解できないみほは取り敢えず近くにいた砲弾を抱えた女性装填手に問う。
「あの・・・私、いや私達は何処に居るんでしょうか?」
「えっ?なにって・・・戦場ですよ、中尉殿」
装填手の答えにみほはキューボラの窓から外を覗いてみると、自分の戦車が中央を走り、左右には二両ずつ60㎜砲塔型のⅢ号戦車L型が戦列を組んで走っていた。
それも同じ戦列で走っているのはこちらも含めて5ダース分(五両編成)。
前を見てみれば、75㎜長砲身型のⅢ号突撃砲F型が五両ずつ並んで走っており、見回してみれば、それが五ダース分あった。
後方を見ると、75㎜長砲身型のⅣ号戦車が戦列を組み、少し見えないがSd.kfz.251装甲兵員輸送車が数台ほど見える。
キューボラを開いて上半身を出して空を見上げると、Ju-87スーツカまで編隊を組んで飛んでいる。
みほは第二次世界大戦の欧州の戦場にいる事に驚きを隠せないでいた。
「こ、これって・・・夢だよね・・・?」
車内に戻ったみほは、そう言って自分の頬を抓ろうとしたが、突然車内が揺れた。
「敵からの砲撃、榴弾砲です!!」
砲手の知らせの次に、ヘッドフォンから女性の声が聞こえてくる。
『全車両、損害に構わずこのまま前進。敵戦車を確認次第、対処せよ』
前線司令官からの指示で、みほはいつ自分がこんな女だらけの軍隊に入ったのか分からなかった。
大きな爆発音が聞こえ、直ぐにヘッドフォンから報告が入る。
『中隊本部へ、こちらゲルベ
「え?」
窓越しから見渡すと、右側のⅢ号戦車の一両が火を噴いて炎上していた。
燃え上がる戦車から全身火達磨になった戦車兵が飛び出してくる。
「ほ、本当に戦争だ・・・」
この光景を見た彼女は身震いを始めた。
それに追い打ちを掛けるように敵戦車の接近の報が操縦者から来る。
「十時方向から敵戦車接近!T-34/85㎜砲塔!!」
その知らせに窓越しから報告にあった敵戦車を探すと、自分の隊の戦車を砲撃する複数の敵戦車T-34/85を見付けた。
直ぐに迎撃態勢を取るのだが、相手の方が射程距離が長かった為にⅢ号戦車は撃破されていく。
側面を守る部隊が対処しているが、数が多く、余り撃破できてない。
「てぃ、T-34を迎撃します!弾種徹甲弾、十時方向に砲塔を回頭!」
我に返ったみほは直ぐに迎撃を命じたが、列を組んでいた為、思うように反撃が出来なかった。
こちらにも敵戦車の砲身が向けられ、砲声が響くと、飛んできた砲弾がみほの顔面に向けて飛んできた。
「うわっ・・・!?」
鼻先に砲弾が突き刺ささり、骨を砕いた音が鳴り響いた瞬間、みほの視界は真っ暗になった。
「西住さん・・・!西住さん・・・!」
聞き覚えのある少女の声に、みほは目を覚ました。
「うーん・・・」
みほが目を覚ませば、近くに華や優花里が居た。
「あ、西住殿・・・」
「目を覚ましてくれましたのね・・・」
二人が心配する視線で自分を見ていた為、訳を聞こうとしたが、また戦車の車内、それも自分達の愛車であるⅣ号戦車の車内であった。
起きたのを確認したのか、無線席に居た沙織が操縦席に居る麻子を起こす。
「みぽりん起きた?麻子も起きて!」
「お、おう・・・起きたか西住。お前が起きるまでそんなには掛からなかったが・・・」
「あれ・・・?なんで私達・・・いつのまにⅣ号の車内に・・・」
先程の本物の戦場に居た気分とは違い、安心感に包まれたみほ。
だが、自分を含めて皆が着ているのは先程の夢と同じドイツ戦車兵の制服だ。
「また戦場ではないのか?」という考えが過ぎり、キューボラを開けて外を確かめてみると、不気味な黒い雲が空を覆い隠し、辺りが見えないくらいの白い霧に包まれた光景が広がっていた。
「また変な場所に・・・」
周囲に広がる光景を見ながら呆然の言葉を口にした。
その次に近くにある拡声器から放送が流れる。
『総統閣下の命令だ。全てのドイツ市民はベルリンへ来るように。勝利は目前だ!これは我々にとって最大の名誉となるだろう!』
