ルイズSide
「ねえ、ワルド。やっぱり戻りましょう。みんな全然ついてきてないわ」
私はワルドに抱えられるような格好でグリフォンの背から後方を見て言った。
「別にかまわないだろ。それにこの程度で遅れるようじゃ足手まといにしかならないし、置いていった方がいい」
だけど、ワルドはチラリと後ろを見ては直ぐに前を向いてリオン達を置いていくと言い返してきた。
「足手まといって……。そんな言い方ないと思うわ。彼らは仲間よ。それに使い魔を置いていくなんて、メイジのすることじゃないし。なにより姫さまから預かった手紙はリオンが持っているのよ?」
私はワルドの言葉に少し困惑しながらも言い返す。するとワルドは目を見開いて驚いた。
「なんだって? それはマズいな。しかし、今から引き返すのも……。仕方ない、ラ・ロシェールで待つしかないか」
「ごめんさい。先に言っておくべきだったわ」
「なにルイズが謝ることじゃないさ。しかし何故手紙を彼に?」
私は手紙のことをワルドに謝るとワルドは笑顔で気にする必要は無いと言ってくれた。そしてその後にワルドは手紙のことが気になったのか、そのことを聞いてきたので私は
「今朝、馬の準備をしている時に言われたの。私に指輪と手紙、両方持たせておくのは心配だからどちらか自分が預かるって。だから手紙の方を……」
そんなふうに答えた。姫さまから預かった指輪と手紙。指輪は王家に伝わるものだからこれを見せれば姫さまの使いだと判ると渡され、手紙はアルビオンの王子であるウェールズさまに宛てて姫さまがしたためたもの。内容はわからないけど、昨日の夜の姫さまの顔からどういう気持ちで書いたのかはなんとなくだけど察しがつく。実際はリオンに言われた時に沢山文句を言ったのだが……
「言いくるめられてしまったと」
ワルドはその際のことを詳しく聞いたら苦笑していた。
「言いくるめられたというか…何というか…」
「ははは、彼とは仲がいいみたいだね。もしかして恋人なのかい?」
「こ、恋人なんかじゃないわ!」
ワルドがいきなりとんでもないことを言ってきた。私は一瞬、ホントに一瞬だけ動揺したけど……いやいや、動揺なんてしてないけど! リオンと恋人とかありえないから!! ってそうじゃなくて! ってか誰に言い訳してるのよ私。とちょっとしたパニックを起こしたが頑張って顔に出さずになるべく普通に淑女らしく済まし顔でワルドに言い返す。
「そうか。ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」
「お、親がが決めたことじゃない」
ワルドは笑いながら冗談めかしに言葉を返してきて、私もなんとか心を落ち着けて会話を続けた。話していた内容は何のことは無い昔話だ。幼い頃によく怒られて泣いていた私を慰めてくれていたことや、一緒に遊んでくれていたことなど、色々とだ。
「ランスの戦で父が戦死した後、爵位と領地を相続して街を出てからは軍務で忙しく戻ってくることが出来なかった。君に会えない日々は寂しかったよ」
「もう、ワルドったら」
私は頬を赤くして、拗ねたように口を尖らせる。そして談笑しているうちに私たちはラ・ロシェールが見える程までの距離に着いており、街の手前の谷間を進んでいた時、ボウゥ!と言う音と共にファイヤーボールが飛んで来た。
「キャッ!!」
「賊か!?」
最初に飛んで来たファイヤーボールを皮切りに崖の上から大量の矢と魔法が飛んで来た。ワルドは攻撃の降り注ぐ中グリフォンを巧みに操りながら腰の杖を引き抜き、飛んでくる攻撃を躱し、叩き落とし、時に魔法を唱えて反撃をするが、攻撃の手が休まる気配が無い。
「くっ、見えない相手に攻撃を当てるのは中々難しいものだね」
ワルド笑みを浮かべながら軽口を叩いて私を安心させようとしているみたいだけど、私でもこの状況はマズイってことは分る。そして原因も分る。私だ。私が一緒にグリフォンに乗っているからワルドは自由に動けないでいるに違いない。それなら……
「ワルド! 私を降ろして! そうすれば自由に動けるでしょ?」
「何? そんなこと出来るわけないだろ。そんなこしたら君はいい的になってしまう」
「でもッ!」
「大丈夫だ。このぐらい何とかできなくて何が魔法騎士隊だ」
ワルドは笑顔のまま杖を振るい崖の上に魔法を放つが一旦攻撃が止むだけで賊たちを退けるには至らない。このままじゃ…・・・。私は不安になって目を瞑ってしまう。
そして思い浮かぶのはいつも無愛想な顔をしたリオンのこと。なんで近くに居ないのよ! ご主人様がこんな危機に瀕してるのに! ……助けて、助けてリオン!
「うわぁー!!」「助けてくれー!!」「なんだこれは!!」「食べないでくれッ!!」「アッー!」
「え?」
「む、何が?」
突如として崖の上から叫び声が上がると同時に攻撃が止んだ。私は瞑っていた目を開けて怪訝な表情をしいたワルドと共に崖の上を仰ぎ見る。すると、崖の上から幾人かの賊と思われる人間が落ちてきたかと思うと直ぐ後に青い竜が現れた。
「えっ、あれって……」
リオンSide
「
僕はシルフィードから飛び降り、そのまま空中で技を放って下に居る賊たちを斬り倒して着地をし、
「ふっ、はっ!
