No.657681

ランドシン伝記 第5話 (アーカーシャ・ミソロジー)

何とか迷宮よりの脱出に成功したヴィル達。
しかし、ハンター達による不穏な影が迫って
いるのだった。

2014-01-26 01:42:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:288   閲覧ユーザー数:288

 第5話  ハンター

 

 迷宮が崩れていく中、隠し出口付近では-カシムと

ゴブリンの少女とモロンが、ヴィル達を待って居た。

モロン「団長・・・・・・」

カシム「・・・・・・これは・・・・・・来ます」

すると、壁が崩れ、ヴィル達が現れた。

モロン「団長ッ!トゥセ、アーゼッ!」

 と叫び、モロンは三人に駆け寄った。

ヴィル「モロン、ありがとな。でも、今は早く逃げないと」

トゥセ「まぁ、俺達、逃げ足だけは早いッスからね」

アーゼ「まったく・・・・・・」

ヴィル「行こう」

 そして、ヴィルを先頭にヒヨコ豆-団とゴブリンの少女は

迷宮を脱出するのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 一方で、剣聖シオン達は迷宮の外で立ち尽くしていた。

 シオン達の位置は、迷宮を挟んで、ヴィル達と真逆の位置に

居たため、両者が-かち合う事は無かった。

シオン「・・・・・・ニア」

 と、シオンは-呟(つぶや)いた。

エレナ「大丈夫、ニアは-生きているわ。ほら」

 すると、瓦礫(がれき)が吹き飛び、中からニアが出てきた。

ニア「やれやれ、ひどい目にあったよ」

 と、ニアは-ふらつきながら言った。

エレナ「ニア、その目・・・・・・」

 ヴィルから受けたニアの傷は-ほとんど治っていたが、左目に受けた傷だけ、

そのままで残っていた。

ニア「あぁ、これ?ふふ、記念に残しておこうと思って。あっ、

   彼ら-には、逃げられちゃったよ。仕留めそこなっちゃった。

   シオン、ごめんね」

シオン「いや、いいさ・・・・・・」

ニア「でも、傷は負わせたから、そう遠くへは行けてないハズ

   だよ。いますぐ、追えば、間に合うだろうよ。

   どうする、シオン?」

 との言葉に、シオンは迷った。

シオン(いますぐ、先輩達を追えば、先輩達を捕らえる事は

    たやすいだろう。だけど、それは・・・・・・。いや、

    むしろ、俺は・・・・・・。駄目だ、何を考えて居る。

    だけど、だけど、どうしてかな、何もかも捨てて、

    先輩達に協力したい自分が居る。でも、俺は剣聖で、

    今はギルドを束(たば)ねる立場で・・・・・・。駄目だ。

    覚悟しろ、シオン。ただ、少しだけの猶予(ゆうよ)を)

 と、シオンは-ごちゃごちゃと考えた。

エレナ「シオン?」

シオン「ああ。ヴィル達は追わない。後はハンターに任せる。

    それが一番だ。反逆者はハンターに、それが原則だ」

 との言葉に、皆は頷(うなず)いた。

エレナ「なら、騎士団を通じ、領主様に報告しましょう。

    それが、一番-早いわ」

シオン「ああ・・・・・・そうしよう・・・・・・」

 と、シオンは寂(さび)しげに答えた。

 その時、シオンは腰の聖剣がズシリと重くなるのを感じた。

 そして、シオンは聖剣の声を聞いた気がした。

『シオン・イリヒムよ・・・・・・若き剣聖よ。お前の運命は今、

死んだ・・・・・・』

との声を。

それに対し、シオンは身震(みぶる)いをした。

エレナ「シオン?どうしたの?」

シオン「い、いや、何でも無い。行こう・・・・・・」

 と、シオンは動揺を抑えながら答えるのだった。

シオン(今のは・・・・・・幻聴だったのか?いや、それにしては

    何て生々しい声だったんだ・・・・・・。でも、それでも

    それでも俺は・・・・・・)

 そして、シオンは迷いを断ち切るように首を振り、歩き出すのだった。

 

 それから数日が-たった。

 

 ・・・・・・・・・・

 クエスト屋に、異様な風貌(ふうぼう)の者達が訪れていた。

 彼ら-は黒ローブに身を包み、姿を見えづらくしていた。

 その中のリーダー格の男が、クエスト屋の-おばさん-に

詰め寄っていた。

男「だからさ、僕は聞いているんだよ。ヴィルという冒険者と

  そのギルドの情報を」

おばさん「知っている事は全て話したよッ!そもそも、あんた達の前に、

     聖騎士-様に全て-お話したよッ!」

男「・・・・・・いやいや、聖騎士の方々(かたがた)のするような質問は、

  したくないんだよ。僕が知りたいのはさ、もっと暗く深い

  話さ。それこそ、トラウマって奴さ。奴は普通じゃ無い。

普通じゃ無い人間には普通じゃ無いルーツが-あるモノ

なのさ。そうで無い人間は、まぁ、僕くらいのモノかな?