車内にいる沙織達にもこの放送が耳に入った。
拡声器から聞こえるのはドイツ語である為、全員がここはドイツかオーストリアだと判断する。
「あれ、私達いつの間にドイツへ?」
「オーストリアの可能性もありますわ」
「ドイツに近い北部地方のスイスかもしれないぞ。所で秋山、お前、ドイツ語分かるか?」
沙織と華が聞こえてきた放送で、今居る場所がドイツかオーストリアだと議論している間、口を挟んだ麻子が、優花里にドイツ語が分かるかを問う。
「いや・・・自分は・・・ドイツ語は軍隊用語でしか・・・」
この答えに少し残念そうになる麻子であったが、みほが繰り返し流される放送分を翻訳する。
「総統閣下の命令だ。全てのドイツ市民はベルリンへ来るように。勝利は目前だ!これは我々にとって最大の名誉となるだろう!」
「凄いよみぽりん、ドイツ語分かるんだ!!」
「流石は西住流だ・・・」
「流石は西住殿ですぅ!ドイツ語を完璧に理解できるなんて・・・」
「いや・・・それほど・・・」
沙織と麻子、優花里が褒めた後、みほは照れくさくなって、左手で後頭部を触った。
次に華が何処でドイツ語を習ったのかを聞いてくる。
「西住さんはドイツ語が理解できるのですね。やはり・・・家元の影響なので?」
「うん、中学生の時にドイツに連れて行かれて・・・覚えさせられちゃったかな・・・?」
「「「流石は西住流・・・」」」
みほの答えに華を除く全員が納得する。
少し周りの状況を確かめる為、キューボラを開いて上半身を出し、みほはいつの間にか首に下げてあった双眼鏡を手に取り、それで周りの状況を確認した。
「パンターの残骸にT-34/85の残骸・・・それにSU-76対戦車自走砲、Ⅲ号突撃砲、ヘッツァー、SU-100駆逐戦車、IS-2重戦車にティーガー
「第二次世界大戦の、ドイツ本土末期戦ですかね・・・?」
側面ハッチを開けて周りの状況を見て、みほの言う車両の名前で今居る場所を当てる優花里。
他の三人も外の状況を見る為に、それぞれ出入りが可能のハッチから上半身や頭を出す。
「映画の撮影ロケ地かな?」
「それにしても良くできてる・・・」
「作り込みが凄くリアルです・・・」
周りに広がる光景に呆然とするみほ達。
優花里が今乗っているⅣ号戦車が48口径75㎜の長砲身であることに気付いた。
「あ、皆さん。今私達の乗っているⅣ号、シュルツェン無しのH型ですよ!」
「あら、本当ですわ・・・」
「決勝戦を思い出すな・・・」
「うん!あの時は凄いくらいに緊張したけど」
今乗っている戦車の事で、昨年の全国大会の決勝戦を思い出したみほ達。
みほはⅣ号のキューボラを撫でる。
「なにかの運命かな・・・?」
そう言った後、エンジンが掛かるかどうかを麻子に問う。
「麻子さん、エンジン掛かる?」
麻子はエンジンが掛かる音がした後に答えた。
「掛かったぞ」
「で、何処行くの?」
沙織の問い掛けに、みほは少し悩んだ。
「う~んと、何処にしよう・・・」
「取り敢えず・・・映画の撮影ならスタッフが居るでしょう。探してみては?」
華の提案に沙織が異議を唱えた。
「えぇー、でもさぁ、怒られるんじゃないの?勝手に入るなぁー!とかで」
「確かにそうだな・・・でも、ここが何処だか正確に分からない以上、聞くしかあるまい」
「それもそうですね・・・怒られる覚悟で行ってみましょう!それと、どんな戦争映画か・・・」
続いての麻子の言葉に優花里は賛同し、皆も賛同する事にする。
マインバッハHL120TRMエンジン音が響かせながら、偶然にも見付けた近くの人気のない村まで向かう。
「うわぁ・・・結構リアルですね・・・」
「きょ、狂気を感じるな・・・」
戦禍に巻き込まれて破壊され尽くした村の出入り口に辿り着いたみほ達であったが、怖がる麻子の言うとおり余りにも狂気じみた後があった。
奇妙な魔法陣のような物がまだ残っている壁に血で描かれ、中央にハーケンクロイツが血で描かれている。
