No.657103 天の迷い子 第二十三話2014-01-24 01:11:05 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:1408 閲覧ユーザー数:1112 |
Side 月
川の水で手拭いを濡らし、汗をかいた肌を拭う。
冷たくて気持ちいい。
午前中で仕事が終わったので少し鍛練をしようと川まで足を延ばした。
今日は少し暑いから河原の冷えた空気が心地良くて、このままお昼寝したら気持ちいいだろうなぁ。
「ダメダメ、きちんと鍛錬しなきゃ。流騎さんに笑われちゃう。」
それからもう一刻程鍛練をして切り上げる事にした。
町に戻って来るともう日は傾いて、市は夕食の買い物をしている人達でにぎわっていた。
あ、お団子をお母さんにねだってる子がいる。
ふふ、可愛いなあ。
あれ?あそこにいるのはもしかして詠ちゃん?
北郷さんも一緒にいるみたいだけど。
「ったく、あんたねえこんな所で僕に色目を使ってる暇があったら勉強なり鍛錬なりしたらどうなの?」
「色目を使ってるつもりは無いよ。ただ、荷物が重そうだから手伝おうと思ってね。それに鍛錬はともかく勉強はきちんとやってるつもりだよ?」
「ふん、どうだか。まあいいわ、そんなに暇なら手伝わせてあげる。これ、城まで持って帰ってちょうだい。僕はまだ買わなきゃいけない物があるから。」
「<ズシッ>おっ、と。」
「何よ、情けないわね。」
「はは、結構重いな。ってあそこにいるのは月?お~~い、月~~!」
あ、北郷さんがこっちに気が付いたみたい。
私は詠ちゃんと北郷さんの元へ駆け寄った。
「こんにちは、詠ちゃん、北郷さん。」
「うん、こんにちは。月は買い物にでも来たのか?確か昼から非番だったよな。」
「いえ、少し河原で鍛錬を。北郷さんはお散歩ですか?」
「まあそんなとこ。それで歩いてたら詠を見かけたから荷物持ちでもしようかと思ったんだけど断られちゃってね。」
「なんで私があんたなんかと一緒に買い物しなきゃいけないのよ。」
「もう、詠ちゃんそんな事言っちゃだめだよ?」
詠ちゃんは少し言葉がきついからいつも誤解されちゃう。
それにもう少し素直になればいいのにって思う。
私の事を気にかけてばかりで大切な気持ちにまだ気付いていないから。
気付けるといいな。次に会える時までに。
「ははは、でも月は鍛練なんてしてたんだな。こっちに来てから始めたの?」
「いいえ、洛陽にいた時から少しずつ。ようやく最近身体が出来てきたって霞さんに言われたので少しずつ鍛錬の質を上げているところです。」
「へえ、やっぱり月は頑張り屋なんだな。」
「そうよ、あんたとは違うの。」
「たはは、手厳しいな。」
「もう詠ちゃん!ごめんなさい北郷さん。」
「良いって良いって。じゃあそろそろ俺は戻るよ。気を付けて。」
「はい。北郷さんも。」
「ふん。」
北郷さんを見送って、私は詠ちゃんと市場を歩いた。
「あんな事言っちゃだめだよ、詠ちゃん。北郷さん達は私達を匿ってくれてるんだから。皆さん良い人ばかりだしきちんと礼を尽くさないと。」
「お人好しが集まってるのは分かるし、ありがたいとは僕も思ってるわよ。単純にあいつが気に入らないの。恵まれた環境にいるくせにへらへらして全然前に進もうとしないし、自分を磨こうともしない。男だったら…「流騎さんみたいに努力するべき?」うぐ。」
「ふふ、詠ちゃんも変わったよね。前だったら男なんて皆同じだって期待もしなかったのに。やっぱり流騎さんは皆に影響を与えてるんだね。」
「べ、別にあいつの影響じゃ…。」
「詠ちゃん、お顔真っ赤だよ?」
「うぅ…。」
もう、素直じゃないなぁ詠ちゃんは。
流騎さんの事をずっと気にしてたの知ってるよ?