さらにそのまま回りの賊たちに攻撃を仕掛けていく。賊たちはいきなり現れた僕たちに混乱するも敵だと分るや否や、すぐさま剣や弓矢を構えてくるが
「フレイム・ボール!」
「ファイヤーボール!」
上空からジンとキュルケが魔法を放ち、賊たちを吹き飛ばしていく。
「うーん、反応がいまいちだな。もうちょい調整しないとなぁ」
また他の場所ではどういう仕組みなのかは分らないがキキが操っていると言う人形と鎧が賊たちを斬り刻んでいた。
結果、賊たちはあっと言う間に駆逐され、動ける奴等は自分だけはと逃げていってしまった。
「まったく、迷惑をかけてくれる」
僕は剣を仕舞い、崖を滑り降りてルイズ達の下へと移動し、他の奴等もシルフィードと共に崖下へと降りてきた。
「助かったよ。賊を倒してくれてお礼を言うよ」
下に降りるとワルドはグリフォンから降りて笑顔で僕たちにお礼を言いながら近づいてきた。
「その…ありがとう。でもどうやって、と言うより何でキュルケたちと?」
ルイズもワルドの後に続いてグリフォンから降りて小走りに近づいてきて、シルフィードの背に乗っているタバサ達やワルドに言い寄っているキュルケを見ながら聞いてきた。
「お前たちが僕らを置いて先に行ってしばらくした後に会ったんだ。何でも朝がたに僕たちが出かけるのを見て追いかけてきたらしい。それでそのままシルフィードに乗せて貰い、運んでもらった」
「追いかけて来たって…。これはお忍びの任務なのに。何考えてるのかしらあいつ!」
ルイズは僕がキュルケ達が居る理由を話すと、不満げな表情をした後、キュルの所へと行き彼女に文句を言い始めた。僕はそんな様子を見て小さく嘆息する。お忍びの任務だと言うのにも関わらず、こうも簡単に他者に行動がバレるのはどういうことなのか。
「ああん、ダーリンどうしたの? そんな暗い顔して。あ、もしかしてあたしが彼に構ってて嫉妬でもしてくれてたのかしら。もう、ダーリンたら! うれしいこと言ってくれちゃって!」
僕は何も言ってはいないのだが、キュルケは勝手に自分で盛り上がって引っ付いてくる。まったく、鬱陶しい。
「そういえば、礼を言ってなかったな。ここまで運んでくれたこと、感謝する」
「あらやだ。別にいいわよ。あたしたちだってあの子を追いかけてたんだし。それに運んでくれたのはあたしじゃなくてタバサだし」
僕がキュルケを引き離してから運んでくれたことに礼を言うと、キュルケは何でもないと返してきた。
「ちょっとキュルケ! 何リオンに引っ付いてるのよ!! リオンは私の使い魔よ離れなさい!」
僕とキュルケが話していると、ルイズが怒鳴りながらワルドたちのところから戻ってきた。
「別にいいじゃない。それとも何? 婚約者がいるくせに嫉妬してるの? これだからヴァリエールの人間は」
「きぃぃっぃ!! うっさいわね! いつも発情してるあんたに言われたくないわよ! さっきまでワルドに言い寄ってたくせに。まあ、相手にされてなかったみたいだけどね」
「何よ、人を盛りのついた犬みたいに言わないでよ。発情じゃなくて恋に燃えているのよ! それに彼に相手にされなかったからダーリンの所に来たわけじゃないわよ。彼、なんだか目が冷めててつまんないのよ」
「あら、言い訳? ま、しょうがないわよねー。ワルドは野蛮なゲルマニア人と違って品行方正なトリステインの貴族なわけだし」
「そう意味じゃなくて……。んー、まあ、もうそれでいいわよ」
この二人は顔を合わせたら言い合いをしないと気がすまないのか? 僕は小さなタメ息を付き、二人を引き離す。
「そこまでにしろ。まったく、お前らはもう少し静かにできないのか?」
「な、何よ! キュルケの味方するつもりなの!?」
「そうじゃない。まったく。ところで、あいつらと何を話してたんだ?」
僕はワルドたちの方に視線をやり、ルイズに尋ねた。
「むー。なんか賊の目的を聞き出してたみたい。タバサの使い魔が言うにはただの物取りだって」
「物取りか」
本当にそうなのか? 行商人や複数人の旅行者を狙うならまだしも、たった二人で目に見えて軽装であり、しかもグリフォンに乗っている相手を狙うだろうか。確かにあれだけの大人数で掛ればルイズという荷物を抱えたワルドを殺すことはそう難しくなかっただろう。
だが、二人を殺したところで取れるものなどたかが知れている。少数であればまだしも、あれだけの大人数で襲うなど、どう考えても割に合わない。僕が賊の事を考えていたら
「さあ、君たち。そろそろ行くよ。どうやら賊たちはただの物取りたっだようだし。もう襲ってくることは無いだろうが、なるべく早めに街に入っておこう」
ワルドがグリフォンを引いて僕たちに声を掛けてきた。確かにいつまでも此処にいるのも時間の無駄だし、何より、キキに聞きたいこともある。僕は一言そうだなと返答し、キュルケと共にシルフィードへと乗り、ルイズはワルドに手を引かれグリフォンへと二人で跨った。そして、ワルドの先導のもとラ・ロシェールへと向かった。
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アルビオン編4です。