「こんなの事あったけ・・・?」
側面ハッチから村の異常な光景に優花里は混乱状態だ。
肉をそがれたソ連兵の死体が逆さまに吊され、四方が何かに食い千切られるか、頭のない両雄の兵士の死体がそこら中に転がっており、村人も同様だった。
「これって・・・ホラー映画・・・?」
「沙織さんの言うとおりかも・・・爆発でこうにはならないし・・・麻子さん、死体を踏まないように・・・」
道や地面に倒れる”作り物にしてはリアルな”死体に驚きをみほも沙織も動揺を隠せず、麻子に踏まないように指示する。
少し進むと、死体に何かをしている謎の二人を発見した。
「人を発見しました。声を掛けますか?」
「はい。怒られるのを覚悟で掛けます」
華の報告にみほはその二人に声を掛けることにして、そこへと向かう。
これがみほ達が悪夢の中に居ることを知る事だと知らずに・・・。
彼女等が向かう二人の服装はドイツ国防軍陸軍の野戦服で、小銃用弾薬ポーチか短機関銃用のポーチを付け、腰に水筒やスコップ、天幕入れの筒、銃剣を取り付けており、右腰にはガンホルスターが吊してある。
だが、肌の色が死人のように白く、目は黄色く不気味に光っていた。
「ゾンビ物映画かな・・・?あの、すいません!」
近くまで来たら、一度停車し、みほはその二人にドイツ語で声を掛けた。
彼女達の存在に気付いた二人は、今の作業を止めて振り返る。
「妙にゾンビっぽい動きだな・・・」
「はい・・・私、余りゾンビ物は見ていないのですが・・・」
余りにもゾンビっぽい動きをする二人に、麻子と優花里は少し驚く。
「凄い熱演です・・・」
感激しているのは華だけだったようだ。
ゾンビ役の二人は今持っているのは小腸らしき物を手放し、呻き声を上げながらみほ達に近付いてきた。
「ちょっ、リアル過ぎなんですけど・・・!ヤダモー!」
「ちょっと怖いね・・・あの、ここは何処ですか・・・?」
まるで本物のゾンビのように向かってくる二人に沙織は鳥肌が立ち、みほも少し怖がったが、ここが何処なのかを訪ねた。
この二人は致死量に至ほどの傷を負っているのだが、みほ達はそれが特殊メイクか何かかと思っており、普通に声を掛けていた。
だが、みほの問い掛けには応じず、二人は呻き声を上げながら向かってくる。
「なんか・・・これ・・・やばくない?」
「いえ、私は凄い熱演ぶりかと思いますが・・・?」
ただならぬ危機感を感じた沙織はそれを口にしたが、華の方は二人の熱演ぶりに感激していた。
「うぅ・・・」
二人が近付いた瞬間、麻子は直ぐに操縦席に戻り、ハッチを閉めた。
「ちょっと麻子!?あの・・・それっぽくしなくて良いので、普通に対応を・・・」
向かってくる二人に沙織は普通の対応を願ったが、聞く耳がないらしく、未だに向かってくる。
そればかりか服装と装備は違うが、その二人と同じような血塗れでボロボロの軍服を着た者達が現れる。
「あのお二人と同じような方々が出て来ましたよ!?」
優花里の知らせにみほ達は戸惑い始めた。
流石に華も動揺を隠せないでいる。
「この方達は何でしょうか・・・?新しい部族なので・・・?」
「どう見てもゾンビにしか見えない・・・悪ふざけは止めてもらえませんか!?」
みほは奇妙な動きをしながら向かってくる二人に告げたが、相手は聞く耳持たない。
一人が戦車に触れると、沙織は触られるかと思って直ぐに車内に戻った。
車内では麻子が怯えている。
「こ、これは・・・夢だ・・・これは夢だ。これは夢だ」
その言葉を繰り返しながら尋常にならないくらいに震える。
華と優花里もハッチを閉めて車内に戻る。
後はみほだけだが、余りの恐怖に手が動かないでいた。
「みほ、早く車内へ!」
「このままでは連れて行かれます!」
「西住殿!!」
「あ、あっ、あぁ・・・」
三人の声にみほは身体を動かそうとするが、思ったようには動けない。
向かってきた二人が車体に乗ってきた瞬間、男の声が聞こえた。
『何をしている!?早く戦車を動かせ!!』