鍛練しすぎだ~とか、ちょっとぐらい休めばいいのに~とか、自分の淹れたお茶であいつを唸らせてやる~とか。
「待ちやがれ!小僧!!」
前から大きな声が聞こえた。
誰かが叫んでいるらしい。
なんとなくそちらに顔を向けると、ドンッと突き飛ばされた。
「邪魔だ!どけよ!!」
走り去っていく男の子。
私は多少よろけはしたけど何とか踏みとどまる事が出来た。
服を汚さなくてよかった、何気ないけど鍛錬の成果かな。
「くそっ!あんガキ!!逃げ足のはええ!!」
体格のいい青果店のおじさんが悔しそうにしてる。
「あの、何があったんですか?」
「あん?おお、月の嬢ちゃんか。どうもこうも盗っ人だよ。」
「さっきの男の子の事?えらく足の速い子だったわね。」
「ここの所増えてきてる戦災孤児って奴だ。黄巾の乱やなんかで親を亡くしたガキ共が集まってやがんだけどよお、ガキじゃあ仕事にもつけねえもんだから盗むしかねえんだろうがな。」
あんな小さい子達がこんな事…。
「…月、自分がどうにか出来ないかって考えてるでしょ。」
「へう!?なんで…。」
「生まれた時からの付き合いでしょ、分かるわよ。でも月、僕達じゃどうにも出来ないわよ。例えば僕達が施しをすれば今この町にいる子供達ぐらいは何とかなるかも知れない。けどこれからもどんどんそんな子供が増えていくわよ?いつか手に負えなくなる時が来る。そうなった時どうするの?きっと月はつらい思いをするわ。人に限らず命って言うのはそんなに軽い物じゃないから。だから…。」
「うん、確かに四人だけじゃ限界があるよね。でも私は何とかしたいって思ったから、限界までやってみる。これ以上無理だってところまでやってみて、その時になってみてから考えるよ。そこから先はどうするのか。もしかしたら状況が変わってるかもしれないし。それにいつかは切り捨てなきゃいけなくなることも分かってる、そして覚悟もしてる。だから、本当に限界まで、やってみるよ。」
「覚悟は決まってるのね?」
「うん、恨まれる覚悟も最後まで諦めない覚悟も…!」
「それに四人って…、霞も華雄も巻き込む気満々って訳?」
「そうだよ、一番にお願いするのは詠ちゃんと霞さんと華雄さん。だって私達は仲間だから、真っ先に頼るよ?ダメかな?」
ギュッと詠ちゃんの手を取ってお願いする。
しばらく私の顔を見て詠ちゃんはふうっと息を吐いた。
「わかったわ。僕だって出来る事ならどうにかしたいもの。協力するわ。その代り、月が考えて皆に指示を出して。勿論僕も知恵を貸すし意見も言うけど、最後の決断は月がしなさい。それが行動を起こした人間の責任って言うものよ。」
「<コクリ>分かった。責任は私がとります、だから力を貸して下さい。」
「…ふふ、喜んで。」
詠ちゃんの了承を得ると、すぐに城に戻って霞さんと華雄さんを訪ね、同じように頭を下げてお願いした。
私の話を聞いて二人も快く協力してくれた。
「月っちにそんな真剣な顔で頭まで下げられたら手伝わん訳にはいかんやろ。」
「うむ、もとより私の力は月の為に使うと決めたからな。考えるまでも無かろう。」
そんな風に言ってくれた二人と詠ちゃんにはどれほど感謝してもし足りないと思う。
私の周りには優しい人達が多い。
それはすごく得難い繋がりだ。
きちんと感謝してその優しさに胡坐をかかないよう、私が率先して出来る事をやらないと。
まず最初に孤児の子達の現状を調べる事にした。
子供達は町はずれの空き家に三十人程が集まって暮らしているらしい。
思ったよりは人数が少なかったけどもしかしたら、ううん、多分間違いなくこれからもっと増えていくと思う。
しばらくの間は私達の給金や洛陽からわずかに持ち出せた私財で何とかなるとは思う。
でも、出来る事なら他の人達の協力も仰ぎたい。
もちろん無理強いは出来ないけど。
どちらにしても町の人達にも説明をして、理解を得なきゃいけないんだ。
まずは明日子供達と話してみよう。
全部それからだよね。
Side 孤児の少年
今日変な奴が俺達の小屋に来た。
ひらひらの変な服着た女が二人。
昨日の盗みで役人が来たのかと思ってけど、違った。
なんか知らないけど俺達を助けたいとか言ってる。
でもそんなの絶対嘘だ。
そう言って近づいてきた奴らに何人も仲間が捕まって奴隷として売られてった。
「出て行け!」
そう言って俺は近くにあった石を投げた。
石は銀色の髪の女に命中した。
ざまぁみろ!もう誰もお前らに連れて行かせたりはしないんだ!
女の頭からつうっと血が流れている。
それでも女は引かない。
俺達を護りたい、助けたいなんてほざく。
信じてくれとか言われて信じるような馬鹿が居るわけないだろ!
それでも女は膝をついて頭を地面に着け、信じて欲しいと言う。
他の俺より小さい奴らは可哀想だと同情している。
けどこれだって演技だ。
年の近い奴らも俺と同じようにだまされた奴が多い。
小さい奴らを小屋に入れ、扉を閉めた。
しばらくして外を見てみると女はいなくなっていた。
やっぱり嘘だったんだ。
次の日また女が来た。
また地面に座り込んで信じてくれと叫んでいる。
俺達はずっと無視し続けた。
次の日も、その次の日も、女は叫び続けた。
もう一人の緑の女はそいつのすぐ隣に立って何も言わない。
でも手を真っ白になるまで握りしめ、歯を食いしばっているのが分かる。
そんなに嫌ならさっさと止めろよ。
そんでとっとと帰れよ。
何日か続いたある日、女はぱったりと来なくなった。
やっと諦めたのか。
しばらく盗みに行けなかったからそろそろ食料がやばい。
ったく邪魔ばっかりしやがって。
路地裏に身を潜め、店を物色する。
店主がよそ見をしている隙にかっぱらうんだ。
ん?