逆に言えば、僕は、自分と同じ・・・・・・生まれついての存在

というモノを探しているのかも知れない」

 と、男はブツブツと呟(つぶや)くのだった。

おばさん「あんた達には、これ以上、何も話す事は無いよッ!

     大体、あの子達は良い子達なんだッ!何か理由が-

あったハズなんだ。それなのに、あんた達みたいな

元(もと)暗殺ギルドに協力するワケないじゃないか」

 との言葉に、男は低く笑った。

男「これは、これは勇敢なヒトだ。僕たちを元(もと)暗殺ギルドと

知ってなお、その口を叩くか。笑え・・・・・・」

 すると、男の部下達も低く笑い出した。

 それに対し、クエスト屋のおばさんは、恐怖で震えだした。

男「そうさ、それが僕たちの求めているモノさ。恐怖、畏怖、

  それが僕たちの糧(かて)となる。

  さぁ、もっと怯え、震え、僕たちを楽しませてくれ。さぁ」

 しかし、クエスト屋のおばさんは、男をにらみつけた。

おばさん「あ、あんた達なんか怖くないさ。ヴィルちゃん達

     だって、今、辛いハズなんだ。あんな良い子達が

     皇国やハンター達に追われるなんて、おかしいよ。

     おかしいじゃないかッ」

 と、微(かす)かに震えながらも、はっきりと言うのだった。

男「しかし、しかし、逆に言えば、君は何かを知っていると

  言う事になる。なら、聞き出すしか無いだろう。

  正義の味方の聖騎士様には出来ない聞き方をしよう。

  ふふ、どうせ、すぐに全てを白状するさ。

  どうせ・・・・・・ね」

 との男の言葉に、男の部下達はクエスト屋のおばさんに

近づいていった。

おばさん「ひぃッ」

 その時、扉が開かれた。

 男達は-そちらの方を見据(みす)えた。

 そこにはエルフの美青年が立っていた。

エルフ「お前達は何をしている・・・・・・」

 と、そのエルフは怒りを隠せずに男達に詰め寄った。

部下「何だ、貴様はッ」

 と、黒ローブの部下が-すごんだ。

エルフ「お前達、あまり一般人に非道な真似をしていると、

    処分を受けるぞ。それで-いいのか?」

部下「てめぇッ!」

 と言って、部下は魔力を高めた。

 それをリーダーである黒ローブの男は制した。

男「やめろ・・・・・・。さて、さて・・・・・・これは、困った。困ったが、

  これは仕方が無い。一応、僕も皇国に忠誠を誓う身、

  従う他は無いかな・・・・・・」

 と、男は-そのエルフの顔を見て言った。

男「だが・・・・・・次は無い。もし、今度、僕たちを邪魔する事が

  あれば、貴方(あなた)が誰であろうと、容赦(ようしゃ)はしない・・・・・・。

  行くぞッ」

 そして、黒ローブの男達は煙のように去って行った。

 店はエルフとおばさん以外-居なくなり、静寂(せいじゃく)に満ちた。

おばさん「あ、ありがとうございます。あ、貴方の名は?」

エルフ「俺の名はクオーツです」

 と言って、そのエルフは微笑(ほほえ)むのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 剣聖シオンの一行は高級旅館で食事をとっていた。

 そこへ、扉が開き、聖騎士達が入って来た。

 そして、聖騎士の隊長の男がシオンに歩み寄った。

聖騎士「剣聖シオン・イリヒム殿ですね」

シオン「ええ」

聖騎士「私は聖騎士の第7連隊を率(ひき)います-カロース・トルフトと

    申します。内密の-お話が御座(ござ)います。是非、騎士団

    の支部へと-ご同行、願いたいのですが」

 と、聖騎士は告げるのだった。

シオン「分かりました」

 と、シオンは答え、シオン達は騎士達に付いていくのだった。

 