「えっ!?あ、はい!」
突然聞こえた男の声に、みほの震えが止まる。
急いでこの場から逃げる為、麻子に戦車を動かすように伝える。
「麻子さん、全速で後退してください!」
「わ、わわ分かった!」
素早く麻子は操縦桿を握り、戦車を後退させる。
車体に乗っていた二人は振り落とせなかったが、男が持っている自動拳銃の銃声が二回ほど響き、車内に聞こえてくる。
『銃声!?』
車内にいる全員が銃声と気付いた頃には、先程みほ達に声を掛けてきた男が車体に乗り込む音が聞こえる。
キューボラから出たみほは、乗ってきた男がルガーP08を右手に握り、ドイツ軍の高級将校の制服を着ている事に気付く。
「あ、あの・・・貴方は・・・!?」
「そんな話は後で良い!私の言うとおりの場所へ移動するんだ!!」
「あ、はい!」
「場所は君達の真後ろ、五時の方角だ!急げ、奴らに囲まれる前に!!」
ドイツ軍の高級将校の命令にみほは従い、麻子にその高級将校がしてする場所へ移動するよう命ずる。
「五時方向に車体を向けて!」
「わ、分かった!」
言われたとおり、麻子は車体を五時の方角に合わせる。
突然、自分達を助けにやってきた男に沙織、華、優花里はみほに聞いたが、「今はそんなことを聞いている場合じゃありません!」と一喝され、もしもの時に備えて臨戦態勢を取った。
なんとか不審な者達に囲まれずに脱出できた新たに高級将校を加えたみほ達。
その高級将校が命じた通りの方角に戦車を進めると、一軒の家屋があった。
砲撃で受けた後も荒らされた様子もないようだが、窓は閉め切っており、出入り口には頑丈そうなドアで防がれ、壁には子供でも描けそうなニッコリしたマークが大きく描かれている。
「戦車はあの倉庫に入れてくれ。このⅣ号でも十分に入れられる」
目的地に着いたのか、男は車体から降りて、みほに倉庫を指差し、あそこへ戦車を入れるよう命じる。
言われたとおり、みほ達は戦車を倉庫に入れて、倉庫から入れる出入り口から家屋の中へ入った。
そこには自分と年が近い少年少女や、20代か30代の幅広い年齢や人種の者達に、先の集団と同じだが、迷彩服とヘルメットに迷彩カバーを付けた以下にも軍人な男二人、工作員と思われる狙撃手、ドイツ軍の黒い革コートの将軍、大柄で髭が特徴的なソ連兵、帽子と眼鏡を掛けた以下にも手引き役なロシア人、先程自分達を助けたドイツ軍の高級将校の男と一緒に居た。
「これで全員揃ったな?」
黒板の前に立った男は指示棒を持ち、この場にいる全員を見渡す。
納得できない者が居たらしく、声が掛かる。
「おい、ちょっと待てよ!ここは何処なんだよ!?それにあのゾンビ共は!?」
その声に説明不足と悟った男は自分の名を名乗る。
「失礼した、私の名前はコルネリウス・フォン・ブルンスマイヤーだ。階級はドイツ国防軍陸軍歩兵少将。この悪夢が起きるまで歩兵師団の師団長をしていた」
「フォンという称号を聞くと、貴族ですか?」
「ほぉ・・・貴校は貴族か・・・俺も貴族だ」
「うわぁ・・・凄いイケメン・・・!」
「武部さん・・・」
武装SSの士官の顔付きが整っている為、沙織は小さく声を上げたが、華に止められる。
コルネリウスは状況の説明を始める。
「よし、気を取り直して状況の説明をする」
「軍隊みたい・・・」
みほはコルネリウスの状況説明が、指揮下の兵士達に説明するような感じであった為に口にした。
「今、君達は信じられないようだが、異世界に居る・・・私が何故君達の分かる言葉を喋るのは・・・私が超能力者であるからだ・・・!」
この言葉にドイツ人だけがコルネリウスの頭がどうかしているかを思ったが、みほ達を含む非ドイツ人は疑いようがなかった。
一人のみほ達と同じ日本人の男子高生がそれを声に出す。
「お、俺・・・ドイツ語分からないのに・・・分かるぞ・・・!」
「ほ、本当か君!?」
革コートの将官が、その男子高生に問うが、コルネリウスが喋る事以外理解できなかったらしい。
