No.65818

廃墟の中の少女

冬雪さん

廃墟で生まれた少女は、戦うことしか知らなかった。仲間を失い、孤立した少女は、争いの中でどうたちむかうのか。

2009-03-29 11:49:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1039   閲覧ユーザー数:996

廃墟の中の少女

 

 

 廃墟だった。

 私が生まれ、育ったのは。

 何もない、ただ壊れた建造物が建ち並ぶ。そこは私の居場所でもあった。

 たくさんの仲間がいた。

 友達もいた。

 そして、好きだった人もいた。

 だけど――

 それは一瞬の間のないうちに、すべて灰となった。

 無人殺戮兵器。

 それが私の仲間を、友達を、そして好きな人の命を奪ったのだ。

 ひとりぼっち。

 私は対物体狙撃銃にもたれかかるようにして、半壊したビルの中に隠れていた。

 もう手持ちの火器は少ない。残っているのは、地雷が二個、ロケットランチャーが一発。それに今持っている残弾十二発の対物体狙撃銃だけ。拳銃もあるが、弾はたった一つ。それだけで、三機もいる無人殺戮兵器を無効化しなければならない。

 だけど、そんなの無理だ。

 今の私ではどうすることもできない。

 ただ、人よりも力が強いだけ。作戦を立てられるほど頭もよくない。思いつくには精々、地雷を無人殺戮兵器通りそうな場所に仕掛けて、ロケットランチャーを打ち込み、対物体狙撃銃で中枢ユニットを破壊することぐらいしか思いつかない。それもかなりの運が必要だ。ちょっとでもミスをすればそれでお終い。ミスしてもカバーできる仲間はもういないのだ。

 地響きが聞こえてくる。

 おそらく一体の無人殺戮兵器が徘徊しているのだろう。

 たった一人、残った私を殺すために。でもここにいれば、しばらくの間はやり過ごせる。センサーの類は死んでいった仲間達が、決死の覚悟で破壊してくれたのだから。だから、やつらは視覚で見つけなければならない。サーモグラフィーも音探知機も、その他のセンサーもとっくの昔につぶしたのだから。

 それでも――

 怖かった。

 何もできずに死ぬことが。

 寂しかった。

 だれも側にいないことに。

 悔しかった。

 仲間の敵をとれない自分の情けなさに。

 すべてが嫌になった。

 でも、臆病な私は自害することもできない。

 自害しようとすれば、手先が震え、トリガーが引けなかった。

 トリガーを引けば、仲間の元にいける。

 本当にそうなのだろうか?

 ちっぽけな私が、仲間のために死んでいった戦友達と、本当に同じ所に行けるのだろうか?

 そんな疑問が浮かび、私の決意を揺さぶる。

 問答している時間はない。いずれ、ここも見つかってしまうだろう。

 そうなれば私はどうする?

 ロケットランチャーを打ち込むのか、対物体狙撃銃で中枢ユニットを壊すのか。

 それとも――

 無惨にもやつらに殺されてしまうのか。

 嫌だ。

 それだけは嫌だ。

 私の中のなにかが、切れた。

 瞬間、疑問しか浮かばなかった私の頭に、一つの作戦が思いついた。なんでこんな簡単なことにも気が付かなかったのだろうか?

 対物体狙撃銃をバッグに押し詰め、それごと背負った。バッグの口から銃口がはみ出てるが、そんなこと関係ない。今は必要ないけど、あとで使うのだから。私は対物体狙撃銃が落ちないように注意すると、ロケットランチャーを肩に担いだ。

 まずは、一体。先ほどここを通り過ぎたやつからだ。

 ここからでは狙い打てないから、屋上へと駆け上がる。途中で階段がいくつか崩壊していたが、気にすることなく、進んでいく。

 屋上に出た。すぐ隣では同じように崩壊しかかっているビルがある。私はバッグからワイヤー銃を取り出し、隣のビルに向かって撃った。ワイヤーの先につけられたアンカーがコンクリートに食い込む。私はワイヤーを二、三度引っ張り、きちんと設置させられているか確かめた。これで退路は確保できた。

 私はワイヤーを左腕に絡め、左手でワイヤー銃を持った。バッグを背負い直し、右肩で支えるようにしてロケットランチャーを構える。

 ターゲットサイトを取り出し、無人殺戮兵器を狙う。

 まだ、やつは気が付いていないらしい。

 チャンスだ。

 私はためらうこともなく引き金を引いた。

 肩に衝撃が走る。私は命中したかどうか確かめる暇もなく、ワイヤー銃の引き金を引く。ワイヤーが巻き取られ、その反動で隣のビルに乗り移った。

 やつらもバカではない。残った二体の方が私の攻撃に気が付き、反撃している頃だろう。ロケットランチャーほど、相手に場所を知られる火器はない。撃ったらすぐに逃げるのが常識だ。

 私は隣のビルに着地すると、一階まで駆け下りた。

 さて、この後はどうしてやろうか?

 地雷一つでは、無人殺戮兵器を破壊できない。最低でも二個は踏まさなければ、では残った一体はどうする?

 絶望的な状況。

 だが――

 私、楽しんでる!

 破壊することが、こんなに楽しいなんて。

 知らなかった。

 私は次の獲物に向かって、歩き出す。

 もう、恐怖など微塵も感じていなかった。

 

 

「どうかの? 試験体E-5068の性能は?」

「ふむ、なかなかすばらしいではないか。この調子でいけば、我ら“人類”が地上に降り立つのも時間の問題だな」

 そこは薄暗い部屋だった。

 唯一光を放っているのは、壁に埋められるようにしてある一台の大型モニター。

 そこに、対物体狙撃銃で狙いをつけている少女がいた。

「それでもやりすぎではないかね、教授? いくらE-5068の性能を試すと言っても、同じ被験体を十六体も無駄にするとは」

「……あれはただのロボットじゃぞ? まあ、E-5068の記憶を少々いじってはおるがね」

「なんとも、まあ……えげつないことをしますな」

 モニターに映る少女は知らない。

 自分が実験のために生み出されたことを、自分が仲間だと思っていたのはただのロボットであったこと。

 そして――

 少女がただの捨て石だということを。

 

 少女は知らない。

 彼女はただ生き残るだけ。

 この壊れ果てた。

 廃墟の中で。

 

 


 
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