 シオン達は応接間に案内されていた。

聖騎士「剣聖シオン殿、元老院よりの要請です。至急、騎士団

    の第10連隊を率(ひき)いるため、王都に戻られよと」

シオン「つまり・・・・・・戦争が始まるのですね」

聖騎士「是(ぜ)、と答えさせて頂きます。詳しくは、王都で-お聞き

    ください」

シオン「・・・・・・拒否権は無いのですね?」

聖騎士「ええ。これは国王陛下よりの勅命(ちょくめい)でも-あります」

シオン「・・・・・・了解しました。シオン・イリヒム、ただちに

    王都へ向かいます」

 とのシオンの言葉に、聖騎士は-ホッとした表情をわずかに

見せた。

聖騎士「詳細は-これに」

 そう言って、聖騎士は羊皮紙をシオンに

渡すのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 シオン達は旅館に戻っていたが、その空気は重苦しかった。

エレナ「大変な事になったね・・・・・・」

シオン「ああ・・・・・・。恐らく、最前線に駆り出されるだろう。

    ククリ島でのゴブリン殲滅戦(せんめつせん)へと・・・・・・」

ニア「ハハ、楽しくなって来たね」

大男「しかし、連隊を率(ひき)いるのか。大事(おおごと)になってきたな」

シオン「ああ・・・・・・。だけど、今回の出頭は俺だけだ。

    皆は来る義務は無い」

 それに対し、皆はフッと笑った。

エレナ「私達、ギルドの仲間でしょ?最後まで一緒よ」

 とのエレナの言葉に、皆は頷(うなず)いた。

シオン「ありがとう・・・・・・」

 と、シオンは弱々しくも微笑(ほほえ)むのだった。

シオン(もし・・・・・・もし、俺が-あの時、一人、ヴィル先輩の

    所へと行っていたら、エレナ達は戦争に巻きこまれる

    事は無かっただろう・・・・・・。俺は選択を間違えたのだ

    ろうか?いや、考えても仕方が無い。俺は皇国(おうこく)に従う

    道を選んだんだ。なら、それを貫くまでだ)

 と、シオンは思うのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 その頃、ヴィル達は森でテントを張っていた。