咳払いしながら、コルネリウスは続ける。
「ゴホン。残念ながら、私しか翻訳されない。では、続けて・・・」
「今、超能力者と言ったな!?」
今度はソ連赤軍の将校が、コルネリウスの状況説明を止めた。
「あぁ、言ったぞ。今はそれどころではない。如何にして、君達が誰一人欠けずに元の世界に帰れるかが重要だ」
質問を流された将校は少し苛ついたが、コルネリウスは気にせず再開する。
「先程言ったとおり君達は異世界に居る。そうでもない者達も居るがな。どことなく君達の世界と似ている世界だが、違った物がある。それは、非科学的な歩く死者が居ることだ」
「あのゾンビ共の事か・・・」
コルネリウスの言葉にみほ等と同じ年の黒人の少年が呟く。
「君達の世界ではそう言うのか・・・」
「いや、俺もゾンビと呼ぶぞ」
狙撃手がそう言うと、コルネリウスは頷く。
「君もそう言うのか・・・では、仕切り直して、このゾンビという死に損ない共についてだ。奴らは頭をフラフラさせながら敵、つまり我々に接近し、手持ちの棍棒やカナヅチ等の鈍器類で攻撃してくる」
「噛み付いてこないんだ・・・」
みほが説明途中に声を上げたが、コルネリウスには聞こえていなかったのか、彼は続けた。
「弱点は頭部のみ。それ以外は二回殺すか、爆薬類の爆風で殺すしか方法はない。照準器に頭を合わせ、それと同時に周りを警戒しろ。奴らは地中から這い出てくる事もある」
「地中から這い出てくるとは・・・まるで黒魔術だな」
沙織が夢中な武装SSの士官が、ゾンビの説明を終えてからそう呟いた。
「そうだ。私も信じられなかったが、あのチベット語の本の通りだった。それに敵はこいつ等だけではない。心臓以外の肉に内臓が全てそげ落ちた骸骨まで出て来る」
「が、骸骨!?」
「驚くのは無理もないが、奴らは素早い。だが、弱点は晒してくれており、親切と言って良いだろう」
「弱点・・・?あ、心臓か」
親切と聞いて、以下にも軍人な女性が答えを当てた。
「良く分かってる・・・そいつの強化タイプが居るが、私には分からない。それに厄介なのは骸骨ばかりではない。多数の爆薬を巻き付け、全力疾走でこちらに向かって爆発する奴が居るし、狙撃銃を持って我々を狙撃するゾンビも居る」
「と、特攻に狙撃だと・・・!?」
「大丈夫だ。狙撃の方は頭を撃ち抜かない限り、厄介だが、特攻の方は頭を撃ち抜かなくて良い。何せ勝手に自爆してくれるからな」
「狙撃銃の奴以外は、楽なことこの上ないな・・・」
「しかし、頭を何発か撃たないと死なないデカイ奴が居る。そいつはかなり厄介だ。MG42汎用機関銃を担ぎ、我々に向けて撃ち続けてくる。とても厄介な奴だ」
コルネリウスが言ったその機関銃を持つゾンビの説明に、みほ達は恐怖した。
「ちょっとやばくない・・・?無理矢理ここに連れてこられた挙げ句に戦わされるなんて・・・」
沙織がみほにコルネリウスが自分達を無理矢理戦わせようとしていると告げる。
薄々みほもそう思っていたが、次の彼の言葉で気持ちが変わった。
「君達は私に無理矢理戦わされていると思っているだろう・・・」
全員の考えていることが分かっており、コルネリウスは一息ついてから言う。
「だが、君達はこの試練を乗り切れなければ、元の世界には帰れない!」
『な、なにぃーっ!?』
何名かがその言葉に驚く。
驚きを隠せない冷静な者達の反応を見ながら、コルネリウスは再び口を動かす。
「私が君達を連れてきたのではない。君達はこの世界に引き込まれたのだ。この世界に来る前に、君達は何かを拾わなかったか?」
その言葉に狙撃手達四人を除く一同が思い出した。
「あっ、私達が帰るときに拾った・・・」
みほが思い付いたのは、あの三つのピースに別れる円筒の事だ。
他の者達も同じあの円筒を拾ったらしく、眠りについたらこの世界に転移してきたらしい。
「君達が思っているあの三つに分かれる円筒の事だ。あれが君達をこの世界に連れ込むチケットだったのだ。それに君達には共通点がある。それは・・・常人には驚くべき物があることだ!」
