「今から本作戦の指揮権は君に移った。お手並みを見せてもらおう」
「了解です」
苦い顔をして言う男に、ゲンドウは不敵な笑みで応じた。
「碇君、われわれの所有兵器では目標に対し有効な手段がないことは認めよう。だが、君なら勝てるのかね」
「そのためのネルフです」
「期待しているよ」
捨て台詞のように言い、男たちは発令所から姿を消した。
「目標は依然変化なし」
「現在迎撃システム稼働率7.5%」
「国連軍もお手上げか。どうするんだ」
ゲンドウの隣の長身の男、冬月コウゾウが言う。
「初号機を起動させる」
「初号機をか?パイロットがいないぞ」
「問題ない、予備が届いた」
そういうゲンドウの見つめるモニターには、着陸しようとする見慣れない形のVTOL機の姿があった。
鈍い衝撃と共にハシビロコウ-05が着陸する。
「とはいったものの、我々がこのまま入るわけには行かない。と、言うわけで碇君、いろいろと頼むぞ」
「了解了解」
「我々は君を下ろし次第ここから退避するが、連絡はいつでも司令部が受け付ける」
「ありがとうございました。では」
会釈し、ハッチへ向かうシンジに機内の人々が声をかける。
「がんばれよ~」
「また連絡してね」
「ぐっとらっく」
「はい、行ってきます」
それに対しシンジも少し笑って答えた。
しゅうっと音を立て、ハッチが開く。
と、同時に暴力的な大気が襲いかかってきた。
「うぉ…」
思わず数歩たたらを踏む。
冷房の効いた機内から、年中常夏、さらに都市部特有のヒートアイランド現象により大気は熱せられている第三新東京市に出たシンジを、強烈な温度差と日光が襲う。
はやくも汗が噴き出してくる。
思わず目を押さえたシンジのもとに、つかつかと金髪に黒い眉毛の白衣姿の女性が歩いてきた。
「はじめまして。NERV本部技術課長の赤木リツコよ。碇シンジ君ね?」
「あ、はい」
「本当ならミサトが迎えにいくはずだったんだけど、いろいろあってね。この機は…」
そこまでリツコが続けようとしたときだった。
シンジの背後から凄まじい突風と轟音が響いた。
あわてて後ろを振り返ると、ハシビロコウ-05がエンジンを噴射して飛び上がったところだった。
そのまま機体を反転させると再びエンジンをふかしてあっという間に飛び去っていった。
「相変わらず荒っぽいなぁ…」
顔をかばいながらシンジがぼやくが、それにリツコが食いつく。
「相変わらず?前から知ってるの?」
「独り言です。忘れてください」
「しくった」と思いながらシンジは言う。
「ふうん…まあいいわ。シンジ君、時間が無いの。悪いけどこのまま来てくれる?」
「らじゃーです」
気の抜けた返事をするシンジと飛び去った機に違和感と疑問を抱きながらも、リツコはとりあえずそれらを棚上げしシンジを案内することにした。
薄暗いトンネルを抜け、NERV本部直通モノレールはジオフロント内部へと進入した。
薄暗いトンネルから、一気に光あふれる地下空間に窓からの景色は一変する。
ドーム型の空間の天井からは無数のビル群がつり下がり、採光穴から差し込む光が斜めの柱を形成している。
下に目を転じると、無機質な上部とは対照的に緑に染まっており、施設が点在している。
その中でひときわ目を引くのは、中心部に位置する青いピラミッドだ。
モノレールは、そこへつながっている。
「おぉ…ジオフロントですか」
目の前の光景に少し目を見開き声を漏らすシンジ。
「ええ。あそこにあるのがネルフ本部。世界再建の要、人類の砦となるところよ」
シンジに説明しながらも、リツコはその顔に驚愕というよりも好奇の様な色が浮かんでいるのを見たが、些細なことだと思い、頭から振り払った。
そんなリツコに気づかれないよう、シンジは小声でつぶやいた。
「…NERVも、なかなかやるのです」
二人はNERV本部を進み、やがて一つの頑丈そうな扉をくぐった。
しばらくは真っ暗であったが、唐突に照明がついた。
二人の目の前には、紫色の鎧をまとった巨人のようなものの顔だった。
「おぉ」
モノレールの中と同じ顔で巨人を見るシンジ。
それほど驚かないことを意外に思いながらも、リツコは巨人について説明する。
「人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。その初号機。私たち人類の切り札よ」
「なるほど」
相変わらずのんびりした態度のシンジに業を煮やし、リツコは追い討ちをかける。
「あなたのお父さんの仕事よ」
「そうだ。久しぶりだな、シンジ」
ケージに、突如として男の声が響く。
シンジが顔を上げると、上の壁面に埋め込まれた部屋から、ガラス越しにゲンドウがシンジたちを見下ろしていた。
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数年前、碇シンジの前に現れた奇妙な「研究所」。「ねぇ君、こっちに来ないかい?こっちにくれば、地球なんかを守ったり出来るかもよ?」
それから数年後、2015年。
ここから、物語は始まる。
さまざまな作品から登場人物、兵器、用語など流用します。
TV版(たまにコミック版、新劇場版)を元としますが、進むにつれ原作とはどんどん乖離します。
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