トゥセ「いやぁ、こうしてみると、宿屋を使わない生活に

    慣れていて、良かったと思いますよ」

アーゼ「不幸中の幸いだな。それより、カシムさん-は

    大丈夫ですか?」

カシム「ええ。ご心配なく。山での修行が長かったので」

 すると、良い匂いがしてきた。

モロン「みんな、ご飯できたよー」

トゥセ「よっしゃ、食べようぜ」

 そして、トゥセ達は食事を始めた。

 しかし、ゴブリンの少女は手を付けようとしなかった。

ヴィル「食べないのか?困ったな・・・・・・」

モロン「そうだ」

 すると、モロンの抱きかかえていた人形が-独(ひと)りでに動き出した。

 その人形はスプーンを持ち、ゴブリンの少女に食事を差し出した。

 それを見て、ゴブリンの少女は恐る恐るスプーンを口にした。

 すると、ゴブリンの少女は目を輝かせた。

 そして、ゴブリンの少女は自分で一気に-ご飯を食べ出すのだった。

ヴィル「ナイスだ、モロン」

モロン「えへへ」

カシム「しかし、その人形・・・・・・羽ウサギの人形ですか?」

モロン「うん。そうだよ。とっても、良い子なんだよ」

カシム「そのようですね。その人形の魂は貴方(あなた)を守っていますよ」

モロン「え?ほんとう?団長、すごいよ。羽ウサギちゃん、

守ってくれてるって」

ヴィル「良かったな、モロン」

 と言って、ヴィルは微笑(ほほえ)むのだった。

トゥセ「ところで、団長。カシムにヒヨコ豆-団の由来を教えなくて-いいんすか?」

アーゼ「お前・・・・・・この非常時に-もっと別な事、話す気は無い

    のか?」

トゥセ「いやいや、だって、団員になったのに、それを知らないって、

    良くないと思うぜ。なぁ、カシム」

カシム「なら、是非、お聞かせください」

トゥセ「おう。あれは雪の日、俺達は必死に害獣駆除の

    クエストをこなしていたんだ。ただ、その時は

    ギルドに入って無くて、依頼料金をぼったくら

    れてて、それで、正式にギルドを結成しようと

    思って、その資金のため、その害獣駆除の依頼を

    こなしてたんだ」

トゥセ「しかし、それは年末で、その日を過ぎるとギルドの

    申請は翌年になっちまう。でも、不運な事に、害獣

    の一体に逃げられちまった。それで依頼主に怒られ、

    俺達は-ただ働きをさせられるハメとなった。でも、

    依頼主に事情を説明して、前金として、ギルドの

    登録料だけはもらって、モロンが一人、登録に

    行く事になったんだ」

トゥセ「でも、それがマズかった・・・・・・。モロンは、予め

    決めてあったギルドの名前を忘れて、自分の好きな

    名前を付けちまったんだ。その名も『ヒヨコ豆-団』

    後から、名前を変えようとしたが、それには手数料

    がかかるから、今もなお-その名前のままなのさ」

 と、トゥセは長々と説明した。

カシム「なる程。しかし、ヒヨコ豆-団も良い名前と思いますよ。

    ヒトに親しみを与える名前だと思います」

アーゼ「そうだぞ、トゥセ。あんまし、モロンをいじめるな」

トゥセ「しかし-よぅ」

モロン「うぅ、ごめんよ、トゥセ」

ヴィル「トゥセ。あんまし、過ぎたことを言うな。もてないぞ」

トゥセ「うッ・・・・・・モロン、悪かった。本当に悪かった。

    お、俺は-みみっちく無いよな?」

モロン「うん。トゥセは-とっても大らかだと思うよ」

 とのモロンの言葉にアーゼは噴き出した。

トゥセ「おいッ、笑うな、この馬鹿ッ!」

アーゼ「いや、すまん、すまん。つい」

トゥセ「全く。ところで、団長。これから俺達、何処へ向かう

    んですか?」

ヴィル「古(いにしえ)の森を抜けて、港へ向かう。港の候補は-いくつか

    あるな。そこは状況しだい-だな」

アーゼ「はは、結構、行き当たり-ばったりですね」

ヴィル「まぁなぁ・・・・・・」

 と、ヴィルは苦笑するのだった。

 すると、草むらから音がした。

 ヴィル達は-おのおのの武器に手をかけた。

 しかし、出てきたのは一匹の黒猫だった。

トゥセ「猫かよ・・・・・・」

カシム「いえ・・・・・・これは・・・・・・」

黒猫「おお、やっと見つけたわい」

 と、黒猫はヒトの言葉を話した。

トゥセ「ね、猫が-しゃべったぁ?」

アーゼ「だ、団長ッ」

ヴィル「い、いや、俺に言われても・・・・・・」

 と、ヴィルも困っていた。

黒猫「ワシですじゃ、ワシ。ゴブリンの。ほら、弓矢で殺された

   ゴブリンですじゃ。死んでしまいましたが、上手く魂

   が猫に-くっついて、こうして、現世に留まる事が出来

   ましのたのじゃ」

 との説明にヴィル達は-あぜんとした。

カシム「確かに・・・・・・時折、猫に-そのような事があると、

    言われてますが・・・・・・。それに確かに、この猫には

    小さな魂が-くっついて居ます」

トゥセ「まじかよ・・・・・・すごい-しぶとさだな。ジイさん」

黒猫「それが取り柄ですのじゃ」

 すると、ゴブリンの少女が-恐る恐る近づいて来た。

 それに対し、黒猫はゴブリンの言葉で話し出した。

 両者は少しの会話をかわした。

 すると、ゴブリンの少女は泣きながら、黒猫を抱きしめるの

だった。

 その心温まる様子を見て、ヴィル達は微笑(ほほえ)むのだった。

トゥセ「ま、何にせよ、良かったって事だぜ」

 と、トゥセは呟(つぶや)くのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 質屋に-そのエルフ、クオーツは居た。

クオーツ「この剣は・・・・・・」

 すると、質屋の男は口を開いた。

男「おっ、お客さん、お目が高いね。それは、ある冒険者の

  持ち物でね。相当に魔力が練りこまれて使いやすいと

  思うよ」

クオーツ「これを」

 そう言って、クオーツは金貨を十枚-渡した。

男「こ、こんなにッ、い、いいんですか旦那?」

クオーツ「ええ。ただし、この剣の事は内密にしてください」

男「は、はいッ。秘密にします。墓場まで持って行きます」

 そして、クオーツは店を後にした。

クオーツ「ヴィルさん・・・・・・」

 と、呟(つぶや)き、クオーツは大通りを歩き出すのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 


 
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