「常人には驚くべき物・・・?」
「簡単に言えば、良く考えれば何であんな物があるのかだ。事実上、今驚くべき非科学的な光景が広がっているからな」
コルネリウスの言ったことに、全員が納得した。
「良く考えてみれば、たしかにそうだ・・・」
「あぁ、説明されたから分かるけど。良く実現できたなって思う」
「私の世界には魔法があります」
口々に言う彼等に、みほ達も良く考えてみればと思った。
第一声に麻子が口にする。
「確かに・・・戦車道がどうして乙女の嗜みなのか良く分からんな」
「私もそう思っていました。茶道や華道は分かりますが・・・」
「私も、どうして何だろう?」
「なんだか触れてはいけない事に、触れたような・・・?」
「パンドラの箱を開けたような気が・・・」
麻子の後に華と沙織が言った後、優花里とみほは、何か触れてはいけないような物に触れていると感じた。
同じなのか、他の者達も触れてはいけない物に触れていると思っている。
全員が理解したと悟ったコルネリウスは、そろそろと思って口を開く。
「全員理解したな?では、装備を調えてくれ。武器は隣の部屋にある。自分に扱いやすい物を取ってくれ」
指揮棒が向けられた方向を見ると、そこには多数の銃器と弾薬があった。
「武器や弾薬は道中で回収できるだろうが、余り期待できないだろう。無駄撃ちをしないように注意してくれ」
コルネリウスが言った後、全員がその部屋に向かい、武器と弾薬を取った。
みほ達も後へ続いて、扱いやすそうな武器を取る。
少し不安だったが、優花里の方は興奮していたのだった。
「うぉぉぉぉ!だ、第二次世界大戦で使用された銃火器類がこんなに沢山!!」
ガンラックに立て掛けられてあるkar98kにGew43半自動小銃、FG42自動小銃に火炎放射器。
MP40やMP41、MP34、MP28も似たようなラックに掛けられ、Stg44、MG34、MG42、MP3008、パンツァーファウスト、パンツァーシュレック、ワルサーカンプピストルが机に置かれている。
珍しい事に国民突撃隊で使用されていた急造銃火器VG-45もある。
モーゼルC96に機関拳銃型M712、ルガーP08、ワルサーP38、ワルサーPPk等の拳銃類もあり、マニアにとってはたまらない光景だろう。
そればかりではない。
アメリカや当時のソ連を代表する銃火器類もあった。
日本やイギリス、イタリア、フランス、フィンランドは纏められ、乱雑に置かれていた。
「まるで銃の特売ですね・・・」
「わぁ・・・華の言うとおり銃の大バーゲンじゃん、これ」
豊富にある小火器類を見て、華と沙織は驚きの声を上げた。
全員がそれぞれ自分にあった銃を手に取る中、麻子が机に置かれていたワルサーPPkを手に取った。
「これ、ジェームズポンドが持ってる拳銃だな」
「うん、ワルサーPPk。小さいからスパイ向きだってカバさんチームのみんなが言ってた」
ワルサーPPkを見回し、みほからの説明を聞きながら色々な場所を触ってみる。
麻子は「後で撃ち方くらい教えてもらえるだろう」と思い、ホルスターと弾倉を一緒に取って、腰に吊した。
格好良く付ける麻子を見たみほは、ワルサーP38とガンホルスターを弾薬類と一緒に取っておく。
華もMP40を手にとって、撃つマネをしてみる。
「快感・・・」
「セーラー服と機関銃?私もそれいってみようかな~?」
あの映画の台詞を言う華に、沙織もMP40を取ろうとするが、被るかと思って迷い始める。
「あぁ、もうどれにするか迷っちゃう!」
目の前にある様々な銃器を見て、沙織は違った方で興奮していた。
取り敢えず、みほ達はkar98k、MP40。MP3008、モーゼルM712、Stg44、MG42、VG-45、ルガーP08、ワルサーP38、ワルサーPPk、ウェンチェスター社の散弾銃M1912、火炎放射器、パンツァーファウストを自分達の乗ってきたⅣ号の車内に、弾薬と一緒に入れ込んでいく。