あいつ!?
そこには銀色の女が居た。
店の親父たちを集めている。
何か知らないけどいい機会だ。
こっそりと店に近づく。
「…がい…ます…!………ださい!」
向こうの会話がかすかに聞こえてきた。
「お願いします!あの子達を許してあげてください!」
「いや、んな事いわれてもよぉ。」
「あの子達はただ生きたいだけなんです!今まであの子達が盗んだ分は私がお支払いします!ですからあの子達を町の一員として受け入れてあげてください!」
「そりゃあ俺等だって邪険にしたかねえけどよぉ、今までの分払ってもらったってまた盗まれちまっちゃあそれこそいたちごっこだぜ?」
「二度とそんな事をしない様に私達が面倒を見ますから!どうか…!!」
女はまた額を地面に擦り付けていた。
必死に、全力で。
「ちょ、ちょっと待ちなって月の嬢ちゃん!何もそこまでしなくても…!」
「お願いします!お願いします!」
「僕からもお願い!どうか!」
「いや、おい、詠の嬢ちゃんまで!頭を上げてくれよ…!」
何なんだよこれ。
なんでこんな必死になってんだよ。
俺等の為?
頼んでも無いのに?
石まで投げつけられて、なんでここまで…!
「ふざけんなよ!!」
「え?」
「なんであんたが頭下げてんだよ!関係ないだろ!?頼んでねえよ!なんでそんな必死なんだよ!?石投げられて、怪我して…!もう諦めろよ!なんで、なんで…!!」
鼓動が速い。
息も上がってる。
俺こそなんでこんな怒ってんだろ?
なんでこんなイライラするんだろ?
「………………私がそうしたいからだよ。」
そいつは優しい声でそう言った。
「周りに味方が居ないつらさを知ってるから。ほんの数人しか信じられる人が居なくて、辛くて、寂しくて、笑えなくて。すごく悲しい事を知ってるから。そして私はそんな時に護ってくれる人がいる嬉しさも知ってるから。どうしても護りたいって思ったの。出来るならお友達になって手を繋ぎたいって思ったから。」
「…わけ、わかんねぇ。…はぁ?友達?何のために?」
「お友達になれば分け合えるから、分かち合えるから。辛い事も、嬉しい事も。お友達が辛い時は私が助けられるから。私が辛い時はお友達に助けてもらえるから。きっと笑えるから。」
「何だよ、それ。あんたの事も助けろって?助けてくれるんじゃ、護ってくれるんじゃないのかよ?」
「与えるだけ与えられるだけじゃきっと疲れちゃうよ。だからね、今は私が護るからいつか私を、ううん、別の誰かでもいいから助けてあげて?」
「誰かを?」
「そう。今は貴方たちは護れらていてもいい歳だよ。私は君達よりもお姉さんだから今は君達を護る。いつか君達がお兄さんになって誰かを護れるようになった時、他の誰かを護ってあげて欲しい。護りたいと思った誰かを。」
「俺が護りたい人を?」
「そう、君が護りたい人を。」
女はすっと立ち上がると俺の前まで歩み寄り、そっと抱きしめて頭を撫でた。
「よく頑張ったね。」
綺麗だった服の裾は汚れ、手にも顔にも泥が着いた女が、一番欲しかった言葉をくれた。
俺達の為にドロドロになってくれたこの人なら、信じても良いと、そう思った。
「うっ、ぐぅっ、ふ、ふうぅぅうううう…!!」
俺の頬には今まで我慢してきたとても熱い何かがとめどなく流れ続けていた。
涙が染み込んでいく胸からは、母さんの匂いがした。
ようやく涙が止まり落ち着いた後、俺は今まで迷惑をかけた事を謝った。
店の親父達も「仕方ねえなあ、次はただじゃおかねえぞ。」と言って許してくれた。
勿論代金は払う。
今は月お姉が立て替えてくれているけど出来るだけ早く働いて必ず返す事を約束した。
これからは月お姉や詠お姉、それに後から紹介された張将軍や華将軍が俺を含めた孤児の連中の面倒を見てくれるらしい。
約束させられたのは、まず家事は自分たちでやる事。
悪い事はしない事。
困った事や分からない事があったらすぐにお姉達に相談する事。
そして出来る限り早く仕事を見つける事。
当然だよな。
いくらお姉達が城で働いているって言っても金が無限に湧いてくるわけじゃないんだ。
俺達が独り立ちすればお姉達が楽になるし、他の同じ様な子達を助けてやれる。
それどころか頑張れば俺達だけでこの孤児院?だっけ、を続けていけるかも知れない。
お姉達に負担をかけないで済む。
それはあんまり考えなくてもいいってお姉達は言うけどさ。
そして密かに俺達だけで決めた最後の約束がある。
それは、
死ぬまでお姉達の味方である事。
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お久しぶりです。
へたれど素人です。
駄文ではございますが暇つぶしにでもなれば幸いです。