他の者達も一通り装備が終わったようだ。
狙撃手は最初から持ってたスプリングフィールドM1903A4とコルトM1911A1、新しく入手したと思われるM1トンプソン。
革コートの将軍は最初から持ってたMP40とルガーP08。
髭のソ連兵は同じく最初から所持してるPPsh41にロシアの回転式拳銃ナガンM1895、アメリカ軍の対戦車火器M1A1バズーカを背負っていた。
眼鏡の男はFNハイパワーにM1カービンを所持している。
「私はこれだ」
女軍人はStg44とFNハイパワーに二連装散弾銃、彼女の世界で使っていた突撃銃が無いから代用してるのだろう。
ソ連の女狙撃手は最初から所持している狙撃スコープ付きモシンナガンM1891/30とTT-13トカレフ、背中には手に入れたPPs43が見える。
政治将校は大して変わらない。
武装親衛隊の士官はGew43にStg44、ワルサーP38、ワルサーカンプピストル、その他爆薬類。
下士官はMG34にワルサーPP、士官と同じくその他弾薬類を持つ。
他はなるべく軽い短機関銃や拳銃類にしているが、調子に乗って軽機関銃を持っている者が居る。
準備が整ったのを確認したコルネリウスは頷いてから、口を開いた。
「よし、これで大丈夫だな。それではベルリンへ行って貰うが、あのⅣ号ではこれ程の人数は乗せられない。別の足、トラックが必要だ。トラックはここから北西へ行った所の教会に動けるのがあるはずだ。それと、君達の他にも二人の転移者が居る。一人は女性でもう一人は少女だ。道中、彼女等と会うことだろう。本当に守れなくて済まないと思ってる。互いに背中を守りながら先へ進むんだ。それでは、幸運を祈る」
謝罪の言葉を口にしたコルネリウスが敬礼すると、政治将校以外の軍人達は返しの敬礼する。
一応、みほ達も敬礼しておく。
MP41を持ったコルネリウスがドアを開けて何処かへ向かっていくと、一同は最初の目的地である教会へと向かった。
Ⅳ号に乗ったみほ達も先行する彼等の後へ続こうとするが、彼等は戦車の後ろに下がる。
「みんな下がっていくんだけど・・・?」
「戦車は歩兵の盾となるべく開発されましたから・・・」
戦車の後ろに下がる彼等を見て、沙織が疑問を口にすると、優花里が答えた。
武装親衛隊の士官がⅣ号の車体に乗ってきた為、みほはキューボラを開けてドイツ語で何事なのかを問う。
「あの・・・なにようで?」
「君はドイツ語が分かるのか・・・では、相手を迷わず撃てるな?」
その問いにみほは少し動揺するが、士官の目を見て「帰るためにはやるしか無い」と考えるしかなかった。
「自己紹介が遅れたな。私はボニファーツ、ボニファーツ・バッハマンだ。よろしく頼む」
「は、はい・・・」
ボニファーツから握手されたみほは、それに応じて答える。
手を離したボニファーツがStg44を構え始めると、華が知らせてくる。
「前方に先の人達です!」
「西住殿、榴弾を装填しますか?!」
華がみほに報告した後、優花里が榴弾を持って聞いてくる。
次に沙織が前方機銃であるMG34を構えながら、どうするのかを聞いてきた。
「凄い数だよ、みぽりん!機銃でも倒せなさそう!」
「うぅ・・・こ、怖い・・・」
震える麻子と問い掛けてくる沙織、華、優花里を見ながらみほは決断する。
「ゾンビを蹴散らします・・・!」
みほの指示に、優花里は榴弾を装填し、華は照準器を覗き、沙織はボルトを引いて、初弾を薬室に送り込み、麻子は震える手でレバーを握った。
キューボラの窓からゾンビが密集している場所を確認し、そこを狙うよう華に指示する。
「目標一時方向、ゾンビが沢山集まっている所に撃ってください!」
その指示に華は引き金を引き、Ⅳ号のKwK40 48口径75㎜戦車砲の砲声が響いた。
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